第二章 健康に適した学校環境

 

第一節 健康に適した学校環境の目的

 学校は,教育の場として,最も健康に適した環境でなければならない。すなわち健康に適した学校環境で,生徒が学習生活をすることによって,次の四つの目的を達することができる。

第二節 学校設備に関し考慮すべき事項

 一 学校施設の計画及び設計

 環境は,保健衛生上きわめて重要な要素であるから,学校においては,校地,校舎その他の諸施設が,最良の科学的水準及び保健原理にかなっているかどうかを調べることが,当然の義務である。

 経済その他の事情のために,学校施設の不適当な個所のすべてを直ちに改善することはできないであろうが,それらの不備な点を,逐次改善していって,将来なお改善を要することを意識しながら,不断にその努力を続けるならば,その過程のうちに,生徒たちの健全な学校生活の理想が漸次達成され,またその実現が促進されていくであろう。



 さて,保健衛生上良好な環境とはどんなものであろうか。学校施設設計にあたっての理想的な形態について,以下その概要を記して,現状改善の指針としよう。

 二 校地

 校地は生徒の健康・安全・便利等を第一に考慮して,選定さるべきものである。そのためには,次の条件に適合しなければならない。

 上のほか,校地の適切な位置に樹木を植え,花壇・しばふ等を設けて,生徒の遊歩に適する木蔭をつくるなど,努めて生徒に親しまれ愛されるような環境をつくることが望ましい。またどんな天候の後でも遊び場が支障なく使用され,また歩道で生徒の靴がどろでよごれす,従って教室内もよごれないように,それらの場所が舗装されるならば理想的である。

 三 校舎

 狭い校地の中に校舎がきわめて接近して建てられ,また隣地建物と校舎との間も人の通行ができない程接近して配置されることは,学校の保健衛生的環境を救い難い悪条件におとしいれるものである。校舎相互の間隔を十分広くとり,隣地境界線との間にも相当の余地を残して,教室その他の諸室が,学校全体の運営上最適の位置を与えられねばならない。そして校舎の方向は児童職員の常用に供する室は南,東南または東に面せしめるのが標準である(但し図書室,製図室のような特殊な用途の室の場合,若しくは土地の気候条件等による場合はこの限りではない)。以上の条件にそって建築されているならば,すべての室が豊富な日光と十分な通風換気に恵まれるばかりでなく,火災・地震等の被害を最小限度に止め,かつ避難救護の上でも,最善を尽し得る基礎条件となるものである。

 なお,校舎は地震・大風等に対して,十分安全な構造,強度を有し,防火消火の設備を設け,更に寒暑・騒音・ぢんあい等から生徒を護るほか,給水・照明等必要な附帯設備の点にまで,周到な注意を払って,始めて学校施設全体としての,良好な保健衛生的環境がつくりあげられるのである。

四 給水・排水・便所

 公共水道による給水には,問題はほとんどない。井戸の場合には,まず飲料水としての水質検査を行い,必要によってはその浄化消毒方法を行う。すなわち漂白粉で塩素消毒を実施する。そのやり方は井戸の原水量に対し漂白粉を25万分の1重量(すなわち水1立方メートルにつき漂白粉4グラム,または水1リットルにつき漂白粉4ミリグラムの割合に)投入してよくかきまぜるのである。井戸は便所・ぢんかい・汚物だめから,少なくとも10メートルはなれていなくてはならない。すなわち適当な深さを有し,地表水が侵入しないように,井戸の開口面は地面より約1メートル高くし,その周囲には不侵透性の井戸側を設け,井戸は管壁も少なくとも上位は,不侵透性の材料でつくられる必要がある。不浸透性の材料としてはコンクリート管の厚さ3センチメートル以上のものがよい。石または木ワクの際はその周囲を粘土で25センチメートル以上の厚さに補装(巻いてかたくたたく)する。

 また開口面から物が落下しないようにふたをしておく。

 またつるべ井戸は汚染されやすいから,なるべくポンプ井戸式にする。

 井戸水もポンプによって圧力をかけて,配水管・給水せんを通して流水式に供給できればきわめて便利である。

 いずれにしても,つねに清潔に保つ必要がある。

 排水は速やかに行われるために,校地・井戸・下水施設は,合理的に計画される必要がある。

 排水はなるべく埋設下水道とすること。特に水洗便所・炊事場・浴室・実験室などから排水される汚水は,かならず埋設下水道とすべきである。下水道には掃除の時や,故障の発見修理のために必要なためますや,マンホールを要所要所に設けておく。

 便所は水洗便所が理想的である。この使用にあたっては,便器内には適当な紙質のちり紙以外は捨てないことと,水洗バルブのハンドルまたは引きひもを,乱暴に取り扱わないことを徹底させなければならない。ちり紙以外の雑物は,清潔な塗装をしたふた付ちりすて箱を,便所の片すみに備え付けて,これに捨てさせれば,便器下部のトラップのつまるのを大いに防止できよう。水洗便所となし得ない場合は,旧来の不潔なくみ取り便所とせず,必ず厚生省式改良便所(附録参照)とすべきである。

 はいやねずみの侵入を防ぐ方法を講じ,採光換気を十分とするほか,便所床は水洗い掃除のできる仕上げとする。

 五 体育運動施設

 六 保健厚生施設  七 机・腰掛・黒板・生徒所持品入れ等の校具

 机及び腰掛は生徒の身体に正しく適合するものでなければならない。従って1教室に備えつける机・腰掛は少なくとも大・中・小3種類の寸法のもので編成する必要がある。正しい姿勢で着席した時の机と腰掛との位置関係は,生徒各自が最適のものを見出さなければならないが,教師も時々,指導するように留意すベきである。

 机及び腰掛は,学習の性質,採光の関係及び最適の離尺をえらぶ必要等から,時々移動する必要があるので,机と腰掛とを連結した型式のものは具合が悪い。

 机及び腰掛は,堅固な構造で,光輝のない落ちついた色の塗装を施し,机の甲板には手触りのなめらかな堅木を用い,腰掛座面には,すわったときの上たい(上腿)面に適合した曲面をもたせる。

 黒板は暗緑色または黒色のつや消し塗膜を施したもので,すべての生徒から見やすい位置及び大きさとする。塗膜がはげたり,塗色が薄れたりまたは黒板面のそうじが不良であったりするのは,生徒の眼に有害である。黒板の白ぼくみぞや,黒板ふきは,毎日きれいにそうじされなければならない。いろいろの掲示や,生徒の作品展示などに用いる掲示板は,テックス類(せんい板)またはやわらかい木質の板を用い,適宜移動して張り付けられるようにすれば簡便である。各組生徒に固有の教室があれば,その教室備え付けの机に生徒所持品を入れることができ,教室内の適当な場所に所持品入れの小戸だなを設けることもできる。各組生徒に固有の教室がない場合は廊下・広間・生徒控所等に生徒1人1人につきロッカー(個人別小戸だな)を設けなければならない。昼食弁当・食器・はし等を入れる戸だなは別に食堂に設けて置けば理想的であるが,それのない場合は,ロッカーまたは教室内の小戸だなで,他の所持品と区切られた入れ場所が欲しい。教室・講堂・食堂・生徒控所・広間等の壁面に美しい絵図・写真・ポスター等を掲げ,また卓上や適当な高さの飾りだなの上などに美しい花瓶・そ像等を置くことも望ましい。しかし,絵画・写真・ポスター等を黒板の上部や窓と窓の中間壁面に掛けてはならない。

 教室その他の室・広間・廊下等及び校舎外の運動場・校庭等には,要所要所に紙くず・ぢんかい等を捨てるふた付きの,かごまたは箱を備え付けておかなければならない。これらの容器は不潔になりやすいからつねに清潔にそうじをしなければならない。

 八.安全及び火災防止

 安全及び火災防止のため必要な,校地選定上並びに校舎配置上の考慮は既に述べた通りであるが,なおその他の重要な施設として次のものがあげられる。

 九 学校施設の一般管理

 平素管理に熱心であれば,自から現状の不良な点に気づきやすく,改善整備が促進される。参考までに管理上注意すべきおもな点を次に掲げる。