第一章 序  論

 

第一節 健康の意義

 学校において生徒の保健計画をたてるにあたっては,まず第一に健康とは何かということ,及び生活における健康の重要性について十分に知らなければならない。

 それでは,健康とは何かということであるが,これを一言でいいあらわすことは困難である。健康とは単に病気でないという状態だけではなく,生活を営むことのできる心身ともに完全な状態にあることをいうのである。

 従って,健康ということは,次のようないろいろの条件を備えているものであると考えられる。

 以上のようないろいろの条件の備わっているものが健康であるということができよう。

 従って,健康は,われわれの生活の全領域にわたって深い関連のあるものであって,健康は,すなわち生活であり,それは発育であるということができ,また,それは各個人の生活において機能的なものであるということができる。

 健康は,特定の場所,時期に限られたものではない。すなわち,家族とか,学校とかいう一つの場所に限られるものではなく,人間の生活するあらゆる場所において考えられなければならないことであり,また幼年期とか,青年期とかに限られるものでなく,母の胎内から生れてから死ぬまでの全生涯を通じて,考えられなければならない問題である。

 わが国における国民の健康状態は,全般的にみて,文明諸外国に比してよい状態にあるということはできない。すなわち結核の死亡率,罹病率は高く,急性伝染病,寄生虫卵保有者や,未処置の歯疾をもつ者が多く,また社会一般の衛生状態も悪く,国民の衛生思想も低い。

 中等学校生徒の健康問題を考えてみると,病気のために欠席し,また学業を中途で放てきしなければならない者が相当にある。中等学校に在学する者は特に結核にかかりやすい年令層のものであり,また中学校は義務教育の最終の過程である。このような点を考えてみると,中等学校生徒の健康問題について,学校教育の目的を達成するためにはもちろんのこと,その他の条件を考えて,各学校は生徒の健康を増進するためによい機会を与え,またその責任とをもってこそ,生徒の健康生活を改善向上することができる。

 学校における保健計画の目的には,生徒の健康を増進するだけでなく,生徒自身が現在はもちろん,将来も自身の健康のために何をなすべきか,何が必要であるかについても指導することが含まれなければならない。従って,学校における健康教育は,教育の一科目であるだけでなく,それはあらゆる機会を通じて健康に関係ある習慣・知識・態度を向上させるような経験を与えなければならない。

 すなわち,保健計画の特殊な的は,各個人における健康に関する資質を向上させることにあるといえよう。

 

第二節 学校保健指導の編成及び管理

 中等学校生徒の健康を保持増進するためには,合理的な保健計画をたて,これを実行に移すことが必要である。

 この保健計画をたて,またその実施を管理するためには,それに必要な職員をおき,その職員の責任分担を明らかにしなければならない。

 このための職員としては,教師はもちろん,学校医・学校歯科医・保健主事・養護教諭等をおき,それぞれその責任分担を定め,計画的に学校保健事業が運営できるよう考慮しなければならない。

 また,学校に保健委員会等を設けて,学校保健事業の企画運営にあたるようにすることも必要である。なお,学校以外の団体及び父兄等の協力を求めることが必要である。学校保健計画をたて,これを実施に移す第一の責任者は,学校長である。従って,学校長は教育における健康の重要性を認識し,生徒及び職員の健康のために深い関心をもって,学校保健計画をたてなければならない。この計画によるすべての仕事は学校長の監督指導の下に全職員の協議によって行われ,生徒の健康増進のためにこれらの仕事の運営を適切に調整しなければならない。学校保健計画の遂行に従事する職員は,学校の規模その他の事情によって異なるのは当然であるが,その概略を示せば次のようである。

 

第三節 学校保健に関する法令

 学校において合理的な保健計画をたてるにあたっては,保健計画に関係のある法令についてよく知ることが必要である。

 これら法令制定の精神をよく理解して,これを守るように,これを基として学校保健計画をたて,個人の衛生はもちろん,社会公衆の保健向上に寄与するようにつとめなければならない。次に学校保健計画に関係のある法令を揚げ,参考に供することとする(本文巻末)。