第一節 健康に適した授業日
生徒の身体的・知的・情緒的の成長発達は,学校生活によって左右されることが大きいから,学校生活を生徒のために精神的,身体的によく整え,生徒の健康生活に適するようにしたならば,毎日の学校生活は楽しく,また愉快に学習を続けることができる。この意図のもとに日課時間割が編成され,学校環境等も整えられることが望ましい。
一 学 校
気持よく清掃された校舎の周囲,正しく開かれた校内,手入のゆきとどいた学校園・運動場・整頓された体育用具,美しくふき清められた廊下・階段,風通しよく適当に開かれた窓,規則正しく配置せられている机・腰掛,調和よく装飾の施された教室,こうした学校に,生徒を朗らかに迎える教師の態度が見られるならば,生徒は1日を楽しくすごし学ぶことができるであろう。
二 間割編成
1年を通じて各科の授業時数の最低限度は法令によって明示されているが,1週の授業時間数及び授業時間(1時間の長さ)はなんら規定がない。従ってこれらの取扱いについては,各校の自由にまかされている。しかし,1日の授業時数と授業時間の長さは,生徒の健康及び心理状態を十分考慮して,決定しなければならない。
(2) 時間割編成上の注意
時間割の編成は,学習上重要なことであるが,とかく慣習によって組み立てられている傾向がある。しかし時間割の編成は,教育学・心理学・保健衛生上等の要求と,一方には学校の事情,土地の環境,学校の組織,実際の経験等とをあわせ考えて編成しなければならない。次に現在時間割の編成上の原則として,考えられているものをあげて参考とする。
2.教科の性質及び学年の高低によって,1時間内においても教科のあんばいを図る。
3.特別教室・運動場・屋内体操場・講堂等の使用,教科担当の教員数,学校管理上の実際等から見て,授業時間割の編成をくふうする。
生徒に健康生活を実践させるためには,健康に関する知識・習慣・態度を育成することが必要である。従って,学校においては計画的な健康教育が実施されなければならない。
四 休憩時間
休憩時間の長さについては,授業時間と同様に法令上の規定がないが,生徒の学習活動,心身の疲労等を考えあわせて,適当な休憩のための時間を設けなければならない。
五 宿題
宿題を課することは,学校の課業を補い,家庭において学習をする習慣を養い,自習の習慣を養う等のため必要なことである。しかし,宿題を課する場合は,次の点に十分な注意を払うべきである。
2.家庭の事情を考慮する。
3.生徒の健康状態を考慮する。
教師は,学徒の健康状態について,常に観測を怠ってはならない。そのためには,健康の現われである顔色・態度・学習活動の状態に注意して,異常の発見につとめなければならない。そしてまた,疲労を起す姿勢の異常や,室内の空気の物理的条件にも注意を払わなければならない。これによって,教師は,疲労しやすい生徒の病気を早期に発見することができるし,また,身体・衣服の清潔の欠如も見出すことができる。
以上の観察によって,何等かの異った所をもっている生徒には,それぞれ必要な指導を与え,全体の生徒に疲労,異常があれば,学習指導の方法や採光・換気等に考慮を加え,座席の変更,あるいは学習指導中に休憩を与えることも必要である。
第三節 情緒的に健康に適したふん囲気
健康に適した学校生活は,身体的方面においてはいうまでもなく,また精神的方面,なかんずく情緒的にかもし出されるふん囲気についても十分に考えてみる必要がある。そのことについて重要と思われることを次に述べてみよう。
一 学校生活から,あせった気持や,不安や恐怖などの原因となるものを除去する。元来楽しいはずの学校生活が,学校経営上あるいは,教科指導上のちょっとした注意を怠ったために,生活に情緒的な錯誤を起させて,いちじるしく学校生活を不健康なものにしてしまうことがある。
この点については特に,次のことがらに注意して,学校生活から,あせった気持や,不安や,不必要な恐怖などの原因となるものを除去するようにくふうしなければならない。
学科中心のカリキュラムは,とかく生徒の興味と要求とを無視して,成績点数本位の学習に陥り,生徒に必要以上のあせった気持や,不安を与える傾向があるので,これを生活中心のカリキュラムに切り替える必要がある。
2.適性検査にもとづいて,進学指導をする。
これまで,生徒の適性も考えず,ただいたずらに上級学校への進学者の多いことを以て,学校のほこりとして来た傾向があったが,これはいわゆる詰め込み勉強をしていることになり,情緒的に不健康の原因となった。従って生徒の進路指導は,あくまでもその適性にもとづいて行われなければならない。
3.学級集団の構成や,その集団のリーダーの性格に注意を怠らない学級には,自然発生的に,いろいろな集団ができるものである。しかもその集団(グループ)のリーダーとなる人物が,どんな性格をもっているかということは,非常に注意を要することである。
そのリーダーの性格によっては,不安や恐怖を構成員に与える大きな原因となるからである。
学業成績に優劣の現われることは,当然のことではあるが,そのことから来る自慢や,自己卑下感は,やはり情緒的ふん囲気を不健康なものにする恐れがあるので,これを除去するため次のことがらに注意しなければならない。
いわゆる能力別編成がよいか,優劣混合の編成がよいかということは,一概には決定しかねるが,生活中心のカリキュラムを実施する立場からすると,後者の方が,自慢・卑下感を除去するに好都合である場合が多い。
2.学習指導上の注意
(1) 合同による作業が完成した時には,全員の協力によってでき上ったことをよく了解させ,その成功の喜びを全員に感得させるようにする。生徒個人で計画した作業が完成した時にも十分賞さんの言葉を与え,特に能力の劣った生徒の場合にはその成功の喜びを感得させることが大切である。
(2) 教師は生徒を友達とし,また時には案内者として計画を進め,教師自身の計画によって強制的や命令的に指導してはならない。
(3) 学校で生徒を精神的にも情緒的にも一番よい状態におくことを保障するには,教師は生徒各個人の状態をよく理解し,または個人としてその人格を尊敬するよう取り扱うことである。
3.学芸会・展覧会その他催しものを計画する場合の注意
よくあることであるがこうした会に出席したり出演するものが,限られた一定の生徒になる傾向がある。これは是正して一般の生徒がその特質によって自己を発揮できるような仕組にしないと,学級・学校の生徒の生活は情緒的に著しく不健全になる恐れがある。
学校給食の合理的な運営は,学校における健康計画中の重要な問題である。何故に,何をいつ,いかにして食べるべきかについての指導は,健康教育の計画の中に含まれるが,しかし,あらゆる方面の知識が,実生活に即して良い習慣になるよう,学校給食は運営されなければならない。この食事を中心とした実地教育のための学校施設として,よくつり合いのとれた食事を調整するための,十分な設備と人員と,また,生徒たちが気持よく食事することのできる場所が用意せらるべきである。この施設の合理的な運営によって,生徒たちは適正な栄養を確保し,不十分な家庭食をその日のうちに補給する機会が与えられ,不慣れな食物を食べたり,すぐれた昼食を選択したりする経験を得ることができる。かような生徒の食事の経験は,快適な四囲の情景や,仲間同志のなごやかなふん囲気や,清潔でじょうずに調理された食物によって与えられなければならない。
第五節 特殊生徒の取り扱い
ここにいう特殊生徒とは,精神上,身体上において一般生徒に比して,その健康上に何らかのハンディキャップを有する者のことである。精神上においては,いわゆる精神薄弱者と称せられるものであり,ある場合においては,一般生徒よりすばぬけて知能的発達をとげている天才等も含めて考えられる。また身体上にたいては,し体不自由者・病弱で欠席がちの者・視力の弱い者・難聴者・きつ音者等を含んでいる。これらの特殊生徒に対し,その各種別,類別に養護学級を編成して,教師の特別な教育的技術を十分発揮し,校医・養護教諭等の十分な協力を得て指導することが,最も理想的であるが,このような学級を編成することは,困難な場合が多い。従って多くの場合は受持教師のひとりひとりは,それぞれりっぱな健康教師として,これらの生徒の発見につとめ,これら特殊生徒を一般児童に伍して均等に教育の機会を与えるよう,絶えざる努力を払う必要がある。
どんな生徒にも幸福な学校生活の1日を,一様にすごさせるための教師の任務は高く評価されねばならない。
第六節 学校行事としての体育
体育運動は,生徒の健康の保持増進のための重要な一部面であって,正課の体育時間においては勿論学校生活の全般を通して取り扱われなければならない。従って学校保健計画にも体育運動の問題を十分取りあげなければならない。例えば学校生活におけるレクリエーション,学習中の疲労回復,気分転換のための運動等広く学校生活における体育運動について計画をたて,実施しなければならない。
そして体育運動の指導の実際においては生徒の健康状態に応じて,運動の種目や程度を加減して体育の機会均等を与えるとともに,生徒の興味をなくしたり,過度の疲労から病気の原因をつくったり,発病させたりしないよう十分の注意が大切である。
次にこれらの問題について留意すべき点を列挙して見ることとする。
一 生徒に運動を実施する場合は,次の要素を考慮しこれに応じて行うこと。
三 体育運動実施の計画をたてるにあたっては,努めて生徒の要求を入れ,愉快なふん囲気の中に運動に対する興味と技能を向上するよう適当なゲーム・スポーツ・ダンス・レクリエーションを採用すること。
四 運動中は時々休養を与え,またその必要であることを教えること。
五 疾病や異常のある場合は直ちに医師について治療させること。
六 生徒が他の部門で学んだ健康についての知識を実践的に応用することを教え,また努めて多くその機会を与えること。例えば
4.体育及びレクリエーションの男女共同活動を通じての性の健全な関係
(1) 心理学的連想
(2) 両性の行動
(3) 行動の特徴及び能力の観察による身体的な相違
5.身体の清潔
6.環境の清潔
八 健康の保持増進のために特に次の事項が保持されるよう生徒の環境を管理すること。
(2) 清 潔
(3) 機能的能力
(4) 安全
十 学習能率の向上や,疲労快復のための気分転換として授業中に適当な体育運動を実施すること。