第1 目 標
2.印刷・謄写・複写・筆記・筆写の知識と技能とを養う。
3.文書の取扱や整理を合理的に行う知識と技能とを養う。
4.文書に関する実習をとおして,事務能率を増進する態度・習慣を養う。
第2 単元の例
2.商業通信文はどのように能率的に書き表わすか。
3.取引を始めるにあたって必要な通信文はどのように作るか。
4.仕入に必要な通信文はどのように作るか。
5.販売に必要な通信文はどのように作るか。
6.代金の受け払いに必要な通信文はどのように作るか。
7.電報文はどのように作るか。
8.広告文はどのように作るか。
9.取引に用いられる書式はどのように作るか。
10.社内において必要な文書はどのように作るか。
11.文書の受付・発送および内部連絡はどのような手続で行うか。
12.文書はどのように整理するか。
13.騰写印刷はどのように行うか。
14.印刷を依頼するにはどのような知識が必要であるか。
15.文書事務用具はどのように取り扱うか。
第3 学習指導上の要点
1.文書の種類は多種多様であって,商業通信文・社内連絡のための通信文・取引に関して使用される書式など,いわゆる狭い意味での商業用文書をはじめとして,広い意味では,会計帳簿類・統計書類その他営業に関係のある記録・報告書などを含み,さらに広く解釈すれば,文字や図表で書かれたり印刷されたりしたものは,すべて文書であるといえる。文書実務科は,このうちで狭い意味の商業用文書を学習の対象とする。
用語としては,日本語を用いる文書と外国語を用いる文書とがあるが,外国語文のうち,たとえば英文については商業英語科で取り扱うこととして,この科目においては,もっぱら日本文に限定して学習することが適当であろう。
2.この商業用文書を能率的に,すなわち簡潔・正確・めいりょうに,しかも迅速に作成する能力を養うことが,この科目の第1の目標であり,作った文書を活版印刷・謄写印刷・複写・筆記・筆写などによって仕上げる知識・技能を養うことが第2の目標である。文書の仕上げについては,タイプライティングが重要な手段であるが,この技能は特にタイプライティング科において学習されるところである。仕上げられた文書は取引先へ発送され,取引先から受け取った文書は係へ回される。この手続が文書の取扱である。処理のすんだ文書や,発送した文書の控のうち重要なものは,整理して保存する必要がある。このような文書の取扱と整理との事務に熟達することが第3の目標である。さらに,文書実務科の学習においては,単に文書事務の能力を養うばかりでなく,これをとおして事務能率を増進する態度・習慣を養うように指導しなければならない。有能な事務家は,文章をじょうずに作り,文字をきれいに書くだけにとどまらず,事務を能率的に処理する態度・習慣を身につけているものである。このような態度・習慣の養成は,商業の各科目とりわけ実務的な各科目によって行われるのであるが,この科目においても,これが第4の目標となるのである。
3.以上の四つの目標によっても明らかであるように,文書実務科は,単に商業通信文の作成だけではなく,商業用文書に関する事務一般について,広く学習する科目である。このような目標を達成するために,学習指導上特に注意を必要とする事項をあげれば,次のとおりである。
まず文書実務科は,どの学年において学習するのがよいかということは,もとより原則として自由ではあるけれども,次の点は考慮されることが望ましい。
(2) 文書事務能力は,商業実践科の学習の基礎となるものである。
5.文書実務科の学習は,実習を中心として行われるべきである。文書の取扱や整理についても,実習を行うためには,相当の設備が必要である。商業科においても,工業科・農業科と同様に,実習設備を重視しなければならない。
6.上記の単元はこの科目で学習される内容を例示したものであるから,教師が学習指導にあたって単元を作る場合には,これを基準として適当に定めるがよい。たとえば「商業通信文はどのように能率的に書き表わすか」については,特に一つの単元として取り上げないで,第3から第6までの単元に含めることもよいであろう。また,この単元の例の表現を変えたり,あるいは総合したり分解したりすることが必要とされる場合もあろう。しかし,この単元の例に示されている内容は,簡略か詳細かの差別はあっても,一応全般的に取り上げられることが望ましいのであって,この一部のみを学習するにとどめることは,学習上の価値を乏しくさせることになるであろう。
7.「商業通信文はどのように能率的に書き表わすか」については,特に注意を要する。わが国の文書事務の能率は,欧米諸国に比較して,いちじるしく劣っているが,これは従来の和文タイプライターの能率が悪く,持ち運びも不便で,じゅうぶんに利用できないことに大きな原因がある。この欠点を改めるためには,横打ちの小型タイプライターの普及が必要であり,さらにそのためには,文書の形式を左横書きとし,当用漢字を使用することはもちろん,それ以上に極度に漢字を制限する必要があるであろう。また,簡潔で平易な口語文体とすることも当然の要求であろう。この傾向はすでに官庁の文書や進歩的な商社の間に見られるところであるから,生徒を指導する場合には,これに従うことが望ましい。「社内において必要な文書はどのように作るか」においては,社内連絡文の作り方とともに,用件のメモの取り方などについて指導することも適切であろう。
この科目の学習についての,教師と生徒の準備と活動の例を示せば,次のとおりである。
(2) 生徒の学習活動をどのように指導して行くかについての,1年間の計画を立てる。
(3) 商店・会社などの実際の文書事務について調べる。
(4) 文書実務科と商業経済科・商業実践科との関連について調べ,商業経済科をどのように取り入れ,商業実践科へどのように応用して行くかについてくふうする。
(5) 文案の作成・騰写印刷・複写などの技能に熟達しておく。文書の作成については,標準新タイプ用字を用い,現代かなづかいによることとし,また分ち書きの形式に慣れておくことが,文意をめいりょうにするために必要である。
(6) 教材として生徒に読ませる文書を用意する。謄写印刷したものに,差出し人のゴム印を押して実物の感じを持たせたものを,生徒各自に配布して,これを読ませたり,その返事を書かせたりする。
(7) 文書事務用具および文書の取扱・整理に必要な用具を準備する。
(8) 文書事務に関する見学先を調べておく。
(9) 学校の文書事務がどのように行われているかを調べて,生徒の実習に利用する方法を考える。
(10) 学校の図書がどのように整理されているかを調べて,これを文書整理の指導にどのように利用するかを考える。
(2) 筆記・筆写・複写・騰写印刷を練習する。
(3) 活版印刷の利用について調べる。
(4) 文書の取扱と整理の方法を実習する。
(5) 文書事務用具の取扱に慣れる。
(6) 学校の文書事務はどのように行われているかを調べ,これを手伝う。
(7) 図書館や学校の図書はどのように整理されているかを調べ,文書の整理はどのように行えばよいかを考える。
(8) 自分の家で商店を経営しているならば,その文書事務はどのように行われているかを調べる。
(9) 会社などで実際に行われている文書事務について,見学・調査する。
第4 学習指導計画の一例
2.目 標
(2) 複写・筆記・筆写の技能を養う。
(3) 文書の整理を合理的に行う知識を養う。
(4) 文書事務をとおして事務能率を増進する態度・習慣を養う。
(2) 送金案内状はどのように作るか。 1〃
(3) 入金通知状はどのように作るか。 2〃
(4) 支払延期の懇請状はどのように作るか。 1〃
(5) 商品代金の督促状はどのように作るか。 2〃
(2) 生徒に読ませる文例を用意する。
(3) 請求書用紙・領収書用紙を用意する。
(4) 送金小切手や当座振込副報告書などのひな型を用意する。
b.遠方への送金には,銀行かわせ(為替)(送金かわせ・当座振込・代金取立など)や郵便為替の方法が用いられること,およびその取組みの手続き。
c.代金支払時期には,前払・現金払・あと払の三つがあり,あと払のときは,売手は買手に対して,あらかじめ請求書によって請求しなければならないこと。
d.代金の請求・督促の適否は,ただちに経営の資金計画に影響をおよぼすたいせつなことであって,ことに金詰りの時期にはこの事務が重要であること。
(3) 取引を想定して,請求状と請求書とを作る。相手の生徒へ送る。
(4) 取引を想定して,あるいは受取った文書に対する返事として,次の文書を作る。
c.支払延期懇請状 d.代金督促伏
(6) 請求書用紙・領収書用紙を謄写印刷する。
(7) 相手の生徒から受け取った文書を批判したり,教師から示された不完全な文書を訂正したりする。自分の作った文書についても検討する。
(2) 請求書の作成については,珠算および商業計算科の「取引先との貸借の決済」を取り扱う単元と連絡を保つこと。
(3) 通信文の仕上げについては,和文タイプライターを利用すること。
(4) 国語科と,芸能科書道特に硬筆習字の学習は,この科目の学習にあたって,基礎的な役割を持つものである。
(2) 文書作成に関する知識の正確さを,添削法によって見る。
(3) 謄写・複写・筆記・筆写の能力を品等法によって見る。
(4) 文書整理の知識の正確さを,文書番号の打ち方が適正であるかどうかによって見る。
(5) 能率的な執務態度が養われているかどうかを,学習態度によって見る。
第5 参 考 書
書 名 著 者 発 行 所
商業通信文の実際 大 井 魯 斎 東 栄 堂
商業作文新講 黒 田 保 ダイヤモンド社
文書実務 田 中 安 人 実業の日本社
文書整理の事務組織 大 田 文 平 青 山 書 院
文書整理の実務 日本能率協会 日本能率協会
事務文書の書き方 〃 〃
新事務必携 上 野 陽 一 同 文 館