第七章 国語科における評価
第一節 国語科における評価はどう考えたらよいか

 国語科における評価は、単に学習効果の判定だけにとどまるものではなく、学習指導計画をたてるための基礎資料を整え、学習指導計画に対する児童の適応状態と進歩の過程を知り、学習指導のさまざまな目標に児童がどれだけ達したかを確かめるためのものである。評価をこのように広く考えることによって、国語の学習指導はいっそう効果的、能率的なものとなり、学習指導計画や学習指導法について、反省と改善の機会が与えられ、国語科の指導目標をいっそう適切に達成することができる。

 評価は、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことについての習慣・態度・技能・能力・知識・理解・鑑賞などにわたって、具体的な指導目標の項目ごとに試みられなければならない。しかし、それぞれの言語活動は孤立しているのではないから、評価は、互に関係づけ、継続して行うべきである。

 これまで国語科の評価は、簡単に数量的測定ができるものについて、おもに紙と鉛筆による方法が行われ、結果を数量的に表わしにくいものや複雑な手続を要するものについては、その努力が不足し、また、部分的測定の結果を全体的な国語力と関連して考察することが欠けていた。今後は、そうした点にじゅうぶん反省を加え、教師の主観的判断をできるだけ正確に、しかも信頼のできるような方法を研究し、くふうしていかなければならない。学習の結果を数量的に表わしがたいものについては主として観察により、数量的に表わすことのできるものは主として検査によって行うのである。

 そのいずれによる場合でも、学習の過程と結果をできるだけ正確に知り、学習指導の目標に添うものでなければならない。

 評価には、次のようなものが考えられる。

一 学習指導計画をたてるための評価

 学年の初め、学期の初め、あるいはひととおりの学習の初めにおいて、具体的な学習指導計画をたてるための基礎資料を得る目的で行われる。

二 学習指導の進行を効果的にするための評価

 学習指導の途中において随時行い、予想された目標に予想された進度で児童が学習しているかどうかを判定する目的で行われる。これは、教師の指導計画や指導法の反省批判にも利用される。その結果によっては指導計画や指導法をただちに変更する必要も生じてくる。

三 学習指導の効果を判定するための評価

 おもに学年末・学期末・または、ひとまとまりの学習の終りに行われるものである。

 この場合、おもに標準検査が用いられる。

 

第二節 評価の方法にはどんなものがあるか

 評価は、その目的や必要によって、どの方法を選ぶかが決まってくる。評価のおもな方法として、次の五種類のものがあげられる。

 今そのおのおのについて簡単に述べてみよう。

一 教師による観察

 この方法は、客観的検査に比べて価値が低いとか、それに換られたとかと考えるべきではない。客観的検査による不手ぎわな評価よりも、経験のある教師の綿密な観察のほうが、はるかに正しく評価できる場合もある。しかし、教師による観察はとかく主観的になり、局部的になりやすい危険もあるから、観察の手段や方法をなるべく客観的、全般的になるようにくふうし、観察の結果を絶えず記録し、整理して、評価をできるだけ客観的、総合的になるように努めることがたいせつである。観察の手段としては、次のものがあげられる。

二 教師がつくる客観的検査

 これまで国語の学力を調べるには、おもに口頭試問や、筆記試験が行われ、どうしても主観的で信頼度が少ないという欠点があった。これに代るものとして、客観的検査が強く取り上げられるようになった。客観的検査には、

三 学習帳(ワーク・ブック)による客観的検査

 学習帳は、その目的や性質によっていろいろあるが、練習や学習作業ばかりでなく、客観的検査をも適当に取り入れられている。教科書に即した学習帳の客観的検査は、教師が客観的検査をつくる参考になるし、教科書に即していない一般的な学習帳の客観的検査は、標準検査の代りに利用することもできる。

四 標準検査

 これは、教師がつくる客観的検査では、学級内の成績がわかるだけで、同じ学年の他の学校や学級の児童の成績との比較や、全国の水準との比較ができないのを補うものである。標準検査は、多くの専門家が長期にわたって、科学的に調査して標準化しなければならないので、現在のところでは各地に試案的なものが行われている。各地域において標準検査作成への調査が行われている場合には、それと比較して、受け持つ学級の児童の国語力を判定してみることもたいせつである。

五 事例研究

 これは、特に遅進児や遅滞児について、その診断や治療的指導を行うものである。一般に事例研究は、特別の調査研究を必要とする事例を示す児童個人について、その事例の発生に関係のありそうな面を過去および現在の生活の全般にわたって調べ、望ましい対策を講ずる方法である。この方法は、教師の視察や、各種の検査や実態調査が総合的に行われるが、特に国語科では、読むこと、話すことの不振や、遅進を中心としてこれを行うのが普通である。したがって、その項目も一般の事例研究で予想される項目、たとえば、過去および現在の状態、発達段階などとともに、次のものがおもな項目としてあげられる。

 
第三節 それぞれの言語活動について評価をどのように行うか

 評価を実施するには、聞くこと、話すこと、読むこと、書くことのそれぞれについて、どのような評価の方法を用いたら最も有効であるかを考えることがたいせつである。次に、それぞれの言語活動について、どのように行ったらよいか、そのだいたいについて述べることにする。なお、中学年以上の児童には、自己評価の方法を知らせておいて、自主的に、または相互に評価させることも効果がある。

一 聞くことの評価はどうしたらよいか

 聞くことの言語活動については、客観的検査の作成がむずかしいので、標準検査はつくりにくい。したがって、教師の綿密な観察だけが行われる。この観察をなるべく客観的なものにするためには、児童個人または、学級全体の調査表を作成し、随時チェックしていく方法がある。調査表に入れる項目は、聞くことの能力表に基いて、それぞれまとめるのであるが、次のようなことがあげられる。

 特に、相手が話しやすいように聞くこと、相手の立場を尊重して聞くことなどの道義的なことに注意を払うことがたいせつである。

 音や声を聞くことを調べるには、難聴や弱聴を早期に発見して、適当な対策をたてるようにしたい。

二 話すことの評価はどうしたらよいか

 話すことについては、客観的検査の作成はむずかしいので、標準検査もつくりにくい。したがって、教師の綿密な観察が行われる。この観察をなるべく客観的なものにするには、児童個人または学級全体の調査表を作成し、随時チェックしていく方法がある。調査表に入れる項目は、話すことの能力表に基いて決めるのであるが少なくとも、

 などについて、さらにいくつかの細かい項目に分けておくことが望ましい。特に、話す態度については、おしつけがましくならないように話すこと、相手に発言の機会を与えること、相手の立場を尊重しながら話すことなどに注意を払うことが必要である。

三 読むことの評価はどうしたらよいか

 読むことの評価の細かい項目は、これも能力表に基いて決められるべきであるが、

 などがあげられる。このうち、1と6と7は調査表による教師の観察が中心となる。書物を取り扱う社会的態度を調べることをも忘れてはならない。その他のものでは、学習帳にある客観的検査や、教師がつくる客観的検査も用いられる。なお、音読と黙読というように分ける場合には、音読については、  などが評価の対象となり、1と3とは主として観察、2は主として客観的検査が用いられる。特に音読の場合には、ほかの児童やグループなどの迷惑にならぬように読むことなどの道義的態度を見ることがたいせつである。黙読については、  などが評価の対象となり、いずれも客観的検査を行うことができる。しかし、読む速さは、材料により読む目的によって、同じ児童でも違ってくるのが当然であるから、一回か二回の検査で決めてしまうことは危険である。また、読むことの速いものは理解の度合も深い場合が多いけれども、二つの関係に必然性があるのではないことも忘れてはならない。理解の程度には、語いの理解、文の理解、図表や統計などの理解が含まれる。

四 書くことの評価はどうしたらよいか

 書くことの評価では、

 これらが主要な対象となる。文字を書く速さは、読む速さと違って、いくらでも速く書けるように指導する必要はなく、日常普通の生活にさしつかえのない程度の速さが指導の限度である。書かれた文字の良否を評価するには、尺度式検査が考えられるが、標準尺度がまだできていないから、教師の観察が主となる。

 また、さしあたりの便法としては、ひらがなを見本に選び「あいうえお」を三分ないし五分書かせて、一分間の平均の速さと書けた文字を二十段ぐらいにわけた尺度に照し合わせて評価することも考えられる。

 作文については、客観的な尺度文をあらかじめ決めておいて、それと比較して評価をする尺度式検査が考えられる。普通には、おおまかに内容と形式とに分けて、それぞれの能力表から取り上げた項目を並べた調査表を用いるのが便利であろう。また、この調査表に三段階なり、五段階なりの採点欄をつけて、児童に自己評価なり、相互評価なりをさせることもよい。

 形式としては、

 などが考えられ、内容としては、  などが考えられる。

 

第四節 教師の観察はどんなふうにしたらよいか

 教師の観察をなるべく綿密・正確で、しかも客観的なものにするためには、いろいろな方法があるが、次に、そのおもなものをあげる。

一 尺度に合わせる方法

 児童の話を聞いたり、朗読を聞いたりして評価する場合に、あらかじめ段階づけられた尺度を準備して、それにしるしをつけていく方法である。

 たとえば、「順序だてて話すことができる。」については、次のような尺度を用意して、あてはめていく。

 次に「文の意味を考えて読むことができる。」を例にとる。  どの段階にあるかという判定は、教師の観察による。この方法は、尺度さえ作成すれば、国語科のあらゆる学習指導目標について応用することができる。

二 優劣の序列をつける方法

 これは、日記・感想文、その他報告文、学習帳(ワーク・ブック)などの作品を比較しながら優劣の順序をつけて配列する方法である。たとえば、「正確に文字を書く」について、優劣の順序をたてていくこともできるし、総合的に作品全体の優劣をつけていくこともできる。ただし、この方法は、学級単位の序列が決まるだけであるから、ほかの学級との比較や標準検査との比較によって、その学級の客観的な位置を知る必要がある。

 この方法による処理のしかたは、全体を五等分して、最高と最低に一〇パーセントずつ、次に二〇パーセントずつ、中央が四〇パーセントぐらいになるように分布させて、最高は5点、次は4点、3点、2点、1点といったふうに配点するのが普通である。

三 質問に対する答を選ばせる方法

 これは、学習内容・資料・指導方法などが適切であったかどうかを知るために行われる方法の一つで、児童の実態調査などに用いられ、質問紙法と呼ばれる形式と同じである。

四 面接や巡視による方法

 これは、あらかじめ用意した調査表の項目について、巡視によって学習活動中の態度や作業を観察記録して理解の程度を判定したり、個人との面接によって、その反応に基く理解の深浅を記録し、その原因を探知して適切な指導資料をうる方法である。

 面接による方法は、おもに話すこと、聞くことに関する詳細な評価を必要とする際に適切である。特に総合的な感想・批評・鑑賞、分析的な簡単な問題の解決・発見、アクセント・抑揚などの個人的な評価の資料を得るときに利用される。

 

第五節 検査を客観的にするにはどうしたらよいか

一 検査問題が客観的であるための要件

 検査が客観的であるためには、検査問題の選び方と形式とが客観的でなければならない。まず検査問題が客観的であるためには、少なくとも次の項目がたいせつである。

二 客観的検査の形式

 容観的検査の形式としては、次のものが代表的である。

 
第六節 評価を行うときにはどんな注意が必要か

 評価を行うときの注意は、すでにそのいくつかについては触れてきたが、次に、一般的なことについてあげてみよう。

 以上、一々の評価は、帰するところ、児童の円満な人格を発達させることにある。