各教科はそれぞれ一般目標の到達について責任を分ち合い,全体として児童生徒のつりあいのとれた円満な発達に寄与するものである。このことについては,すでに述べたところである。この節の目的は,各教科は,どんな内容をもち,そしてその内容は学習者の発達とともにどのように発展するかということを明らかにすること,いい換えれば,児童・生徒の学習経験の発展の全体的な見とおしを与えることにある。この学習経験の全体的な発展の見とおしは,教師が自己の担当する学年の児童や生徒の経験の発展段階をおおづかみに知り,適切な指導計画をたてる助けとなるであろう。
国語科は,民主的社会人として成長する児童・生徒が,ことばを正しく効果的に使用する習慣と態度を養い,技能と能力をみがき,鑑賞と知識と理解を増し,理想を高めていくための教科である。国語科をこのような立場から,「聞くこと」「話すこと」「読むこと」「書くこと」の四つの言語活動に分けて考えてみると,国語科の目標は次のようになる。
(b) 自分の意志を伝えて,他人を動かすために,生き生きとした話をしようとする習慣と態度を養い,技能と能力をみがく。
(c) 知識や情報を獲得するためや,経験を広めるためや,娯楽や鑑賞のために,広く読書しようとする習慣と態度を養い,技能と能力をみがく。
(d) 自分の考えをまとめたり,他人に訴えたりするために,はっきりと,正しく,わかりやすく,独創的に書こうとする習慣と態度を養い,技能と能力をみがく。
聞くことは,四つの言語活動の中でも,最も基本的なものである。日常生活の中で聞く機会は最も多い。聞くという活動は,受身のように思えるが,実は最も精神の緊張を要する積極的な活動である。それにもかかわらず,この学習指導について,従来あまり考慮がはらわれたとはいえない。聞くことは,小学校の1年生から課せられることはいうまでもないが,小学校では,「すなおな態度で人の話に耳を傾け,その話をよく理解する」ことからはじめて,中学校では,「人の話の要点をとらえる」能力ができ,さらに進んで高等学校では,「人の話を批判的に聞く」習慣や態度ができるようになって,聞くことの技能がいっそう高いものになっていく。
聞くことの学習の内容はふだんの会話や話し合いにおいて他人の話を聞くことから,講義や講話を聞く技能,電話で話を聞きとる技能,さらにラジオのプログラム,を選んで聞いたり,よい映画を選んでみる習慣や態度の指導もここに含めて考えられる。そうして,聞くことの学習は,話すことの学習指導と連関して進められなければならない。
(b) 話すこと
民主社会においては,人々が相互に意志を通じ合うことが,何よりたいせつなことであるが,その手段として,日常もっとも普通に用いられるのは,話すことである。
話すことの学習は,小学校では,友交的な態度で仲間入りをして,「自分の思っていることを表現する」態度と技能を身につけることであり,中学校に進んでは,「話す場を考えて話題を選んだり」「会議に有効に参加したりすることができるようにする」ことであり,さらに高等学校では「会議を司会したり」「大ぜいの前で発表したり」することができるようにならなければならない。
小・中・高各段階の話すことの学習の内容は,あいさつ・紹介・会話・話し合い・討論・発表・放送・演説・朗読・会議・会見などである。演劇はある意味で,国語科以上のものが含まれているのであるが,話しことばの学習として,ここに含めて考えなければならない。
(C) 読むこと
これまでの国語教育では,読む材料は,典型的な文学作品の中から選んで,1年間を通じてわずかに2,3冊の教科書に限られていた。しかし,実際生活では,新聞・雑誌を読むことがいちばん多く,広告・掲示・通知・手紙・ポスターなどを正しく理解して読む力がついていなければ,健康的な文化的な生活を発展させていくことはできない。娯楽のための読みの正しい態度,方法も,研究や調査のための読書法も,両方とも身につけなければならなくなってきた。
読むことを発展的に考えてみると,まず小学校では,文字面からいえば,平かな,片かなが読め,だいたい当用漢字別表の漢字が全部読めるようになり,読みの技能の面からいえば,黙読が身について,娯楽の上でもよい読み物が選べるようになり,だんだんと調べるために読む態度と技能が身につかなければならない。これが中学校に進むと,文字面では,当用漢字別表が完全に読み書きできるばかりでなく,当用漢字の主要なものが読めるようになり,読みの技能の面からいえば,黙読の速度がいよいよ早くなり,健康的な読書の習慣が身につき,学級文庫や学校図書館の利用がじょうずになる。高等学校では,当用漢字の全部が完全に読めなければならない。そうして研究や調査のための読みの技能も身につき,文学の鑑賞力もいよいよ高まらなければならない。
これを読むことの資料から考えてみると,小学校では,生活を書いた文,紙しばい,おもしろい昔話,寓(ぐう)話,児童詩,知的な冒険物語,発明・発見の物語,文化の進展に役だった偉人の伝記,逸話,科学的な随筆,こどものための新聞,雑誌等があげられ,中学校では,小説・物語・詩・随筆・劇・論文・解説書・科学的読物にわたる。高等学校になると,現代文学のおもなものはもちろん,翻訳された世界文学が含まれ,代表的な古典にも及ばなければならない。なお高等学校では,漢文を特に取り上げて,国語科のなかで選択科目として学習することができるようになっている。その基礎としての漢字・漢語などの理解は,小学校・中学校においてなされていなければならない。
(d) 書くこと(作文・書きかた・習字)
ここでいう「書くこと」とは,作文,書きかた,習字の三つをふくむものである。鉛筆.ペン,毛筆,鉄筆などのいろいろな用具を用いて,各種のものを書くことは,生活上必要欠くことのできないことであるぱかりでなく,また,文を書くことは,めいりょうな思考力を練り,注意深い観察力や,反省力を伸ばす上に大いに役だつものである。さらにまた,個性に応じて,好きな文や,詩歌などを創作することは,表現のよろこびを与えて個性を豊かにするものである。
書くことのうち,文字表現の面から考えてみると,小学校では,Γ当用漢字別表の漢字ならば,そのだいたいが書ける。」「文字や表記をまちがえず,正しく読みやすく書く。」「思っていることを順序正しく書く。」ことから,中学校に進んでは,「当用漢字別表の漢字が完全に書ける。」「文字がいっそう正しく美しく速く書けるようになる。」「文法的な正しさに注意して,文章の個性的な表現がだんだん確立してくる。」などの能力が伸びてき,さらに高等学校では,「当用漢字の主要なものが書け」て,「文字を書く技能」や「文章の個性的創作的な表現」がいよいよ高まってくる。
学習における用具的な面からながめてみると,鉄筆やペンなどの硬筆については,小学校から開始され,高等学校まで続けるべきである。また毛筆は,課するとすれば,小学校の第節4学年ごろから始めるのが適当であり,中学校では系統的な学習をする。そうして高等学校の選択科目の芸能科書道とつながる。次に,書くことを内容的な面から考えてみると,記録・報告・通信・創作・編集が考えられるが,小学校では,主として身辺のできごと,中学校や高等学校では,主として研究報告などを書くことになろう。また,手紙を書くことは,小学校から重んじられなければならない。創作はたいせつな活動ではあるが,個性に応じて無理のない指導をすべきである。学校新聞の編集は小学校から始めることがのぞましい。
(e) 文 法
文法は,以上四つの言語活動をいっそう効果的にするための「ことばのはたらきを身につける」学習である。ます,小学校では,四つの言語活動のあらゆる機会と場面において,「ことばに対する自覚を高め,」「正しいことばの使用ができるようにする。」中学校では,小学校での学習に秩序をたて,さらに,「文法上の経験と知識を整理する。」高等学校では,中学校での文法的知識をさらにまた整理し,文語のきまりのあらましを理解し,また国語要説,国語国字問題について研究するようになっている。
(f) ロ一マ字
ローマ字は,国語教育の一環として,小学校は第4学年あるいは第3学年から,中学校はその在学を通じて課することができるようになっている。
小学校,中学校および高等学校の第1学年までは,一般社会科が,必修として統合された形で課せられている。ただし,中学校では,日本史が必修として別個に課せられてもよいことになっている。高等学校の第2学年,第3学年にかけて,日本史・世界史・人文地理・時事問題の4科目が選択科目として課せられ,この中から生徒は最低1科目を選択して学習するようになっている。
このうち,一般社会科の学習経験は,児童・生徒の発達段階からみて,次のような発展過程が考えられる。
小学校
低学年。低学年における社会科は,児童の身近な生活環境であるところの家庭・学校・近所の生活内にある人や事物についての経験が中心となる。そしてそれを,児童の力相応にとらえさせ,これに慣れさせ,これに親愛の情をもたせることがねらいとなる。特に低学年でも後期になれば,身近な生活環境のうち,児童に親しみやすく,しかもその社会的な役割がはっきり目だっている人や事物,たとえば農家・商店・郵便集配人・新聞配達夫・牛乳配達夫・行商・ポスト・交番などの役割が理解できるようになる。
中学年。地域社会におけるいろいろな役割をもった人々の間の関係,いろいろな物の役割の関係,したがってそれらの間に見られる秩序などが初歩的に理解できる。すなわち中学年では,人間と自然との基本的関係,社会の基本的な形態の理解がその眼目となる。特に,この期の児童は,その関心の対象が,時間的にも空間的にも拡大してくる。したがって,身近な地域の生活と他の地域の生活とを比較し,また現在の生活と過去の生活とを比較することによって人間と自然との交渉の仕方や,社会生活の形態の上にさまざまな差異のあること,さらに異なった地域の生活の間の関連や,過去と現在とのつながりを,その力相応に理解させることが可能である。
高学年。5年生の児童となれば,事物の論理的関係,特に因果関係を追求する傾向が著しくなってくる。かれらが,自然の資源の開発や,それらの資源の利用法の進歩や,発明発見によって家庭生活や社会生活が便利になってきたことや,さらに文明の威力などに興味を強くもつようになるのはこのためである。したがって,文明の進歩,特に科学の発達によって,人間生活がどのように変化してきたかを考察させ,いっそう合理的な生活に目を向けさせていくことが指導の主要な内容となる。しかし,高学年でも,6年の子供は,6年のこどもよりも,よりいっそう統一的な生活の意味をつかむことができるようになる。したがって,自分たちの住んでいる社会が精神的にも物質的にも相互に依存し合って形づくられたものであることに気づき,人々をこのように密接に結合する通信・報道・政治・貿易・外交などについても,もっと関心をもち,もっとはっきりした理解がもてるようになってくる。したがって,わが国現代の生活がどのように近代化されてきたか,その中で個人個人の立場がどのようにして尊重されるようになったか,さらには,われわれの生活が世界各国の生活と,密接に結びついている点を理解しうるようになる。すなわち,民主主義・国際親善世界平和の意義についての理解などが,重要な指導内容となろう。
中学校
第7学年。生徒の生活圏としては,家庭や学校の生活から,わが国土および世界にまで広げられている。それで,この学年では,日本の自然環境の特色や,各地域の自然と生活との関係,および世界の諸地域の衣食住の様式と自然環境との関係の理解を通じての世界各大陸の特色の理解,交通や通信や貿易の歴史的発展を通じての東洋と西洋社会との結びつきなどについての学習が行われる。
第8学年。この学年の社会科の学習は,近代産業時代の生活を中心として展開される。すなわち,近代産業の発達や,それによって起ってきた種々の社会的問題,われわれの村や町の生活上の変化,産業の発達による天然資源の利用やその愛護,職業についての社会的な意味についての理解,その選択やその心構えなどについての学習が行われる。
第9学年。この学年では,民主主義の発達が学習の主題となる。わが国の民主的生活を向上促進させることは,きわめて重要であるから,政治・経済・文化の各地域の学習を通じて,民主的生活のあり方を学習させるとともに,さらに国際関係の理解や国際平和への努力が強調される。
高等学校
第10学年。この学年においては,われわれの社会生活の基本的諸問題が学習の主題となる。そしてわれわれの民主的生活を促進させるために,高等学校における民主的生活のあり方をじゅうぶん学ぶとともに,さらに政治・経済・社会生活における民主化の諸問題として,労働問題・農地改革や国土資源の開発計画の問題・財政金融の問題・国際的理解の問題などがとりあげられる。
(3) 算数,数学科
算数・数学科は,生徒が,数量的思考を用いて,自分の生活の向上をはかっていく教科である。数量的に考えていくためには,適当なことばが必要である。数と量,表とグラフ,図形などは,その著しいものである。また,ものごとをこれらのことばを使って考察していくことも必要になる。さらにこれらのことばを使って考察していくことも必要になる。さらにこれらのことばや関係
概念を用いてものごとを論理的に考えることが必要となる。次に,これらのものが学年によってどのように発展していくかを述べてみよう。
長さのような量は,整数だけで表わすことができない。そこで測定する単位を等分し,その等分された単位を用いて行なう計量が必要になる。量の大きさを表わすものとしての小数・分数は,このようにして生れてきたものである。このようにして生れた小数や分数は,また二つの量の大きさを比べて,一方が他方の何倍であるかを知る場合にも便利である。すなわち比の値を示すものとして用いられる。中学校になると小数・分数の比の意味と,量の大きさを表わす意味とが統一されて,分数や小数についての計算,特に乗法・除法がはいってくる。さらに,量に正や負の方向をつけて考えるようになると,正の数,負の数が必要になり,進んでこれらについての計算を用いてする計量も必要になる。また,正方形の対角線などの長さを書き表わすのには,今までの整数・分数および小数あるいは正負の数だけではふじゅうぶんである。そこで無理数の一種である平方根数が考えられる。このようにして中学校の段階で計量に用いられる数およびそれらについての一応の計算が終わるのである。高等学校において,負の数の平方根数も必要となり,複素数が考えられるようになる。
(b) 表とグラフ。二つ以上の量について,その関係を表わすのに,表やグラフがある。小学校では主として,量の大きさをそのままに表わすものとして表や,これを具体物で表わした絵グラフ・棒グラフ・折れ線グラフが指導される。またそれらの数量の間の関係を,棒グラフに表わしたり,円グラフ・正方形グラフ・帯グラフに表わしたりする。しかし,数量の間の関係ということを正面から考えるのは中学校である。すなわち函数概念の発達とともに,それまではただ比較しわかりやすくするために折れ線でつないだグラフから函数のグラフへと発展してくる。これを研究の有力な方法として用いるのは,高等学校の解折(1)(2)である。
(c) 図形。図形は,はじめ,位置・長さ・面積・体積などの量の測定のために用いられる。その指導は,その図形の直観によって,これを模写する段階から始められる。小学校では,主として平行・垂直のような基本的な位置関係・長方形・直方体のような基本的図形を実際の場面に見出して模写し,測定に利用する程度である。
中学校になると,図形相互の関係の著しいものとして,合同・相似を考えるようになり,図形そのものの持っている性質を明らかにし,これを測量や造形に適用するようになる。さらに進んで,図形それ自身を対象として体系的に研究するのが高等学校の幾何である。
このようにして中学校までで,数量的思考に便利なことばとしての数と量,表とグラフ,図形とが一応出そろってくる。これをうけついで,さらに有効に適用して生活の向上を計ろうとするのが,高等学校の一般数学である。しかもその中に解析(1)(2),およひ幾何へと進んでいくきざしも見いだすこともできる。
(d) 関係概念。数量をふくむ問題の解決には,量の大きさを表わすこととともに,量の間の関係をはあくすることが必要である。これは,分数や小数についてのところでふれたように,量の大きさを表わすためにも必要である。小学校においては,これは,単純に比べるとか,時間的変化とかいう形で取り上げられる。さらに進んで簡単な問題解決としても取り上げられる。小学校の高学年になると比の考えが導入されてくる。そして中学校になると,関係概念がはっきりととらえられ,比や比例に導かれる。また法則を書き表わすために変数の概念が生まれて来る。これを用いて,比例・反比例関係を式に書き表わすことができるようになる。
こうして特別な場合の関係概念は明らかに取り出されるが,一般的な関係は軽くふれるだけで,内容はあまり発展しないままに中学校が終る。
これをうけついで,函数の変化を全体的に研究するとともに,いろいろな基本的な函数に親しんで,その性質を明らかにしていくのが高等学校の解析(1)である。函数をその各点の近くにおける変化をもとにして研究し,変化をもっと詳しくとらえるのが解析(2)である。また幾何でも相似や軌跡などで関係概念が発展していく。
(e) 論理的思考。量や量の関係を,数学におけることばで表わしていくことは,思考の前提や過程を客観的にしようとするためである。すなわち論理的にしていくためである。この意味における論理性は,小学校や中学校でも,問題解決のときに指導されていく。しかしこれを正面から取り上げて指導するのは,高等学校の幾何である。すなわち,図形では,思考や議論の前提となる事項を明らかにすることが容易であり,また,これまでの指導で直観的な内容も豊かになっている。それらを活用して,思考における前提と結論との関係,推論の意味とはたらきを明らかにすることができる。幾何はこのように発展してきたもののしめくくりでもある。
理科は,科学的な思考や技能によって,生活を高めていくことを目ざす教科である。したがって,理科の学習では,こどもたちが自分から自然環境に問題を見いだし,計画し,研究していくという科学的な態度と,実際の自然の事物現象について,それを観察とか実験などの具体的な行動に訴え,論理的な思考をめぐらして解決していく方法とが強調される。
こどもたちは,幼いころから,自然物に鋭い好奇心を抱いており,またひじょうに活動的であって行動を通して学ぶということはかれらの好みにもあっているのである。こどもたちのこのそぼくな好奇心をより深い知的な興味に発展させ,活発な活動を科学的な研究に向けていくように,理科は小学校1年から始められる。低学年ではこどもたちの家庭生活や学校生活におこる自然の事象を遊びの形で学習することが多い。したがって学習の時間は,必ずしも時間割に固定されないし,またある時は,他の教科ととけ合った形がとられるであろう。
この期のこどもたちは活動性が強くて,身体を動かしたり,道具を使ったりするような遊びや作業に対して興味が強い。それで,種まきや野外での観察のような動作の多い学習に適している。しかし,まだ筋肉の発達はじゅうぶんでないから,筋肉を大まかに使う仕事が適していて,細かい技術を必要とする用具の使用は困難である。
また,主客がまだ分れない時期で,観察は全体的直感的であり,判断は直覚的であり,主観的である。
こどもたちはまだ経験に乏しく,学習の対象となる生活環境は狭まいとはいうものの,それらは,かなり多方面にわたっている。空に見えるもの,自然の移り変り,生物の暮し方,丈夫なからだ,機械と道具のはたらきなど,多方面の題材を準備しておいて,こどもたちが興味と適性を発見し,それを伸ばす機会を常につかみとるようにすることは,低学年においても必要である。
中学年(3〜4年)になると,学校生活にもなれ,生活環境も広まってくる。一つの研究問題についての興味が長続きするようになり,また計画を自分でたて,それによって研究を進めていくことがしだいにできるようになる。継続観察や生物の飼育栽培,資料の収集や分類などが,このころから有効に行われるようになるであろう。健康やからだのはたらきについて,積極的な関心をよせ始めるのもこのごろからであって,これも学習の大きな対象になる。
高学年(5〜6年)に進むと,こどもたちの生活環境が広まり,また興味の中心が新奇なものに対する好奇心に加えて,日常生活に深い関係があるものの研究に向かってくる。学習の対象は,天体の動き,自然の変化,生物の生活,健康な生活,機械と道具のはたらき,自然の保護と利用など各方面にわたる。しかもそれら個々の事物の理解にとどまらず,物事の間の関係の理解に関心が高まってくる。忍耐力が発達してくる結果,継続的な飼育栽培や測定もやりとげられるようになる。これらの観察・実験・飼育・採集などを通して,抽象した概念を理解する能力がしだいに高まる。また筋肉の運動が発達し,細かい運動でもできるようになる。それで,顕微鏡を用いて極微の世界を研究したり,望遠鏡で天体を観測したり,薬品を適量に用いたりするなど,しだいに精密な道具や機械,器具を扱えるようになる。学習態度も計画的となって,たとえば研究問題を解決するために必要な実験をくふうしたり,専門家の意見をきいたり,参考書をよんだり,ひとりでは困難な問題を解決していこうとする傾向などが目だってくる,このような科学的な研究の仕方や考え方を深めていくことが,ここで重要である。
中学校の年令になると,生徒たちは自分の興味や能力を意識するようになり,またその豊富になった理解に基いて,おぼろげながら自分の将来について考え始める。このような青年前期の生徒たちが自分の適性や興味をじゅうぶんに発展させうるような機会をじゅうぶんに与えることと,よい社会生活を営んでいけるように,科学的な事象についての理解を豊かにし,能力や技能を高めていくことが重要である。
第7学年は,学校が新たになり,上級生の学習のようすを見聞するようになるなど,生徒たちの環境が著しく変化するときである。理科は,この環境の変化と興味の発展にともなって,環境の「自然のすがた」の研究を中心として学習を進めることになる。この学習によって,ひろく環境の自然を,自分たちの生活とのつながりにおいて理解するとともに,それぞれの問題をそれに適した科学的な方法を用いて研究していく能力や態度を身につけていくのである。
第8学年は,自然環境についての広い理解と研究方法とを基礎として,日々の生活に密接した事物現象を,実際的に詳しく調べ,生活を科学的に向上させていく能力や態度を身につけていくことが中心になるであろう。
中学校の卒業をひかえた第9学年になると,生徒たちの関心は,社会の文化,産業などに向かってくる。この学年では,科学がいかに生活を豊かにし,社会の産業に貢献しているかを中心として学習を進める。
高等学校の年令になると,生徒たちの個性が,それぞれびじように明確になってくる。そして理科については,これまでの9か年の理科を学習の経験から,理科の分野についての自分の興味の中心をはっきりと自覚しはじめる。
その上,このころの生徒は組織的な考え方や,系統的な理解,論理的な研究方法などを強く要求するのが一般的な傾向である。
このような生徒の発達に応じ,また研究方法をさらに高めていくには,広範な自然の事物現象を各般にわたって取り上げるよりも,いくつかの分野に分け,その一つについて集中して詳しく学習するほうが成果が大きい。それで高等学校では理科を物理・化学・地学・生物の4科目に分け,その一つ以上を任意の学年で選択して学習することになる。取り上げる問題は,それぞれの科目で異なっているが,自然現象の学習を通して科学的な能力や態度を高め,系統的な理解を得て生活を科学的に向上することを目標としている点では,どの科目でも同じである。したがって,どの科目を選択しても,その学習によって理科の目標が達せられるように,その研究問題が選択排列される。すなわち,生徒の発達に応じ,将来の必要を考え身近な事物現象を中心としてとりあげ,これを組織的に研究していくのである。
このような方法は,学問的な体系を,その順を追って学習していくことにはならないし,また取り上げる材料が,その学問の全体をおおうことには必ずしもならないが,学習の結果は,むしろ科学の方法や体系をもいきいきと理解することになるであろう。
(5) 音楽科
音楽は,主として児童・生徒の情操方面の発達について責任を分担する教科である。したがって音楽は,児童・生徒が善良で健全な人格として育つに必要な経験となることがたいせつである。そのためには各種の音楽活動(歌唱・楽器の演奏・鑑賞・創造的表現,音楽に関する知的理解)などの経験を通じて児童・生徒の創造的な自己表現や音楽に対する愛好心の向上をはかるとともに,児童・生徒の日常生活にうるおいと豊かさや,楽しさと明るさなどをもたらすようにしなければならない。
各種の音楽活動は,個々別々に孤立したものではなく,相互に深い関係をもち総合的な学習活動として営まれるものであるが,便宜上これを分けて,それぞれの音楽活動についてその発展系統を簡単に述べてみよう。
(ⅱ) 小学校の1〜2年では,単音唱歌だけを課し,3年ごろから輪唱を加え,4年ごろから二部,三部などの合唱を課することになっている。
中学佼では,単音唱歌,輪唱,二部,三部の合唱などが主体となり変声後の生徒には,混声四部合唱を課してもよい。
高等学校では,単音唱歌,輪唱や二部,三部,四部の同声および混声合唱,独唱・重唱・器楽との共演をする。
(ⅲ) 小学校の低学年では,視唱法が主体となる。しかし聴唱力の向上のため,聴唱法も取り入れる。
中学校では簡易な吹奏楽器や簡単な合奏楽器を,高等学校では各種の合奏や諸楽器を生徒の適性や興味に応じて課し,それらの演奏技能を養い,音楽による自己表現能力を高める。
(ⅱ) 小学校では,主として,リズムバンド中心の合奏をおこない,高学年で合奏技術の習熟とともに,学級合奏団や,学校合奏団に参加させる。中学校では,簡単な編成の合奏や吹奏合奏をおこない,学年や学校の合奏団と組織して,その活動を活発にする。高等学校では重奏・オーケストラ・吹奏楽の合奏・独奏などを行い,各種の合奏団を組織し,その活動を盛んにする。
(ⅲ) 小学校では才能があり,事情の許す児童には,ピアノ・オルガン・バイオリンなどの独奏楽器の個人学習を奨励する。
中学校及び高等学校では右のほかに,基礎的学習として,全生徒にけん盤楽器を課す。ただし,中学校では演奏技巧そのものよりも,けん盤楽器に親しむことを重視し,高等学校では演奏技巧の発達をはかる。
中学校では,音楽を楽しむとともに,味わいながらきく習慣をつける。そのために音楽形式や様式,声楽や器楽の演奏形態の特徴をとらえて,音楽を鑑賞する。
高等学校では,音楽に対する高い水準の趣味および鑑賞力をつける。そのために各種の声楽曲や器楽曲の形式・構成・様式・演奏形態および演奏における個性的な解釈の特徴をとらえて音楽を鑑賞する。
(ⅱ) 小学校では旋律やリズムがとらえやすく,和声の単純な通俗的な小曲や民謡を鑑賞する。
中学校では,通俗的な名曲(ラジオやレコ−ド,音楽会などでよくきくもの)を鑑賞する。
高等学校では各国,各時代の代表的な音楽を鑑賞する。
(ⅱ) 小学校高学年では,音楽を劇化したり,新しい遊戯やダンスの型などを創案する。中学校や高等学校では右のほかに劇の伴奏や,その中で用いる音楽をつくる。
(ⅲ) 小学校低学年では,簡単な旋律を口ずさむことからはじめ,高学年に進むにしたがって,短いことばにふしをつけたり,形式のととのった旋律の作曲へ発展する。中学校では,歌唱形式で旋律を作ったり,それに主要三和音で伴奏をつけ,また詩に作曲をし,さらに合奏のための編曲をくふうする。
高等学校では,唱歌形式や複合三部形式の旋律作曲とその和音づけ,ならびに簡単な器楽曲や合唱曲を作ったり,詩に伴奏のある作曲をする。また各種の編曲をする。
中学校では楽典的な知識を歌唱や器楽の演奏に結びつけて,学習することを本体とし,最終学年でそれらを系統的にまとめる。
(ⅱ) 小学校では鑑賞や創作に必要な楽曲の形式や構造を学年の程度に応じて理解させる。中学校では,和声および対位法の初歩知識,基本的な音楽形式を学習する。
高等学校では,和声学・対位法・楽式などを学習する。
(ⅲ) 小学校では音楽家・作品・楽器および音楽の発達,音楽と社会との関係などの歴史的な事項は,それぞれ学年に応じて,適切に学習する。
中学校では,各時代の著名な音楽家の生がいとその作品の特徴,わが国の著名な作曲家の知識・合奏用楽器の構造・技能・音色用途・演奏の形態・音楽の構成ならびに様式・各国の民謡音楽・民族楽器と社会生活との関連を学習する。
高等学校では,西洋およびわが国の音楽史,楽器や演奏の発達について学習する。
(ⅳ) 各国の民謡や音楽を知ることにより,それらの国の風俗習慣,国民性などを通じて各学年の程度に応じて国際的理解を得る。
図画工作の教育は,教育の一般目標を造形文化の面から分担し達成するのであって,特に日常生活に必要な衣・食・住・産業や,造形文化についての基礎的な理解と技能を与え,生活を豊かに営む能力・態度・習慣を養い,個人として,また社会人として,平和的,文化的な生活を営む資質を伸ばすことがそのおもな教育目標である。これらの教育目標に到達するために,小学校,中学校,高等学校においては,児童・生徒の心身の発達に従って,それぞれ適当な指導内容を選択し,指導計画をたてて,指導を進めるのであるが,一般的に小学校においては,図画工作の指導を通じて,創造的な個性をじゅうぶんに伸ばすことに主眼をおき,中学校においては,小学校の指導に基礎をおいて,さらに創造的な個性をじゅうぶんに伸ばすと同時に,造形文化に対する基礎的な教養を与え,高等学校においては,生徒の個性もめいりょうになるため,図画工作の指導内容も分化されて,生徒の興味・適性・必要によって,図画工作の指導内容のどこに重点をおいて指導するかを考えると同時に,造形文化についての基礎的な教養を与えるようにすることがたいせつである。
次に小学校・中学校・高等学校を通じて,図画工作の指導内容は,それがどのように発展するか,その概略について述べてみよう。
描画は,絵や図をかくことによって,児童・生徒に創造的な表現活動をさせ,自己の思想,感情をじゅうぶんに伸ばすことである。
描画の対象となるものは,自然的,人工物の形・色・明暗・遠近・量感・質感などを観察して,これを創造的に表現する能力を発達させると同時に,児童・生徒に表現様式を理解させ,描画に対する広い教養を与えるように導くことである。なお,説明図・図表・年表なども,この表現方法やその技術について指導することがたいせつである。描画の指導は,単に絵を描くことの指導だけでなく,生徒に役だち,また他の学習活動にも必要な図的なものなど広い範囲にわたる適切な指導がたいせつである。
以上の見方に立って,小学校・中学校・高等学校においては,児童・生徒の心身の発達に従って,適切に指導内容の難易の程度や範囲を考慮して指導するのである。
(b) 色 彩
色彩の指導は,図画工作教育の指導内容の全般に関連をもつものである。小学校の低学年においては,主要な有彩色や無彩色の指導から始まり,学年の進むに従って,色の色相・明度・彩度についての理解をとおして配色の効果が,色の3属性(色相,明度,彩度)や対比などの関係によることを理解させ,小学校においては,小学校の指導の段階を高め,色彩に対する理解および感覚をねるようにし,高等学校においては,中学校の段階をさらに高めて指導するようになっている。
色彩の指導においては,色彩の理論的な発展を単に指導するにとどまらず,他の指導内容と関連をもって色彩に対する常識を養い,これを日常生活に応用できるように導かなければならない。
(c) 図 案
図案は,平面的,立体的表現活動の計画的表示であるため,図画工作のたいせつな基礎をなすものである。
小学校においては,自由に色や線,形を使って模様風のものをかいたり,身辺にあるものを美しくならべたり,整理するような,装飾的欲求を満足することなどから出発して,学年の進むに従って図案構成の基礎をなす,色・形・空間などの対称・均衡・変化・統一・調和などの初歩的な事がらの理解が中心となる。中学校は小学校の段階を進めて,物の形や働きは,材料・目的・美感の三つの点から決定されるものであることを理解させ,図案化に役だたせるように導き,高等学校においてはさらに図案と日常の工芸品やその他の造形品との関係なども考察できるように指導する。
また表現活動の一つである生活環境中の物品を美しく,しかも合理的に取そろえて環境の美化をはかる指導内容に配置配合がある。これは図案の構成の基礎に関係し,また一面,鑑賞の指導にも関係をもつものである。したがって,図案や鑑賞の指導内容に含まれると考えられるが,中学校では配置配合として,高等学校では生活の美化として,取り出すことになつている。
(d) 工 作
工作は普通の材料による製作を通して,材料に対する理解や工作方法を身につけ,日常生活に必要ないろいろな造形品を有効に処理する能力や常識を養うのがそのおもなねらいである。
小学校の低学年においては,創造的な表現意欲をじゅうぶんに伸ばすために,扱いやすい粘土・紙・糸・布などの材料を与え,学年の進むに従って,木材・金属・竹などの材料を加え,正確な工作法による指導をするようになっている。なお,表現製作の指導と同時に,普通の工具についてその使用になれさせる。
中学校においては,小学校の段階を高め,さらに製作に必要な普通の工作機械などの使用になれさせる。
高等学校においては,中学校の段階をさらに高め,建築,彫刻もその指導内容としてあげてある。建築は主として住宅建築に関して,その改善美化に関心を高めるために扱い,彫刻は主として,図画においては純粋美をねらっての彫刻を,工作においては工芸的彫刻(窯芸を含む)を扱うことになっている。
製図の指導は,工作的表現には密接な関連を特つもので,小学校では,製作に附随して,展開図の初歩から出発し,学年の進むに従がって投影図法による製図や,中学校においては等角投影図法や,傾斜投影図法による製図も扱い,高等学校においては,普通一搬の図法や,製図法などを指導する。なお,計画的表示としての製図の指導と同時に読図もあわせて指導する。
(e) 鑑 賞
鑑賞の指導は表現の指導とともに大きな一面をなすものである。鑑賞指導の対象となるものは,環境中にある美しさに対する関心を持たせることなどから出発し,さらに美を発見する方法に導き,さらにすぐれた美術品や自然美の鑑賞にまで導くのであるが,小学校においては,その初歩的な取扱から出発し,学年の進むに従って環境中の造形品の美的・実用的価値を評価するように導き,中学校においては,小学校の段階を進め,美術作品の美的価値を味い,同時に広く各地域,各時代の美術作品も対象として,国際的理解を深めることもそのねらいになっている。高等学校においては,中学校の段階をさらに高め,鑑賞指導によって,美術的教養を身につけさせ,これを日常の生活に生かすことがたいせつである。
なお,高等学校においては,美術常識をつけるために,図画において美術概論,工作においては,工芸概論を扱うようになっている。
体育,保健体育科は,健康の保持増進に力め,病気や危害から自己や他人を安全にまもり,精神的にも明朗健全であって,かつ好ましい社会的態度やレクリエーション活動の基礎を身につけるようにすることを目標とする教科である。これらの目標を達成するためには,これらに必要な理解・態度・技能・習慣を発達させることが必要であり,児童・生徒の心身の発達に応じた適度の運動と計画的な健康教育が行われなければならない。
健康生活についての理解・態度・技能・習慣を発達させるためには,単にこの教科のみの問題として考えるだけでなく,学校生活全体を通じての総合的な学校保健計画をたててその指導の全きを期すべきである。
また,健康増進のためには,適当な身体活動が必要であるが,この身体活動は,また社会的態度やレクリエーション活動の基礎となるものであるから,これらを考えて,学校は施設用具を備え,発育期の必要に応じた適当な計画を用意しなければならない。
以上のように体育,保健体育科で取扱う範囲はきわめて広いが,これを児童生徒の発達からみると学習経験は次のように発展する。
小学校の体育科においては,体育運動の基礎的経験を得させ,健康生活に必要なよい習慣を形成することに重点がおかれる。
特に健康生活に必要な習慣形成は科学的な正しい立場から学校生活の全般にわたり,あらゆる教科および教科以外の活動で適切な機会をとらえてくり返し行われる必要がある。特定の時間を設けての健康指導は望ましいものではない。
運動においては低学年ではその発達の特性から,鬼遊び・かけっこ・リレー・模倣物語り遊び・リズム遊びなどの活動を中心として学習が進められ,その他器械遊び・ボール遊び・雪遊び・水遊びなど多くの種類の簡易で基礎的な運動を通しての学習経験が広められる。
中学年では,その発達がまだ幼稚なので,模倣物語遊びや,リズム遊び,やや組織だったゲームとしてのボール遊びや分団的競争遊戯としての鬼遊び・リレー・器械遊び,などの活動を中心として,身体的能力の一般的発達や協力・公正等の社会的態度の発達が重視される。
高学年になると,その心身の発達が急速で,女児は女性的となり,組織的で活発な団体的競争的運動やゲームを好み,自覚的な学習を営むようになる。そこで女児はリズム運動やボール運動,男児はボール運動・陸上運動・器械運動を主とし,それに,準備矯正などを目的とした徒手体操が加えられて学習が進められる。なお地域的季節的には水泳・スキー等の自然に親しむ組織立った運動が学習領域として大きな位置をしめるようになる。
健康生活の習慣形成においては,低学年では身体の清潔・休養・摩擦・姿勢・傷害防止などの個人衛生を主としたものが目ざされるであろう。
それが高学年になれば健康の形成保持をさまたげる病気や危害についての理解が可能となり,さらに集団の健康保持のために社会施設も理解できるようになるが,それ等は理科・社会科・家庭科で学習することが多いので,この教科ではそれらの教科で得た理解を基礎に健康的な行動と習慣を強く目指し身体活動と関連することがらについて一体的に指導されることが望ましい。
(b) 中学校
中学校の段階になれば目的をもった活動が可能になり,個人や社会の健康についての理解も広まってくる。したがって小学校で学習した健康のよい習慣の上に立って,特に健康の形成保持という目的の下に,与えられた環境の中で自分の精神や身体の状況を観測して,環境に適応できるように自己を調整することが学ばれなければならない。これによって環境への適応能力が科学的になるであろう。またこの段階においては生徒の生活環境は空間的にも広まり,興味の発展も著しい。この発達に即応して健康の形成保持についての社会的な条件や職業的な条件をじゅうぶん理解させる必要がある。また中学校の生徒は青年前期に属し,身体的にも,精神的にも特に変化の多い時期であるから,青年期の健康の特異性についてじゅうぶん学習させなければならない。また性教育についても適切な機会をとらえて行うのがよいであろう。特に国民保健における個人の立場はじゅうぶん修得されなければならず,これは中学校で健康全般について広く学習されることによって理解されるであろう。
以上の事がらの学習を有効にすすめるためには,理科・社会科・家庭科その他の教科の指導と,じゅうぶんな関連をはかっていくことが必要となる。その指導に当っては重複をさけ,他教科の協力を得て,特に健康生活についての理解,態度の向上を中心として,できるだけ発展的に経験を得させる考慮が必要であろう。
(ⅱ) 体 育
この時期の体育では小学校で学習した基礎的経験を広め,さらにこれを発達させることに重点がおかれる。レクリエーション活動の基礎もあわせて培うことがたいせつである。
生徒はこの時期において急速な発達を示し,男女の差は著しくなってくるので,男女別の指導が主として行なわれよう。この期においては,全身的活動的な運動,中等度の持久性の運動,多面的な運動,よい姿勢習慣を養うことを目指す矯正運動が取り上げられる必要がある。また組織立った団体的競争的な運動,自然に親しむ運動,すなわちボールゲーム・陸上競技・巧技・水泳・スキー・徒手体操などが学習されて民主的な社会的態度が養われる。特に各種の運動を通じてスポーツマンシップの昂揚が企図されなければならない。それとともに身体や運動能力の個人差が大きくなるので,数多くのスポーツの中からみずから選択してこれを学習する機会を漸次与え,自分の興味あるものを深く経験し,レクリエーション活動の基礎をつくる必要があろう。
特に,女子ではこの時期に第二次性徴が著るしく現われ,急激な発達が不調和を招き,動作の敏活性を欠くようになるので,この特質から女子に適したボール・ゲーム(バレーボール,テニスなど)や,美的感情を養うダンスなどが主要な活動としてあげられよう。なおこの時期においては体育についての知的理解を深め,それに裏付けられた身体活動がいっそう重視される必要がある。
高等学校の保健は,中学校と同様他の関係教科との連けいのもとに,その根拠となるものをいっそう深く学習するために,健康についての理論的な研究方法が強調される。また,実験的な研究方法も加えられてくる。整理学の知識が科学的な正確さをもって習得されるのもこの段階においてである。
また健康の形成保持についての社会的な諸条件や職業的諸条件および集団の健康についての学習には,統計的な研究方法が加えられる。
このように高等学校の保健は中学校のものよりいっそう深い理論的実験的根拠をもち,組織的体系的になってくる。そして集団の健康の問題についても明確な指導力をもちうる人間の形成が目標とされる。
(ⅱ) 体 育
この時期の男子は中学校の時期に引きつづいて発達をつづけ,身体的にはその発達の終末期にはいる。身体活動においては,全身的発達を促進し高度の巧緻性を養うためにボールーゲーム・巧技・陸上競技・水泳などが,中心として学習される。しかも競技会の企画運営などについても経験を得させ,社会的態度の向上やレクリエーション活動についての態度や技能の養成も重視される。女子は身体的にはほぼ完成に近づく時期であり,強い運動は避けて女子に適当したボール・ゲームや個性的な表現活動を主としたダンスを中心として経験を広めることが適当である。
さらに男女ともに自然に親しみ,その美を愛するものとして登山・キャンプ・水泳・スキー等にできるだけその機会を与えることが望まれる。
また体育の全般についての理解,競技規則や競技会の運営,運動衛生の理解などを深めるために,体育理論を運動の実施と連関して適切に学習させ,自己の興味や能力に応じてスポーツを選択して学習させることはその発達からみていっそう重視されなければならない。
家庭ならびに職業に関する教科としては,小学校第5〜6学年の家庭科,中学校の職業・家庭科,および高等学校の家庭科と農業・工業・商業.水産・家庭技芸などの職業に関する五つの教科をあげることかできる。これらの諸教科は,実生活に役だつ仕事を中心としてこれらに関連する家庭生活,職業生活に必要な知識・理解・技能などを養い,家庭生活や職業生活を充実発展させようとするものであるという点において一連の発展的な流れをもっている。
小学校の家庭科の内容については,1.においてある程度述べておいた。小学校の家庭科においては,社会科や理科の学習とよく連絡して,男女のこどもに,家庭生活の正しいあり方の理解や,望ましい態度の養成が目ざされねばならない。そして,家庭生活を営むための初歩的な技能,すなわち,裁縫や調理その他の初歩的な技能を修得させることもたいせつである。このためにこどもにとって興味ある家庭内の仕事が学習内容として取り上げられることになる。小学校の家庭科としては,(イ)家族の一員,(ロ)手伝い,(ハ)身なり(ニ)食事,(ホ)すまい,(へ)時間・物・金銭・労力の使い方,(ト)飼育や栽培のしごと,(チ)不事のでき事に対する処置,(リ)休息・趣味・娯楽などについて,その大要を学ぶのが望ましいであろう。
(b) 中学校の職業・家庭科
中学校の生徒になると,経験する仕事の範囲が次第に広くなって,単に家庭生活だけでなく,広く社会におけるさまざまの職業に連りをもつものが多くなってくる。また社会における産業・職業の機能や構成もわかるようになるし,学年が進むに従って,自分の将来の職業に対する関心も高まってくる。このような発達の段階にある生徒が実際の仕事を行い,家庭生活,職業生活の基礎となる知識・理解や,技能・態度を養うことは,中学校をもって正規の学校生活を終る者にとって必要なばかりでなく,上級の学校に入学する者にとってもきわめて必要なことである。そこで,このような仕事と,その仕事に関連して指導したほうが都合のよいいろいろな教育内容とを一つの体系として指導しようとするのが中学校の職業・家庭科のねらいである。
中学校の生徒の大部分は,学校を終ると直ちに実務について,あるいは家事を助け,あるいは,産業・経済の一部を担当するのであるから,その実務について学んでおくことはきわめてたいせつなことである。しかし,中学校の程度では生徒の経験の範囲も狭く,個性もまだ正確にわかっていないのが普通であるから,生徒の生活経験を広め,職業に対する適性を発見させる意味が重要視されなければならない。したがって必修の時間においては,農業とか工業とかいう名前にとらわれないで,ある程度まで広い範囲の仕事について学ぶ必要がある。なお,家庭生活に関する仕事は,他面からみれば,職業に発展する性格をもっている。したがって,中学校の職業・家庭科では仕事を技能の違いに基いて12の大項目に分け,そのいくつかの項目にわたって,啓発的な経験を積むと同時に,家庭生活・職業生活に役だつ知識や理解や能力を養うことができるようになっている。これらの仕事は次の表のように,小学校のそれぞれの教科で学んだ基礎の上に立って中学校の他の教科と関連を保ちながら学習し,さらに高等学校の家庭科および職業に関する各教科に発展するのである。
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小学校の教科 |
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1 類 |
1.栽 培 | 理科・家庭 | 理科 | 農業 |
2.飼 育 | 理科・家庭 | 理科 | 農業・水産 | |
3.漁 | 理科 | 理科 | 水産 | |
4.食品加工 | 理科・家庭 | 理科 | 農業・水産・工業 | |
2 類 |
5.手技工作 | 図画工作・家庭 | 図画工作 | 工業・農業・家庭・家庭技芸・水産 |
6.機械操作 | 理科・図画工作 | 理科・図画工作 | 工業・農業・水産 | |
7.製 図 | 図画工作 | 図画工作・数学 | 工業・農業・水産・商業 | |
3 類 |
8.文書事務 | 国語・社会 | 国語・社会 | 商業 |
9.経営記帳 | 社会・算数 | 社会・数学 | 商業・工業・農業・水産・家庭 | |
10.計 算 | 算数 | 数学 | 商業 | |
4 類 |
11.調 理 | 家庭・理科 | 理科 | 家庭 |
12.衛生保育 | 理科・家庭 | 理科・保健体育 | 家庭 |
これらの仕事を各学年でどのように取り上げるかは,地域や生徒の事情によって違うが,だいたいにおいて第7学年にはどの地域のどの生徒でもほぼ共通な一般的なことを学び,学年が進むに従って次第に専門化,特殊化する方向に向かい,地域により,生徒による学習内容の違いが著しくなってくる。したがって,各学校は第7学年は一つの課程を設けるのを立前(男女別の課程をつくってもよい)とするが,第8学年,第9学年は二つ以上の課程を設けて生徒にその一つを選択させることがよいであろう。そしてその課程も第7学年は4類にわたって6項目以上,第8学年,第9学年にはそれぞれ2類以上にわたって4項目以上を取り上げるのを立前(場合によっては3項目でもよい)としている。
これらの仕事に関連して取り上げる「家庭生活,職業生活に関する社会的経済的知織の理解」は,小学校の社会科,家庭科の学習の基礎の上に立って,中学校の社会科の学習と関連を保ちながら全学年にわたってとり上げられるが,特に第8学年,第9学年には職業科に与えられた時間の全体の4分の1程度をそれに当てることになっている。
(c) 高等学校の家庭科および職業に関する教科
中学校においては,以上のように家庭生活,職業生活に必要な内容を職業,家庭科として一つの教科で学習したのであるが,高等学校になると,学習内容は相当に専門化してくるが,一方,生徒の将来の大体の方向は,中学校における啓発的経験などによってはっきりきめられる時期になっているので,それぞれ,農業・工業・商業・水産・家庭・家庭技芸などにわかれて学習するのである。そうして各教科は,さらにたくさんの科目に分れており,その選択のしかたによって,それぞれ特色をもった幾つかの課程を設けることができるようになっている。
この教科は総合農業以下16の科目に分れていて,生徒はその中から適当なものを適当な程度に選んで学習することになっている。しかし,職業課程の必修の科目としては,多くの生徒は,総合農業を選び,家庭農場で教師の指導の下に,いわゆるホームープロジェクト(家庭実習)や学校農業クラブの活動を行いながら学習を進めるであろう。そして,第12学年を終るまでには,実際の農業経営を行うことができ,また,初級の技術者として農業に関する職業に従事することができるようになるのである。
また,林業方面に就職することを希望する生徒は,林業関係の内容を中心に学ぶ必要のために,第10学年から,森林生産などの分化された科目を選ぶ者もあるであろうし,農業土木方面に就職することを希望する生徒の中には第10学年だけ総合農業を選んで広く農業の全体を学び,第11学年以後はもっぱら農業土木を学ぶような者もあるであろう。
農業に関する課程以外の課程において,農業を選ぶ場合は,総合農業・耕種・園芸・畜産あるいは一般林業などが適当であろう。
(ⅱ) 工業科
実際の工業はきわめて専門化されているし,またそれぞれの工場で要求される知識技能もれ相当専門化されている。そのために,中学校までには,まだ分化されていない形の工業的な仕事が,高等学校においては,相当の程度に分化され組織されて,機械工作・自動車・電気通信・建築・土木・工業化学等の課程を構成し,第10学年からそれぞれ分化された一つの課程をおさめることになっている。
しかし,第10学年においてはできるだけ普通科目を多くし,工業の科目のうち基礎的なものを学習し,学年が進むにつれて普通科目を少くするとともに,専門科目を多くし,実習に多くの時間をあてることが望ましい。
(ⅲ) 商業科
商業科は,教科とその時間配当表に掲げられているように15の科目に分けられ,それぞれの科目の単位数も,幅のあるように定められている。これらの科目は原則として,どの学年において選択して学習することも自由であるし,単位数も,原則として,生徒の希望に応じて適当に定めることができる。しかし,科目の性格によっておのずから商業に関する課程として必修されることが適当な基本的な科目と,自由な選択にまかせることが適当な科目とに分けることができる。文書実務,珠算及び商業計算,商業経済,簿記会計などの科目は,だいたいにおいて,必修されることが適当であって,しかも第10学年から始めるのが普通であろう。もちろん,これらの科目も,単位数を多くして,第11学年,第12学年にわたる場合には,その高学年において学習する部分は,生徒の希望に応じて選択することにするのがよい。タイプライティング・速記・統計調査・貿易実務・商業実践・金融・経営・商品・法規・商業外国語などは生徒の希望に応じて自由に選沢すべき科目であって,だいたいにおいて,第11学年または第12学年において学習するのが普通であろう。たとえば貿易に関する業務に従事することを志望する生徒の選択する科目としては,基本的科目のほかに,タイプライティング,貿易実務,商品,商業外国語などがあげられる。商業課程においては,外国語は重要であるので,商業外国語と合せて10単位までは30単位の中に含ませることができる。
商業に関する課程をおかない学校で,いくらかの商業科目を学習する場合には,大体において,上記の基本的な科目を選択することが適当とされるであろう。
(ⅳ) 水産科
水産科は,生徒の適性や家庭および社会の事情から,将来,水産業の自家経営または初級の技術者になろうとする職業課程の生徒や,水産業に関心をもつ普通課程の生徒が学ぶものであって,水産一般以下15の科目の選び方によって,漁業・水産製造・水産経営などの部分を強調する課程ができる。どの部分が強調されるにしても,低学年においては,水産一般などの科目をとり入れて広く一般的なことを多く学び,しだいに専門化するようになっている。また普通課程の生徒が学ぶ場合には,水産一般を選ぶのが適当であろう。
(ⅴ) 家庭に関する教科
高等学校の家庭に関する教科は,小学校の家庭科や中学校の職業・家庭科の基礎的な経験の上に分化された形において組織される。家庭科と家庭技芸科に分けられている。前者は家庭生活の面に,後者は職業生活の面に重点をおき,生徒の選択によることになっている。そして家庭科においては,一般家庭のほか,さらに個人差に応ずるために一般家庭に含まれる家族・保育・家庭経理・食物・被服等を自由に選択し,あるいは家庭技芸の一部を選ぶことができるようになっている。次に家庭技芸においては,保育(保育・保育実習・小児保健・小児栄養)食物(栄養・食品・献立・調理・大量炊事・食物経理)被服(被服材料・被服経理・色彩・意匠・仕立・手芸・被服史)等の課程に分化され,専門的に学習するようになっている。
また,家庭に関する教科を学ぶ生徒は,ホーム-プロジェクトを行ったり,また,家庭科クラブなどを組織して,有効な学習をすすめて行くことが望ましい。
英語の学習は,英語の言語材料について理解を得るとともに,英語の聞き方,話し方,読み方および書き方の能力を養い,あわせて英語をとおして外国の事情についての理解と望ましい態度を伸ばすことを目標としている。そして中学校は,英語学習の基礎的時期であるから,生徒は基礎的な言語材料について,聞き方・話し方・読み方および書き方を総合的に学習する。高等学校においては,中学校の基礎の上に,生徒と地域社会の必要および興味に応じて,聞き方・話し方・読み方・書き方の能力をさらに発展させることが,求められるであろう。
英語学習の領域の発展系統を述べれば,およそ次のようである。
英語の学習はまず音声から始めるべきであることは,広く認められているところである。したがって,中学校の段階においては,まず初めの数週間は教科書を用いないで,やさしいあいさつや,基本的構文を用いての口問口答や,基礎的な発声練習を行うこととなる。そして,音声としての英語を一応習得してから教科書にはいり,教材についての問答や口頭練習などを中心として,やさしい会話や劇などに発展していくことができるであろう。
高等学校においては,生徒の身心の発達,その必要と興味などから,内容のある英語の聞き方・話し方を求めるようになるから,いろいろな形の会話・劇・演説・討論などができるであろう。
(b) 読み方
中学校においては,基礎的な構文と単語からなる比較的やさしくて,短い文を読むこととなる。内容は,言語材料に限りがあるので,やさしい物語や外国における風物などが中心となるであろう。
高等学校においては,言語材料も豊かになり,構文も複雑なものを求めてくるとともに,内容の面においては思想的,鑑賞的,批評的なものを求めるようになってくる。
(c) 書き方
中学校においては基礎的な構文を中心として,口頭のつづり方・習字・書取り・類推などをとおして短い文が書けるであろう。やさしい手紙や日記ももちろん書けるようになる。
高等学校に進むと,複雑な構文になれるとともに,言語材料も豊かになるので,記述文・自由作文・和文英訳などができるようになるであろう。
文法については,中学校においては,基礎的な運用能力を養う目的から,これを独立に取り上げないで,聞き方・話し方・読み方・書き方の中において,学習するのが望ましい。
高等学校になると,生徒はいろいろな言語事例を経験してきているとともに,一般化を好む段階にあるから,これを整理するために文法を取り上げることになる。しかも整理されたものは,さらに運用能力を発展させるもとになるから,文法と作文と結びつけて学習するのがきわめて自然であり,効果的になってくる。