Ⅴ 評価の技術

 

1 評価をする場合の原則

 どうしたら指導の結果を正しく評価することができるか。不適当な,あるいは正しくない測定やテストに基く評価は意味がないばかりでなく,指導上かえって有害でさえあろう。次に三つの項目について評価上たいせつなことをあげてみよう。

1) 音楽教育の全般にわたって評価すること。

 評価は音楽の学習指導のある一面に偏することなく,その全般にわたって行われなければならない。音楽学習のある面については,実地に考査したり測定したりすることはなかなか困難であって,したがって評価も非常にむずかしい。しかしあらゆる面の学習指導の改善をはかり,かつまた評価することそれ自体に教育的な意義があることを考えるとき,どのような方法によるにせよ,学習の全般的なあらゆる面にわたって評価することが必要である。

2) 常時かつ継続的に行うこと。

 学期末になると,どこの学校でも考査がよく行われる。もちろん評価のためにこのような定期的な考査を行うことは意義があることである。しかし,児童の学習達成の程度を知って評価することは,このように定期的に行うばかりでなく,常時行わなければならない。そのためには,その方法も,手のこんだ考査ばかりが評価の方法ではなく,観察したり,問答によったり,簡単なテストによったりして,常時かつ継続的に評価する心構えが必要である。

3) 客観的な評価であること。

 評価が客観性をもたなければならないことは前に述べたところであって,テストの結果の処理に,教師のかたよった主観がはいる余地があってはならない。学習態度の評価のごときは,いわゆる客観テストのようなものは困難であって,その結果を数量的に表わすことの困難な観察などによらざるを得ない。このような場合にも,教師はできるだけ客観的な立場から測定し,客観的に解釈しなければならない。

2 予備調査

 評価はすべて指導のために行われる。したがって入学当初あるいは学年始めなどにあたってはその指導計画上必要な児童の能力や欲求などについて,あらかじめ調査し,その上に指導計画が立てられなければならない。また,指導の過程にあっても,随時このような調査によってその状態の変化を知り,指導計画の改善をする必要がある。次にそのおもな項目についてあげてみよう。

1) 声域・声質

2) 音楽についての欲求

3) 家庭の音楽的環境と音楽的個人差

4) 歌唱能力

5) 器楽演奏能力

6) その他の諸能力(第Ⅱ章 児童の音楽的発達 を参照のこと)

3 評価の方法

 音楽における評価の具体的な方法については,まだその歴史も浅く,児童の音楽学習の状態を客観的に測る完全なものはできていない。なぜなら,音楽のような芸術的な教科においては,その表現においても,その鑑賞においても,だれもが同じ結果を期待することはできず,個性を認めざるを得ないからである。次に述べるのはその一例であるが,こうした評価法を実際には併用し,総合し,その結果を教師が診断的に解釈し,処理してはじめて評価としての意義が生じてくるのである。

1) 態度の評価法

 児童の学習における態度は,主として継続的な観察を行うことによってなされる。児童の態度を観察する場合,ただばく然とみるのでなく,どんな面の態度を観察しようとするかを明らかにしておくことが必要である。たとえば音楽を楽しんでいるかどうかを観察する場合,低学年であったなら,明快なリズムに共感して楽しんでいるろうかというような,その発達の段階に合わせて具体的にはっきりした観点を定めて行うのである。

 さて,このような観察の結果は,なるべく数多く,なるべく細部にわたって記録されることが望ましいのである。その記述に評定の尺度を設けて,それにあてはめて数量的な表わし方をする方法がある。つまり最も望ましい態度と望ましくない態度を両端として,その中間をいくつかの段階に分けた尺度にあてはめて記録する。普通5段階に分けることが多い。

−2   −1   0   +1   +2

○————○————○————○————○

い   であ    普    楽    非

や   いん    通    し    常

が   なま    で    ん    に

っ   いり    あ    で    楽

て    楽    る    い    し

い    し         る    む

る    ん

 上の例は歌唱を楽しんでいるかどうかの尺度を五段階に分けて評定しようとするのであるが,このように,単に「楽しむ」ということばに深浅の度をつけていくより,次の例のように具体的な段階に分けたほうが記録しやすい。 −2   −1   0   +1   +2

○————○————○————○————○

こ全  らみ    普   る歌み  リ歌積

と然  どん    通    うん  ズう極

を無  うな    で    こな  ム時的

考関  にと    あ    とと  にはに

え心  かい    る    はい  の目歌

てで  歌っ         すっ  っをい

いほ  うし         きし  て輝た

るか   ょ         でょ  歌かが

 の   な         あに  うしり

 このような,教師の観察によるものばかりではなく,児童に記述させたり,質問を与えて答えさせることも一つの方法である。

2) 鑑賞の評価法

 鑑賞ということには,音楽を組み立てている音色・リズム・旋律・和声などの各要素を聞き分け,そして味わうことと,それらを総合して全体的な面より味わうこととある。もちろん全体的にとらえるとが鑑賞の本体なのではあるが,その段階としてこのような要素を聞き分ける力を評価することもたいせつである。

 具体的な方法としてはリズム・旋律・和声・音色(楽器)を聞いて書かせること,身体的な動きに表現させる(特にリズム)こと,音楽を聞いて,その気分をつかんでいるかどうか書かせる(ただしこの場合,あまり深く,聞いた感じを文章に記述させることは,鑑賞指導の方向を誤る恐れがある。)ことなどがその一例である。

 また,音楽を聞いて楽しんでいるかどうかということは,態度におけると同様,観察することによって評価しなければならない。

 鑑賞活動では,このような感覚的な面と,こうした活動の背景となって,それを深めていく音楽の形式・構成・音楽家・楽曲などの知的な理解面も忘れることはできない。この面の評価法は,別に述べる知識や理解の評価方法がそのまま用いられる。

 要するに,鑑賞の評価は,観察・問答・筆答などの,併用ないしは総合で行うことが望ましい。

3) 表現能力の評価法

 表現能力は,教師が児童の演奏を聞いて評価したり,その作品を見て評価する。この場合注意しなければならないことは,教師の好みに偏してはならないことと,いろいろな要素を定めて評価することはよいが,全体的に総合的に評価することを忘れてはならないことである。たとえばここに児童の歌唱の評価をしようとする。この場合,教師はどのような要素があるかをあらかじめ考えておく必要がある。発声・発音・リズム・音程・表情,あるいはその歌唱の頂点などいろいろあろう。そうした各要素についてどの程度かを評価すると同時に,そのどれかに偏することなく全体的にいかに歌っているかを評価しなければならない。

 表現能力の評価について注意しなければならないことは,こうした技能には,児童の天性・個性に基く優劣がかなりはっきりしていることで,これらは常にクラスとしての比較評価ばかりでなく,その個人においてどれだけ進歩をしたかを認めてやることである。

 記述の方法としては,やはり評定の尺度を設けて,それにあてはめたり,あるいは比較することによって序例を定めていくのがよい。

4) 知識と理解の評価法

 知識と理解については,従来も比較的多く行われてきたし,ほかの教科と同様に筆答によるテストが行われる。筆答によるテストで,従来多く行われてきたいわゆる論文体テストは,求める答が必ずしも的確に表現されない恐れがある。したがって,採点がやや主観的に行われる余地もあるから,適宜客観的なテスト方法によって評価が行われることがよい。

4 指導要録にいかに記載するか

 現行の指導要録においては,音楽は鑑賞・表現・理解の三つの項目について記入することになっている。この場合,歌唱・器楽・創造的表現・リズム反応の表現能力は,表現の中に入れて,また各活動の態度は,それぞれの活動に含めて記載される。そしてその記載方法は五品等法によっている。

 普通無選択に集められたクラスの児童のいろいろな能力は,正常分配曲線の理によってクラス人員が100名であるならば,+2が7名,+1が24名,0が38名,−1が24名,−2が7名という率にだいたいなるものとされている。したがって,だいたいこの割合によって記載されれば,その評点の割合は妥当であるといえよう。