各学校は,その地域の事情や,児童生徒の興味や能力や必要に応じて,それぞれの学校に最も適した学習指導の計画をもつべきである。学習指導要領は,学校における指導計画を適切ならしめるために,これによい示唆を与えようとする考えから編修されたものである。
学習指導要領は,どこまでも教師に対してよい示唆を与えようとするものであって,決してこれによって教育を画一的なものにしようとするものではない。教師は,学習指導要領を手びきとしながら,地域社会のいろいろな事情,その地域の児童や生徒の生活,あるいは学校の設備の状況などに照じて,それらに応じてどうしたら最も適切な教育を進めていくことができるかについて,創意を生かし,くふうを重ねることがたいせつである。
1. 学習指導要領の目的
学習指導要領は,児童や生徒の学習の指導にあたる教師を助けるために書かれた書物であって,教師が各学校において指導計画をたて,教育課程を展開する場合に,教師の手びきとして,教師の仕事を補助するものとして,役にたつものでなくてはならない。したがって学習指導要領の目的は,次のようなものであるといえる。
(2) 各教科の目標や学年の目標を,知識・理解・態度・習慣・技能・鑑賞・表現といったような学習の成果と関係して述べ,教師に指導の具体的な手がかりを示唆すること。
(3) 教育の目標を実現するに最も適した学習内容や,その組織のしかたについて教師に示唆を与えること。
(4) さまざまな学習経験の領域における指導に調和を保たせ,すべての方面につりあいのとれた統一ある教育が行われうるようにすること。
(5) 自分が担当している学年の指導を孤立したものとして考えるべきでなく,それは前学年からの発展であり,次の学年へ続いて行くものであることを教師に知らせること。
(6) 普通の児童や生徒であれば到達できると思われる学習内容を示し,当該の学年のうちに学習させておくのが適当であると思われることを示唆すること。
(7) 教師が児童生徒の発達や,地域の差に応じて,適切な活動を選べるように教師に示唆を与えること。
(8) 有効な指導の例を示すと同時に,教師が自分の創意やくふうを生かして指導するように教師を刺激すること。
(9) 学習についての評価の方法を示唆し,教育目標に照して,児童や生徒が望ましい進歩を示しているかどうかの判断が正しくできるように教師を助けること。
(10) 教師のためや,学習者のために利用し得られる参考図書や,その他のいろいろな資料を示唆し,さらに進んだ研究を促したり,よい指導が行われるようにすること。
2. 学習指導要領の使い方
学習指導要領は,学校が指導計画をたて,これを展開する際に参考にすべき重要な事項を示唆しようとするものである。したがって,指導計画の全部を示すものではないし,またそのとおりのことを詳細に実行することを求めているものでもない。教師は常に創意とくふうとをもって,地域の社会の事情や,児童生徒の興味・能力・必要に応じて,これを創造的に用いねばならない。
次に,学習指導要領を手びき書として,それぞれの学校の事情に応じて使って行く上において,注意すべき重要な点をいくつかあげてみよう。
(2) 文部省で編修された学習指導要領に示された学習内容は,全国の学校が,その地域の差に応じて選択することを予想して書かれてあるから、都市・農村・山村・漁村の学校,あるいは,工業地帯・商業地帯・住宅街などにある学校は,それぞれの地域の事情に応ずるように学習内容の選択がなされることが望ましい。
(3) 学習内容の範囲とその各学年への配列についてじゅうぶんな考慮を払うこと。学習活動の選択は教師に任されているが,学習内容の範囲とその各学年への配当をかってに変えると,学習の発展を乱す恐れがある。教師は常に学習指導要領を参考にして,学習の順序を誤らないようにしなければならない。
(4) 学習指導要領に示された学習内容の各学年への配当をよく考える必要があるが,しかし,そのために児童や生徒の能力を無視した指導をすることは望ましくない。教師は児童や生徒の経験的背景や興味や能力を考え,さらに個人差に応じた活動をさせるようにくふうしなければならない。個人差を無視してどの児童生徒にも一律の活動を要求することは望ましくない。
(5) 児童や生徒の知的な能力のみならず,鑑賞・態度・習慣などの望ましい教育目標も忘れないで,これらの目標に到達することのできる活動を適切に選択すること。
(6) 学習指導要領は,児童や生徒の望ましい経験の全部を準備しているとはいえない。学校は,学習指導要領に書かれている以外に,教育目標に照して必要と思われる特殊な活動を広く取り入れてゆくように指導計画をつくることが望ましい。
(7) 学校で用いる教科書は,学習指導要領を基準とし,それに準拠してつくられることになっている。しかし,教科書は著者の見解やページ数の制限のために,学校における必要な学習活動の全部を用意しているとは限らない。教師は,学習指導要領を参照し,かつ自己の経験に基く見解をも加え,さらに,いろいろな視覚・聴覚の材料をも補充して教科書の学習をいっそう豊富なものにする必要がある。
3. この書の内容
文部省著作の改訂された学習指導要領は,各教科別に編修されている。そして小学校のものと,中学校のものとはそれぞれ別冊になっている。さらに、中等学校のものは,教科や科目によって,中学校と高等学校とを通じて一冊のものと,別冊に分れているものとがある。本書は,これらのすべての学習指導要領の全体にわたって,総括的に取り扱う必要のある事がらについて述べることになっている。だから本書は,各学校段階のすべての教科の学習指導要領に通ずる序論的な部分ということもできる。
すなわち,本書は次の事項について取り扱っている。
(2) 教育課程 各学校で望ましい指導計画をたてる場合の基礎となり,基準となるべき教育課程について,小学校・中学校・高等学校別に解説し,さらに,各教科の発展系統を明らかにした。
(3) 学校における指導計画 文部省の学習指導要領を手びきとして,各学校はどのように指導計画をたてるべきであるか,学習経験の組織の方法,一年の計画,一週の計画,日々の計画のしかたなどについての示唆を与えた。
(4) 教育課程の評価 教育課程を適切ならしめるために,これを評価する方法の示唆を与えた。
(5) 学習指導法と評価 この問題はきわめて重要な問題であるが,すでにいくつかの手びき書に詳細に書かれており,かつこれからも出版されることになっているから,ここでは簡単に触れた。読者は,昭和22年度の学習指導要領一般編や,改訂された各教科の学習指導要領,「小学校社会科学習指導法」「小学校における学習の指導と評価」「中学校高等学校生徒指導の手びき」「中学校高等学校における一般学習指導法」その他今後文部省から出版されるこの種の手びき書をじゅうぶん読んで,ここに書かれていないことを補う必要がある。