Ⅵ リズム反応の指導法

 

1 リズム反応指導の意義

 音楽について,リズムは旋律や和声などとともに,最もたいせつな要素であるが,中でもリズムは,それらの要素の中でいちばん底を流れる根本的なものだということができよう。等しく区分された時間の流れの中で,秩序ある運動がくり返されるリズムは,いわば音楽の鼓動であり血脈であるといえよう。

 したがって,リズムに対する感覚を呼び起し,体得し,鋭敏にすることは音楽学習の基礎的なものであって,児童の音楽的な発達段階からみても,小学校の音楽教育においては,特に重要視されなければならない。

 われわれ自身についてみても,規則正しい心臓の鼓動・脈拍・呼吸あるいは歩行など,1,2の例よっても生得的にリズミカルな運動をしている。このことは,大にしては宇宙のあらゆるものすべてについてもいえることで,広い意味でいえば,リズムはあらゆる生命の流れとして動き,躍進し,生きている。

 また,われわれの精神作用も,本来リズミカルなもので,外界の刺激そのものがリズミカルな場合はいうまでもないが,客観的にはなんらの差別もないとけいの音や汽車の音などの刺激からも容易にリズムを感じるものであることはよく経験することである。そしてそのようなリズミカルな動きに対しては,常に快よい感情が誘発されるものであって,リズム経験を重ねることによって,リズム感はしだいに確立され,あらゆるリズミカルな動きに適応することができるようになると,音楽活動をより楽しみ,より深めるばかりでなく,ひいては明るく豊かな生活を営む原動力ともなる。

2 リズム反応指導の方法ならびに指導上の注意

 リズム反応とは,聴覚を通し,運動感覚を通し,あるいはまた,視覚などを通して慣らされるいろいろなリズムを知覚し,また,身体的なリズミカルな運動として表わされる音楽経験のすべてをさすものであって,受動的な面と,能動的な面の指導が考えられる。

 すなわち,前者受動的な面は,聞いたリズムに反応することであって,音楽がそのほかのリズムの流れを知覚し,さらに身体的な動作として反応し,さらにそれが自由な解釈にまで発展する。

 能動的な面とは,そうした受動的なリズム感を基礎にして,他から刺激を与えられないでも,いろいろなリズム型を自分から進んで意識し,それをリズム楽器の演奏や合奏およびその他音楽表現全般の技能に発展させることである。

1) まず 模倣から始まり 創造へと発展する。

 ほかの芸術活動と同様に,リズム経験もまた,よい模倣をすることから進歩する。模倣は単なる衝動的な,反射的な模倣から意識的な模倣まで含めて考えられるが,音楽の創造的自己表現も,初めはすべて模倣によるのである。それゆえに,よい刺激を常に用意してそれを模倣しようとする児童の本能に示唆を与えてやることは,リズム反応指導においてもたいせつな心構えである。

2) 身体的運動として反応させる。

 リズムはいわば,規則的な反復,あるいは規則的な動きにほかならないから,リズム感を呼び起す第一歩は,リズムを身体的運動として表現することにある。児童はすでにリズミカルな身体的動きの持ち主であるから,そのリズミカルな動きをさらに意識的に拡大し,進んでは,それに音楽のリズムを通し,音楽に生かしていく。こうして,その身体的な動きに対して,音楽教育の計画を立てることが必要である。

 低学年においては,どちらかといえば,反射的なこの身体的リズム反応の面を特に強調する。このような活動は,人間の本性的なものであるから,なくなるわけではないが,学年が進むにつれて精神的な知識・理解の要素が加わってくる。

a. 自然で自由なリズム活動を奨励する。

 歩く,走る,転回する,とぶ,体を左右に動かすなどのような,児童のもつ自然なリズム運動や遊びに,タンブリン・太鼓・ピアノなどの音楽を合わせて,かれらの動作や遊びを,いつか音楽の中に引き入れ,秩序づけていくようにする。

 さらに,音楽を聞くことを通して,そのような反応をさせる。つまり,音楽の伴奏を意識して拍手したり,輪まわしをしたり,駆け足やスキップをしたりするのである。

 なお,こうした活動がもっと進めば,フォーク ダンスなどの標準的な型にまで発展するであろうし,また,リズム遊戯やダンスを表現する活動を起すようになるであろう。

b. 環境から感じとられるリズムを模倣させる。

 児童をとりまく自然や働く人々,あるいは,ことばなどのもっている生活の中のリズムを模倣させる。

 たとえば,そうじや洗たく,舟こぎなどのものまね遊びをやったり,太陽の輝き,風のささやき,川のせせらぎ,ぽっくりぽっくり歩く馬,キャッキャッと鳴くさるなど,すべてを含んだ大自然に注意を向けさせ,それらにちなんだリズム遊びをさせる。

 以上のような遊びに教師は適当な音楽を用意し,また音楽を伴奏として,これらの遊びを児童はじゅうぶん楽しむことができる。さらに進んでは,そのような遊びにふさわしい音楽を,児童みずから選んだり,また作曲しようとする態度にまでむけていく。

 また,ことばのもつアクセント・抑揚をとらえ,その最もリズミカルな表現である詩の読み方をくふうして,詩のリズムに触れるようにしたり,そのほか児童の周囲には,興味をそそり,リズム経験として生かすことのできる材料はたくさんある。

c. 聞いている音楽の解釈を,動作によって自由に表現させる。

 教師はまず,リズムのめいりょうな音楽を聞かせたり,リズミカルな歌を歌わせたりしてそれに合わせて手を打ったり,頭を振り,足踏みをするような,基本的なリズム反応の中に音の速度・強弱・長短といったリズムのいろいろな性質に対する鋭敏な感覚を得させる。そしてそれをただちに身体的な動作として反応できる能力を得させるようにすることは,きわめてたいせつである。これはまた,リズム楽器を利用したり,ものまね遊びや音楽遊びなどの,いろいろな方法によって行うことができる。

 また,聞いている児童に合わせて指揮の模倣をしたり,自分たちの歌う歌に合わせて指揮をし合ったり,進んでは自分で解釈して実際の指揮をするところまで発展させていく。

 このようにして,徐々にリズムの変化を知覚して,曲の気分をとらえ,それを自由に身体的に表現ができるように発展させる。

3) 音楽のいろいろなリズム型やその組合せ,およびリズム譜を理解し,それに反応する能力を得させる。 a. 視覚によって音符や休符,およびその組合せを理解表現させる。

 四分音符・八分音符・二分音符・全音符・十六分音符,およびそれに相当する休符,その他の付点音符(必要によっては付点休符)の,個々の長短を理解して,ラ音で歌ったり,手を振ったり,足踏みをしたりなど,その他適当な約束のもとに表現させるくふうをする。逆にまた,教師が口で唱えたり,歌ったり,ピアノでひいたりするリズムを,音符や休符に表わすことができるような能力をもたせる練習をする。

b. 音楽の中に,リズムがどのように組み合わさっているかを理解表現させる。

 歌を歌ったり,楽曲を自分で演奏したり,他人の演奏を聞いたり,あるいはまた,ラジオや蓄音機によったりして,音楽の中を拍子がどのように流れているか,リズムがどのように刻まれているかを理解感得させる。

 2拍子・4拍子・3拍子・進んでは6拍子に至るまで,手を打ち,頭や体を前後左右に振り,足踏み,歩行,せっせっせ遊び,リズム運動,リズム楽器を打つなどの方法によって,拍子感を得させるようにする。なおまた,これと同時にリズムどおりの身体的表現もさせるようにする。

 これらのことは,ただ聴覚によるのみでなく,楽譜を通した視覚的なリズム経験としても取扱の方法を考えなければならない。

 また,これらのリズム型は,簡単なものからしだいに複雑なものへ進むように指導することがたいせつである。

c. リズム譜や総譜を読み,それに反応する能力を伸ばす。

 はじめて見る楽譜の音符や休符の長さをもよく感得して身体表現をし,調子や記号やその他の諸記号に対しても,理解して反応できるように指導する。リズムの拍節的な読み方,打ち方をじゅうぶん指導すれば,リズム楽譜のパート練習もさして困難なことではない。

d. リズム バンドに参加させる。

 リズム バンドに参加しようとする意欲を高め,よりよい演奏技術をうるよう練習させる。総譜を読んで,それによって合奏を楽しんだり,歌唱の伴奏をしたり,あるいは,ほかのリズムバンドの演奏を聞いたりして,鑑賞力を高め,すぐれたリズム感を養うようにする。訓練された音楽的なリズム感の持ち主は,じゅうぶん練習してみがかれた演奏技術と,熟練したリズム譜への理解とがあいまって,豊かな,独自の創造的自己表現へと発展していくであろう。