ローマ字の学習は、社会生活をしていく上に、どのような意義があるか。ローマ字の学習指導を国語教育の一環として行うためにはどんな目標が考えられるか。また、ローマ字の学習指導を行うためにはどのような計画と方法があるか。ローマ字の学習指導を国語教育の一環として行おうとする人たちのために、このようなことについて、具体的に考えていくのが、この章のねらいである。
ローマ字は、表音文字であり、単音文字であるから、話しことばや書きことばに対する反省を強め、ことばの決まりについての児童の自覚を高めることができる。また、ローマ字は、書いたり、印刷したりするのに能率の高い文字組織であるから、ローマ字を多く用いる社会的習慣ができれば、社会生活の能率と一般国民の文化水準を高めることができる。なお、ローマ字は、現在多くの国がその国語を書き表わす文字として用いているから、国際間の理解・親善を深める上に役だつ。
ローマ字の学習指導が、国語の学習指導の中で、どのような位置を占めるかを考えると、次のようになる。
2 ローマ字の長所を生かし、国語の機能とその特質を児童に理解・習得させ、聞いただけでわかることばを使う習慣を養う。
3 ローマ字がもっている国際的、能率的な長所を理解させる。
ローマ字の学習指導の一般目標として、次のことがあげられる。
2 自分の考えをローマ字で書き表わす力を養う。
3 ローマ字書きの決まりを身につけて、正しく表現する力を養う。
4 気軽にローマ字を使う習慣と態度を養う。
ローマ字教育が国語教育の一環として行われるかぎり、小学校におけるローマ字の学習指導の目標は、一般的には、国語学習指導の原則によって、ローマ字が表音文字である長所を生かし、これをじゅうぶんに使いこなす力を身につけさせることであることはいうまでもない。
以上の立場から、だいたい次の二つの目標が考えられる。
2 ローマ字書きのきまりを理解させ、読む人に誤解を起させないように、また、読みにくさを感じさせないように分ち書きをして書く習慣と態度を養う。
一 初期の段階 (注)かっこの中の数字は、三年生からローマ字学習を始めた場合の三年生の基準を示す。
(一) 読むことの学習指導はどうしたらよいか
(1) はじめて読む文を、一分間三十五語(三十語)以上の速さで読むことができる。
(2) 一目見て読み取れることばの数が最小限七〇語ぐらいになる。(ただし活用形やその他の変化した形は含まない)
(3) 習わないことばでも、読むことができる。
2 どう指導したらよいか
(1) 読みの準備。
学習を始める前に、適当な図形や絵などを用いて、その大小・向き・細部の違い・配列の順序などを、速く、正しく見分ける練習をさせる。また視線が行に従って左から右へ運動する練習をさせたり、行の終りから次の行の初めへ速く、正しく動く練習をさせる。
学習を始める三、四か月ぐらい前から、学校の建物や備品などにローマ字書きの札をはり、ローマ字に親しみをもたせておく。
(2) 新しい単語の提出。
第六時 ——第一〇時 四 語——五 語
第一一時——第二〇時 五 語——八 語
第二一時——第三〇時 七 語——一五語
(ハ) そのことばを使わなければならないような実例、絵・写真、実際の状況などを示して話させたり、質問させたり、答えさせたりする。
(ニ) 文章の中の、ある位置へくることばを考えさせる。
(ホ) 教師がある物語をつくって、その中へ、その単語を織りこんで、話して聞かせる。
(1) 入門学年の指導は、特に重要であるから、その計画は、児童の実態に即してじゅうぶん考慮しなければならない。
(2) 新しい単語の指導は、文字を見て、語音を思い浮べる力が強くなるにつれ、また単語を音節に分解する力が進むに従って、少しずつ、その手続を、簡単にしていく。しかし、指導する新しい単語の数が多い場合は、むずかしい単語については、(ロ)から(ホ)までの方法によって指導する必要がある。ただし、児童が自分で確実に理解して読みうることばの指導は、しなくてもよい。
(3) 初期に提出される単語や、文の形は、違った文脈の中でくり返して使われなけれならない。単語は、初めの六〇語から七〇語ぐらい(七〇語—八〇語)は教科書の中で七回(八回)以上くり返して提出すべきであるが、教師は、さらに、他の機会において、同じ単語を数回くり返し提出して指導すべきである。これ以後は、くり返しの度数を少しずつ減らしていってよい。
(4) 第一回の読みは、児童自身が黙読で行うことがたいせつである。
(5) 一つの段落は、一つのまとまった内容を表わしていることを理解させる。
(6) 文字、音節の発音ばかりを機械的に指導すると、文字の形を見分けるのに注意を奪われたり、一つ一つの音節を表わす文字と音との関係を考え考え読んだり、また、ことばの意味がわからなかったりするようになる恐れがある。
(1) 印刷体またはマヌスクリプト体を用いて書くことができる。
(2) 文の初めに、大文字を使うことができる。
(3) よく書き慣れた短い文を、一分間四〇字(三〇字)以上の速さで書くことができる。
(4) 一センチメートル(一・二センチメートル)の間隔のけい線の中に、大文字も小文字も正しく書くことができる。
(5) 住所・氏名・年月日・助詞などは、自由に速く書くことができる。
(6) 固有名詞のあとへくる「さん・様・くん」を正しく分ち書きすることができる。
(7) 日常よく使われることばの語尾の変化形が正しく書くことができる。
(8) 日常よく使われることばを、正しく分ち書きすることができる。
(9) はねる音と、その次にくる母音字または、yを切り離して発音する場合には、〔’〕(アポストロフ)をつけることができる。
(10) 長音のしるし〔^〕または〔‐〕を使うことができる。
(11) 文の終りには、とめ〔.〕をつけておくことができる。
(12) 普通の疑問文には、問のしるし〔?〕をつけることができる。
(13) 文中の明白な切れ目には、くぎり〔,〕を入れて書くことができる。
2 どう指導したらよいか
ローマ字を書く力は、文をつくる力を発達させていくうちに、自然にできてくるものであるが、ここには、書く技術に関する面だけをあげておく。
(1) 見ながら書くこと。
見ながら書いていくうちに、単語の語形と単語を形づくる、一つ一つの文字が書けるようになり、分ち書きが自然にできるような基礎をつくる。初期の段階では教師の見ていないところでこれを行うと字形をまちがえたり、誤った分ち書きをする習慣をつける恐れがある。この方法で字形・大きさ・位置・分ち書きなどを正しく書く習慣をつけるようにすることは、常に必要であり有効である。
(2) 覚えたことばを書くこと。
見ながら書く力がついて、書こうと思う単語がちょっと見ただけですぐ書ける程度になれば、そのことばは見ないで書ける段階に達したと考えてよい。教師は、そのころから、見ながら書くことの指導のほか、覚えて書くことばの増加をはかる。
(3) 自由に書くこと。
覚えて書くことばが増加するにつれて、自分で書こうと思うことばを自由に書く技術を指導し始める。この移りゆきは、自然にゆっくり行われることが必要である。自由に書くことの段階では、初期のうちは、短い興味のある文を書かせる。
(4) 分ち書きをすること。
分ち書きを正しくするのに必要なのは、文法の知識ではなく、分ち書きの規則を適用する技術である。まず一語を一まとめに書くということから出発して、よく似た語がほかの語と区別されるようになればよいのである。
(5) 符号の使い方。
符号の使い方の指導は、読むこと、書くことの実際に即して行うべきで、符号の名まえや使い方だけを教えても効果が少ない。読みのほうでは、この段階でも、符号の全部がひととおり出てくるであろうが、書くほうでこの段階の指導すべき符号は、次のものの基本的な使い方である。
(ロ) といのしるし〔?〕
(ハ) くぎり(コンマ)〔,〕
3 どんな点に注意したらよいか
(1) 入門学年の指導は、特に重要であるから、書くことにおいても、その計画は、児童の実態に即してじゅうぶん考慮しなければならない。
(2) 一つずつの音節や単語を書き表わすことだけに力を入れすぎ、ことばを一まとめにして書き表わすことの指導をおろそかにすると、分ち書きをする習慣がつきにくくなり、かなを書く場合の習慣にとらわれたり、語音を忠実に表現しようとするあまり、共通語を書く際にも、方言やなまった音をそのまま書き表わしたりする傾向ができてくる。
(3) 学年の終りには、よう音・つまる音、nとその次にくる母音字、またはyを切り離して書く場合の書き方を、特に練習させるがよい。
(一) 読むことの指導はどうしたらよいか
(1) はじめて読む文を一分間五五語(五〇語)以上の速さで読むことができる。
(2) 一目見て読み取れることばの数が、二〇〇語—三五〇語以上になる。(ただし活用形やその他の変化した形は含まない。)
(3) いろいろの種類の文を読むことができる。
(4) イタリック体・ゴシック体の用い方がわかってくる。
(5) 一目見て読み取れることばの範囲が広がり、たとえば、慣用句などは、できるだけすぐ読めるような習慣ができる。
(6) いろいろな符号の使い方がわかる。
(7) 読む速さを増すことに興味をもつようになる。
(8) 分ち書きの違いによって、意味が変ることに気づくようになる。
(9) ほかの式のつづり方のローマ字文をも読むことができる。
(10) 文字の名まえを読むことができる。
2 どう指導したらよいか
(1) 読めることばの数を増すには、一目見て読み取れることばを増すことと、未知のことばでも、自分で読んで理解する力をつけることの、二つの面を考える必要がある。
(2) 新しい単語の指導は、この段階から児童の能力によって著しく違ってくる。
この段階の初期には進んだ児童に対しては、知らない固有名詞とか、特別にむずかしい単語だけを指導し、話しことばとして使われている単語については特別な指導の必要はない。
また、普通の児童に対しては、教材の新出語が総語数の十分の一を越えるような場合は、簡単に指導をしたほうが効果的である。また遅れた児童に対しては、同じ教材で指導する場合、相当ていねいな指導を行い、さらに、第一回の読みを教師が質問しながら指導していくようにする。
3 どんな点に注意したらよいか。
(1) ひゆ的ないいまわしを理解する力をつけるようにする。
(2) 接続詞・副詞などの働きを理解させるようにする。
(3) 複合語のなりたちを理解させるようにする。
(4) 前後の関係で、一つのことばの働きが違うことに気づかせるようにする。
(5) ほかの式のローマ字文を読めるようにするには、まず、一つの式にじゅうぶん慣れてから始めるようにすべきである。
(1) 間隔が〇・九センチメートル(一センチメートル)のけい線の中で、字と字との間をつめて書くことができる。
(2) よく書き慣れた短い文なら、見ながら一分間六〇字(五〇字)以上の速さで書くことができる。
(3) 聴写することができる。
(4) 自分の書いたローマ字文が、読みやすいかどうかを批判することができる。
(5) 接頭語や接尾語を見分けて書くことができる。
(6) 普通に使う略号を書くことができる。
(7) 数詞と助数詞の書き方が正しくできる。
(8) 地名の書き方が正しくできる。
(9) つまる音を示す〔’〕(アポストロフ)が、正しく使える。
(10) 簡単な手紙・日記・プログラム・図表・説明書などを書くことができる。
(11) アルファベット順を、二字目または三字目(一字目)まで利用することができる。
2 どう指導したらよいか
(1) 書くことの指導の材料として適当なのは、日記や手紙などによく使われることば(普通に使われる略号を含む)である。なお、一目見て読み取れることばは、何も見ないで速く書けるようにする。反対語や同意語を書かせることは、書く語いを増すのによい方法である。
(2) 二つ以上の段落のある文が書けるように指導する。
(3) 符号の使い方については、読むことの指導で理解させるほか、次の点を徹底させる。
このしるしの中に引用される文に〔.〕〔’〕〔?〕〔!〕をつけることをあわせて指導し、また、それに関連して引用のしるしを使わないでもよい場合も、理解させる。
(ロ) つなぎ〔−〕 一語が二行にまたがる場合に使う。
(ハ) 問のしるし〔?〕 文脈と語の調子によって疑問の意味が現れる場合。
(ニ) 強めるしるし〔!〕 強く呼びかけたことの明らかな場合、感嘆の場合、命令の場合。
(ホ) かっこ〔( )〕 簡単な説明のことばを入れる場合。
(ヘ) くぎり〔,〕 同じ種類のことばを並べる場合。
(1) ノートに書く場合には、すべてローマ字で書かせるようにするがよい。
(2) 聴写をする場合には、何も見ないで、速く書けることばを多く含んだ短い文を書き取らせることから始めるようにする。
(3) 語尾の変化することばの変化形のうち、前の段階で学習しなかったものも書けるようにする。
(4) 文をつくるときには、その題を正しい位置に書き、本文は、左右に余白をとって書く習慣をつけるようにする。
(5) 一語を二行に分けて書くときには、一定の書き方に従うようにする。
(6) よく使われる副詞や接続詞が、正しく書けるようにする。
(一) 読むことの指導はどうしたらよいか。
(1) はじめて読む文を、一分間八〇語(九〇語)以上の速さで読むことができる。
(2) 一目見て読み取れることばの数が、四〇〇語(五五○語)以上になる。(ただし活用形やその他の変化した形は含まない。)
(3) 符号の使い方がよくわかる。
(4) 単語集を使用することができる。
2 どう指導したらよいか
(1) この段階では、前の段階で築いた、いろいろな内容の、さまざまな種類の文の読む力を伸ばし、比較的長くて、内容の豊かなものが読めるようにする。また文の長さや、その中でのことばの選び方とその配置、章や節の構成などに注意を向けさせるようにする。
(2) 新しい単語の指導は、固有名詞・学術用語、その他、特にむずかしいことばの場合に行う。指導を必要とすることばでも、単語集の使い方がわかってくれば、それを利用して読むようにしむける。教科書に単語集がついていない場合には、教師は適当な方法によってこれを補うがよい。
(1) よく書き慣れた短い文を、見ながら、一分間七〇字以上の速さで書くことができる。
(2) 接頭語・接尾語をつけたり、二つ以上のことばを組み合わせたりして、新しいことばをつくり、正しく分ち書きすることができる。
(3) いろいろな文を書くことができる。
(4) アルファベット順に配列することが完全にでき、またそれを使うことができる。
2 どう指導したらよいか
この学年では、変化のある効果的な表現の指導に重点をおく。つくることでは、だらだらと長い文を書く傾向があるから、長いセンテンス、短いセンテンスの使い方、また、文の中のことばの配置のしかた、その効果などを指導する。
(1) 役所・会社・団体などの名まえで、簡単なものの分ち書きが正しく書けるようにする。
(2) 話を聞いて、その要点や、筋書きができるようにする。
(3) 簡単な記録や、会の規則などを書くことができるようにする。
(4) 筋書をまず作り、それに従って段落を組み立てることができるようにする。
(5) 符号の使い方については、この学年で指導すべきものは次のとおりである。
年号のTsy.(Taisyo);Syw.(Syowa)などの略号のあとへつけるとめ。
(ロ) 強めるしるし〔!〕
(ハ) くぎり〔,〕
○動詞・形容詞・形容動詞の中止形やtari(dari),te(de)を使って、文をつなぐときに用いられる場合
○接続詞のあとへつける場合
○二つの修飾語句が一つの名詞にかかるとき、その間に使う場合。
○数語以上からなる、いくつかの句を並べる場合、特におのおのの句の中にくぎりが使ってある場合
○文を引用するときなどに「次のとおり」という意味で使う場合
○戯曲で人物の名のあとにつける場合(他の文はかっこへ入れる場合が多い)
ローマ字の学習指導の評価については、一般国語学習指導の評価の方法を準用して、ローマ字の学習指導目標が達成されたかどうかを見きわめるとともに、特に、次の点について調べる。
一 初期の段階
2 ローマ字文を積極的に読もうとする態度ができたか。
3 習った語いの範囲で、標準的語音をいっそう正しく発音することができるようになったか。
4 ローマ字文を読んだり、書いたりする速度が、だんたん速くなったか。
2 分ち書きをする習慣ができ、分ち書きについて、わからないところを進んで調べたり、質問したりするようになったか。
3 よう音やつまる音が正しく書けるようになったか。
4 ことばにはいろいろの種類のあることを、その形や働きから気づくようになったか。
5 ローマ字文を読んだり、書いたりする速度が、さらに、だんだん速くなったか。
2 国語の構造や音韻に対して、新しい興味をもってきたか。
3 耳で聞いてよくわかることばで、すなおに表現する力が伸びたか。
4 生活の中にローマ字が自然に取り入れられ、使われる範囲が広がってきたか。
5 標準語で、ローマ字文を書くことができるようになったか。
6 ローマ字文を読んだり、書いたりする速度が速くなったか。