第Ⅱ章 児童の音楽的発達

 

Ⅰ なぜ児童の発達段階を知らなければならないか

 

 新しい教育において,特に児童の発達段階を知らなければならない理由として,次のような事がらがあげられる。

1 学校教育において,指導の方針をきめたり,具体的な指導を進めていく上に,児童こそ決定的な要素ある。  児童自体が一個の人格として取り扱われ,各人がその個性をじゅうぶんに伸ばして,好ましい社会生活を営むことができるような生活力を養成することが,教育の重要な目標である。教師は常に,このような観点から児童を理解することに努め,目標の達成を期さなければならない。この点が忘れられ,ゆがめられると,社会の偏見や,教師の独断による誤った教育におちいってしまうのである。常に児童の立場に立ち,児童とともに,そして児童の幸福という面から,教育のすべての分野を考えていかなければならない。 2 児童の発達段階に即応しない教育方針や指導法は音楽の効果をあることができない。  すばらしい教育目標も,綿密な教育計画も,児童の実体からかけ離れたものであった場合には,単なる机上の空論に終ってしまう。教師の役割は,児童自身が本来そなえている音楽性を,できるだけすなおに伸ばすように,助け補うことである。そのためには児童の音楽的な生活の現状を知り,発達の過程や発達の要因となるものをきわめなければならない。その上で,適切な計画をたてたり,適切な内容や方法で,児童の好ましい態度・鑑賞・技能ならびに理解の伸長に努めなければならない。