Ⅲ 器楽の指導法

 

1 器楽指導の意義

 楽器をひいたり打ったりすることは,歌うこととともに,人間本来の欲求であって,それは未開の土人や幼児が簡単な歌に合わせて手を打つことに,その芽ばえを見ることができる。しかも器楽は声楽に比べて,音色の多様性,音域の制限されない広さ,表現技巧の多種多様な点などから考えて,はるかに大きな表現力を持っている。今,器楽指導の持つ意義の2,3をあげてみると,

1) 声以外のものによる自己表現の一つの手段である。

 音楽的自己表現の手段の第一として声楽があげられるが,その楽しさを味わう他の一つの手段として,楽器の演奏による大きな表現力が利用される。

2) 楽器の演奏や合奏によって,リズム・旋律・和声・その他副次的ないろいろな音楽の要素をよりよく理解し,表現する力が養える。

 楽器の演奏によって,身体的な動きや視覚を通してこのような音楽の諸要素を理解したり表現したりすることができる。特に低学年のリズム指導などでは その果す役割は大きい。

3) 楽器の演奏を通じて,よい意味の鑑賞能力が養える。

 楽器の演奏を体験することによって,楽器の性能,音色の組合せのおもしろさやよさなどを理解し,よい音楽の鑑賞能力を養うことができる。

4) 音楽に関する理論や歴史などの知的な理解を発達させるための背景になる。

 楽器を演奏したり,器楽の編曲をくふうしたりすることによって,読譜や楽典の基礎,音楽の種類・内容・形式・様式,あるいは作曲者やその時代などについての理解を深めることができる。

2 器楽指導の方法,ならびに指導上の注意

 楽器を演奏したり,編曲をくふうする能力は,どのようにすれば養えるだろうか。次にその一例をあげよう。

1) 楽器を演奏することに興味をもたせる。

 いろいろな楽器をいじってみたり,簡単な楽器をくふうして音を出したり,楽器で自由な節をひいたりして,まず楽器を演奏することのおもしろさを味わわせることが必要である。

2) リズムを身体的にとらえさせる

 リズムについての感覚を養うことは,器楽指導の最も基礎となるたいせつなことであって,特に低学年の児童には次の例のような活動に訴えて,身体的にとらえさせるのがよい。

a. 音楽に合わせて歩く。

b. 音楽に合わせて,手を打ったり拍子をとったりする。

c. 音楽に合わせて,身体を動かす。

d. リズム遊びをする。

3) 演奏しようとする歌を歌う。

 器楽指導は,まず歌唱教材を中心に始められる。演奏しようとする教材を,あらかじめ歌って,リズムや旋律を経験しておくことは,その後の器楽学習活動を積極的にする。

4) 正しいひき方や打ち方に気をつけさせる。

 リズム楽器を乱暴に打ったり,鍵(けん)盤楽器をいいかげんな指使いでひいたり,また悪い姿勢で演奏したりすることのないように注意する。特に初歩の過程から正しい演奏のしかたを習慣づけることがたいせつである。

5) 楽器の音を注意して聞きながら演奏させる。

 正しい演奏法によって,自分の演奏する音に注意し,より美しい音色・正しいリズム・音程 さらに進んではその曲に合った自然の表情の表現ができるように努めさせる。

6) 次のような活動を通して,リズム譜・楽譜・総譜に慣れさせる。

a. リズム譜を見て簡単なリズム楽器を演奏する。

○ 児童の歌唱に,簡単なリズム楽器でリズミカルな伴奏をつける。

○ ピアノやオルガン,またはレコードの音楽に,簡単なリズム楽器でリズミカルな伴奏をつける。

○ 歩いたり,身体を振ったりする動作に,簡単なリズム楽器でリズミカルな伴奏をつける。

○ 歌のリズムを,リズム楽器で演奏する。

○ リズム楽器だけでリズム合奏をする。

b. 楽譜を見て,簡単な旋律楽器を演奏する。

○ 児童の歌う歌の旋律を演奏する。

○ 自由な旋律を作って演奏する。

○ 器楽曲の旋律をひく。

○ 旋律楽器の合奏をする。

c. 簡単な総譜によって,リズム楽器と旋律楽器の合奏をする。

d. できれば,吹奏楽やオーケストラの楽器で合奏する。

7) 編曲をする能力を養う。 a. 各楽器の性能を理解させる。

 各楽器の音色・音域その他の性能を理解して,それぞれの楽器の特色を生かすようにする。

○ リズム楽器

 合奏としては,最も初歩的で単調なものであるから,音色の配合には特に注意し,単調に陥らないようにする。

○ 旋律楽器

 旋律楽器の音域や音色などを理解させる。

b. 各楽器の組合せをくふうさせる。

 低学年から楽器の組合せによる音色の配合のおもしろさを味わわせるようにする。その場合,次のような点に考慮を払うことが望ましい。

○ 楽器のどの音域の部分がその音量と特性を発揮できるか。

○ ある表情を表現するには,どんな音色が適しているか。

○ ある旋律を強調するにはどうしたらよいか。

 なお,リズム合奏はややもすると「そうぞうしい音楽」になりやすいから,編曲の上にじゅうぶん注意しなければならない。

c. 楽曲の形式を理解する。

 楽曲の形式を理解することは,編曲上重要なことである。たとえば,小三部形式を理解することによって,A—B—AのBの部分に,リズムや音色の上で,Aと対照的な変化を与えることが,非常に効果的であることがわかり,それを実際の編曲の上に生かすことができる。

3 楽器の編成法
1) 楽器編成の一般的な注意 a. 児童に,合奏楽器全部の音色や性能を理解させる。

b. 編成は,できるだけ簡単で,しかも演奏効果のあがるようにする。

c. 楽器は,その楽曲の表現に最も適したものを選ぶ。

d. 楽器の性能・音色・表現力の差異を考えて,演奏人員や楽器の振合いを決める。

2) リズム合奏の場合

 リズム楽器を主体とする編成は,歌唱やピアノ・オルガン・レコードなどに合わせて合奏するのに用いられる。

 これは主として,低学年向きの編成であって,どうしても単調に陥りやすいから,音色やリズムの変化によって,ある程度のおもしろさを出すようにしなければならない。

 次に各楽器の種類と,その編成および配置図の一例をあげると,次のようになる。

a. 種類および編成

 楽器の数は,カスタネットを最も多くし,拍子木・鈴・タンブリンの順に少なくし,シンバル・太鼓・トライアングルなどは一つでよい。

b 配置図

 これ(次図参照)は,歌唱を加えた場合の配置図であるが,歌唱のない場合でも楽器の配置に変りはない。

3) 旋律楽器を主体とする合奏の場合

 旋律楽器の編成は,歌唱やピアノ・オルガンなどが受け持った旋律を,旋律楽器に変えて合奏する。高学年に進むにつれて,純器楽曲の合奏へ

と進み,和声的に,あるいは旋律的な面を重視していく。

 次に各楽器の種類とその編成および配置図の2,3の例をあげてみよう。

a. 種類および編成

 音量の少ないハーモニカを最も多くし,次いで木琴・弦楽器・笛類の順で少なくして音量の均衡をはかる。

b 配置図

○ 一般的な編成(30名内外)

○ 各楽器の特性を生かした編成

 

(A)ハーモニカ中心編成

 

 

(B)木琴中心編成

 

 

(C)笛中心編成