中学校の教科および特別教育活動とその時間配当については,昭和24年5月および12月,さらに昭和26年4月に改正せられた。それは次の表のとおりである。
学年
教科 |
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必
修 教 科 |
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択 教 科 |
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備考
(b) 教室移動および休息に要する時間は10分以内にとどめるのが望ましい。ただし昼食のための休息は,50分までのばすことができる。これらの時間はこの表に計算されていない。
(c) 必修教科についての年・学期・月・週および日の指導計画は最低910時間,最高1015時間の範囲内で計画されなければならない。
(d) 1年間の最低総時数を1015時間とする。この最低時数で授業をする学校では必修教科の時数は,年間のその最低時数たる910時間にすることが望ましい。
(e) これまでの習字は国語の中に,日本史は社会の中に含まれている。その運営は各学校の生徒の必要に応じて適宜計画されるものとする。
この改正された時間配当表で昭和22年度の学習指導要領一般編と異なる点,および特に注意すべきことをあげてみると,次のようである。
(1) 教科について
必修教科は生徒全体の共通的必要を満たすために設けられているものであるから,どの生徒も必ず学習しなければならないものである。その時間数は各学校の事情に応じて表に示された範囲内で定めることができる。選択教科は生徒の個人的必要を満たすように考慮されているものであるから,各学校では事情の許す限りこの目的を果すように計画しなければならない。
(b) 習字と日本史
中学校ではこれまで習字は国語の一部として1年と2年とに,以前に国史とよばれていた日本史は,社会の一部として2年と3年とに課せられることになっていた。しかし教科とその時間配当表中に習字および日本史が掲げられていたことによって,これらが独立教科であるような誤解を与えやすかった上に,これらの時間配当がある学年に固定していたことは,各学校の実情に即した指導計画をたてるに当っても不便な点があった。そこでこれらに割り当てられていた時間は,それぞれ国語および社会に加えられ,表からは習字と日本史が消えることになった。しかしこれらの学習が必要であることは以前と変らない。各学校の生徒の必要に応じて,どの学年でこれらを適当な時間数授けてもよいし,あるいはこれらのために特定の時間を設けないで,国語あるいは社会に融合して学習させる計画をたててもよいことになったから,以前よりも弾力性が多くなったわけである。
(c) 保健体育科
従来の体育科は保健体育科と改められた。これまでの体育科も身体活動と保健衛生の両面を合むものであったが,このことを一そうはっきりさせるために教科の名まえが改められたのである。
(d) 職業・家庭科
この教科は以前,職業科と呼ばれ,農業・商業・水産・工業・家庭の五つの科目に分れていた。そして,学校はこのうちの一科,または数科を選んで生徒に学習させることになっていた。ところが,この組織では広い分野にわたる職業的,家庭的な経験を生徒に与えるととは困難であった。そこで,職業科に含まれていた五つの科目の内容を分析して,実生活に役だつ12項目の仕事に分け,これを中心として,家庭生活・職業生活に望ましい実践人を育成するための新たな組織がつくられた。この組織によれば,男女の生徒は,自分の興味と必要に応じて,それらの仕事のいくつかの分野を組み合わせ,学習することによって,広い仕事の経験をうることができるのである。これが改正された職業・家庭科の特質である。職業・家庭科の組織や内容についての詳しいことは,職業・家庭科の学習指導要領を参照されたい。
(e) その他の教科
その他の教科とあるは,選択教科としてはっきり教科の名まえがあげられてある外国語および職業・家庭科を除いて,この表に掲げられたすべての教科と,この表に掲げられてはないが,生徒の必要によって学校で教科として課するのが適当であると考えられるものとの両者を含むものである。学校は,生徒の希望によって,これらのうちから適切なものを選んで指導することが望まれる。
(f) 道徳教育について
道徳教育の一般的な考え方については,小学校のところで述べたからこれを参照されたい。ここでは,中学校として特に注意すべきことを簡単に述べておこう。中学校の生徒になると,高い道徳的理解や判断力を養う素地が,かなり発達してくる。ことに上学年になれば,自己について深く考えようとする芽ばえが現れてくる。だから道徳についての指導もこのような生徒の必要に応ずるように,社会科を初め各教科の指導においてじゅうぶんな考慮が払われねばならない。またこの年令の生徒は,ややもすれば,行動に混乱をきたしやすいから,特別教育活動およびその他の機会に,生活指導をいっそう徹底させる必要があろう。なお,道徳教育についての詳細は,近く文部省から発行される「児童生徒が道徳的に成長するためにはどんな指導が必要であるか」を参照されたい。
時間数については,さきにあげた表の「備考」によって,これをいかに解釈し,運営するかは理解できると思うが,なおいくらかの説明を加えておこう。
小学校の場合は,1時間を60分として,このなかに,小休憩の時間,教室移動の時間,次の学習の準備の時間を含めて計算することになっているが,中学校の場合は50分を1単位としている。これは生徒が純粋に学習する時間である。たとえば,国語の140時間というのは,50分の140倍,すなわち7000分を示すものであって,140時間という正確な時間を意味するものではない。そして教室の移動および休憩に要する時間は,1単位時間について10分以内にとどめることが望ましい。しかしこのことは,必ずしも各授業時間を5O分ごとにくぎることを意味しない。学校は課業の性質,生徒の興味や必要によって弾力ある時間割をつくることが望ましい。
各教科および特別教育活動について,最低・最高の1年間の総時間数を示したのは,各地域や学校の事情と,生徒の必要とを考えて,地方または,学校が,それぞれの実情に応じて適切な1年間の指導計画をたてうるように,ということを考慮したためである。昭和22年度の教科とその時間数の表に示されたものよりも,必修教科の最低総時数が減り,選択しうる教科の数とその時間数が増したことも,学校における弾力ある指導計画をたてうるようにしたためである。なお,外国語の最低時数は,従来35時間であったが,今回は140時間に増加されている。これは,外国語を選択して学習する以上は,この程度の時間はぜひ必要であると考えられたからである。また健康教育は,中学校3年間のうち,いずれかの学年において,年間70時間実施することになっている。
(b) 1年間の総時数
必修教科については,1年間の最低・最高の時間(910時間ー1015時間)が示されているが,選択教科および特別教育活動の時間を含めての1年間の総時間数はこの表に示されていない。しかし,1年を35週,1週あたりの指導時数を30時間とみて,1050時間を1年間の最低総時数とすることが望ましい。年間最高総時数の制限はないが,地方の事情,学校の事情を考え,また,生徒の能力を考えて,過重負担にならないように,教育委員会や学校長が定めるべきである。
従来選択教科の時間のうちに,自由研究があったが,昭和24年中学校の教育課程が改善されたとき,自由研究という名称は廃止され,新たに特別教育活動が設けられた。特別教育活動は,従来教科外活動とか,課外活動とかいわれた活動を含むが,しかし,それと同一のものと考えることはできない。ここに特別教育活動というのは,正課の外にあって,正課の次にくるもの,あるいは,正課に対する景品のようなものと考えてはならない。さきにも述べたように,教育の一般目標の完全な実現は,教科の学習だけでは足りないのであってそれ以外に重要な活動がいくつもある。教科の活動ではないが,一般目標の到達に寄与するこれらの活動をさして特別教育活動と呼ぶのである。したがって,これは単なる課外ではなくて,教科を中心として組織された学習活動でないいっさいの正規の学校活動なのである。
教科の学習においても,「なすことによって学ぶ」という原則は,きわめて重要であり,実際にそれが行われねばならないが,特に特別教育活動はこの原則を強く貫くものである。特別教育活動は,生徒たち自身の手で計画され,組織され,実行され,かつ評価されねばならない。もちろん,教師の指導も大いに必要ではあるが,それはいつも最小限度にとどめるべきである。このような種類の活動によって,生徒はみずから民主的生活の方法を学ぶことができ,公民としての資質を高めることができるのである。
(b) 特別教育活動の領域
特別教育活動の領域は,広範囲にわたっているが,ホームルーム,生徒会,クラブ活動,生徒集会はその主要なものということができる。
ホームールーム 学校社会が改善され,生徒の幸福がもたらされるためには,小さな単位の集団生活がまずよいものにならねばならない。ホームールームは,大きな学校生活を構成する一つの単位として,すなわち,「学校における家庭」として,まず生徒を楽しい生活のふんい気のなかにおき,生徒のもつ諸問題を取り上げて,その解決に助力し,生徒の個人的,社会的な成長発達を助成したり,職業選択の指導を行ったりするところである。ホームールームにおける生活目標は,いろいろ考えることができるが,次のものはそのおもなものといえよう。
○人格尊重の理想を行為に生かし,責任や義務をじゅうぶんに果し,また当然の権利はこれを主張する習慣と態度を養うこと。
○よい社会生活に必要なあらゆる基礎的な訓練の場をもつこと。
ホームルームの時間は,さきにあげた表の特別教育活動の時間のなかに含まれている。この時間は,1週間あたり少なくとも1単位時間以上実施するのがよい。固定したへやをもったそれぞれのホームールームにひとりひとりの教師が責任をもち,組織的研究的に計画を実行することが望ましい。
生徒会 生徒会は,生徒を学校活動に参加させ,りっぱな公民となるための経験を生徒に与えるためにつくられるものである。生徒は,生徒会の活動によって,民主主義の原理を理解することができ,奉仕の精神や協同の精神を養い,さらに団体生活に必要な道徳を向上させることができるのである。生徒会は,全校の生徒が会員となるのであって,学校に籍をおくものは,そのまま皆会員となって,会員の権利と義務および責任をもつことになるのである。
この生徒会は,生徒自治会と呼ばれることがあるが,生徒自治会というときは学校長の権限から離れて独自の権限があるかのように誤解されるから,このことばを避けて生徒会と呼ぶほうがよいと思われる。この生徒会は,一般的にいうと学校長から,学校をよくする事がらのうちで,生徒に任せ与えられた責任および権利の範囲内において,生徒のできる種々な事がらを処理する機関である。
生徒会が活動するためには,生徒代表から組織されている生徒評議会やそのなかに設けられるいくつかの委員会が必要である。生徒評議会やこれらの委員会は,いろいろな規則をつくったり,これを実行する仕事を受け持つのである。全生徒は,これらの評議会や委員会を通じて,学校生活を改善するためのいろいろな問題の解決に参加するのである。このような会で正当に決定された事がらは,校長や教師たちと協力して実行さるべきである。生徒の意見は,校長および教師たちの承認を得てはじめて有力となる。学校内外の社会に対し,学校に関する責任は,おもに校長および教師たちの負うところであるからである。
クラブ活動 全生徒が参加して,自発的に活動するものの一つにクラブ活動がある。クラブ活動は,教室における正規の教科の学習と並んで,ホームルームの活動,生徒会の活動,図書館の利用とともに,生徒の学校生活のうちで重要な役割を果すべき分野である。中学校の生徒になれば運動能力も発達し,級友間に強い友情も感ずるようになり,また,団体生活に関心をもち,喜びを感ずるようになる。したがって,この時代の生徒は,クラブをつくっていろいろな活動に従事することに適している。クラブ活動は当然生徒の団体意識を高め,やがてはそれが社会意識となり,よい公民としての資質を養うことになる。また,秩序を維持し,責任を遂行し,自己の権利を主張し,いっそう進歩的な社会をつくる能力を養うこともできる。
次に,クラブをつくる場合に,特に注意すべき点をあげてみよう。
(ⅰ) 生徒の関心・興味・希望・能力をよく調べて,それに基いてクラブを組織する。
(ⅱ) クラブは生徒の必要・関心に適合するようにつくられるべきで,教師の一方的な机上計画に従うべきではない。
(ⅲ) 生徒は強制されてはいけない。生徒がクラブ活動の中心である。したがって,クラブ組織については,生徒評議会の会議でじゅうぶん討議され,審議されるべきである。教師は指導者となって働いてもよいが,生徒の意見を重んじなければならない。
(ⅳ) 生徒の余暇の活用は,クラブ活動の重要な目標の一つであるから,このことについての注意を怠ってはならない。
(ⅴ) クラブ活動の多くは,季節に関係があるから,ある季節だけつくられるクラブもいくつかあってよい。
生徒集会 全校生徒が一堂に会合して,いろいろな発表や討議・懇談などをする機会をもつことは楽しい有意義なことである。しかも顧問の教師の適当な指導のもとに,生徒がみずから企画し,司会することによって,上級生も下級生も,進んで語り合い,発表し合うことは,生徒の個性の成長を促すとともに,よい校風をかもし出させる上にも,たいせつなことである。中等学校では週に一度(場合によっては隔週に)この集会を開催することが一般に望ましい。もし,この生徒集会が適当に計画され,実施されるとすれば,次のような目的を達することができよう。
○学校の気風をつくり,世論を発達させることができる。
○校風を高め,りっぱな伝統を築きあげることができる。
○芸術・音楽・演劇などの鑑賞力を養うことができる。
○生徒にとって,自分の意見や考えを発表する機会が与えられる。
○学校のいろいろのできごとを解決する機会が与えられる。
生徒会は,生徒集会のプログラムの計画にあたって,重大な責任をもつわけであるから,生徒評議会が生徒集会委員会をつくって,生徒集会の実行にあたらせるのが普通である。もちろん,生徒集会の計画は,校長や教師の承認とその指導のもとに行わるべきものである。