第Ⅴ章 他教科との関連ならびに教科外の諸活動および学校外の生活との関連

 

Ⅰ 他教科との関連

 

 小学校においては,いろいろな教科ができるだけ密接な関連をもつように教育計画を立て,児童を教育することがたいせつである。特に音楽は社会科・体育科,その他の諸教科との深い関連をもつものであって,あるときは音楽が他教科の学習活動の一部を占めて,その学習に生気を与え,その学習をより楽しく進めるのに役だつ。またその反対に音楽の学習の中にほかの教科の学習活動が取り入れられて,音楽の学習がそれによっていっそう強められ,また児童にとっていろいろな経験が得られるようになるであろう。

1 体育との関連

 音楽と体育はどのような関連をもつか。

 音楽と体育は次のような点で関連をもっている。

 宇宙に存在するすべてのものがリズムをもち,人間もまたリズムを持って生活している。たとえば,四季の変化,昼夜の別からとけいのセコンドの音に至るまでリズミカルな動きがくり返されている。これと同様に人間の日常生活にもリズムがあり,また動作にも,歩く・走るなど常に一つのリズムをもっている。また人々はリズミカルな音楽を聞くことによって,身体的な動きを知らず知らずの間に伴っていることも多く見られる。

 これらの事がらから,人間はだれでも先天的にリズムに対する感覚をもっていることが首肯されよう。しかしながら,これを意識的に目ざまし,引き出す機会が与えられなければならない。そこでリズムの教育が必要になってくる。

 リズムの感覚を正しく伸ばすために聴覚に適したものが音楽の教育であり,運動感覚を通したものが体育特にリズム遊びやリズム運動である。したがって音楽と体育とは同じ基底に立つものであり,密接な関連をもっているものであって,これらの協力によってリズム感の養成がはかられる。

 リズム遊び・リズム運動はリズムを中心として,児童に身体的,精神的な喜びを与えるものである。小学校の児童,特に低学年児童はこの遊びを最も好むものの一つとしている。

 リズムは頭脳的なものとして理解される前に,身体的,感覚的なものとして直感的に身についてこなければならない。その意味でリズムを身体的にとらえさせる遊戯は高い価値をもっている。そして,このようなリズム感の獲得は,年齢とともに精神的なものに発展していく。次にリズミカルな運動を行うことによって,身体的能力は無理なく,自然に発達していく。また遊戯を実施するためには,児童たちが協力することがたいせつである。もちろん幼児あるいは低学年児童は自己中心の傾向が強いから児童の全部がいっせいにそろうということには困難があり,またそれを強制することもよくないが,遊戯を通して自然のうちに協力への習慣を養い,秩序の快感を味わわせることもたいせつである。遊戯を反復しているうちに無理なく旋律を記憶することも,音楽の上から考えるときには一つの利益である。最後に全体として,遊戯は精神の解放に役だつ。児童が遊戯を好むのも,要するに精神の解放,すなわち生き生きとした喜びを感じるからである。

 また音楽の時間に「せっせっせ」「ロンドンブリッジ」などの歌遊びやフォーク ダンスなどが取り入れられることが望ましい。

 なおリズム遊びにおいては,一定の型にのみはめこむのではなく,本性に根ざして,しかも自由な表現をするところにリズム遊び本来の面目があるといえよう。この種のものとして,音楽の創造的表現における自由な身体的表現などがある。

 また行進・体操などにおいても,音楽は協力してその成果をあげるのに役だっている。

2 社会科との関連

 音楽をどのように社会科に関連させるか。

 音楽の独自性を失わないように留意して,次の事がらについて密接な関連をもたせ,美しく明るい生活へ寄与させなければならない。

 社会科の目標は児童の社会経験を組織的に発展させることである。したがって,きわめて複雑な内容をもっているとともにあらゆる教科に関連している。音楽も社会科と多くの面において接触をもっている。

 音楽は人類の発生とともに誕生し,人類の向上発展とともに進歩して,高い芸術となったものである。しかし音楽はいつの時代においても,人の感情や生活が端的に表現されたものであって,社会生活へ強い直結をもっているものである。各国の民謡・民舞から芸術音楽に至るまで,それぞれその時代の風潮が強く影響している。したがって人間生活を深く理解するためには,音楽もまた一つの役割をもっているものといえよう。この点から見ても音楽と社会科とは深い関連をもっている。

 次に児童の生括と音楽について述べよう。

1) 児童の生活経験と音楽 a. 音楽は児童の生活経験に密接に関連したものでなければならない。

 すなわち,児童の生活に適した歌詞内容や音楽が好ましいのであって,それらによって児童の生活が豊かにされるであろう。

b. 児童の生活を楽しく明るくするために,音楽は演劇やスポーツとともに,きわめて大きな役割を受け持っている。

c. 児童の社会生活の中で,意志感情の疎通をはかるという面がある。

 さまざまな会合において,多くの児童が合唱したり,まだ音楽を聞いてそれについて話し合ったりすることには,互の意思疎通に大いに役だつものである。これによってクラスの気分がなごやかになろうし,また心を語り合う友をえることもできるであろう。

d. さらに合唱や合奏が社会的協力や団体的訓練に役だつものであって,これは要するに秩序を愛する心を養うことであり,協力の精神をつちかうことである。

e. また,児童が社会的環境によく適応していけるように,教養としての音楽が児童の教育において考慮されなければならない。

2) 社会施設と音楽

 いろいろな社会施設の中に,放送局・公会堂(音楽会場)などの音楽施設がある。この施設を活用することによって,音楽の学習によりいっそうよい影響が与えられる。

3) 社会科の単元学習と音楽

 音楽は音楽教室や音楽の時間だけに限られるのでなく,適宜他の教科の学習の中に織り込まれることが望ましい。社会科の単元学習においても,音楽が活用される。たとえば「のりもの」という単元の展開にあたって,児童たちに汽車に乗ったときの楽しさを述べさせることよりも,汽車の歌を全員で歌わせるほうがはるかに効果的であろう。すなわち汽車の歌にとけこんで歌っている児童は,汽車の旅の楽しさを心ゆくまで味わっているものである。これがまた次の学習への意欲を高め,学習を円滑に進める力ともなるであろう。

 次に社会科の単元の一例とそれに対する音楽の資料を掲げる。

 

第一学年

単元

学習活動

『家庭』に関する単元
歌   唱
はな ちょうちょ むすんでひらいて わたしのひつじ きんぎょ かたつむり すずめ おむかえ
器   楽
ちょうちょ むすんでひらいて
鑑   賞
さえずる小鳥(バレロン)うぐいすの歌(ジェニン)おもちゃの兵隊(イエッセル)キューピーの観兵式(リベリ)人形の行進(リンデマン)踊る人形(ポルディーニ)

 

第三学年
単元

学習活動

『郷土の生活』に関する単元
歌   唱
ぼんおどり 夕やけこやけ みなと 村まつり かねがなる山のうた こだま わたしのうち
器   楽
ぼんおどり 夕やけこやけ みなと 村まつり
鑑   賞
ひらいたひらいた(日本古謡 下総皖一編曲)三つの田園

舞曲(モーツァルト)白鳥(サンサーンス)ワルツ「フ

ァウスト」より(グーノー)小牧神の入場(ピエルネ)

 

第六学年
単元

学習活動

『われわれの生活と外国との関係』に関する単元
歌   唱
五月の歌(モーツァルト)秋の田(シューマン)遠き山川(スコットランド民謡)ゆうべのかね(フォスター)よろこびの歌(ベートーベン)
器   楽
勇ましい騎手(シューマン)五月の歌(モーツァルト)故郷の人々(フォスター)おもちゃの交響曲(ハイドン)
鑑   賞
フォスター  メロディー集 各国民謡集 メヌエット(ベートーベン)ハンガリー舞曲(ブラームス) 組曲「胡桃(くるみ)割人形」(チャイコフスキー)ピーターと狼(プロコィエフ)

 

3 国語との関連

 音楽と国語との関連はいかなる点においてなされるか。

 音楽は次の事がらについて国語と深い関連をもっている。

1) 韻文と音楽

 韻文は本質的に音楽にまで発展するものである。時としてりっぱなものを暗誦し,朗読することは次の事がらに寄与する点が大である。

a. 発声・発音

 朗読において自然な発声・発音が望まれる。この点は国語においても音楽においても,たいせつな学習目標である。

 詩を朗読するとき(文を読むときも同様であるが)は,必要以上に大声を張り上げないように留意することが肝要である。

b. 抑揚・ことばのアクセント

 韻文が正しく朗読されるには,ことばのもつアクセントを正しくし,抑揚を巧みにすることがたいせつである。これが誇張され,飾られて旋律が生れる。

2) 歌 詞

 歌曲の歌詞は,まず語句の解釈から詩としての鑑賞へと進められる。その後に歌詞と旋律の調和が問題とされる。詩に作曲する場合,詩の正しい鑑賞が行われた後に,その内容をよくとらえて詩のもつ抑揚なりアクセントが考慮されて旋律がつくられる。

3) 題 目

 題目と詩の内容との関係を知ることは,題目と音楽の内容すなわち音楽への理解を助けるであろう。

4) 児童劇・唱歌劇と音楽

 児童劇,または唱歌劇には,程度の差こそあれ,音楽が協力している。いかに劇と融合し,劇的効果をあげるかという点において,美しいせい唱と合唱,効果的な伴奏音楽がたいせつであり,また擬音もくふうされねばならない。

 もう一つ重要なことは劇化の問題である。児童に学習した一つまたは数個の歌曲をもとにして劇を作らせたり,劇の台本を作らせてそれに音楽をつけさせるなど,児童劇・唱歌劇を作らせることは,児童にとって興味の深いものであろう。これは国語と音楽の融合をはかるたいせつな学習活動と同時に創造的な学習でもある。またせりふをいかに効果的にするかという点についてテンポ・間などに考慮を払うこともたいせつである。

5) 旋律にふさわしい歌詞の創作

 短い旋律によく適合した歌詞をつける練習は,音楽の学習に有効なことである。また, 付けられた歌詞が詩としてまとまっているか,音楽の内容に合致しているかという点を検討し,批判することも音楽の内容を理解するのに役だつ学習である。

6) 音楽と作文

 音楽を聞いてその内容を頭に浮べて,その曲の気分や,その曲に対する連想を書き表わす作業も,音楽と国語との関連の一つの現れである。

4 理科および算数との関連

 理科および算数はどのように音楽に関連するか。

 理科および算数は次の点において音楽と関連している。

1) 理科と音楽

 理科で取り扱う音の問題は,音楽にとって基礎的な事がらである。

a. 理科において理論的,概念的な説明がなされる前に,児童は音についての感覚的経験をもつことがたいせつである。多数の感覚的経験が集合され,これに理論的説明が加えられるとき,児童ははじめて真の理解をもつことができるのである。その意味から,いろいろの音現象に興味を感じさせ,注意してきく態度が養われるようにする。

b. 音は何かがふるえることと関係をもつことに気づかせて,のどや楽器などについてその経験をさせていく。さらにまた,コップやびんで音階を作らせたり,いろいろな楽器の音色・構造などについて理解させる。またレコードや蓄音機に興味をもたせてそれらに対する知識を得させる。

c. 次に理科の単元と音楽の関係であるが,理科の単元と歌曲の歌詞内容が関連するところが多い。

2) 算数と音楽

 算数と音楽もまた無関係ではない。音楽の表現上重要な速度のごときは,数観念がなくては理解できない。また拍子を知るにも,長さを調べるにも,音の高低および音の協和の問題にしても,数量と深いつながりをもっている。

5 図画工作との関連

 図画工作と音楽とはどのような関連をもっているか。

 図画工作は次の点において音楽と関連している。

1) 絵と音楽 a. 音楽の鑑賞を助けるための絵画の利用

 音楽を鑑賞する場合に,レコードに関連して,気分やふんい気を出すのに絵画が利用される。

 ことばのない音楽を聞く場合,レコードを聞く前にその音楽の感じによく合う絵画を見せることは確かに効果的であろう。また,有名な音楽家の伝記的な絵画を見せることは,その音楽家に親しみを感じ,かれの作品を愛好する一助ともなるであろう。

b. 音楽の表現画

 歌詞の伴わない音楽を聞いて,その内容を絵に書いてみることは,音楽の学習を,変化のあるそして興味深いものとするであろう。

c. 劇の背景の製作

 児童劇・唱歌劇の背景を作って,劇的効果を高めることは,劇の発表などにおいてたいせつな作業であろう。

2) 製作と音楽

 音楽と工作の関連は,簡易楽器などを作るという面に見いだされる。木ぎれの楽器,竹笛,糸の楽器,太鼓などの製作は適当な学年において教師と協力して作ることができよう。

 また,糸・紙・木などで簡単な速度計の製作も可能であろう。