一 実施できる科目

 通信教育はその性質からして、実施できる科目におのずから次のような本質的な制約を受ける。

1、教育目標達成上から見た実施科目の受ける制約  通信教育も中学校、高等学校の教育である限り、学校に通学する者と同等の教育内容によって、共通の教育目標が達成されなければならない。中学校、高等学校のおもな教育目標は三つあるとされている。そのうち有能な社会の形成者を養うという目標は通信教育だけによっては達成されないことは明らかであり、個人の資質を最大限に伸長する目標や職業的能力を養う目標についても通信教育だけでは達せられない面もある。また、あらゆる科目の学習活動は,生徒の理解と技能と態度とをそれぞれの科目の立場において養うことを直接の目標としているが、通信教育ではこれらの目標の一部しか達せられないことは明らかである。すなわち、事実の学習を主とする科目は通信教育でやれるとしても、技能や態度が大きな重みを持つ科目、特に実験、実習をおもな内容とする科目は通信教育ではその目標を満足に達成することができない。 2、利用しうる教材から受ける制約  通信教育においても各科目の学習指導は、学習指導要領の基準に基づいて行われるのであるが、教材としての教科書は、通信教育では学校に通学する場合以上に必要である。教科書を欠く場合は通信教育の生徒は基礎的な勉強の手がかりを失うことになる。従ってまだ教科書の発行されていない科目について通信教育を実施することは実際に即して考えると当を得たものとはいえない。 3、実施に対する条件  以上のことから a事実に関する知識と理解を習得するものであること。

 b実験、実習を必要としないものであること。c教科書が発行されているものであること。

 等の条件を勘案して検討した結果 4に掲げる科目を高等学校通信教育で実施することが適当であるという結果に達した。しかしこれらの科目は現在の段階で実施可能と考えられるものであって、これ以外の科目については、将来前述の条件が満足され、充分な学習効果をあげうる保障が与えられるものについては研究のうえ逐次追加してゆきたい。

なお 中等学校通信教育については、昭和二十四年五月十日付発社第二九四号通達の一の1の(イ)に示された科目(国語、数学、理科、職業[職業指導])とするのが適当である。

 

4、実施できる科目と単位
 
教科名
科目
単位
備考
国  語
国語(甲)(必修)
現在実施中
漢     文
二−六
 
社  会
一 般 社 会
 
人 文 地 理
現在実施中
数  学
一 般 数 学
 
解 析 (1)
現在実施中
解 析 (2)
 
幾     何
 
理  科
地     学
現在実施中
  5、学校で実施する科目  これらの科目のうち、その全部を実施するか、その一部を実施するかは都道府県教育委員会の方針に基づいて学校が決定する。

 なお4に掲げた九科目以外に地域社会の必要と生徒の必要に応じて単位外の学習として実施することは差支えない。

 

二 高等学校卒業の資格として与えられる単位数

 

 前述の実施できる科目の単位数を合計すれば四六ないし五○単位となる。しかし高等学校の教育は教科目の学習だけが全部ではない。学校生活の全体を通じて養われるものが教育の目標の大きな部分をしめる。従って実施できる科目の単位数の合計とは別に、高等学校教育の全体からみて、その目標のうち通信教育で達成できる程度はどの位であるかを考えなければならない。

 このような観点から高等学校卒業の資格としてどの程度の単位を通信教育で与えられるかを検討した結果、現段階においては、高等学校卒業に必要な八五単位のうち三分の一程度が妥当であるという結論に達したので当分の間これを二八単位以内にとどめることが適当であろう。

 しかしこれは、あくまでも高等学校の卒業資格を与える場合の制約であって卒業資格とは別に通信教育でとれるだけの科目を学習することを妨げるものではない。すなわちある生徒が通信教育で実施している科目をどれだけとっても差支えないが、ただその生徒が高等学校の卒業資格をとろうとすれば必要な八五単位のうち二八単位だけが通信教育で習得したものと認められるので、残りの五七単位は学校に通学して学習しなければならないのである。

 

三 定時制の課程との連けい

 

 このように通信教育だけで高等学校卒業の資格の全部を与えられないとすれば、通信教育生徒で高等学校卒業の資格を得たい者の希望を満たすために、通信教育で学習しながら同時に学校に通学できる措置を講ずる必要があり、このために通信教育と定時制の課程との間の二重在籍の規定が必要になってくるのである。(高等学校通信教育規程昭和二十三年五月二十日文部省令第五号、第八、九条)。そこで、どのようにして通信教育と定時制の課程で同時学習させるか、すなわち両者どう連けいさせるかという具体的な問題が起こってくる。これには現在の事情のもとでは種々困難も伴うであろうが、これは通信教育の生徒のためにはむろんのこと定時制の課程に学ぶ生徒のためにもぜひ実現しなければならないことであり、両者の緊密な協力と連けいが望ましく、かつきわめて必要なことである。具体的にいかに連けいを保かについては、学校によって事情も異なり、いろいろな制約もあるので今后の研究にまつべきものが多いが、通信教育の生徒で定時制の課程に通学を希望する者、定時制の課程の生徒で通信教育受講を希望する者について具体的な予備調査を行い双方で得られた資料を交換し、これに基づいて、新しい観点から、学校の職員■■、施設等に応じて勤労青年の時間と健康が許す限りにおいて彼等に同時学習の機会を与えるような計画を立てることが望ましい。

 このように二重在籍の制度を活用するにあたって修業年限をどうするかという問題がある。二重在籍が認められているのは、修業年限の短縮が目的ではなく、定時制の課程と通信教育において同時に学習することにより、高等学校教育の目標を十分達成せしめ、卒業の資格を与えるということがねらいであることに注意しなければならない。同時に、修業年限を短縮するために生徒がみずからの負担を過重ならしめることのないように厳に注意しなければならない。従って二重在籍する場合でも、修業年限は四年を下らないことが適当である。

 

四 通信教育と面接指導との関係

 

 通信教育が最初に計画されたときには、通信教育で学校教育の目標の達成できない部分について面接指導を行うことが単位認定の必要条件と考えられていたのであるが、これをどの部分について、どの程度に実施するかということも明らかにし難いし、二八単位以外の五七単位は学校に通学することによって補われることも考えられるので、今後は面接指導を単位認定の条件としないことにしたい。しかし通信教育の学習効果をあげるためには面接指導を行った方がよく、この意味では大いに望ましいのであるが、これは指導の補いとして意味をもつものである。

 

五 同時に履修することが望ましい科目数

 

 新しい学習指導の形態として、在来のように同時に数多くの科目を学習することによって生徒の関心を分散させるよりは、少数の科目を重点的に集中学習させることが学習能率を上げるために有効である。このような観点からいわゆる六科目制がとられているわけである。通信教育のように特に学習に恵まれない勤労青年を対象とする教育においては、生徒の希望するにまかせていろいろな科目を同時に学習させることは結局その能率を下げ、学習目標を達し得ない結果におちいるおそれがある。この点から同時に履修しうる科目数を二科目以内に限るよう通達されたのである。この点から同時に履修しうる科目数を二科目以内に限るよう通達されたのである。但し健康と時間に恵まれた特に優秀な生徒で十分に学習効果をあげうると認められる場合までも拘束しようというのではない。しかしこの様な場合でも前述の趣旨からいって四科目以下にとどめることが適当であろう。

 

六 学習指導書の発行と単位認定の関係

 

 従来通信教育で単位が与えられるのは学習指導書が発行されている科目に限られてきた。学習指導書は生徒の学習上大切な手がかりとなるものであるから、国定又は検定の学習指導書が発行されている科目については、その学習指導書を使用することが望ましいのであるが、それが発行されていない科目についても、その科目の学習指導要領と中等学校通信教育指導要領の基準に基づいて学習指導書を備えている場合と同様に効果的に学習指導が行われるならば、単位を与えてはいけないということはできない。

従ってその学習指導内容がすでに発行されている学習指導書に比べて遜色のないものであり、都道府県教育委員会が適当と認めるものについては昭和二十四年十一月二十一日付文初中第二一八号の通達にかかわらず単位を認定をしてよいこととする。この場合あらかじめその指導計画、内容の詳細を都道府県教育委員会に提出して、そこで適当と認められたものについて実施することとし、単位の認定は学校が行うことになる。

 

七 生徒募集

 

 生徒募集の時期、募集定員、選抜方法、入学料及び受講料等については従来その都度提示されたのであるが、これらは都道府県教育委員会の定める基準に基づいて学校が決定すべきものであり、今後は各都道府県の実情に基きそれぞれ適当に決定されたい。