第一節 健康に適した学校環境の目的
学校は,教育の場として,最も健康に適した環境でなければならない。すなわち健康に適した学校環境で,生徒が学習生活をすることによって,次の四つの目的を達することができる。
2.生徒の心身の安全
3.生徒の学習能率の向上
4.清潔で美しい環境の中での生活
一 学校施設の計画及び設計
環境は,保健衛生上きわめて重要な要素であるから,学校においては,校地,校舎その他の諸施設が,最良の科学的水準及び保健原理にかなっているかどうかを調べることが,当然の義務である。
経済その他の事情のために,学校施設の不適当な個所のすべてを直ちに改善することはできないであろうが,それらの不備な点を,逐次改善していって,将来なお改善を要することを意識しながら,不断にその努力を続けるならば,その過程のうちに,生徒たちの健全な学校生活の理想が漸次達成され,またその実現が促進されていくであろう。
二 校地
校地は生徒の健康・安全・便利等を第一に考慮して,選定さるべきものである。そのためには,次の条件に適合しなければならない。
2.良質の飲料水及び十分な防火用水が得られること
3.がけ地,川岸等を避け,なるべく高燥で平らな良質地盤の土地であること
4.有毒ガス・ばい煙・ほこり・ごみ等を発生する工場,または沼沢等に接近しないこと
5.主要幹線道路・高速度交通線路・騒がしい工場・商業的娯楽施設・火葬場・と殺場・刑務所その他教育上支障となるおそれのある施設に接近しないこと
6.爆発または発火のおそれのある原料・材料等を取り扱う工場その他の危険な施設の附近でないこと
7.通学生徒の分布及び密度を考慮して,通学に便利な位置とすること
8.十分な面積を有し,適当な広さの運動場が設けられること
三 校舎
狭い校地の中に校舎がきわめて接近して建てられ,また隣地建物と校舎との間も人の通行ができない程接近して配置されることは,学校の保健衛生的環境を救い難い悪条件におとしいれるものである。校舎相互の間隔を十分広くとり,隣地境界線との間にも相当の余地を残して,教室その他の諸室が,学校全体の運営上最適の位置を与えられねばならない。そして校舎の方向は児童職員の常用に供する室は南,東南または東に面せしめるのが標準である(但し図書室,製図室のような特殊な用途の室の場合,若しくは土地の気候条件等による場合はこの限りではない)。以上の条件にそって建築されているならば,すべての室が豊富な日光と十分な通風換気に恵まれるばかりでなく,火災・地震等の被害を最小限度に止め,かつ避難救護の上でも,最善を尽し得る基礎条件となるものである。
なお,校舎は地震・大風等に対して,十分安全な構造,強度を有し,防火消火の設備を設け,更に寒暑・騒音・ぢんあい等から生徒を護るほか,給水・照明等必要な附帯設備の点にまで,周到な注意を払って,始めて学校施設全体としての,良好な保健衛生的環境がつくりあげられるのである。
自然採光にあっては,主採光窓は直接外界に接し,その有効採光面積は,教室床面積の最低5分の1を要する。窓の上端はなるべく高くし,てんじょうに近づける方が,室奥にまで光をおくり,室内の照明の均斉度を得るのに都合がよい。製図室・実験室・工作室・さいほう室などは,一段と高い照度を必要とする。
必要以上強い日光が室内に射入するときは,まぶしさを与えるものであるから,これを調整するために,上下二段のカーテンの設備が必要である。
採光の方向としては,左側または左前方からとることを原則とし,生徒の正面に窓を設けることや,生徒を窓に向かってすわらせることはよくない。
また,黒板に接近した窓や,光る黒板は眼のためによくないから,さけなければならない。主採光窓に対して,生徒の席を約50度の角度に配列する方法も,採光上すすめられる。天窓は,一般に照度の変化が大きいから,講堂や北向きの作業室などのほかは用いられない。
室内の壁面は明るくうすい色調,たとえばクリーム色,たまご色,淡緑色にしあげ,てんじょうは白色か,これに近い色がのぞましい。机その他の校具はきらきら光る上塗や,けばけばしい色彩はさけた方がよい。
どんな色調にすべきかはその室の明るさと室全体との調和を考えてきめるべきである。
射入光線の状態によって,生徒の座席を移動することができるように,机腰掛は可動式とすべきである。
教室の照明度が30ルクス(1ルクスとは1しょく光の光源から1メートルはなれた面の明るさ)以下にさがったときは,昼間でも補助照明のできる設備があれば理想的である。
夜間の授業における教室その他の照明の標準は,大体次のごとくである。なお光源としては電燈が最もよい。
一般教室の机上面及び黒板面・図書室・実験室・工作室・体育館 120ルクス
製図室・さいほう室等精密を要する作業をする教室 200ルクス
講堂・集会室・食堂 50ルクス
階段・廊下・便所 40ルクス
最低限の照度としても,上記の照度のおよそ2分の1はなければならない。人工照明では光源をむきだしにしない間接照明や,半間接照明が,眼のためには理想的であるが,これは照度能率があまりよくない。直接照明をもちいる場合には,電球をグローブにつつむか,シェードで光源をかくし,かつ生徒の着席姿勢で,光源が直接目に入らない位置におくようにする。
(二) 換 気
生徒が一室内に多人数いるときは,室内空気は次第に汚染されるから,換気のため軽快に部分的に開閉できる窓が必要である。
窓にはなるべく上中下の三段の窓がのぞましいのであるが,やむを得ない場合は,上下の二段でもさしつかえない。窓の建具には種種の型式があるが,窓の垂直面に対し,斜めに開くような構造とすれば,寒い時や風の強い時には,たとえば下段の窓を閉じて,上段の回転窓を開いて,生徒には風をあてないで,十分の換気を行うことができる。特にこの式の窓では,風雨の際,雨のふりこみを防ぐことができる。
作業室・実験室・調理室・浴室などのごとく,とくにぢんあい・ガス・臭気・多くの水蒸気を発生する室内では,換気に特別の注意を要する。
木造校舎の一般教室では,室幅6メートル,室長10メートル,てんじょう高さ3メートル以上として,生徒40人を定員とするのが標準となっているが,生徒数が定員をこえる時は,いっそう換気に注意しなければならない。窓以外にてんじょうまたは壁面にそうて適当な位置に換気孔を設け,または換気筒をたてることはある程度有効な方法である。動力による送風または排気の換気法は確実であるが,わが国の現状では一般には採用されがたい。
(三) 保温の方法としては,室内に寒風,ことにすきま風を入れないように,建物の構造様式をち密につくる。また日射を多くとり入れるようにして,温熱が逃げないよう,屋根・壁に断熱性の材料をえらぶ。家のおもな窓は南方に面することがのぞましい。
室内の湿度が高いときは,底冷えを感じるから,防湿乾燥のくふうをする。
防寒については,室内気温が摂氏10度以下にさがった場合は暖房がのぞましい。暖房方法にはいろいろあるが,多くの場合,置ストーブに石炭またはまきをたく方法を用いているから,この際はかならず煙突を設けて,排気ガスを戸外にみちびかねばならない。
火鉢に木炭をもやす方法をとるときは,十分換気に注意しなければならない。燃料(石炭・まき・木炭・ガス・ぢんあい)の燃焼に際しては,炭酸ガス等の発生のほか,身体に猛毒な一酸化炭素を生ずるから,特に注意を要する。暖房時の温度は,20度〜18度くらいが良好であるが,必要以上に室温をあげてはならない。暖房に際しては,つねに火災予防に注意して,ストーブの注意,煙突のさきなどの火気に気をつけなければならない。
(四) 防暑の第一は,まず十分に通風換気を行うことである。このためには,おもなる窓は夏の主風向に面して,降雨の際にも開放できることが必要である(換気の項参照)。また床下及び屋根裏の通風も十分よくしなければならない。
防暑の第二は,強い日射の侵入を防ぐことである。
そのためには,屋根・壁などが断熱性のものがよく,必要によっては防熱ひさしを設ける。さらに校舎の南側,または西側に落葉樹(常緑樹でない)を植え,庭からの熱反射を防ぐために,池・泉水・しばふなどをつくることも考えられる。また熱射を防ぐために,カーテン・すだれ・あしすのこなどをはることも一案である。
(五) 外部からの騒音のいちじるしいときには,校舎の位置・へい・窓のくふうによって,ある程度緩和することができる。
室内の反響が強い場合には,てんじょう・壁などの表面に,テックス類(せんい板)木造セメント板を用いると有効である。
木造の床の上を歩く音がやかましい場合は,床構造の粗悪なものはこれを補修し,かたすぎるものには,マット,その他の敷物を敷く。歩行騒音に対しては,前述の注意と,はきものの制限も効果的である。
(六) 室内のぢんあいは,主として生徒の土足,窓などのすきまから侵入するもの,てんじょうや床などからくるもの等がある。室内に入るとき,はきものや外衣の清掃を励行し,砂ほこりをふきあげる強風に対しては,窓をしめるようにする。窓は十分密閉できるものでなければならない。てんじょう・床などのすきまは,最初の工事によい材料を用いて,しっかり施工すればよい。その他,校庭の一部を舗装し,しばふを設け,木を植え,必要に応じて水をまくがよい。清掃の場合は文部省訓令第二号学校清潔方法によって行わなければならない。
公共水道による給水には,問題はほとんどない。井戸の場合には,まず飲料水としての水質検査を行い,必要によってはその浄化消毒方法を行う。すなわち漂白粉で塩素消毒を実施する。そのやり方は井戸の原水量に対し漂白粉を25万分の1重量(すなわち水1立方メートルにつき漂白粉4グラム,または水1リットルにつき漂白粉4ミリグラムの割合に)投入してよくかきまぜるのである。井戸は便所・ぢんかい・汚物だめから,少なくとも10メートルはなれていなくてはならない。すなわち適当な深さを有し,地表水が侵入しないように,井戸の開口面は地面より約1メートル高くし,その周囲には不侵透性の井戸側を設け,井戸は管壁も少なくとも上位は,不侵透性の材料でつくられる必要がある。不浸透性の材料としてはコンクリート管の厚さ3センチメートル以上のものがよい。石または木ワクの際はその周囲を粘土で25センチメートル以上の厚さに補装(巻いてかたくたたく)する。
また開口面から物が落下しないようにふたをしておく。
またつるべ井戸は汚染されやすいから,なるべくポンプ井戸式にする。
井戸水もポンプによって圧力をかけて,配水管・給水せんを通して流水式に供給できればきわめて便利である。
いずれにしても,つねに清潔に保つ必要がある。
排水は速やかに行われるために,校地・井戸・下水施設は,合理的に計画される必要がある。
排水はなるべく埋設下水道とすること。特に水洗便所・炊事場・浴室・実験室などから排水される汚水は,かならず埋設下水道とすべきである。下水道には掃除の時や,故障の発見修理のために必要なためますや,マンホールを要所要所に設けておく。
便所は水洗便所が理想的である。この使用にあたっては,便器内には適当な紙質のちり紙以外は捨てないことと,水洗バルブのハンドルまたは引きひもを,乱暴に取り扱わないことを徹底させなければならない。ちり紙以外の雑物は,清潔な塗装をしたふた付ちりすて箱を,便所の片すみに備え付けて,これに捨てさせれば,便器下部のトラップのつまるのを大いに防止できよう。水洗便所となし得ない場合は,旧来の不潔なくみ取り便所とせず,必ず厚生省式改良便所(附録参照)とすべきである。
はいやねずみの侵入を防ぐ方法を講じ,採光換気を十分とするほか,便所床は水洗い掃除のできる仕上げとする。
五 体育運動施設
運動場に必要な面積は,次に掲げる通りであるが,これだけの面積を各学校ごとに確保できない場合には,近隣の学校数校が共同で一つの完全な運動場を整備し,その使用を協定するのも一案である。
1.陸上競技・野球・しゅう球兼用の運動場
400メートルトラックの場合 |
縦 180メートル
横 100メートル
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面積18,000平方メートル |
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200メートルトラックの場合 |
縦 120メートル
横 100メートル
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面積12,000平方メートル |
2.バスケットボール・テニスコート兼用の運動場
コート数
寸法 学校別 |
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(メートル) |
(平方メートル) |
(メートル) |
(平方メートル) |
(メートル) |
(平方メートル) |
(メートル) |
(平方メートル) |
(メートル) |
(平方メートル) |
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36
16 |
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36
32 |
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36
48 |
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36
64 |
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36
80 |
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49
39 |
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42
55 |
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42
72 |
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42
87 |
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中学校以上では,陸上競技・野球・しゅう球兼用の運動場は,400メートルのトラックを有するものを可とし,若しコート三面を設けたとすれば,合計約20,000平方メートルの面積を要することとなる。運動場には競技用具その他の運動用具・体操用具を備え,それらを格納する物置を始め,更衣室・シャワー室・水飲場等,必要な施設を置かなければならない。
体育館の最も簡単なものは,屋内体操場であり,さらにこれにバスケットボール,バレーボール等の競技ができるだけの室面積及びてんじょうをもつ程度のものが最も多い現状である。体操用具・競技用具等を入れる器具置場・更衣室・シャワー室等を附設するのはもちろんである。運動競技を行う室の床は堅固平滑であることを要し,周囲の壁も丈夫なものとし,採光換気も十分でなければならない。完備した体育館では,上記のほかに,屋内水泳場・屋内テニスコート・ボクシング・フエンシング・ボート練習等の諸室を有し,コーチァー室・衛生室浴室等も備えるが,わが国の現状ではその学校の実情に応じて,必要な設備を組み合わせた体育館を設けるのが適当であろう。
(3) 水泳場
水泳場の大きさ・水深・コース幅その他細部の点は,国際オリンピック競技会,または日本水上競技連盟の規定があるが,これに合致しなくとも,適当な水泳場を設けるのが望ましい。給水・排水(そうじ方法を含めて)・水表に浮く汚水の除去等,衛生的に欠点のないように注意しなければならない。
水泳場附属の更衣室・シャワー室・浴室・便所等は,必要に応じて設けるものとし,なお水の浄化装置及び加温装置ができれば理想的である。
洗面手洗場は,なるべく各教室ごとにつくりたい。清潔な洗面器または手洗器を取り付け,水は流水式として,新鮮な水がいつも豊富に流出する設備とする。洗面または手洗場には大きな鏡を取り付ける。足洗場は,運動場・教室入口附近等に設置する。足洗場から教室に入る所には足ふきのマットを備える。
水飲場は,学校内の適当な位置に分散して設けなければならない。保健衛生上完全を期するため,給水は噴泉式(ファウンテン)とするのがよい。
絶えず噴水しているのは,水が不経済であるから,水せんを設け,それは手で廻す水せんでなく,足で踏むと水の出る装置にするのが,理想的である。かつ噴水口は,上方に露出しないで斜に水の出る仕掛とするのがよい。
水飲みコップ・手ぬぐい・石けん等は,生徒各自の個人用のものでなければならない。洗面場・手洗場・足洗場及び水飲場の附近が汚れるのは,きわめて好ましくないので,これらの附近にはちり捨て箱を備える必要がある。
(2) 食堂・炊事場・食糧倉庫
十分な面積と良好な採光換気ができる上に,なお食卓を飾る花,壁面を飾る画などを備えた食堂こそ望ましいものである。
食堂には,適当な場所に手洗・給湯給水設備,及び食器洗場を設ける必要がある。生徒の弁当・食器類と個人別に入れる小戸棚を食堂に設けるのが望ましく,さらに冬季の弁当保温設備があれば申し分がない。炊事場は食糧の搬入口・食糧倉庫・洗場・調理台・煮炊かまど・配ぜん台・食器消毒装置・食器倉庫等,すベて作業が一貫して清潔に整然と行われる間取りでなければならない。
採光・換気・防火等の設備が良好でなければならないのはもちろんである。
野菜等の材料は,消毒槽を経て炊事場内に取り込まれる設備とする。
炊事事務室は,炊事場内を見渡して監督できる位置がよく,また材料搬入口に近くて,商人が炊事場に入ることなしに応待できる位置がよい。炊夫たちには,その休憩所・宿直室・便所・手洗場等を設けてやる必要がある。
食堂・炊事場にねずみ・はい・いぬ・ねこ等の侵入を防ぐ設備をする。特に炊事場は窓に金網を張り,出入口には,はいを防ぐ設備をつくったりする。また,炊事場には,炊事関係者以外の者がみだりに入るのを絶対に禁止しなければならない。炊事場の廃棄物は,屋外に露出してたい積されてはならない。適当なふた付き捨て場に捨てられ,停滞せずに逐次搬出されて行くようにする。食糧の倉庫はねずみの侵入を防止する構造とする。
(3) 衛生室
衛生室は学校内の静かな日当りのよい,また通風のよい位置で,かつ職員室になるべく近い所に設ける。身体検査・健康相談等に必要な器械器具及び薬品材料を備えた医務室と,これに近接する休養室とを設ける。休養室には学校の規模に応じて,適当数の寝台,寝具を備え付ける。これらのほかに生徒たちの定例身体検査身体測定を行うための室と脱衣室とから成る身体検査場があれば理想的である。
(4) 寄宿舎
寄宿舎は一人用,または数人用のもので,自習室と寝室との二室有する型式と,自習室と寝室を兼ねたやや広い一室の型式がある。各場合とも一人当り室面積が狭すぎないこと,日当り・通風・換気・採光・照明が十分であること,その他保健上及び保安上,校舎について述べたところと同様な注意が必要である。
各私室には,勉強机・寝台・押入れ・戸だな等の設備がなければならないが,寄宿舎全体として,別に図書新聞雑誌閲覧室・娯楽室・応接室・食堂・炊事場・浴場・衛生室・洗たく場・乾燥場等を設け,寄宿舎管理のための事務室・小使室・物置等も必要である。
寄宿舎の生徒一人当り室面積の標準は,大体次の如くである。
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自習室と寝室を
別室とする場合 |
自習室
寝 室 |
8人以下収容
9人以上収容 8人以下収容 9人以上収容 |
3.3平方メートル
2.5平方メートル 5.0平方メートル 4.0平方メートル |
室に附属する
押入れ踏込等 を含む |
自習室と寝室と
を兼ねる場合 |
1人収容
2人収容 4人収容 5人以上8人以下 |
7.0平方メートル
5.5平方メートル 5.0平方メートル 4.5平方メートル |
寄宿舎全体の建物の面積は,収容する生徒1人につき大略15平方メートルと見なしてよい。
(5) はきもの入れ
教室・寄宿舎等で,はきものを脱ぐ制度の所では昇降口玄関・広間・廊下等の通行に支障のない場所にげた箱を設ける。げた箱を廊下に設ける場合は,通行に使用される正味の廊下幅が不足しないように,注意すべきである。
教室内にげた箱を設けたり,寄宿舎の居室内にはきものを持ち込んだりすりのは,きわめて不衛生である。げた箱は土砂のたまり場となりやすいから,その防止のため靴ぬぐいのマットや,入口前の靴洗い場等も設ける必要がある。設置した場所でのそうじは,室内に土砂を飛散させるから,屋外に持ち出してそうじできるように,搬出の容易な大きさに仕切ったものを,幾つか並べるようにする。但しげた箱内の土砂をその背後に掃き落す考案,たとえばダストシュート(ぢんかい投入搬出装置)を巧に設備すれば,建物に造り付けたげた箱でさしつかえない。
(6) ぢんかい処理設備
ぢんかいには,大別して雑かい,台所ぢんかいの2種があり,それぞれ衛生的な,ふたつきぢんかい箱に集められたものを市町村営または会社営などによって,搬出処理されるのが普通であるが,学校内にぢんかい焼却炉を設けて焼却することもできる。ぢんかい焼却炉は特にその設置場所に注意し,学校内で1日に排出されるぢんかい量を1回に焼却できる大きさとすれば手数が省ける。校内の落葉・かれ枝等は別に焼却して学校農園の加里質肥料とし,またつみごえともなろう。台所ぢんかいは,学校の農業科で飼育するぶたの飼料や,農業実習地のつみごえ原料とならないこともないが,これは衛生上,その取り扱いに特に注意を要する。すなわち,ぢんかいをつみごえとするときは,なるべく密閉式とし,最低限つねにその上にむしろ,あるいはござまたは土をかぶせて,はいなどをわかさないようにする。
校舎内のそうじには,ほうき・はたき・床ふき用柄付ぞうきん・机上等をふくぞうきん・ガラスふきの布片・バケツ・ちり取り等を備えて,校舎の諸所にそれらのそうじ用具入れ場を設ける。
机及び腰掛は生徒の身体に正しく適合するものでなければならない。従って1教室に備えつける机・腰掛は少なくとも大・中・小3種類の寸法のもので編成する必要がある。正しい姿勢で着席した時の机と腰掛との位置関係は,生徒各自が最適のものを見出さなければならないが,教師も時々,指導するように留意すベきである。
机及び腰掛は,学習の性質,採光の関係及び最適の離尺をえらぶ必要等から,時々移動する必要があるので,机と腰掛とを連結した型式のものは具合が悪い。
机及び腰掛は,堅固な構造で,光輝のない落ちついた色の塗装を施し,机の甲板には手触りのなめらかな堅木を用い,腰掛座面には,すわったときの上たい(上腿)面に適合した曲面をもたせる。
黒板は暗緑色または黒色のつや消し塗膜を施したもので,すべての生徒から見やすい位置及び大きさとする。塗膜がはげたり,塗色が薄れたりまたは黒板面のそうじが不良であったりするのは,生徒の眼に有害である。黒板の白ぼくみぞや,黒板ふきは,毎日きれいにそうじされなければならない。いろいろの掲示や,生徒の作品展示などに用いる掲示板は,テックス類(せんい板)またはやわらかい木質の板を用い,適宜移動して張り付けられるようにすれば簡便である。各組生徒に固有の教室があれば,その教室備え付けの机に生徒所持品を入れることができ,教室内の適当な場所に所持品入れの小戸だなを設けることもできる。各組生徒に固有の教室がない場合は廊下・広間・生徒控所等に生徒1人1人につきロッカー(個人別小戸だな)を設けなければならない。昼食弁当・食器・はし等を入れる戸だなは別に食堂に設けて置けば理想的であるが,それのない場合は,ロッカーまたは教室内の小戸だなで,他の所持品と区切られた入れ場所が欲しい。教室・講堂・食堂・生徒控所・広間等の壁面に美しい絵図・写真・ポスター等を掲げ,また卓上や適当な高さの飾りだなの上などに美しい花瓶・そ像等を置くことも望ましい。しかし,絵画・写真・ポスター等を黒板の上部や窓と窓の中間壁面に掛けてはならない。
教室その他の室・広間・廊下等及び校舎外の運動場・校庭等には,要所要所に紙くず・ぢんかい等を捨てるふた付きの,かごまたは箱を備え付けておかなければならない。これらの容器は不潔になりやすいからつねに清潔にそうじをしなければならない。
八.安全及び火災防止
安全及び火災防止のため必要な,校地選定上並びに校舎配置上の考慮は既に述べた通りであるが,なおその他の重要な施設として次のものがあげられる。
2.校舎及び校地内の各要所に設けられた消火せん,または防火用貯水池及び消火器,その他の消防用器具材料。
3.避難階段・非常口等の避難設備及び救護施設・材料等。
4.非常災害の場合に,生徒及び市町村民等のなるべく多人数を安全に収容するにたる耐震耐火構造の講堂または屋内体操場等。
5.校舎内のすベての火気の取扱い個所を耐火構造とするか,または防火的構造とすること。
6.規定通り有効幅員を確保した廊下及び階段はその階面・け上踊場・手すり等の構造が規定に従った安全なもので,二階以上の各階の教室数に応じて,必要数を適当な位置に配置すること。
7.生徒の身体の触れやすい校舎の部分及び家具類には,とがったかどがあってはならない。生徒が誤って倒れたり,衝突したりしても,けがをしないように,それらのかどはゆるやかな丸面に仕上げること。
8.床面は,すベりやすい材料を用いたり,仕上げ方法としないこと。階段の各段も同様とする。突発した火災に際して消火器が故障であったり,防火戸が閉まらなかったり,あるいは貯水池の水がかれていたりしたために,被害が拡大した実例は少なくない。平素しばしばこれらの施設の機能を点検し,また適当な機会に生徒と職員との協同の防護・避難及び救護の演習を行うことが肝要である。
平素管理に熱心であれば,自から現状の不良な点に気づきやすく,改善整備が促進される。参考までに管理上注意すべきおもな点を次に掲げる。
2.給水設備の異状の有無,防火用貯水池の水量の多少。
3.校舎外部の壁面・土台・基礎等に腐朽・破損・き裂等はないか。日蔭の木造部が湿潤していないか。白ありの害はないか。
4.校舎内のそうじ・整頓・特に床・窓ガラス・壁面・照明器具・机上等がよごれていないか。校具物品類の一時不用のものが廊下・広間等に積み重ねられて通行(特に災害突発時の避難)の支障となるようなことはないか。
5.柱・はり・床・壁等に危険な破損が生じていないか。てんじょう・壁等に雨漏りのあとがあったり,床に給水せんの漏水が流れていたりしないか。
6.消防設備器具及び避難救護は,危急の場合役立つように管理されているか。
7.火気使用場所の火元取り締まりは厳重に行われているか。電気の不当な使用状況はないか(電気の抵抗試験は,毎年1回以上必ず行うこと)。
8.教室の窓の開閉,しゃ光幕の使用,及び机腰掛の配列状況はどうか。
9.食堂・炊事場・水飲場・手洗場・便所・浴場等の清潔状態はどうか。
10.ぢんかい箱等は所要の場所に配置されているか。そして不潔になっていないか。
11.衛生室(医務室・休養室)の整備状況
備考 中等学校建築手引参照のこと