第六章 結  論

 

第一節 結果の評価

 学校の保健指導目標は,環境を健康に適した状態につくりあげるとともに生徒の健康生活に対する態度,習慣,理解を高め,さらに家庭,社会の保健に対して,理解と協力を与え,健康生活の向上を促進することにある。

 そして,これらの改善進歩は,その実情を一定の基準,方法によって評価,判定し,その結果にもとづき,次から次へと計画と指導とが進展することによってはじめて可能である。学校保健指導結果の効果の評価判定の方法は,教育の他の分野の評価の方法に類似していて次のような方法が考えられる。

 生徒の健康生活の向上改善の状態を評価判定するためには,三つの分野がある。すなわち健康生活に必要な習慣,態度,知識についてである。これらの分野については,健康教育計画の最初及び最後に,その状態を知ることが必要であり,また生徒の平素の生活を通して,他の者と比較して,その状態を知ることも必要である。

 知識を評価するには種々な方法がある。そして考査は健康教育計画樹立の前と実施の後とに行うことが必要である。最初の考査は生徒の実力を知り,また生徒の要求を知ることができ,指導の計画をたてる上に役立ち,後の考査では学習の効果を知り,指導の材料,方法について反省の資料を得ることができる。

 態度の評価については,適当な考査の方法を得ることは困難であるが,記述尺度法によればある程度,その目的を達することができる。あるいは次のような問題について生徒の意見を求めることによってもある程度の評価をすることができよう。

 その他平素の行為の観察や,個人的面接によっても評価することができる。

 なお日記や作文を書かせ,それによって評価することも効果的である。

 習慣についての評価判定は,健康生活の指導上,最も重要なことがらである。考査の方法としては,生徒の健康生活についての直接観察による方法と,父兄からの調査報告による間接観察による方法とによって,その習慣形成の状態を知ることができる。この場合記録表を用いればさらに効果的である。

 学校保健計画は,生徒の個人的健康の保持増進を図るとともに学校,家庭,社会の保建向上に大なる責任を有するものである。

 これらの改善状態のいかんは,学校における保健計画のいかんによって左右されることがきわめて多い。そして,これらの改善状態は既述の方法によって,評価判定することができるのであるが,次のようなことがらの調査によって立証されるであろう。

 一.学校において

 衛生状態,照明の改善状態,便所の清潔状態,校庭の設備状態,危険の解消状態,騒音の消減状態,授業日における休養状態など。

 二.家庭において,また家族において

 三.社会において

 保健計画の管理と組織についても評価判定せなければならない。

 その評価については,次の事項について考査する。

 一.計画は,生徒の特定の時期,発育の成長中において,生徒の必要にもとづいているか。

 二.計画は,家庭,社会と同様全学校生活に関係づけられているか。

 要するに,学校保健計画は,以上述べたように常に結果の判定をなし,健全な指導方針にもとづいて,学校,家庭,社会の全生活が常によく調整され,運営されることによって,はじめてこの目的達成をなしうるのである。

第二節 本書の利用法

 教育は,胎児の時代から始まり,一生を通じて続く過程であるが,その指導の内容,方法は一生を通じて同一ではない。心身の発達程度や性別,あるいは生徒の要求,社会の要求などによって当然異なりまた,指導者の個性によっても異なる。従って本書は教育指導の実際を,これによって,拘束するものではなく,指導者の考え方を進める上に役立つ融通性のある試案的手引きにすぎない。そして指導者はこの本を参考として,実際に即するようさらに資料を附加して内容を豊富にし,教育上のいろいろな機会に応ずるよう,新らしいものをつくり上げるように努力することが望ましい。

 健康教育は,総ての学年においてなされねばならないが,教材は,その時々において生徒の興味あるもの,必要なものを選択して与えねばならない。そして健康生活に必要な知識の全部は,生徒が在学中に教えてしまわねばならない。しかし同じ教材を繰り返して教えるというようなことがないように,この実施要領の内容を豊富に補足しておくことが必要である。教師は,健康生活に関する知識が,生徒の実生活にいかに結びついているかということを常に観察指導しなければならない。

 そのためには,教師はつとめて生徒に接近することが大切である。この接近によって生徒の健康生活実践に対する努力と興味を引き起し,そしてこの知識が生徒の習癖や,態度をきょう正するように転化して行く状態や程度を知ることができる。

 本書の利用の一例として歯科衛生の学習について述べてみる。

 一.青年期の生徒は,自分の歯と家族の歯に関心をもつ。そこで歯科衛生を学ぶに際しては,次の学習活動から始める。

 二.それから課程は初歩の知識をうる段階に進み,いろいろな方面にわたって研究する委員ができ,次のような方法によって,全クラス,またはそれぞれ分かれて調査研究を始める。

 三.かくて次のような興味ある知識が収得される。

 四.知識の修得や種々な学習経験について次のようなことがらを考査する。

 中学校,高等学校における学習は,常に社会生活への発展を考え,生徒の最大の能力まで伸ばす機会を努めて与えることが必要である。従ってこの本は,健康生活に必要な態度や習慣を十分発達させ,また,社会人として健康生活に対する責任感を十分発達させるよう種々な機会,種々な経験に利用することが大切である。

 生徒の健康については,学校生活のほかに多くの作用が影響を及ぼすものである。

 そこで,この学校保健計画は,これらの作用を利用して,生徒の健康が向上するように計画をたてねばならない。