Ⅱ 教 育 課 程

 

 われわれは,前の章において,教育の一般目標について述べ,この目標に到達するに必要な教科の種類や教科以外の活動・特別教育活動について簡単に触れた。

 もちろん,どのような教科を設けるのが適切であるかということについては,歴史的にも,種々な変遷があったし,現在もいろいろな議論が行われている。われわれは,現在の社会の目的や生徒の経験の発展についての心理学的研究や,学習の難易の程度などの点から考えて,さきにあげたような教科が,現在のところ一応適当ではないかと考えているのである。

 ともかく,教育の一般目標に達するためには多面的な内容をもった指導が必要であり,この内容をその性質によって分類し,いくつかのまとまりをつくったものが教科であるといえる。だから,各教科は,それぞれの内容や学習活動を通じて,教育の一般目標を達成するために,責任を分ち合っているものである。

 しかし,教育の実際にとりかかろうとすると,これらの教科をただ児童や生徒にあてがいさえすればよいと考えることはできない。われわれは,児童や生徒の現実の生活やその発達を考えて,どの学年からどの教科を課するのが適当であるかを定めねばならない。そしてまた同一の教科であっても,その内容をどんなふうに学年を追って課するのが適当であるかという考慮も必要になる。また教科以外の教育的に有効な活動,あるいは特別教育活動も,児童や生徒の発達を考えて適切な選択が行われるようにしなければならない。このように児童や生徒がどの学年でどのような教科の学習や教科以外の活動に従事するのが適当であるかを定め,その教科や教科以外の活動の内容や種類を学年的に配当づけたものを教育課程といっている。

 教育課程は,現在の社会目的に照して,児童や生徒をその可能の最大限にまで発達させるために,児童や生徒に提供せられる環境であり,また手段であるから,社会の変化や文化の発展につれて変るべきものである。このことは,また同時に,教育課程は,児童や生徒の必要に適合するために変るともいい換えるとともできる。だから厳密に考えていけば,教育課程は,その地域の社会の生活の特性により,その地域における児童や生徒の特性によって,それぞれ異なるといえるものである。教育がその地域の社会に適切なものとなるには,どうしてもそうならなくてはならないはずである。だから,教育課程は,それぞれの学校で,その地域の社会生活に即して教育の目標を考え,その地域の児童や生徒の生活を考えて,これを定めるべきであるといえる。

 しかし,そうはいっても,わが国の各地域で,教育の目標がさして異なるということもないし,また児童や生徒の生活やその発達過程も全然異なるともいえないから,わが国の教育として一応各学校が参考とすべき教育課程を示唆することはできる。ことに,どういう教科を課するかということについては,教育の骨組をなすものとして,その基準を示す必要がある。学校は,このような教育の大きな骨組を参考とし,基準として,自分の学校のある地域や,その地域の児童や生徒の生活を考えて指導計画をつくるならば,学校の計画を適切なものとすることが容易である。

 このような意味において文部省では教育課程について調査審議する委員会を設け,この委員会の研究に基いて,小学校・中学校・高等学校別に,指導されるべき教科の種類とその指導のために必要と考えられる一年間の総指導時数および特別教育活動の時間の例を,1から3までに述べるようにつくり,学校の参考に資することにした。

 

1. 小学校の教科と時間配当

 教育についての考え方の進歩とともに,小学校の教科の取扱い方やそれについての考え方は以前と異なっている。さらに地域社会の必要やこどもの必要を考えて,教育課程をつくるべきであるという原則からいえば,各教科に全国一律の一定した動かしがたい時間を定めることは困難である。したがって下記の教科の表においては,教科を四つの大きな経験領域,すなわち,主として学習の技能を発達させるに必要な教科(国語・算数),主として社会や自然についての問題解決の経験を発展させる教科(社会科・理科),主として創造的表現活動を発達させる教科(音楽・図画工作・家庭),主として健康の保持増進を助ける教科(体育科)に分ち,それぞれの四つの領域に対して,ほぼ適切と考えられる時間を全体の時間に対する比率をもって示した。この教科に対する時間配当表は,およその目安をつけるためにつくられたものであって,これを各学校が忠実に守ることを要求するものではない。これは各学校がそれぞれの事情に応じて,よくつりあいのとれたよい時間配当表をつくるための参考資料に過ぎない。

 

    教科についての時間配当の例
 
学年

教科

1,2
3,4
5,6
国  語

算  数

45%〜40%
45%〜40%
40%〜35%
社  会

理  科

20%〜30%
25%〜35%
25%〜35%
音  楽

図画工作

20%〜15%
20%〜15%
25%〜20%
家  庭
   
体  育
15%
10%
15%
100%
100%
100%

備考

 次に,ここに示された「教科とその時間配当表」についての教師の理解を助けるために,いくつかの注意すべき点をあげてみると,およそ次のとおりである。