第13章 簿 記 会 計

 

 第1 目 標

 第2 単元の例

    第1部 簿記の基本原理と商業簿記

    第2部 銀行簿記     第3部 原価計算と工業簿記     第4部 会 計 学     第5部 英 文 簿 記  

 第3 学習指導上の要点

 1.簿記会計科は,商業科の各科目の中でも,最もよく商業科の特色を示す科目の一つである。従来,わが国社会の一般風潮として簿記会計の知識が,あまり普及していなかったことが,経済の再建・発展をどのくらいにぶらせているかは,測り知れないほどであろう。経営活動を記録し計算し整理する技能と,これを実際に応用する能力とがあって,はじめてわが国の経済は,立ち直り,発展することができるであろう。経営活動を数字的にあいまいにしておいてはその目的は達せられないから,経理を,正確・めいりょうに処理する態度や習慣を養うことはきわめてたいせつなことである。

 また,経理事務担当者としての資質を養うばかりでなく,経営者として,監督者として,あるいは,一般投資家として,経理を理解することも,この科目の目標とするところである。さらに一般社会生活においても,およそ金銭出納の行われる場合に,この科目で学習される簿記の知識や技能を応用して,正確・めいりょうに,それを処理して行く態度・習慣を養うことも,大いに必要である。

 2.この科目の学習には,理論の理解と技術の錬磨との両方が必要である。高等学校の段階においては,むしろ,理論よりも技術の方が重要とされることが適当であうう。したがって学習にあたっては,記帳練習を中心として行くのがよい。特に,初歩の基本的部分については,このことがたいせつである。

 この科目は実務性の濃厚な科目であるから,学校で習得した知識や技能が,実務について,活用できるように学習されなければならない。したがって,この科目の指導にあたっては,常に,実務に役だつように研究し,くふうすることが必要である。

 3.この科目の内容は,広い分野にわたっているから,どの分野を,どのくらい学習するかということは,学校や生徒の事情によって,選択のしかたが異るであろう。また,どのような順序で,それぞれの分野を学習して行くかということについても,学習の効果を学習する生徒にとって,できるだけ大きくするように,よく考慮されなければならない。

 この科目の内容と指導の順序ならびに学校や生徒の事情による選択のしかたについて必要な注意事項を示せば,次のとおりである。

 Ⅰ  第1部 簿記の基本原理と商業簿記

単元 1.帳簿は,どのように記入するか。

単元 2.小規模で取引の簡単な事業では,どのような記帳が行われるか。 単元 3.商品売買業では,どのような記帳が行われるか。 単元 4.企業の形態と規模の相違によって,どのように記帳の方法が異なるか。     第2部 銀 行 簿 記

単元 1.銀行の取引の記帳には,どのような特色があるか。

単元 2.現金式仕訳は,どのように行われ,どのように記帳されるか。 単元 3.預金・貸付・割引などの取引は,伝票や帳簿にどのように記入されるか。 単元 4.各種の勘定は,元帳にどのように記入されるか。 単元 5.銀行の財務諸表は,どのように作られるか。 単元 6.銀行簿記には,どのような特殊な問題があるか。     第3部 原価計算と工業簿記

単元 1.工業簿記には,どのような特色があるか。

単元 2.製品の原価はどのように計算され,記帳され,集計されるか。 単元 3.製造形態の相違によって,原価計算や記帳の方法は,どのように異なるか。 単元 4.原価計算と工業簿記には,どのような特殊な問題があるか。     第4部 会  計  学

単元 1.会計学は,どのような内容を持っているか。

単元 2.貸借対照表について,どのような問題があるか。 単元 3.損益の計算と処分について,どのような問題があるか。 単元 4.財務諸表は,どのように利用されるか。 単元 5.会計監査とは,どのようなことか。また,会計士とはどのようなものか。 単元 6.会計に関する法規には,どのようなものがあるか。     第5部 英 文 簿 記

単元 1.英文で,仕訳帳や元帳は,どのように記帳されるか。

単元 2.英文で,いろいろな補助簿は,どのように記帳されるか。 単元 3.英文で,伝票や証ひょう書類は,どのように記入されるか。 単元 4.英文で,いろいろな財務諸表は,どのように作られるか。  Ⅱ 簿記の基本原理と商業簿記は,商業課程においては,必修科目とするのが当然であろう。原則として,第1学年において学習することが望ましい。ただし中学校において,簿記の基本的学習が,すでになされている生徒にとっては,基本原理の部分は,省略してもさしつかえはない。また,商業経済科や,珠算および商業計算科などの基本的な商業科目の進度と調子を合せて,互の学習を効果的に進めることは,第1部の段階において,特にたいせつなことである。

 従来の簿記の学習においては,初歩の段階から,商品売買業を対象として,いわゆる商業簿記として出発するのが普通であった。上記の例に示された内容は,これと趣きを異にして,まず,洗たく屋や理髪業のような,いわゆるサーヴィス業を対象として,複式簿記の基本原理,たとえば,借方・貸方の記入の原則や,決算の手続などを,理解して行くという方法を探っている。その理由は,サーヴィス業の経営活動には,商品が無いから,商品売買業に比較して記帳が簡単であること,また,その結果として,決算整理を省いて,帳簿決算を行うことができることなど,初歩の段階としては,利点が多いことによるのである。

 サーヴィス業を対象とした学習によって,複式簿記の一順の理解をひとまず得たところで,商品売買業の簿記にうつる。すなわち,従来,商業簿記と言われたところが,これにあたるわけである。この部分で,商品売買取引の記帳やそれに用いられる諸帳簿,および,整理事項を含んだ決算について学習するようにする。すなわち,商品勘定を中心とする記帳方法と,帳簿組織と,決算整理とについて習得して行く。

 第1部の終りの部分は,以上の学習からさらに発展した問題や,重要であるため特に細かい学習を要することや,その他いろいろな特殊な問題を取り上げたのである。監査や会計士制度については,その内容については,特に第4部の会計学の分野で取り扱うことにして,ここで取り扱う範囲は,会計学を選択しない生徒にとっても必要とされるあらましの程度にとどめて,その関係を調整することが必要である。

 商業課程においては,第1部の単元の全部にあたって学習することを原則とするのがよいが,商業課程でない場合には,必ずしも,この全部の単元にわたる必要もない。最後の単元を省いてもさしつかえはないであろう。

 商業課程の特色を示す簿記会計科において,その基礎となるものが第1部であるから,これにあてられる学習時数は,なるべく多くすることが望ましい。

 全部の単元を学習するには,年間140時間ないし175時間を適当とするであろう。

 Ⅲ 銀行簿記と工業簿記との二つの分野は,簿記の基本原理を銀行経営および工業経営へ応用したものを取り扱うのであるから,これらの学習には第1部が学習されていることが前提となる。

 銀行簿記は,簿記をとおして,銀行の経理方法や銀行経営の内容・本質を理解することを目標とする。しかし,それと同時に,第1部の発展としての意味を持っていることも見のがしてはならない。たとえば,精密な帳簿組織や伝票制度や日記帳制度など,商業簿記よりさらに程度の高い学習をするという意味において取り扱うことが適切であろう。

 また,最近の銀行実務は,内容的にも,形式的にも,戦前と比較して,著しく変ってきているから,その実務について,よく研究して指導するように注意しなければならない。

 工業簿記の学習にあたって,常に考慮しなければならないのは,なるべく,技術的の方面に重点をおくことであって,理論的な説明に深入りしないほうがよいであろう。工業簿記の特殊な問題としては,等価比率計算を例としてあげたが,そのほかにも重要な問題を取り上げて,この単元に入れることがよい。ただその場合も,なるべく普遍性・重要性の多いものを選ぶことが必要である。

 銀行簿記・工業簿記を,どのように学習するかについては,まず,第1部と異なりこの二つの分野は,原則としてともに,選択科目とするのがよい。選択の方法は,学校によって,生徒の就職状況や地域性などを考慮して指導し,生徒の志望により,一分野,または二分野を選択できるようにすることが望ましい。

 銀行簿記・工業簿記は,それぞれ年間70時間ないし105時間で学習するのが普通であろう。しかしまた,ある学年において,同時にこの二分野を学習する場合には,1年を2期に区分して,上記の時数をまとめて行うのが適当であろう。

 Ⅳ 会計学については,経済安定本部から企業会計原則および財務諸表準則が発表されているから,これに基いて,学習の内容を定めるのがよい。会計学は,財務諸表の中で,特に貸借対照表の内容と形式を問題とし,内容はおもに財産評価の問題を中心としてきた。しかし,最近の会計学の中心は,貸借対照表からしだいに損益計算書に移ってきていることを注意しなければならない。したがって,損益についての学習を,従来よりも重視しなければならないであろう。いずれにしても,会計学の本来の姿は理論ではあるけれども,高等学校の段階においては,むしろ,理論に深入りしないで,財務諸表の形式の問題に主眼を置き,これを読むことができ,また,作ることができるように指導することが適当であろう。会計監査と会計士制度についても,内容の理論は簡単にして,具体的な手続の問題および制度の問題に重点を置くのがよいであろう。

 会計学は,第1部を終った後で学習するものであることは,いうまでもない。したがって,第2学年または第3学年において,選択して学習するのが適当である。ただし,銀行簿記・工業簿記と同一年度とならないことが望ましい。それは,ある年度において,簿記会計科の各分野が,あまりにも多くまとまりすぎることは,学習の効果を高めることにはならないからである。

 会計学を先にするか,銀行簿記,工業簿記を先にするかは,いずれでもさしつかえはないであろう。しかし,普通には会計学は,最高学年において学習される場合が多いと思われる。この分野は,生徒の自由な選択にまかせるのがよい。

 Ⅴ 英文簿記は,英語の学力を基礎とし,貿易業に従事する場合などに役だつように,英文による簿記の能力を養うことを目標とする。英文簿記としては,英文による会計学書について学習することも考えられるが,このような原書講読式の方法は,高等学校の英文簿記として適当とはいえないであろう。

 この分野は,最高学年において学習するのが,生徒の英語ならびに簿記の学習段階から考えて適当であろう。学習時間は,年間35時間ないし70時間とするのが適当であろうし,生徒の志望によって自由に選択する分野とするがよい。

 4.例題の取り扱いについて

 簿記会計科の学習について重要なことは,例題の記帳によって,知識・技能を身につけることである。教師も生徒もともにこの点によく注意しなければならない。例題記帳については,次の事項を心がけて実施することが望ましい。

 五つの分野について,例題記帳の度数の例を示せば,次のとおりである。

  第1部  単元1および2   5例題以上

       単元3       5 〃

       単元4       4 〃

 例題は,取引の開始から決算の終了まで一貫した例題とは限らないで,各単元について,その単元で取り扱った対象についての部分的な例題であってもよい。各単元で多数の部分的例題を経験して記帳に慣れて行くほうが,一営業期間を一貫した例題のみを数少く行うよりも,むしろ効果が多いと思われる。

 例題の内容は,だんだんと簡易なものから複雑なものに発展させて行くのがよい。たとえば決算整理についても,初めは商品たな卸と,固定資産の減価償却とにとどめ,だんだんと,未経過勘定や未・未払勘定などに及ぶようにする。

  第2部 原則として各単元ごとに例題を記入する。各単元で取り扱う部分について,まず部分的例題を記帳し,これを累積して,一営業期間を一貫する取引例題に発展させて行くのがよい。ただし,一貫した例題として,少くとも2例題以上を記帳するがよい。

  第3部 単元1で一営業期間全体の取引の例題を記帳し,単元2で,材料費・労務費・経費および間接費について,それぞれ部分的例題を記帳する。単元3では,個別原価計算と総合原価計算について,それぞれ記帳する。

  第4部 これは従来は,まったく例題を記帳しない場合もあったが,単元2,単元3,単元4で,部分的例題を記入し,最後に財務諸表を中心とした,一営業期間を通ずる総合的な例題を記帳するのがよいであろう。

  第5部 英語によって取引の開始から,決算の終了,財務諸表の作成までの一順の例題を記帳し,これを中心として学習を進める。すなわち,英文簿記の学習は,まったく,例題中心とすることが望ましい。

 この科目の学習についての,準備と活動の例を示せば次のとおりである。

 以上の五つの分野のそれぞれについて,準備と活動も異なるわけであるが共通した要点をあげることにする。

 1.教師の準備と活動

 2.生徒の準備と活動  

 第4 学習指導計画の一例

 1.単元名 小規模で取引の簡単な事業では,どのような記帳が行われるか。

 2.目 標

 3.教材区分と時間配当  4.準備と資料(4)についての例のみをあげる。  5.学習活動(4)についての例のみをあげる。  6.他の教科科目との関連  7.評 価

 主として,生徒の記入した帳簿について,次の項目を評価する。

 

 第5 参 考 書

    書   名          著   者          発 行 所

   簿記の手ほどき        片 野  一 郎       同  文  舘

   簿記入門           沼 田  嘉 穂       千 倉 書 房

   商業簿記提要         吉 由  良 三       同  文  舘

                  田 島  四 郎

   商業簿記           黒 沢    清       千 倉 書 房

   改訂商業簿記         太 田  哲 三       産 業 図 書

   商業会計           村 瀬    玄       東洋出版社

   新訂銀行簿記提要       吉 田・ 田 島       同  文  舘

   金融業会計          太 田  哲 三       東洋出版社

   銀行簿記計算法        下 野  直太郎       同  文  舘

   新銀行簿記精義        川 口  酉 三          〃

   銀行簿記大綱         木 村  利三郎          〃

   実践銀行簿記         国 吉  省 三       平 野 書 店

   銀行実務誌          原      静       同  文  舘

   新訂銀行簿記         太 田  哲 三       高 陽 書 院

   新銀行会計研究        長谷川  安兵衛       森 山 書 店

   銀行会計学             〃           泰  文  社

   標準原価計算         山 辺  六 郎       千 倉 書 房

   新工業簿記          山 下  勝 治          〃

   原価計算入門         今 井    忍          〃

   三訂工業簿記提要       吉 田・ 田 島       同  文  舘

   原価計算提要         沼 田  嘉 穂       真  光  社

   標準原価計算         松 本  雅 男       同  文  舘

   工業会計           吉 田  良 三       千 倉 書 房

   工業会計・原価計算      太 田  哲 三          〃

   工業会計概論         土 岐  政 蔵       同  文  舘

   工業簿記と原価計算      吉 田  良 三          〃

   原価計算           長谷川  安兵衛       ダイヤモンド社

   原価計算総論         杉 本  秋 男       同  文  舘

   原価計算研究(1—2)    土 岐  政 蔵       森 山 書 店

   原価計算法綱要        渡 辺  寅 二       同  文  舘

                  渡 辺  義 雄

   配給原価計算         山 城    章       千 倉 書 房

   原価会計学(上・下)     長谷川  安兵衛       泰  文  社

   原価計算と価格政策      土 岐  政 蔵       創  元  社

   原価計算           吉 田  良 三       東洋出版社

   工業会計           日本会計学会         森 山 書 店

   原価及び原価計算           〃             〃

   原価計算               〃             〃

   工業会計           黒 沢    清       千 倉 書 房

   会計学            高 瀬  莊太郎       日本評論社

   会計学            太 田  哲 三       千 倉 書 房

   会計学講話          吉 田  良 三          〃

   会社財務諸表論        沼 田  嘉 徳       千 倉 書 房

   企業会計原則         黒 沢    清       中央経済社

   簿記原理大綱         上 野  道 輔       有  斐  閣

   簿記会計精義         沼 田  嘉 徳       同  文  舘

   近世簿記精義         吉 田  良 三          〃

   簿記学            原 口  亮 平       干 倉 書 房

   例解源記会計精義       井 上  達 雄       森 山 書 店

   簿記精説           片 野  一 郎       同  文  館

   貸借対照表論         高 瀬  莊太郎       東洋出版社

   会計学要論          杉 本  秋 男       同  文  舘

   会計学概論          太 田  哲 三       高 陽 書 院

   貸借対照表学講話           〃          厳  松  堂

   経営経理論          古 川  栄 一       千 倉 書 房

   貸借対照表論         上 野  道 輔       有  斐  閣

   会計監査           吉 田  良 三       同  文  舘

   会計監査           日本会計学会         森 山 書 店

   会計監査           渡 辺・ 渡 辺       東洋出版社

   会計監査           三 辺  金 蔵       千 倉 書 房

   会計監査           原 口  亮 平          〃

   会計監査           渡 辺・ 渡 辺       実業教科書

   英文簿記提要         村 瀬    玄       新 思 潮 社