第四章 学校保健事業

 

第一節 学校保健事業の意義

 学校保健事業というのは,学校において児童の健康増進のために,たとえば,身体検査・学校給食・健康相談・虚弱児童の養護・病気の予防処置・救急処置等,従来の学校衛生で具体的学校衛生養護の施設といわれたものを中心とする仕事であって,学徒の発育健康の状態を直接に調べ,また必要があるものについては具体的に保護を加え,健康の保持増進をはかる仕事のいっさいを含むものである。  

第二節 学校身体検査

 一 目   的

 教育は常に児童の心身の発達に応じて行われるべきであるから,教師および学校当事者は,児童の個々について,その心身の状態を正しく知っておかなければならない。また児童に対しては,自分の発育・健康等について正しい理解を持たせ,その保持・増進等について,正しい態度をとるように指導しなければならない。

 学校身体検査は,前述の要求に基いて,児童の身体異常を発見し,適切な処置を講ずるために行うものである。したがって学校としては綿密な検査と結果の処置をぜひ適切に行わなければならない。

 二 身体検査の準備  検査を実施するには,職員・児童・父兄のすべてが,検査の目的をじゅうぶんに理解して,みなが協力一致してこれにあたることが必要である。特に直接に関係する人々は,各自の責任の分担をよく理解していることがたいせつである。

(一)職員・児童

1.学 校 長  検査計画に基いて必要な準備が完全にされるよう監督する。また校長は身体検査の実施について,家庭に通知,連絡する。 2.保健主事  学校保健委員会や適当な関係者と身体検査準備協議会を開き,身体検査の実施計画について詳細な打合せをする。

 この協議会においては,主として,検査期日・一日の検査人員・学級の検査日割・検査の場所・教員の配置・検査補助者の配属・検査の範囲・方法・検査の順序・記載方法・注意事項・身体検査の結果処理等について打ち合せをする。

 保健主事はまた,各教師,養護教諭等と連絡して,分担事項が完全に推進できるように努める。

 保健主事は養護教諭とともに学校医・学校歯科医とじゅうぶんな打合せを行い,検査に関し,学校医・学校歯科医からの希望を実現するように努める。

3.教   師  担当学級の身体検査表を整備し,児童に検査計画の内容・方法・手順・その他につき,あらかじめじゅうぶんな知識を与えて置く。また児童に,検査についての注意事項をよく徹底させ,検査が支障なく進行するように努める。さらに検査当日,その児童について平素の観察上特に検査医に連絡を必要とする事項についての整備や,検査結果の家庭連絡についての準備等をする。 4.養護教諭  検査場の準備・検査用具の点検・整備・児童の健康記録の整理・平素特に注意を要した児童について,検査に際し,検査医に報告連絡すべき事項について準備する。 5.学校医・学校歯科医  身体検査を完全に実施するため,検査についての必要事項を,学校当局とあらかじめ打合せをする。また他の医師の協力を必要とする場合においては,方法・結果の判定について,差異を生じないよう,あらかじめじゅうぶんな打合せをする。 6.検査補助者  補助すべき自分の分担事項について,じゅうぶん了解するとともに,手順・方法・記載・その他に関して,疑問があればあらかじめ,その点をめいりょうにしておく。 7.児童  児童は示された諸注意をよく守り,また示された検査項目や方法,順序をよく理解し,検査の進行に協力し,検査前日の入浴・検査に便利な服装・検査医に相談すべき事がら等について,あらかじめ要点をはっきり知っておく。
(二)検査室・検査用具  検査場としては,静かな室を選ぶ。採光・換気・暖房等についてじゅうぶんな考慮を払う。検査項目・順序に従って必要な検査場を適当に配当する。

 検査によって,脱衣の必要あるものについては,脱衣室を用意する。検査用具は一応検査実施前に全部点検する。たとえば測定器具の確否・試視力表・色盲検査表の鮮明度・その他,必要な衛生材料の用意等,全般にわたり,計画どおりの検査ができるように準備する。

 三 検査の実施  身体検査は,学校身体検査規定に示された検査項目・検査報告等によって実施しなければならない。なお実施事項,検査方法等をよく知って,検査の適正を期さなければならない。目的に対しては,各人が一体となりたがいに協力して同一目的の達成に努力することがたいせつである。測定については,たびたび計測者を変更することなく,終始同一人にあたらせることが必要である。

 学校長は身体検査が計画どおりに進行しているかどうかを監督する。

 保健主事は,身体検査の進行状況に注意し,検査が円滑に適正に行われるように努める。担任教師は児童の身体検査の際は,必ず検査に立ち合い,平素の観察の結果を検査医に連絡するとともに,検査医の指導事項を記録する。

 養護教論は,主として,検査医の検査補助にあたる。検査医は,担任教師・養護教諭等の健康観察の結果をよく聞き取って,なるべく精細な検査を行うように努める。なお,設置その他の事情によって,必要がある場合は,保健所その他と緊密に連絡し,その適正を期する。児童は静かにし,検査についての指示を正しく守り,他人の検査の邪魔にならぬよう,常に注意し,医師や養護教諭の注意や説明を聞きもらさないようにする。

 四 身体検査の結果処理  児童の健康の指導上,最も緊要なことは,身体検査の結果処理を適正にすることである。次に結果の処理について,その概要を述べる。

(一)身体検査票の整理

 身体検査票の整理が完全でないと,適切な個人指導ができないし,統計の正確さも失われる。したがって教師は,担当児童の身体検査表について,記入洩れや,誤り等について,精細に調査しなければならない。同時に児童のひとりひとりの発育健康の状況をくわしく知ることが必要である。 (二)本人と保護者への通知  身体検査の結果を本人と保護者に通知して,その発育と健康状態を知らせ,必要なときは適当な措置がとられるよう,指導しなければならない。 (三)家庭との連絡  養護教諭は保護者に身体検査の結果を詳細に説明して,事後の措置について話し合いをする。またその後たびたびこれをくり返して,はたして指導が適正に行われているかどうか,また児童の健康状態に変化はないかどうかについて話し合いをする。 (四)学級編成上の考慮  児童の発育,健康状態を考慮して,学級を編成する。特に身体虚弱・精神薄弱・その他,心身の故障のある児童については,特殊学級を編成することが望ましい。 (五)座席と机・腰掛の考慮  児童の発育状況を考慮して,適当な机・腰掛を配当し,また聴力・視力のふじゅうぶんな者等に対しては,座席を適正に配置する。 (六)疾病異常者に対する処置  疾病異常のある児童に対しては,その治療について主治医・保健所その他において適切な指導を与えるとともに,その指導事項の励行について,本人と保護者に勧奨する。

 教師と養護教諭はこれらの児童について,特に継続して観察する。

 学校においては,健康相談・予防措置等を行い,健康の保持・増進に努める。

(七)身体検査統計の作成と活用  身体検査の結果を集計整理し,身体検査統計を作製し,グラフまたは表にして適当な解説を加えて展示することは,学校における保健状態の改善,健全な学校保健計画の推進等に対する児童・教師・保護者の関心と協力を高めることに効果がある。  
第三節 学校健康相談

 一 目   的

 学校保健のうち健康相談は重要な位置をしめる。健康相談は,身体検査の結果発見された疾病異常のある児童に対して定規的に健康相談を行い,適切な健康指導を与え,さらにまた教師と養護教諭の日常の観察によって,その必要を認めた場合,保護者が希望する場合にも健康相談を受けさせる。これらの健康相談のときには,担任教師・養護教諭・保護者等が立ち合うことが望ましい。  二 健康相談において取扱われる事項  健康相談には,いろいろの相談が持ち込まれ,指導が求められるのであるが,そのうちおもなものをあげればだいたい次のようなものである。

 結核要注意者の取扱と発病防止・ツベルクリン反応陽転者の取扱と生活指導・病後児童の取扱・虚弱体質のものの取扱・発育状態の良否・学科負担能力についての調査・最近不活発・その他異常を感じさせるものの原因調査・きょう正指導・疾病異常の有無検査・進学に対する相談・長期欠席の相談・栄養指導・非衛生的習慣の是正等が取り上げられる。

 三 運営方法  学校における健康相談は少なくとも毎週一回は行われることが望ましい。教師と養護教諭はあらかじめ健康相談を受ける必要のある児童を選定しておく。学校医は相談事項・検査状況・指導事項等をくわしく記録し,指導の適正を期する。またX線検査・赤沈検査・検便・検尿等の必要がある場合には,保健所等と連絡をとり,その協力を得て,適正な処置をする,養護教諭は,健康相談においては教師と家庭との連絡の中心となり,また公衆保健施設と緊密な連絡をとることに努める。

 

第四節 学校歯科衛生

 一 学校歯科衛生の必要性

 学校歯科衛生は,生徒児童に,歯をたいせつにする態度を養い,歯と口の中の疾病の予防や健康の増進のための知識を与え,歯科衛生上正しい習慣を生活化させ,歯疾の予防的処置の実施をはかり,現在はもちろん将来とも,歯の健康を保ち,健康な人間の育成をはかろうとするものである。

 小学校の年代において,すでに,歯の疾患は,最も多い病気の一つであって,これを無視しては学校保健のプログラムを考えることはできない。また永久歯のむしばは,小学校入学とともに始まり,中学校卒業ごろまでに急増する。

 だれでも,みな,一生がい自分の歯をいためずに完全な機能をもつことができればよいと思い,また,自分たちのこどもには,ぜひそうさせたいと願うであろう。

 しかし,もしほんとうにこのことを達成しようとするならば,こどもの時代から始めなければならない。そして,これは,歯を愛護する態度と,歯の衛生の知識と習慣を与え,予防的処置を実施することである。

 学校は教育実践の場であり,これらの必要な事がらが,集団的に,系統的に好ましいふんい気の中で行われるのであり,さらに,小学校は,年齢の点からみても歯の健康を達成するための最良の機会である。

 二 学校歯科衛生の目標  学校歯科衛生の目標としては 1.栄養を完全にし,よくかむことを励行し,歯の形成,口腔の発育をはかること。

2.歯と口の中をきれいに清掃し,疾病を防ぐこと。

3.種々の予防的処置,特に早期発見・早期処置を行ない歯疾を防ぐこと。

 が特に中心となるべきものである。

 この目標を達成するためには,教科内外における歯科衛生教育と訓練・歯牙の検査・その結果に基く予防的処置の実施等が行われるのである。

 三 歯の検査  なんの病気でもそうであるが,とくに歯は一度生じた欠損をみずから修復する性質がないのでむしば,その他の異常は早期に発見し,早期に処置をする必要がある。

 特に小学校・中学校の時代には歯をよく検査し,適当な処置を講ずることが必要である。

 学校における歯の検査は,児童の福祉の上から必要であるばかりでなく,児童に,歯は一生がい定期的に検査を受けなければならないものであり,かつ,その結果に基いて必要な処置を受けなければならないものであることを教育する目的をもっている。

 歯の検査の回数は,一年に二回が適当と考えられる。

 歯の検査の項目は,検査後の処置の点からみても,また,経年的に変化を観察する上からも,乳歯・永久歯のすべての歯について,その出齦(ぎん)・う蝕(しょく)・喪失・処置の状態が歯式の上に記入され,また,口腔の軟組織や,かみ合せの状態を記入することが必要である。

 四 検査後の処置  歯の検査の結果発見された欠陥の修正は徹底的に行われなければならない。それでなければ検査の価値はほとんどないといっても過言ではない。このことが,学校当局にも保護者にも,きわめて不徹底であったことは,大いに反省されなければならない。

 校内で処置を行うことは,わが国の諸般の現状からみて,処置を普及させるのに有効な方法の—つである。

 このさいの経費は,市町村・PTA・国民健康保険の利用などのほか,必要により児童から徴収することもできる。

 受持教師は,治療完了について児童と保護者にじゅうぶんの勧告をする。学校もまた,学級ごとに処置完了者率の競争を行い,学年末に処置率の優良な学級は適当な表彰を行うなどの奨励方法をとるのが望ましい。

 いづれの場合でも,児童と保護者に早期処置の必要を知らせることがたいせつである。

 五 予防的処置  最近は,むしば予防の新らしい方法が研究されており,むしばの発生を半数ぐらい予防することができるといわれている。

 しかし,これらの方法をもってしても,なお,むしばを完全に予防するまでにいたるとは考えられないから,初期のむしばを早く処置する必要性は,今後もなくならないことに留意すべきである。

 六 歯科衛生教育  わが国民は衛生思想,特に歯科衛生に対する認識が文明外国人に比べてはなはだ低いので,今後大いに歯科衛生教育を高めなければならない。

 従来,わが国で,学校歯科衛生といえば,学校歯科医が主働者となって行う医学的活動と考え,教師はよそごとのような態度をとっていた場合もあったが,これははなはだしいまちがいであり,学校歯科衛生の半面にしか相当しないのであって,他の半面は実に歯科衛生教育である。

歯科衛生教育を行う者は,学級担任教師が主働者であって,養護教諭・養護助教諭はこれに協力し,学校歯科医は,特別の場合にみずから教育を行うほかは,教師に対する専門的知識の助言者となって活動すべきである。そのためには,学校歯科医にカリキュラムにおける歯科教材についても相談するなど,積極的にその知識を活用すべきである。

 教育の機会としては,各教科内においてはもちろん,教科外においても,身体検査・予防的処置・処置の勧告・学校給食など多くの機会があり,またむしば予防週間の行事の際には,特に教育を集中強調することができる。教育の内容としては,第五章健康教育の内容の項にいろいろあげてあるが,歯の衛生に関する態度や知識のほかに,歯科衛生上守るべき習慣を生活化させることが必要である。

 生活化させるべき習慣としては

1.つりあいのとれた食事をすること。

2.糖分を食べすぎないようにし,食べたあとではうがいなどをすること。

3.一日二回以上正しく歯をみがくこと。

4.一年に二回歯の検査を受け,悪いところは早く治療すること。

5.食べものはよくかむこと。

などは,特にたいせつな事項である。

 これらの事項は,習得するまで反復して教育し訓練しなければならない。

 

第五節 学校給食施設  学校給食は児童の保健上のみならず健康教育を行う上から重要な施設であって,小学校においてはすでに広く実施され,その価値も認められている。  一 学校給食を通じて行う健康教育  児童に対して行う場合には,栄養・食事・食生活等について,健康教育のつとして学校給食を通じ,正しい知識・習慣・態度の育成に努めることが必要である。すなわち次の事項について指導する。

(一)正しい食事のしかた

1 食前の手洗い

2 正しい姿勢

3 よくかむ

4 偏食をしない

5 食べ過ぎをしない

6 食後の休息

7 食事のときのあいさつ

(二)食事のしたく・かたづけ 1 食器の清潔な取扱

2 食卓の清潔

3 汚染防止(はいを防ぐ)

(三)保健と栄養 1 体をじょうぶにする食べ物

2 食品の適当な量と質

3 食物の消化と吸収

4 不潔な食物,食物と病気

5 食物の調理について

6 食品の保存方法について

 二 給食時における教師の心得  児童に給食する場合に教師は次の事がらについて注意しなければならない。

(一)児童に対する保健上の注意

 献立や調理が適しているかどうか,味はどうか,食器が清潔であるか,食品の分配に際して不潔な取扱のないようにする。児童が楽しく食事をしているか,偏食をなおす指導等について注意する。 (二)教育的取扱  給食が教育的に行われているかどうかを絶えず反省する。(たとえば児童に対して食前の手洗をすすめながら,教師自身が手を洗ったかどうかということは,教育者として深く反省してみなければならない)。社交的ふんい気がつくられるように努める。  食事の作法を指導する。
 三 学校と家庭との連絡  学校内では学校保健委員会・学校給食実行委員会・保健主事・健康教師・養護教諭等が協力して,学校給食事業の計画をたてて実施するが,保護者またはPTAとの連絡をはかってよい良い学校給食が行われるように努めなければならない。

 たとえば児童が家庭でどのような食事をしているかを調査したり,学校給食に対する保護者からの希望を集めたりして,その結果に基き家庭で摂取されにくい栄養物を学校給食により補給するような献立を作成するための努力を払い,また児童に適した食物の栄養的な指導を保護者に対して行うとか,学校給食調理に母親を参加させることなどによって,給食に対する理解と関心を高めることも考慮するのがよい。(学校給食の手引書参照)

 

第六節 特殊児童に対する養護施設  身体虚弱,精神薄弱その他心身に故障のある児童に対しては,特殊学級を編成するか,あるいは養護学校を設立して,教育するとが望ましい。  一 特殊学級  身体虚弱・精神薄弱・難聴・弱視,どもり・肢(し)体不自由などの児童に対しては,それぞれ,その心身の状態別に特殊学級を編成して,養護の適正を期することが必要である。この一学級の定員は,おおむね三十人以下であることが望ましい。  二 養護学校  これは盲学校ろう学校と同様に,心身に故障のある児童を収容して教育する特殊教育機関である。

 養護学校は,特殊学級と同様に心身の状態別に児童の必要を満すことのできる専門の訓練を受けた教員によって運営されることが望ましい。また同一学校に身体虚弱・精神薄弱などの児童をいっしよに収容させる場合は,学級は必ず心身の状態別に編成されなければならない。

 

第七節 予 防 接 種

 一 目   的

 わが国には毎年多数の伝染病が発生し,このため生命を失う人も多いのだが,それらの病気のうち大多数は予防接種によって病気にかかるのを防ぎ,またはかかったとしても病気の程度を軽くすることができる。伝染病は,個人に対して大きな苦しみと失意を与えるばかりでなく,社会的にも大きな不安をひき起し,国や地方自治体の財政に及ぼす影響も少なくはない。そこでわが国ではこのような伝染病の発生や流行を防ぐ手段の一つとして予防接種法が制定され,だれでもこの法律による予防接種を受けなければならぬことになった。伝染病予防には予防接種ばかりでなく,上下水道の完備・環境衛生の向上・患者の隔離・消毒・健康診断等の方法も同時に行わなくてはならないが,最も簡単に実行でき,しかも効果の大きい予防接種がまず確実に励行されることが望ましい。  二 種   類  予防接種法によって次の十二種の病気について予防接種が行われる。これらの病気のあるものは,現にわが国にたくさん発生して居るし,またあるものはたくさん発生する危険がある。しかもこれらの病気の予防にはいづれも予防接手種が有効に作用するからである。

1.痘(とう)そう(天然痘)

2.ジフテリヤ

3.腸チフス

4.パラチフス

5.百日せき

6.結核

7.発しんチフス

8.コレラ

9.ペスト

10.しよう紅熱

11. インフルエンザ

12.ワイル病

 この中1から6までは定期的に予防接種が行われ7以下は流行の時や流行の恐れのあるときにのみ臨時的に行われる。

 三 猶予と免除  定期予防接種は市町村長がその期日を指定するが,この指定日にさまざまな理由で接種を受けることのできない人があるのは当然予想される。そのような人は市町村長に猶予を申請し,その旨の証明書をもらえばよい。しかし,理由が消滅したらただちに接種を受けなくてはならない。

 また予防接種をする必要のない人,たとえば痘そう,百日咳,腸チフス・パラチフスに現在かかっているかまたは過去にかかったことのある人,あるいは結核に感染していることが明らかな人などは,当然予防接種は免除される。これらの人々には,その人を診療した医師の届出によって,保健所長が証明書を発行する。

 四 小学校における予防接種  小学校での定期予防接種は,次のものがそれぞれの時期に行われる。 (1) 痘そう・ジフテリア  いずれも第六学年のものが,卒業前六カ月以内にうける。 (2) 腸チフス・パラチフス・結核  いずれも各学年とも毎年一回  学校長は児童の保護者が予防接種を受けさせる義務を怠っているときは,かれらにその義務を実行するよう指示しなければならぬし,また一方には児童に予防接種を受けさせることもできる。

 小学校では,このように相当ひんぱんに予防接種が行なわれる事になるが,この機会は児童に対して健康教育をする絶好のときと考えられるので,単に接種を機械的に受けさせることなく,接種前後に伝染病予防の必要性,公衆衛生に対する心構えなどをじゅうぶんに理解させるよう努めるべきである。

 定期的健康診断の記録・日常における児童の観察,結果など医師の参考となるものは用意しておかなければならない。さらに接種当日の健康状態をよく見きわめて,注意を要すると思われるものを選定し,それらを接種担当医師にじゅうぶん連絡することが望ましい。これらの児童はむしろ健康者と別に分けて扱うほうがまちがいはない。

 第一回の接種で副作用の強かった者は第二回以後同様慎重に取扱う。

 健康上の理由で接種をしてはならない者の選定は医師が行うのであるが,だいたいの基準は,次のようなものである。熱性病患者・衰弱の強い者・かっけ・じんぞう病・心臓病の者である。

 予防接種をしたあとの注意はあらかじめ接種前にしておいたほうがよい。つまり接種当日は入浴を控え,接種した部位は清潔に保つべきことなどである。ことに結核のように接種部位の変化が長く続くものは,その旨をよく説明しておかなければならない。

 予防接種後は引き続き学童の状態を観察し,若し副作用が強いような時は関係方面に連絡の上,その処置について指導し,いたずらに恐怖感をいだかせないように注意する。

 接種記録の整理保存はきわめて必要で,わが国では在来これが不完全であったためにいろいろの不便やまちがいが発生した。予防接種法によれば,市町村長は接種済の証明をしなければならないので,今後はぜひとも記緑を整備しなければならない。接種記録には最小限度姓名・年齢・居住地・接種月日・接種量・接種回数などが必要である。

 

第八節 伝染病の隔離  教師は児童の健康状態について常に観察を怠ってはならないが,特に朝の健康観察の際には,児童の顔色・発疹・表情・元気・行動等をよく観察して,病気の早期発見に努め,伝染性疾患あるいはその疑のあるものを発見した場合には,養護教諭に連絡してすみやかに適切な処置を講じなければならない。そして伝染病にかかった児童のあった場合には,学校医の指導のもとに,保健所や市町村当局と連絡をとり,規定に従って各所の消毒を行うべきである。これはまた一般児童に,伝染病についての健康教育を行うのに最もよい機会である。罹患児童の保護者に対しては,児童の出校を停止させて衛生上の諸注意を与え,速かに一般児童と隔離する処置をとらねばならない。

 特に風邪・百日せき・耳下腺(せん)炎(おたふくかぜ)・疥癬(かいせん),白癬等の伝染性皮膚病等については,往々にして朝の健康観察に際しても見のがしがちであるから,教師は速かに養護教諭並びに家庭に連絡して早期に治療させ,他の児童に伝染することを防止しなければならない。

 伝染病の治癒後,登校する場合には,主治医の検診による許可証を学校当局に提出してから登校させるよう,厳重に家庭に連絡することがたいせつである。

 以上のような伝染病の処置については,学校伝染病予防規程に詳細に記述してあるから,各教師はこの規程をよく研究して,速かに適当な処置を講ずるようにしなければならない。

 

第九節 安全と救急

 学校環境は児童のために最も愉快な学習生活の場であるとともに,また最も安全な生活の場でなければならない。そのためには環境の清潔・整頓等衛生的整備をなすとともに,腐朽・破損等によって危険を伴う校舎・校具・運動用具等は常にこれを完全に修理し,また運動場のガラス破片・かわら等の危険物は常に注意して取り除くようにしなければならない。

 特に火災の場合の避難方法と避難場所は平素常によく研究して,児童にも避難訓練等により安全対策を徹底しておくことがたいせつである。

 また,救急処置に対する器械,器具,薬品を完備する等,常に学校生活における児童の生命の安全を保障するようにしなければならない。

 児童の安全については,学校にいる時だけでなく,家庭にいる時もじゅうぶんの注意と指導がなされねばならない。安全対策やかれらを保護するための諸規則について徹底的に指導しなければならない。危険な事をしないようにと,禁止的指示を絶えず与えることはよい方法ではない。むしろ指導と教育に重点を置くべきである。学校の運動場・公園の広場・児童遊園地等,安全な遊び場を児童のために提供してやらなければならない。また児童はなるべく危険の少ないゲームや遊びを営むように指導しなければならない。また家庭においては,救急薬品や救急用品を備えておくよう注意をすることもたいせつである。

 児童の安全に最も重要なものは交通安全である。交通上の事故は傷害だけでなく生命を失うことが多い。したがつて交通安全については,徹底した訓練が行われねばならない。たとえば登校下校の場合に右側通行を励行すること,また踏切りを渡る場合は信号に注意し,左右をよく見て,電車・自動車・自転車等によく注意して渡ること,さらに道路上で遊ばないこと,乗り物の乗り降りのしかた等について指導と訓練を徹底しておかねばならない。