第一節 学校保健事業の編成及び管理
学校保健計画の運営を適切にし,生徒の健康状態を改善するため,学校保健計画に対して十分なる職員と運営組織を設けることが必要である。
一 学校保健関係職員並びにその職務
学校長は生徒及び教職員の健康並びに保健活動に関心をもち,また学校の状態が生徒及び職員の健康に及ぼす影響を理解しなくてはならない。そして教職員の健康教育,最も望ましき保健活動の助長に最適な学校の状態の維持,十分なる保健事業の促進援助及び保健問題に教師の関心を高めるようにすることなどに,絶えず積極的に働くべきである。各種の保健機関と協力して学校保健計画を立てることと,これらの目的達成のための各個人の職務を明らかにすることは,何よりも大切なことである。学校長は学校の保健上の必要とそれに要する資料について卒先して地域社会に十分認識させる責任がある。
生徒及び職員に対して安全にして健康な学校環境を提供することは校長の責務である。また優良な学校施設の基準に精通して施設とその事業計画を維持するためそれを評価するに当り学校医・学校歯科医,及び地域社会の保健機関の助力を求めるべきである。新しい学校施設や古いものの近代化を企画する際は,安全にして健康な生活の助けになるような衛生施設及びその他の条件において最高可能の標準に適うような施設の様式を推薦するために適切な助言を採用しなくてはならない。生徒及び職員が与えられた施設や用具を協力して十分利用しているか否かを確かめ,かつ精神的,情緒的,社会的に健全な環境を学校内につくり出す助けをすることは,学校長の仕事である。校長は,学校保健計画を絶えず評価するための措置を講じなくてはならない。これは,保健主事・一般教師・学校医・養護教諭・及びその他健康状態や個人及び団体の保健活動における改善の結果を観察する機会をもっている人々からの観察報告を集めることである。
学校長の職務は下の如く要約することができる。
2.保健主事を命じ,その仕事のための時間を割り当てる。
3.学校保健計画の諮問機関として学校保健委員会を組織する。
4.学校医・学校歯科医・養護教諭を推薦し,その仕事を割り当てる。
5.学校の保健計画について地域社会の理解を深めかつその計画を支持協力するよう指導する。
中等学校における保健活動の調整は,学校保健計画を効果的に発展させるためには必要欠くべからざるものである。この調整の仕事にたずさわるものを任命することは各学校においてきわめて緊要なことである。
学校保健主事は,学校に於ける保健計画に対しこれを管理監督する責任をもつべきである。保健計画は,学校保健委員会と保健主事が企画しなくてはならない。学校保健計画の詳細は,この実施要領の諸原則に従って遂行されるべきものである。保健主事は,すべての関係教職員の能力を利用して,その計画の運営に責任をもつべきものとする。
大多数の中等学校においては保健主事の地位は,定時制のものになる。かかる仕事に対して最上の訓練を受けた職員にその職務を割り当てなくてはならない。体育科の教師・養護教諭及びその他学校保健計画の管理について専門の経歴を有するものがこの地位に適する。保健主事の職責を一層明らかにするため,調整の目的と学校保健主事の職務とを次に説明する。
(1) 教職員全体の保健活動の調整。
(2) 学校保健活動と,公衆保健活動,及びその他の地方地域社会の諸機関との調整。
(3) 生徒及び教師に対する保健指導と教授計画を立てて,保健について十分な理解と認識をもたせるようにすること。
2.保健主事の職務。
(1)学校保健委員会に参加し次の仕事を行う。
イ 学校保健計画の作成。
ロ 具体的の問題の処理のため教師及び生徒より特別委員を定める。
(2) 適当な保健所職員に依頼し学校環境条件の定期調査を行い,その結果改善すべき事項について学校長と相談する。
(3) 教職員に対して学校保健計画について関心を高める。
(4) 教師及びその他の学校職員のため健康教育に関する現職教育計画の編成をする。
(5) 養護教諭・学校医・及び保健所長と協力して生徒の身体検査の実施計画を立てる。
(6) 生徒の健康異常の発見,生徒の学習計画の調整,医療機関との連絡等について養護教諭及び教師に協力する。
(7) 健康に関して生徒の出席欠席,及び拒否の事項を掌る。
(8) 健康記録の整備に関し養護教諭に助力を与える。
(9) 救急処置のための計画に援助を与える。
(10) 健康安全に関する調査を行う。
(11) 保健事業を教育と調整させるための計画の指導をする。
(12) 学校保健委員会の助力を求め,健康教育の教科課程の編成について指導する。
(13) 生徒の疲労防止対策について援助する。
(14) 栄養計画の向上をはかる。
(15) 精神的保健計画の助長をはかる。
(16) 学校保健計画について対社会的に活動する。
学校医は学校保健計画の全体を熟知していなくてはならない。そして学校保健計画を遂行するため他の学校職員・保健機関・及びその他のものと緊密な調整を取らなくてはならない。また学校保健委員会の仕事を行い,同委員会運営の中心指導力にならなくてはならない。
学校医の職務は次の如きものである。
2.生徒の身体検査を既定の計画に従って実施する。
3.家庭及び一般社会の保健機関をして学校保健計画に対する責任を十分に理解させ,また必要な協力を促す。
4.健康と行動に現われる徴候の観察の仕方,発育成長の検査方法・医学的な注意を必要とする症状の報告の仕方等について医療にたずさわらない職員の現職教育について手順を定める助けをする。
5.保健に関係を有するすべての分野において教科課程企画委員会に参加して学校身体検査・欠陥の矯正・免疫・及び疾病の経験その他のことがらが生徒の健康教育の内容として建設的に活用されているか否かを確かめる。
6.生徒の個人的な健康問題に関して教職員と個別的に及び集団的に相談する。
7.学校保健事業の定期的評価に対する事業上の資料を準備し,説明する助けをする。
8.生徒及び教職員の健康に影響を及ぼす環境上の条件を敏感に感得し安全にして健康的な学校生活に資する身体条件を与えようとする学校長の努力に対して,助言者及び監督者として援助する。
9.学校保健計画の内容として生徒の保健にとって役立つようすべての教職員と共に絶えず努力する。
10.学校保健計画を評価するにあたって,身体検査の結果及び両親・養護教諭・教師・及び生徒との面接の結果得られた保健上の習慣態度について資料を提供し,説明して保健主事を援助する。
11.学校身体検査に関連して両親を教育すること,必要な事後措置を取ること,病気を予防する手段をとること等にたずさわる。
12.学校保健措置に関係のある法令を学校長に説明してやったり必要な改変を行うため協力する。
13.有効な事後措置を取るため生徒の疾病の治療に関し民間の医師及び医療機関その他専門家の援助を求め,また個々の児童の養護に関しては児童の有する欠陥について共通の理解をもつため教職員並びに民間の医師その他の専門家と必要な情報を交換する手筈をきめる。
学校医の職務に準じ主として歯科衛生に関する職務を遂行する。
(五) 養護教諭—学校保健計画におけるその職務
養護教諭は学校教育法第二十八条第五項に従って生徒の看護及び保護を受けもつものとする。その職務は次の如くである。
2.学校身体検査の準備をし,かつ実施を援助する。
3.学校医・学校歯科医・教職員等と協力して,身体検査の結果の処理を計画し,実行する。
4.学校医の指導の下に伝染病の予防について補助する。
5.安全計画を実施するために具体案を立てかつ突発事故による障害,急病,その他救急処置に助力する。
6.学校給食については,炊事場の清潔と維持,調理場の清潔,給食準備の際の清潔,食物の栄養と衛生について助言を与える。
7.安全で,健康的で,み力に富んだ学校環境の設置基準を精細に承知し,この基準に達しかつそれを維持できるよう実際的な援助と助言を与える。
8.学校健康相談の準備をし,その実施を援助する。
9.健康教育に協力する。
(1) 正課の健康教育において。
(2) 必要に応じて行う健康教育において。
(3) 健康教育に必要な資料と情報の獲得について。
10.健康に関する記録を整備し,この資料を有効に活用するよう教師に助言を与える。
11.教職員の健康保持のため必要な助言を与える。
12.学校保健事業を評価するため資料と情報を入手したり解釈したりする助けをする。
13.教師・生徒及び両親との接触によって知悉した事項が,学校の環境の健康的調整に関係があると認められた時は,その旨,学校長及び学校医に報告し,その解決に助力する。
14.教職員が利用し得るよう地域社会に現存する保健及び社会的資料に関する情報を確実に収集しておく。
15.必要に応じ,生徒の家庭訪問をなし,保健指導について助言を与える。
2.健康教育の指導を掌る。
3.健康生活の指導につき一般教師に指導と助言を与える。
4.保健主事及び養護教諭に協力する。
2.保健主事・健康教師・養護教諭に協力する。
3.担任学級生徒の健康生活の指導をする。
4.学校保健計画の方針の樹立につき学校長・保健主事・及びその他のものに進言する。
5.受けもちの生徒について毎日視察を行い,特別な注意を要する生徒はこれを学校医または養護教諭に報告する。
委員会は,学校長・P・T・Aの保健委員・保健主事・学校医・学校歯科医・健康教師・養護教諭・一般医師・関係科目担任教師(理科・家庭科・社会科・体育科)生徒保健委員をもって組織する。
委員会は,毎月1回開催し,必要に応じて小委員会を開く。委員会の決定事項は必ず実行するための,強力な権限をもたせるようにしなければならない。
協議事項としては,年間及び毎学期の事業計画,校内保健施設の改善・整備・保健関係法規の遵守,保健関係記録の作製等があげられる。
(二) 郡市区における学校保建委員会
委員会は,学校における保健委員会の代表者・保健所長・児童福祉委員・教育委員・教育委員会出張所長・教育課長・衛生課長その他学校保健関係団体の長等をもって組織する。
この委員会は,地区に即した学校保健施策の樹立,各学校保健委員会との連絡,各学校の保健活動に関する調査資料を収集,年間事業の計画,公衆衛生との連繋等について調査研究する。
(三) 都道府県における学校保健委員会
委員会は,郡市区学校保健委員の代表者・教育委員・教育長・指導主事・衛生部長・学校保健関係団体の代表者,学識経験者等をもって組織する。この委員会は,地方教育行政において,学校保健問題を強力に推進するよう努力し,また,一般衛生行政と連絡を密にするよう尽力すること。
公衆保健に関する最高責任者は,厚生大臣である。厚生省には公衆衛生・医務・薬務等の各局があり,公衆保健行政事務にあたっている。都道府県では,知事の下に衛生部があり,さらにその出先機関として保健所があって,担当地区の保健行政・保健指導にあたっている。このほか,厚生省の直轄の国立病院・国立療養所等があり,民間団体としては,結核予防会・母子愛育会・日本赤十字社・済生会等がある。
保健所は昭和12年保健所法によって,保健指導機関として設置されたのであるが,その後多くの変遷を経て,昭和22年4月7日にはこれを画期的に拡大強化すべき総司令部の覚書が提出されたのである。
現在保健所は全国で689箇所あり,従って,大体10万に対して,1箇所存在することになるので,市または大きい町にはほとんど設けられている。
それによって在来警察署の取り扱っていた衛生警察の仕事も今回全部保健所に吸集されたために,保健所の受けもつ業務の範囲は,取り締り方面から指導方面,さらにまた診療方面をも加えて広汎なものとなった。
保健所で日常行われている基本的な仕事は次の通りである。
(2) 母子衛生。
(3) 人口動態統計。
(4) 細菌検査及び各種試験検査業務。
(5) 口腔衛生。
(6) 栄養改善事業
(7) 環境衛生その他一般衛生。
(8) 衛生教育。
(9) 医療社会事業
(10) 伝染病予防。
(11) 結核予防。
(12) 性病予防。
保健婦は,保健所の手足ともみるべき重要なメンバーであって,その主な任務は,各個人及び家庭の健康を保持増進するためのよき相談相手となることである。従って,重要な日々の仕事は,病者・妊産婦・乳幼児等のある家庭を訪れ,生活環境・栄養の改善・急性伝染病・結核その他の病気の予防,家庭における看護の指導等につき注意を与えまた育児や妊娠中の摂生について入念な指導をすることである。
病院・診療所は医師または歯科医師が公衆のために医業を行うところであり,病院は患者を収容して,科学的な医療を提供するところである(医療法・医師法・歯科医師法)。病院には国立・都道府県市町村立・公益法人立・私立のものがあり,それぞれの立場で活動している。病院は,医師を中心として,看護婦が協力し,その他の診療の補助員,管理職員をもって組織され,(1)患者の世話は勿論(2)医師・看護婦及び医療従業員の教育(3)疾病の予防及び健康の増進(4)医学の研究を行って公衆保健に活躍することを理想とする。疾病の対象により総合病院(内科・外科・整形外科・眼科及び耳鼻咽喉科を含むもの)各診療科の一つあるいは二つ以上を存する病院があり,特殊な病院として急性伝染病を隔離収容する伝染病院,癩を隔離収容する癩療養所,国民病とまでいわれる結核性疾患を収容する結核療養所,精神衛生に関係の深い精神病院,難治病である癌に対する癌病院,温泉治療を目的とした温泉療養所等がある。
伝染病院は市町村の責任で,結核・癩療養所は主として国営で,精神病院は県の責任で運営されている。なお,国立病院は,旧陸海軍病院が一般国民に解放されたもので適正医療の普及を目標としている。
病院における看護及び給食が従来十分でない傾向にあったが,傷病の治癒には,患者の環境及び生活の合理的な管理により,体力気力を回復させることが必要であるために,看護業務の向上と給食の改善が要望されている。医師・看護婦の教育の水準が引上げられ,また病院の管理の指導がはかられるようになり,傷病による死亡率,治療日数の低下,治癒率の向上が期待されている。なお,医療費の問題については,各種の社会保険の普及及び改善と社会保障制度の進展が企画されている。また貧困者の傷病者の治療の完成を期するために社会事業上の活動が期待されている。
(三) 児童福祉審議会・児童福祉司・児童委員
児童福祉法の趣旨によって,中央,地方に児童福祉審議会がおかれ,児童及び妊産婦の福祉に関することを調査審議し,または厚生大臣・府県知事の諮問に答え意見をのべることになった。また都道府県には児童の福祉関係の仕事に専従する児童福祉司という吏員がおかれることになり,さらに市町村の児童委員は,これに協力して目的達成に努力するのである。児童委員は民生委員がこれを兼ねることになっている。児童福祉法でいう児童とは,満18歳以下のものであるから,中学校と無関係ではない。
(四) 民生委員
生活保護法の目的は,生活上保護を要する状態にある者の生活を国が平等に保護し社会の福祉を増進することであり,民生委員は,この目的を達するため市町村長に協力して保護事務を行う者である。従って担当区域内の要保護者の実情を調査し,その状態をよく知って公正適切な保護を加えてやらなければならない。
学校保健は,学校という特殊な環境におかれている者を対象として,学校教育と分かつべからざる関係にあるということから,もっぱら教育関係の分野において取り扱われている。このことはもとより異論のない所であるが,学校保健と公衆保健との関係もまた当然切り離すことのできないものである。学校が社会から孤立したものではなく,かえって社会から強い影響を被っている以上,保健に関しても同様に一般社会から種々の制約や,刺激を受けるのは当然である。学校保健は公衆保健の進展に伴って発展し,その退歩とともに萎縮していることは事実が示しているところである。しかしまたこれと反対に公衆保健の向上が,学校保健の発展にまつ所が大きいことはいうまでもない。ことに健康教育の面においては公衆保健は学校保健にその大部分を依存しているといってもよいであろう。それは健康教育を普及徹底するには,学校の健康教育に期待しなければならないからである。
また一方,結核予防についても,日本の結核は青少年層に発病するものが非常に多いため,この年令層に対象の重点をおいている。従って,これらの青少年の健康を左右する学校結核予防対策が成功するならば,日本の結核問題の大半が解決されるのである。近視についても同様のことがいえるので,学校近視が日本の近視の大部分である。このように学校保健と公衆保健とは密接不離の関係にあるが,さらに今日においては両者共に人的,物的にその設備が十分とはいえないのであるから,一層協力して互に短所を補足する必要があると考えられる。学校保健は文部大臣,公衆保健が厚生大臣に所管されるという行政の系統上のちがいが従来多少の不便の因となっていたのであるが,このような点は当事者間の熱意と協調によって,解消させるようせねばならない。また学校保健については,教育委員会は定めるところにより,府県の公衆衛生課または保健所に連絡しなければならない。保健所は現在再建の途上にあり,完全な力をそなえているとはいえないのではあるが,その地区における保健指導の中心であり,そして近き将来にはそれにあらゆる保健部門の専門家がおかれるだろう。学校としても,これらの専門家の技術的な援助をうけ,彼等と協力することが自己の対策を強化するゆえんとなるのである。
身体検査に手不足の時は,保健所に援助を依頼する。将来の身体検査は,X線撮影は必ず行わねばならないが,この際は保健所の設備を利用する。またこれらの検査の結果,患者が発見されたなら,保健所から保健婦を家庭に派遣して療養の指導,生活の指導をさせる。また急性伝染病の予防には,常に保健所からの情報を得て,生徒にも知らせておく必要がある。このほか寄生虫病検査・消毒・清掃・はい・しらみ等の駆除には,保健所の力をかりるのがよい。要するに保健所は,公衆保健の増進のためのサービスステーションであるから,学校としてもこれに協力して,これを利用することが学校自身をもよくすることになる訳であり,公衆保健を向上させるゆえんでもある。
第二節 学校身体検査
一 目 的
教育は常に生徒の心身の発達に応じて行われるべきであるから,教師並びに学校当事者は生徒個々について,その心身の状態を正しく,知っておかなければならない。
また生徒に対しては,自分の発育,健康等について,正しい理解をもたせ,その保持増進等について正しい態度をとるように指導しなければならない。さらに学校は,集団生活をするところであるから,これを保健的に遺憾なく運営して行かなければならない。学校身体検査は,前述の要求にもとづいて行われるものであるから,学校においては,この身体検査の実施を適正にし,適切な措置が講じられなければならない。
二 身体検査の準備
検査を実施するにあたっては,職員・生徒・父兄もすべてが検査の目的を十分に理解して,皆が協力一致してこれにあたることが必要である。
1.学 校 長
検査計画にもとづいて必要な準備が十分になされるよう監督する。また,校長は身体検査の実施について,家庭に通知,連絡する。
2.保健主事
学校保健委員会,または適当な関係者と身体検査準備協議会を開き,身体検査の実施計画について詳細な打ちあわせをする。この協議会においては主として,検査期日・1日の検査人員・学級の検査日割・検査の場所・教員の配置・検査補助者の配属・検査の範囲・方法・検査の順序・記載方法・注意事項・身体検査の結果処理等について打ちあわせをする。
保健主事はまた各教師・養護教諭等と十分連絡し,分担事項が完全に推進できるように努める。保健主事は学校医・学校歯科医とも十分な打ちあわせを行い,検査に関し,学校医・学校歯科医からの希望を実現するように努める。
3.教 師
担当学級の身体検査票を整備し,生徒に検査計画の内容・方法・手順・その他につきあらかじめ十分な知識を与えて置く。また生徒に検査についての注意事項を徹底させ,検査が支障なく進行するよう努める。さらに検査当日,その生徒についての平素,観察上特に検査医に連絡を必要とする事項についての整備や検査結果の家庭連絡についての準備等をする。
4.養護教諭
検査場の準備,検査用具の点検,整備,また平素特に注意を要した生徒について検査に際し,検査医に報告,連絡すべき事項について準備する。
5.学校医・学校歯科医
身体検査を完全に実施するため,検査についての必要事項を学校当局とあらかじめ打ちあわせる。また他の医師の協力を必要とする場合においては,結果の判定について,差異をきたさぬよう,あらかじめ十分な打ちあわせをする。
6.検査補助者
補助すべき自分の分担事項について,十分了解するとともに手順方法・記載・その他に関して疑問があればあらかじめその点を明瞭にしておく。
7.生 徒
生徒は示された諸注意をよく守り,また示された検査項目や方法,順序をよく理解し,検査の進行を妨げないように注意するとともに,検査前日の入浴,検査に便利な服装,検査医に相談すべきことがら等についてあらかじめ要点をはっきり知って置く。
(二) 検査室・検査用具
検査場としては,静かな室を選ぶ。採光・換気・暖房等について,十分な考慮を払う。検査項目,順序に従って必要な検査場を適当に配当する。検査によって,脱衣の必要あるものについては,脱衣室を用意する。検査用具は一応検査実施前に全部点検する。たとえば測定器具の確否・試視力表・色盲検査表は鮮明度その他,必要な衛生材料の用意等,全般にわたり,計画通りの検査ができるように準備する。
身体検査は,学校身体検査規程に示された検査項目,検査方法等によって実施しなければならない。なお実施事項,検査方法等をよく知悉して,検査の適正を期せなければならない。目的に対しては,各人が一体となり,互に協力して同一目的の達成に努力することが大切である。測定については,たびたび計測者を変更することなく,終始同一人にあたらせることが必要である。
学校長は身体検査が計画通りに進行しているかどうかを監督する。保健主事は,身体検査の進行状況に注意し,検査が円滑に適正に行われるようにつとめる。担任教師は生徒の身体検査の際は,必ず検査に立ちあい,平素の観察の結果を検査医に連絡するとともに検査医の指導事項を記録する。養護教諭は,主として検査医の検査補助にあたる。検査医は,担任教師,養護教諭等の健康観察の結果をよく聴取して,なるべく精細な検査を行うようにつとめる。なお,設置その他の事情によって,必要ある場合は,保健所その他と緊密に連絡しその適正を期する。生徒は静しゅくにし,検査についての指示を正しく守り,他人の検査の邪魔にならぬよう,常に注意し,医師の検査に際しては,注意事項は聞きもらさないようにする。
四 身体検査の結果処理
生徒の健康の指導上,最も緊要なことは,身体検査の結果処理を適正にすることである。次に結果の処理について,その概要を述べる。
身体検査票の整理が完全でないと,適切な個人指導ができないし,また統計の正確さも失われる。従って教師は,担当生徒の身体検査票について,記入洩れや,誤り等について,精細に調査しなければならない。同時に生徒の1人1人の発育健康の状況をくわしく知ることが必要である。
(二) 本人及び保護者への通知
身体検査の結果を,本人及び保護者に通知して,その発育,健康状態を知悉させ,必要な時は適当な措置がとられるよう,指導しなければならない。
(三) 教師と家庭との連絡
教師は身体検査の結果について,保護者会をひらき,その結果を詳細に説明して今後の措置について,話しあいをする。教師はその後,たびたびこれをくりかえして,果して指導が適正に行われているかどうか,また生徒の健康状態に変化がないかどうかについて話しあいをする。
(四) 学級編成上の考慮
生徒の発育,健康状態を考慮して学級を編成する。特に身体虚弱・精神薄弱・その他,心身に故障のある生徒については,特殊学級を編成することが望ましい。
(五) 座席及び机,腰掛の考慮
生徒の発育状況を考慮して,適当な机,腰掛を配当し,聴力・視力の不十分な者等に対しては座席を適正に配置する。
(六) 疾病異常者に対する処置
疾病異常のある生徒に対しては,適切な健康指導を与え,治療を要するものについては,本人及びその保護者に通知し,医師の治療を受けるよう勧奨する。
また教師及び養護教諭は,これらの生徒について,特に継続観察する。学校においては健康相談・予防措置等を行い健康の保持増進につとめる。
(七) 身体検査統計の作成と活用
身体検査の結果を集計整理し,身体検査統計を作製し,生徒の保健対策の重要な資料とする。
一 目 的
学校保健事業のうち,健康相談は重要な位置を占める。
健康相談においては,身体検査の結果,発見された疾病異常のある生徒に対して,定期的に身体検査を行い,適切な健康指導をする。さらにまた,教師・養護教諭の日常の観察において,その必要をみとめた場合,生徒の希望する場合にも,健康相談をうけさせる。これらの健康相談の時には,担任教師・保護者等が立ち会うことが望ましい。
二 健康相談において取り扱われる事項
健康相談には,いろいろの相談がもち込まれ指導が求められるのであるが,そのうち主なものをあげれば,大体次のようなものである。
結核要注意者の取り扱い,並びに発病防止,ツべルクリン反応陽転者の取り扱い,及び生活指導,病後生徒の取り扱い,虚弱体質のものの取り扱い,発育状態の良否。
学科負たん能力についての調査,最近不活溌,その他異常を思わせる者の原因調査,きょう正指導,疾病異常の有無検査。
進学,選職に対する相談,運動選手の健康診断と発病防止,非衛生的習慣の是正。
三 運営方法
学校における健康相談は,少なくも毎週1回は行われることが望ましい。教師及び養護教諭は,あらかじめ,健康相談をうける必要のある生徒を選定しておく。学校医は相談事項・検査状況・指導事項等を詳しく記録し,指導の適正を期する。
レントゲン検査・赤沈検査・検便・検尿等の検査の必要ある場合には,保健所等と連絡をとり,その協力を得て適正を図る。養護教諭は,健康相談においては,教師と家庭との連絡の中心となり,また公衆保健施設と緊密な連絡をとることにつとめる。
第四節 学校給食施設
学校給食施設の運営を適切にするためには,学校給食の目的をよく理解し,周到な実施計画をたて次のような事項に留意して,学校給食を行わなければならない。
一 調理場・炊事場・炊事用具の衛生並びに管理
(二) 炊事用具の洗浄・乾燥・保管等について細心の注意を払い,その清潔保持につとめなければならない。
給食従事者は,常に健康でなければならない。従って,定期の身体検査のほかに,毎月1回の健康診断(胸部診査・検便等)を行わなければならない。
調理に際しては身体の清潔,特に手の清潔保持につとめ,用便後,その他,不潔な物を手にしたときは消毒液で消毒する。給食従業員には,指定の便所を使用させ,調理をみだりに外来者に手伝わせない。
給食従業員の服装は常に清潔に保たせるようにする。給食従業員が発病または家族,同居者に伝染病が発生した場合は,その症状または状況を学校長に報告させ,状況により病毒伝染の恐れのなくなるまで給食作業に従事させない。
三 給食食品の衛生並びに管理
給食食品の検査は使用の都度,腐敗・変敗・異物の混入・毒物の含有・病原微生物による汚染等について厳重に行い,食品の貯蔵保管には各食品の種類に応じて冷蔵・乾湿に注意し,ねずみや虫などの侵入を防止し,その他汚染及び腐敗防止について,十分な注意をする。特に夏期には食品の冷蔵,腐敗の防止,害虫やねずみの侵入防止などについて一層注意が必要である。
四 食物・食器等の衛生的取り扱い
(二) 食物の運搬については,はいがたかったり,ごみなどが入らないよう注意する。
(三) 食品取り扱いの指導を十分にする。
(四) 生徒所持の食器の消毒及び携帯の仕方について注意する。
給食の効果については,次のような事項について調べる。
(二) 病気欠席状態の調査。
(三) 食事法に対する習慣形成状態。
(四) 偏食きょう正の状態。
(五) 食生活の改善状態。
学校給食の実施については,次のような点に注意して健康教育を行う。
(二) 保健上栄養の大切なことを理解させる。
(三) 栄養的な食事計画をたてる能力を養う。
(四) 食品に対する常識を豊かにする。
身体虚弱・精神薄弱その他心身に故障のある生徒に対しては,特殊学級の編成及び養護学校を設立して,教育することが望ましい。
一.特殊学級
身体虚弱・精神薄弱・難聴・弱視・どもり・し体不自由などの生徒に対しては,それぞれ,その心身の状態別に特殊学級にし,養護の適正を期することが必要である。この一学級の定員は,おおむね30人以下であることが望ましい。
二.養護学校
これは盲学校・ろう学校と同様に,心身に故障のある生徒を収容して教育する特殊教育機関である。養護学校も,特殊学級と同様に心身の状態別に,学校が設けられることが望ましい。また同一学校に身体虚弱・精神薄弱等をいっしょに収容させる場合は学級は必ず心身の状態別に編成されなければならない。
第六節 運動医事
一.体育運動を行う場合には,生徒の健康状態に適合した運動を課すことが必要である。このためには,次のような点に注意しなければならない。
健康診査によって,生徒個々の健康状態をはあくし,健康者と疾病異常者とを分けて,適正な取り扱いを行う。
二.疾病異常者の指導には,次のことに注意する。
(二) 心臓疾患については,軽度なものは軽い散歩,規則的な徒手体操程度とする。
(三) 呼吸器疾患には重技・長時間疾走・水泳などは禁止し,特に結核性疾患には全く禁止する。
(四) 脱腸・月経障害があるものには,運動を禁止するかまたはその程度によって重技・跳躍運動を禁止する。
(五) 耳疾,眼疾には水泳を禁止する。
(六) てんかん,その他感覚器及び神経系の疾患については特に注意をする。
(七) 運動機能障害・胸郭異常者・扁平足のものにはきょう正体操を行う。すべて疾病異常者に関しては医師の指導を受け,場合によっては医療体操を行う。
(二) 準備運動・整理運動を行う。
(三) 運動はいずれの場合にも漸進的に実施する。
(四) 実施に際しては食事直後または空腹時を避ける。
(五) 炎暑・寒冷時・ほこりの多い場所を避ける。
(六) 実施後の身体清潔につとめる。
(七) 自覚的,客観的に疲労の発見に注意する。特に個別的に疲労の発生状態が異ることに留意する。
(八) 疲労の回復には適度の休養・マッサージ・入浴,特に睡眠が効果的であることを会得させる。
(九) 適正な運動負荷であること,すなわち年令・発育・健康・性別に応じた運動種目・運動強度・運動時間について考慮する。
(十) 栄養に注意する。
(十一)傷病の防止につとめる。
一.目的並びに学校における予防接種
多くの伝染病は予防接種で,人工的に免疫を得させることによって,発病を予防しうるのである。伝染病にかかることは単に本人の不幸であるばかりでなく他に必らず多くのめいわくを及ぼすこととなるので,できるだけこれを防止するように各人があらゆる努力を払わねばならぬことは,社会人としての大切な義務なのである。すなわち,おたがいの生活環境をできるだけ清潔にし,保健衛生にかなった生活を営み,伝染病発生の余地のないようにするとともに何人もこの有効な予防接種を励行し,身を護り他を護ることに努力しなければならない。それゆえわが国では昭和23年から予防接種法が施行せられて何人も法律によってこの予防接種を受けねばならぬように定められた。
しかしながら,学校における予防接種の行き方は,単に法の適用においてのみ行われるというだけではなく,予防接種の効果,人工的免疫の意義,社会道徳などの観点から十分に理解されて健康教育の実践として,教育的立場から実行されるように指導することが必要でありかつ望ましいことである。
二.予防接種の種類
予防接種として有効と確認せられたものは,次の12種であって,この12種について予防接種法が行われるのである。
(4) パラチフス (5) 百日せき (6) 結核
(7) 発しんチフス (8) コレラ (9) ペスト
(10) しょうこう熱 (11) インフルエンザ (12) ワイル氏病
伝染病に一度かかった場合に得られる自然免疫は,力も強く期間も長いのであるが人工免疫の期間は今のところそれほど長く続かないから,痘そう,ジフテリア以外の予防接種は,必要なものは毎年繰り返す必要がある。
三.予防接種の免除並びに猶予
一度その伝染病を経過したことがある者は,その後長い間免疫の状況が続くので,腸チフス,パラチフスについては,かってこれにかかったことのある者は,保健所長の証明で腸チフス,パラチフスの予防接種を免除することができる。同様の意味で,結核については,ツべルクリン反応陽性の者で省令の定めによる者は,保健所長の証明でその接種を免除することができる。
また病気,その他の事故のために指定期日に予防接種を受けることができなかった者,またはその保護者は指定期日後7日以内にその事由をそえて市町村長に猶予を申請して,その証明書を交附してもらわなければならない。
そして,その後に,その事由がなくなってから受けた予防接種で,指定期日から省令で定めた期間内に行われたものは,定期の予防接種とみなされるのである。
予防接種法を守らない者は,法の定めによって罰せられるが,学校においては罰則の有無にかかわらず,健康教育の実践として公衆道徳の発露として,深い理解の上に進んで接種を受けるよう指導することが望ましい。なお,法律の正しい遵奉者としての態度の育成に資することもまた大切である。
四.実施についての注意
予防接種を受ける場合には,できる限り綿密な予診を受け,よく身体の状況を調べてもらってから受けなければならない。
有熱者,心臓,じん臓,その他重要な内臓に異常がある者,かっけ,病後衰弱者,胸腺りんぱ体質,糖尿病,妊産婦には行ってはならない種類のものもあるから,それに該当する者は申し出て予診を受け,慎重に決定するように指導しなければならない。また虚弱者に対しては,減量したり,また接種の方法を変えたりする場合があるから,養護教諭,教師は平素の状況,身体検査等の結果を十分に連絡することを忘れてはならない。また第一回の注射で反応がことに甚しかった者は,申し出て第二回の量を減じてもらうことが必要である。
接種はすべて厳重な消毒のもとに行われなくてはならない。注射当日はなるべく静かにし,入浴を控え,また注射のあとは清潔に保つよう指導することが必要である。ことに痘そう,結核接種の場合はその部を決してかいたり,もんだりしてはならない。
五.後 始 末
接種後は,接種を受けた全部の者について反応の程度をよく調査することが必要である。反応によって欠席した者については家庭を訪問し,その手当てを指導するとともに,これにこりて今後の接種に不足をいだくことのないようによく説明し納得させることが必要である。
また学校では,予防接種の種類別に接種者名簿を作製し,それに学年,組,氏名.年令,身体状況,接種の期日(第一回,第二回)量(第一回,第二回)反応の有無程度(第一回,第二回)証明書交附月日,備考欄を設け,処理すると便利である。なお身体検査票の利用もよい。
学校長は保護者に対して,生徒に規程の予防接種を受けさせるよう指示しなくてはならないが規程のもののほかに流行の状況によっては,法の命を待つことなく学校医と相談の上,臨時に必要な予防接種を実施せねばならない場合もある。