第二章 農業に関する教科

 

第一節 農業に関する教科とその運営

 

農業に関する教科とその単位数はつぎの通りである。

教  科      単位数

総合農業      12〜36

耕  種      2〜20

園  芸      2〜20

畜  産      2〜20

蚕  業      2〜20

農産加工      2〜20

農業土木      2〜20

農業工作      2〜10

農業経済      2〜10

林業一般      2〜20

森林生産      2〜10

林産加工      2〜15

森林土木      2〜15

林業経済      2〜10

造  園      2〜20

その他

 以上のうち,総合農業はその土地の将来のよい農民となるために必要な範囲の農業教育の内容を一つのまとまりをもった指導の体系によって指導しようとする教科であり,耕種以下の分科した諸教科は それぞれを独立の体系によって指導しようとするものである。また園芸は特に専門的特殊的な園芸技術の必要な部分を耕種から独立させて指導しようとするものである。

 農業の実際的能力を身につけるには,農業経営の実際に即して学ぶことがたいせつであるが,農業経営の実際は,決して耕種とか畜産とかいうように独立しているものではなく,たがいに密接に関連し合っている。したがって農業経営の実際に即して学習しようとすると,稲作のところで畜産や経営の問題をとり上げた方が都合のよい場合もあるし,経営のところで,栽培技術や農具の問題に深入りした方が教育の効果を高めることもある。それで,能率的な指導の体系を作るには,耕種とか畜産とかいうような境を設けないで,郷土の農業の実際の調査や,生徒が行う仕事の適当なところに適当な事がらを織りこんで指導しなければならない。であるから,各学校においては,できるだけ総合農業のように,農業教育の指導内容全体の中から,直接に単元を構成して指導することが望ましい。そうして,こういう学習の体系を作ると,一定の生徒に対する農業教育の内容を何人かの教師が分け合って指導するようなことは不可能といわなければならない。したがって,これを指導する教師の数はできるだけ少なくし,できれば一人の教師が全分野を受け持つことが望ましいのである。

 ところが,わが国においては,これまで多くの教科を設けてそれを何人かの教師が分けあって指導していたので,学歴・経験などからいって専門の教師が多く,農業教育の全分野を受け持ち得る教師は少ない。そこで,一人の教師が全部を受け持ち得ないような場合には,その学級の学習する内容を最も広く受け持ち得る教師がその学級の農業教育の主任となり,農業の教育内容の全分野にわたって計画をたて,そのうち,自分の受け持ち得ない部分は全体との関連を持ちながら一つのまとまりを持った教科となるように組み立てて,他の教師に受け持ってもらうようにし,次第に自分の受け持つ分野を広げていくようにすることが望ましい。そうして,教師は広い分野に立って,それぞれの専門を築き上げ,たがいに助け合うときに,真によい教育ができるようになるであろう。

 

第二節 農業に関する教科の目標

 

 この本では,とりあえず,総合農業の目標のみを掲げる。他の教科の目標は,追って補遺で補うことにする。

総合農業の教育目標

 総合農業の目標は,将来農業を営む者にとって必要な科学的・実際的な理解・技能および態度を総合的に発達させるにあるが,これを細分するとつぎのようになる。

1. 自分の家および郷土の自然的・社会的・経済的環境と,農業生産・農業経営との関係を理解する。

2. 環境に応じて,自ら農業を計画し,実行する能力を養う。

3. よい農産物を能率的に生産する能力を養う。

4. 農産物を正しく,しかも有利に販売する能力を養う。

5. 土地および労働の生産性の高い農業を経営する能力を養う。

6. 土地およびその他の天然資源を保持し,さらに開発する能力を養う。

7. 有利な環境を維持し,進んでよい環境をつくる能力を養う。

8. 農業を改良しようとする能力を養う。

9. 農業の個人的・社会的な意義を自覚し,これに打ち込む態度を養う。

10. 農業および農村生活に喜びや楽しみを感じ,作物・家畜などを愛育する態度を養う。

 以上の目標を完全に達成させるには,中学校における職業科教育の基礎の上に,高等学校において30単位以上,後に示す農業Ⅰ・Ⅱ・Ⅲのような学習を行い,さらに卒業後もその学習をつづけなければならない。

 しかし,農業課程において農業に関する分科された教科をとり入れて指導する場合や,普通課程において農業に関する教科をとり入れて指導する場合に,この総合農業の農業Ⅰについて一年間,あるいは,農業Ⅰと農業Ⅱについて二年間指導することもまた望ましいことである。

 

第三節 農業に関する教科の教科書

 

 農業に関する各教科においておもに使用する教科書は,おおむねつぎの通りである。ただし,総合農業だけを設けている学校における「家畜診療」とか,「蚕種」の教科書のように,その学校で設けていない教科の教科書も,できるだけ,学級文庫・学校図書館などに備え付けておいて,生徒の学習の参考にさせることが望ましい。

 

教 科

教  科  書

備     考

 総合農業

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           耕  種

 

 

 

 

 

 

 

 園  芸

 

 

 

 

 

 畜  産

 

 

 

 

 蚕  業

 

 

 

 

 

 農産加工

 

 

 

 

 

 農業土木

 

 

 

 

 

 農業工作

 

 

 

 農業経済

 

 

 林業一般

 

 

 

 森林生産

 

 

 

 林産加工

 

 

 森林土木

 

 

 林業経済

 

 

 造  園

農作物,野 菜

果 樹, 花 

耕種総説,土と肥料

農作物実習,野菜実習

果樹・花実習,畜産各説

畜産総説,畜産実習

蚕 業,農産加工

農産加工実習,農産工作と農機具

農業土木,農業経済

農業経営実習,林 業

林業実習,農業実習の手引

農業便覧,実 習 録

家庭実習記録簿

 

農作物,野 菜

果 樹, 花

耕種総説,土と肥料

農作物実習,野菜実習

果樹・花実習,農業実習の手引

農業便覧,実 習 録

家庭実習記録簿

 

野 菜,果 樹

 花, 野菜実習

果樹・花実習,農業実習の手引

農業便覧,実 習 録

家庭実習記録簿

 

畜産各説,畜産総説

農業実習の手引き,家畜診療

畜産実習,農業便覧

実 習 録,家庭実習記録簿

 

蚕 業,桑

養 蚕,蚕 種

蚕体生理・病理,製糸と機械

農業実習の手引,農業便覧

実 習 録,家庭実習記録簿

 

農産加工,農産加工実習

生物化学,生物化学実験

微 生 物,農業実習の手引

農業便覧,実 習 録

家庭実習記録簿

 

農業土木,農業測量

農業測量実習,材料・施工

農業水理,かんがい・排水

農業造構,耕地整理

農業便覧

 

農業工作と農機具

農業実習の手引,農業便覧

家庭実習記録簿

 

農業経済,農業経営実習

農業実習の手引,農業便覧

 

林 業,林業実習

農業実習の手引,農業便覧

実 習 録,家庭実習記録簿

 

森林生産,林業実習

農業実習の手引,林業便覧

家庭実習記録簿

 

林産加工,林業実習

林業便覧,家庭実習記録簿

 

森林土木,林業実習

林業便覧

 

林業経済,林業実習

林業便覧

 

造  園

 学校によっては,園芸や畜産などに関する教科書の一部は学級または学校図書館などに備え付けておけば各生徒は買わなくてすむこともあろう。できるだけ,学校に備え付ける教科書を多くして,一人一人の生徒の負担を軽くすることが望ましい。

 農作物実習,野菜実習,果樹・花実習,畜産実習,農産加工実習,農業経営実習,林業実習などを使わないで,農業便覧をもってこれに代えるのが都合のよい学校もあろう。

 実習録は使わない場合も少なくないのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 指導時間の少ない場合は,これらの中から選択して使用する。

 家庭実習をとり入れない場合は家庭実習記録簿は使用しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                        指導時間の少ない場合は蚕業を,多い場合は桑,養蚕,蚕種,蚕体生理・病理,製糸と機械を使うがよい。

 

 

 

 

 指導時間の少ない場合は,農産加工,農産加工実習を使うがよい。

 

 

 

 

 

 指導時間の少ない場合は,農業土木を使うがよい。農業測量以下全部を使う場合は,農業土木は使わなくてよい。