第   3   部

望ましい計算方法の案

 計算はいろいろな方法で行うことができる。ここでは,今日行なわれているいろいろな方法を比較研究して,望ましいと思われる方法を示唆することにした。しかし,この方法だけを用いて計算しなければいけないなどと,窮屈に考えてもらいたくない。計算の方法は,数学的に正しいものでありさえすればよいわけであるから。

 ここにあげてある方法は,小学校・中学校からみて,方法的に統一されていて,その理法が理解しやすいところに重点をおいて選んだものである。

1.数の書き表わし方

 大きい数を読みやすくするために,小学校では,4けたくぎりにすることにする。しかし,実際の社会では,3けたくぎりが用いられているので,中学校にはいってから,3けたくきりで書いたり,読んだりすることができるように指導することにする。

2.四則計算

 (1) 加  法

 (2) 減  法  (3) 乗  法  (4) 除  法  

3.分  数

 (1) 分数の分母,分子の間に引く線は,水平に引く。

 (2) 異分母のよせ算は,次のようにする。

 (3) 異分母のひき算は,次のようにする。

 

第   4   部

幼稚園および低学年の指導

 ここでは,幼稚園および低学年のこどもに対して,算数についての指導をするときに,特に気をつけたらよいと思われる事がらを述べることにする。

1.この時期における指導のねらいは,どんなところにあるか

 この時期における指導のねらいは,こどもに算数についての豊かな経験をもたせ,そのあとの学習が円滑に進んでいくようにするところにある。したがって,こどもが豊かな経験をもつように,注意して計画をたてることがたいせつである。これがじゅうぶんにできさえすれば,算数が個人生活にとっても.社会生活にとっても,重要なものであることを,こどもが理解するであろう。また,こどもに,算数を用いて,自分自身の当面している問題を解決していくような傾向の芽ばえができてくるであろう。また,そのような問題を解決する能力が伸びてくるであろう。このような意味から,この時期における算数についての指導は,これからあとの学習の基礎を作りあげることをねらっているのであるから,重要なものである。

 これからあと,数学的な事がらについての理解や数学的な技能が伸びていくようにしていき,社会における数学の位置についての理解を深めるように指導していくのである。

2.実際の指導において,特に,どんなことに気をつけたらよいか

 この時期における学習指導をしていくときに,特に気をつけたらよいと思われることがらを項目にまとめておく。

 (1) 理解をもって学習していくようにする

 理解するというのは,こどもに,計算のしかたを,わけがわかろうがわかるまいが,ともかく,のみこませることをさしているのではない。こどもが,計算のしかたをまとめて,いわば生み出してくることをさしているのである。これがないのでは,こどもがこれでよいという信念をもつことができないからである。しかも,こどもが計算についての理解ができていないのでは,これらの方法を忘れずにささえていくために,もっぱら記憶にたよらねばならなくなるであろう。また,これでは,科学的に物事を考える傾向を伸ばすとこともできなくなるであろう。

 一般の国民として用いる数学の主要な部分は,小学校で学習したことであるといつでも過言ではないであろう。このようなわけで,小学校の算数科の責任は,実に大きいといわねばならない。この重要な基盤となるものが,低学年にあることを思えば,その指導に当って,慎重に計画をたて,理解をもって学習していくようにすることが必要である。

 (2) 指導の出発点にいつも気をつける

 学年がどんなであろうとも,こどもに学習の準備がじゅうぶんにできているところで,学習を始めるようにしなければならない。特に,新入学のこどもについては,どんなことができるかについての実態をつかむことが必要である。これについての研究なしに指導を始めたのでは,こどもは学習することができない。このようなことがもとになって,高学年におけるできないこどもができてくるのである。先に述べたように,この時期は,これからあとの学習の基盤を作りあげていく時期であってみれば,特に,指導をどこから始めてよいかについての研究が必要である。

 (3) これからあとの指導を見とおしておく

 先に述べたように,この時期は,学習の基盤を作ることをねらっているのである。したがって,これからあと,どんなことについて学習するかを調べ,それへの連絡や発展は,どのようにしたら円滑にできるかを考えて指導することが必要である。たとえば,数を書いたり,読んだり,あるいは個数を数えたりすることをとおして,位取りの原理についての指導をするのである。この位取りの原理についての理解や,個数を数えたりすることは,これからあとの四則計算の根本になるものである。ところが,このようなことについての考慮をしないで,数を読んだり書いたりする指導を形式的にすましていくと,そのあとの計算ができなくなったり,あるいは,その計算ができるようにするために,たいへんな努力をしなければならないようになるのである。このような意味で,この時期からあとの学習の見とおしをもって指導し,形式的に流れないようにすることがたいせつである。

 (4) 視聴覚教具を活用する

 こどもは,特に,この時期のこどもは,じっと抽象的に考えることができない。こどもは,手て動かしてみたり,さわってみたりなどして学習していくものである。このようなこどもの学習活動ができるようにするためには,視聴覚的な教具を必要とするであろう。このようなものを用いて,こどもの行為をとおして,はじめて,数学的な概念や理解を形成することができるのである。さて,このような教具をひとりびとりの教師が自分で用意したりすることは,労力も大きいし,経費もかさむことであろう。できれば,教授資料室を設けて,図書室のように整理しておけば,労力の面からみても,物資,経費の面からみても,節約することができるであろう。

 (5) 何回もくり返し指導する

 学習指導は,気ながく,根気をもっておらなければ,その目的を達成することができないものである。特に,低学年や幼稚園のこどもに対する指導については,特に,この点を強調する必要がある。

 とくに,この時期に指導しようとする事がらは,おとなのわれわれからみると,実にやさしくて何でもないことのようにみられるものが多い。しかし,こどもにとっては,そんなにやさしいものではないのである。しかも,遊びなどに気をとられていて,教師の指導しようとしているねらいなどに,そんなに気のつくものではない。このような意味から,やさしいとみられるものに基礎的な事がらが多いのであるから,同じことを何回もとりあげて,くり返し指導することがたいせつである。

 (6) こどもの主な問題を用いる

 今までに何回もくり返し述べたところであるが,算数の重要なねらいは,問題解決の能力を伸ばしていくところにあるわけである。このような意味からも,こどもの生の問題は,重要な意義をもっているのである。

 また,このような問題は,こどもの学習意欲をさかんにするものである。しかも,これをとおして,新しい事がらについての指導の機会も得られやすいものである。とにかく,こどものもっている生の問題を,時には反復練習の指導のために,時には新しい指導へのきっかけとして,全指導計画の中にうまくとり入れていくことがたいせつである。このような柔軟性をもった指導であって,はじめて,この時期のこどもに対しての,生き生きとした指導となるのである。

 (7) こどもの能力に応じて暗算を指導する

 暗算は,こどもの学習からみてだけでなく,一般のわれわれからみても重要なものである。というよりも,こどもに必要欠くことのできないものである。しかし,この指導にあたっては,特に,次の二つの点に留意することが必要である。

 ○こどもがいつも使う計算に限定する

 ○こどもの能力にふさわしい程度のものにする

 (8) 楽しく学習できるように指導する

 算数を楽しんで学習できるようにすることは,特にたいせつなことである。これなしには,こどもは学習しようとする意欲を起さないからである。とにかく,算数を用いて生活をし,算数を楽しむように指導したいものである。このような意味から,算数が有用なあらゆる学習の場や学習の機会をとらえて,これを逃がさず,算数について指導していくことが必要である。

 

こ の 章 の ま と め

 この章は,算数についてのこどもの学習活動をどのように指導したらよいかということを主題として,次のような仕組みになっている。第1部では,学習指導に関する一般的な問題を取りあげ,第2部では,特殊な問題として診断的指導,反復練習,算数科における技能の維持,論理的な思考を伸ばすこと,個人差に応ずる指導について述べた。また,第3部では,計算の形式に関して望ましいと考えられる試案を掲げ,第4部では,幼稚園および小学校低学年における算数指導に関して基本的な事がらについて述べた。これらのことは,次のようにまとめることができる。

 

第1部 一般的な問題

 (1) 学習指導の根本理念

 (2) 算数についての指導の変化  (3) こどもが自主的に学習するような指導  (4) こどもが理解をもって学習していくような指導  (5) 日常生活を改善しようとする学習の指導  (6) 個々のこどもに適合する学習指導  (7) 有効な反複練習  (8) 教科書を有効に使っての学習指導  

第2部 特殊な問題

 (1) 診断的指導

 (2) 反復練習の実際的指導(第1部第7節のまとめ参照)  (3) 技能の維持  (4) 論理的思考を伸ばすこと  (5) 個人差に応ずる指導計画  

第3部 望ましい計算方法の案

 

第4部 幼稚園および低学年の指導

 (1) この時期の指導のねらいはこれからあとの学習の基盤を作りあげることにある。このような意味から,こどもに豊かな算数についての経験をもたせて,そのあとの学習が円滑に進んでいくようにすることにある。

 (2) 実際の指導において,とくに次の事がらに留意することが必要である。