第五章 健 康 教 育

 

第一節 健康教育の定義と必要性

 健康は教育に欠くことのできない重要な要素の一つである。教育基本法では教育の目的として,心身ともに健康な国民の育成を期することになっている。それゆえ,学校教育においては,生徒に対して,個人として,社会及び国家の形成者として,心身ともに健康な国民となるよう指導しなければならない。すなわちこのために学校においては,生徒に対して,健康教育がなされなければならないのである。この健康教育は,生徒に対して,現在はもちろん,将来のために,健康のために必要な習慣,態度及び知識を得させるための訓練と教授がなされなければならない。この健康教育を徹底することによって,生徒はよりよい健康な生活を営むことができるようになる。すなわち,健康教育は,生徒がよりよい健康的な生活を営むことができ,個人の健康はもろちん,社会及び国家の健康状態がよりよい状態に保たれるように行わなければならない。

 健康教育は,生徒の生活全面にわたって,あらゆる機会に,健康に必要なあらゆる事項について行われなければならないのはいうまでもないが,特に指導にあたって考慮されなければならない点について述べよう。

 一生徒の生活に関係深い健康指導

 すべての国民が,より健康な生活を欲し,よりよい健康を保つことを希望することは当然である。従って,この希望を達するためには,生徒の生活に最も関係の深い事項,また生徒の生活に最も必要である事項について,適切な指導を行い,これを日常生活に実践させるよう考慮されなければならない。

 二より科学的な健康指導

 生徒に対して,健康に必要な習慣,態度及び知識をえさせるにあたって,これらの事項について,たとえば,手を清潔に保つ習慣がなぜ必要であるか,姿勢を正しく保たなければならない理由は何かというように,生徒個々の健康問題を解決するために必要な科学的指導を行うよう考慮されなければならない。

 三健康指導の社会的貢献

 生徒に対して健康指導を行うことによって,生徒がよりよい健康的な生活を営むことができ,そしてよりよい健康が保持されるならば,これによって,社会及び国家の衛生状態が改善され,国民個々の健康もよりよく保持される。従って健康指導が,社会的に大きな貢献をなすものである。それは国民が健康になるということは,社会的,経済的状態の改善の基本条件であるからである。それゆえ,個人及び社会の有効な協力によって,公衆衛生の状態を改善進歩させ,より健康な社会をつくり出すよう考慮しなければならない。

第二節 健康教育の目標

 健康教育の効果をより大ならしめ,生徒により完全な健康生活を営ましめるためには,健康教育についての目標をもつことが必要である。何を目標として健康教育を行うのであるかという具体的な内容をもつことが必要である。

 いうまでもなく,健康教育の目標は,健康のために必要な習慣,知識,態度を修得させ,個人,家庭及び社会において最大の幸福と奉仕の基礎となる健康を確保することにおかなければならない。従って,中学校及び高等学校においては,健康教育の目標として,次のような事項が考えられる。

 一健康実践の根拠として,適当な解剖及び生理学上の知識の修得。

 二生命的危険をもたらすもの及びその予防法の理解,予防接種などの価値の認識とその利用。

 三完全な家庭及び社会生活をするために必要なよい習慣及び態度の育成。

 四自己の健康の理解。

 五保健衛生的事業施設の認識と利用。

第三節 健康教育の方法

 健康教育において,全般の問題として特に注意しなければならないことは次の三点である。

 次に健康教育の方法について述べよう。

 一正科の授業及び学校行事で取り扱う方法

 中学校及び高等学校においては特に時間を定めて健康教育を行わねばならない。この場合においては,学校としての学習指導要領をつくり,これを基礎として,各学級の担任教師は,興味があり,また刺激のある方法を考えて指導しなければならない。

 二機会あるごとに生徒の経験をとらえて指導する方法

 健康教育は,生徒の学校生活において起る事項を,その起った機会を利用して行うことが必要である。

 三理科,社会科,家庭科その他の教科によって行う方法。

 理科,社会科,家庭科の中には健康に関係ある教材が非常に多い。従って,これらの取り扱いにあたっては特に健康教育を徹底することが重要である。

 健康教育は,一つの限られた教科で指導するだけでなく,教科のそれぞれの関係のある場所で徹底的に指導することがより効果的である。

 従って教師は健康教育と関係教科の指導とが相互に完全に関連されて,指導されるよう,相互教師間の連絡が必要である。その他の教科においても,姿勢,採光,視力,聴力,疲労,あるいは精神的,感情的など健康に関係することが多いのであるから,いずれの教科担任の教師も常に健康教育を心がけておかなければならない。

第四節 健康教育の補助手段

 一関係教科の適当な連携

 よりよく組織された健康教育のプログラムでは,健康教授及び訓練実践は,全生徒が完全な全教育活動の一環として行わなければならない。そのためには,教師は,健康に関係のある他の教科と,健康教育とが相互に関係をもって進められるようにしなければならない。特に健康と運動の間は,緊密に関係されなければならない。

 運動は,各生徒の健康達成にも主要な助けとなり,動機となり判定ともなるので,各自の心身の発達に適当した運動が,健康増進の大きな役目となる。

 その他生物学,化学,社会科,家庭科等に見い出される有効な教材は,興味をもって指導にあたる。外国語,図画,工作等の教科においても,より有効に健康教育と連携をもって行うのが望ましいことである。他教科の広い多様の教材の相互連携があってこそ,始めて,生徒の生活を健康的に維持増進させることができるので,教師はその機会をとらえることに努力しなければならない。そのために健康と関係ある他教科の中で,特に必要な教材は一覧表にして,各教師がもっていることなどは望ましいことである。そして教師は常にどんな健康の単元が現在生徒に教えられているかを知って,関係教科の指導過程と健康の指導過程とを連関させることに努力しなければならない。

 二教科書,参考書の効果的使用

 生徒に健康指導のため適切な教科書や,参考書を与えることは必要なことである。これらの図書の選定にあたっては教師は生徒の知能,心身の発達,社会的事情などを考慮の上,生徒たちがより健康に積極的に興味をもち,健康生活の向上のための熱意を高めるような内容をもったものを選ばなければならない。適切な教科書や,参考書の発見されるまでは,教師は新聞の切り抜き,雑誌,パンフレット,書籍の抜粋などを準備して,生徒の学習実践の手がりを与える必要がある。

 三掛け図,幻燈,映画,ラジオなど,視覚に訴える場合の補助手段

 生徒が健康の幸福を感じ,その維持,増進に積極的な興味と熱意をもたせるためには,ただ単に講話による説明だけでは,より深く印象づけることは不十分で,教師は他のあらゆる方法の研究,工夫に努力しなければならない。

 学校環境そのものが,より効果的な健康教育の手段となっていること,すなわち屋外の美的な整備,衛生室の整備,身体測定器具の利用計画など生徒の健康教育の直接間接の大きな手段としなければならない。

 健康のための実験的材料の整備(動植物の飼育,栽培,栄養の実験,水の検査,顕微鏡試薬等),観覧材料として,写真,各種統計図表,標本,模型,ポスター,壁新聞などの準備は必要なことである。

 ラジオ,幻燈,紙芝居,映画など,視聴覚に訴える方法は,特に印象づけのため有効な方法であって,学校ごとに聴取計画を立てて指導するほか,近くの幾つかの学校が目録を交換して相互に利用することなどは望ましい。これらの資料のできる限りは生徒,教師の作業,しかもより多くの人の共同作業によって作成されることは望ましいことである。

第五節 健康教育者の心得

 健康教育者は自らよりりっぱな模範的実践者でなければならない。そのためには,教師は,よく完成された人格者であり,生徒を愛し,しかも偏愛せず,常に明朗積極的でなければならないが,特に健康教育上心得なければならないことは次のとおりである。

 一生徒の成長発達について正しい理解をもっている。

 生徒各自の身体的精神的あるいは社会的な発達成長について,正しい理解をもたなければならない。

 二直接指導及び間接指導のいずれについても教授法及び教材を理解している。

 健康教師がいる場合であっても,いずれの教師も,生徒の経験,あるいはその他の場合において健康教育を行わなければならない。そのためには教師は,健康指導の教材及び教授法について,正しい理解をもつことが大切である。

 三生徒に適した運動を理解していること。

 どの程度の運動が,個々の生徒に適するかについて理解していなければならない。運動の適否は,健康の保持増進に大きい影響をもっていることを常に忘れてはならない。

 四きる限りすみやかに生徒の身体的,精神的,感情的異常の発見につとめる。

 教師は,毎日の生徒の顔色,身振り,態度などの状態を,ながめることによって,すみやかに異常の徴候を発見し,直ちに適正な指導を加えることが大切である。

 五 救急法及び安全についての基礎的理解

 教師は,生徒の事故災害を最小限にとどめるために,安全についての指導ができるとともに,救急法についても基礎的な理解をもたなければならない。

第六節 健康教育の内容

 一 健康とその重要性

 二生活体  三特殊感覚器官とその衛生  四骨かくとその衛生  五 筋肉とその衛生  六 呼吸,循環,内分泌とその衛生  七 神経系統と精神衛生  八 食物と健康  九 容姿と健康  十 成熟期への到達  十一 救急処置と安全  十二 健康と社会  十三 健康と職業