六 幼児の保育内容

——楽しい幼児の経験——

 

1 見   学

 

 幼児には、広い範囲にわたっていろいろの経験をさせることが望ましい。そしてその経験は、なるべく実際的、直接的でなければならない。幼稚園内、あるいは保育所内での生活はいかに十分の設備と行き届いた教師の指導があっても、どうしても一方にかたよったり、狭い範囲にとどまってしまう。園外に出て行って、園内では経験できない生きた直接の体験を与える必要がある。

 幼児たちは、この経験によって、注意深く見る習慣を養われ、正しく見、正しく考え、正しく行動することを学ぶ。また町の中の狭苦しい環境にある幼稚園では、特にときどき園外に出て、紫外線の多い、空気のよい郊外の野山を、のびのびとした気分で歩いたり、そこで遊んだりすることは、幼児の健康のためにもよい結果をもたらすであろう。

 場所としては幼児にとって危険がなく、しげきの強過ぎないところならばどこでもよい。町に行けば、花屋・くつ屋・やお屋等の前を通っていろいろの商店が見られ、郵便局・停車場等の公共の施設もあり、その途中には交通を整理する巡査が立っているのに感謝の念がわく。近くの小学校に行って将来の学校生活を見たり、運動会・展覧会を見たりする。公園・遊園地では幼稚園とは違った遊びができるし、植物園は珍しい草木や樹木が幼児を楽しませ、動物園にはいろいろの動物が幼児の来るのを待っている。

 社会と並んで、自然界もまた幼児の経験の無限の豊庫である。四季の花つみ、昆虫採集、木の実拾いや落ち葉拾いは楽しく、種まき・田植え・刈り入れ等の農夫たちの姿も幼児には美しいであろうし、また貝がらを拾ったり、砂遊びをしたり、水にたわむれたりすることは海べの幼児が持つ楽しみの一つであろう。

 こうした見学は随時に行う。特に乗物でも利用するような遠足は、春と秋と一回か二回行い、その時は親達も同行するのが望ましい。園外保育の前には実地調査をし、途中の危険の有無を確かめ、万一の場合のために救急箱を持って行く。行く前に、幼児たちと、見てくるものについて話し合いをしておくのがよいし、帰ってから見て来たものについて発表させるのもよい。更に持って帰った草花を花びんにさしたり、木の葉・木の実・貝がら等のくらべっこ、ならべ遊びをしたり、小川でとってきたおたまじゃくし・めだかを池に放したり、ちょうやばったを飼育したりするのもおもしろい。また、見聞して来たことをもととして、いろいろのごっこ遊びなどを展開することもよいであろう。

 

2 リ ズ ム

 

 幼児が特別の内容なしに、リズム的に走ったり、はねたり、手を振ったり、スキップをしたりする簡単な活動・動作も、幼児の成長にたいせつなことである。

 幼稚園のリズムの目的は、幼児のひとりひとり、及び共同の音楽的な感情やリズム感を満足させ、子供の考えていることを身体の運動に表わさせ、いきいきと生活を楽しませることにある。

 唱歌遊び。歌に合わせて遊びたいという自然の要求からくるものである。歌いながらスキップしたり、踊ったり、拍子に合わせて手をたたいたりして遊びながら、だんだん組織ある遊びをするように訓練されるのである。おとなの考えで振り付けた遊戯をその形のままで教えこむより、できる限り子供の自由な表現を重んじ、子供に歌詞・歌曲を理解させて、自分たちの考えによって振り付けを創作させたら、もっとおもしろいものをつくり出すことができるであろう。

 リズム遊び。子供は常に生活の中から強い印象を受けたものを、音楽に合わせて表現して遊びたがるものである。遠足・見学等で見たこと、きいたこと等直接経験したこと、春秋の農夫の働き、郊外の動物のリズム的活動、汽車・電車・自動車等の子供の興味深いもの、川の流れ、空とぶ鳥、花にたわむれる蝶、昆虫等の生活を見たり、知ったり、また落葉・雪・雨等の自然現象等すべてリズム運動をしているものに接すると、そのまゝリズム運動をして遊ぶのである。幼児が種々の経験をしたあと適当な音楽を伴奏してやるとリズム遊びはもっと面白く、楽しくなる。子供の心にある映像がリズム的に表現されることにより、感情は強く新鮮に豊かになってくるのである。自発的にされるリズム遊びは身体に適当な運動をさせるので、幼児の保健上からも大切である。

 幼児は過去の経験を生き生きと生活に表わすのみならず、現在の周囲のおもちゃ・楽器・設備品・絵本、あるいは友だちなどからも、強い影響を受けて、それをリズムに乗せて表現し、創作的に、想像的に、子供の世界を見いだすのである。

 リズム遊びには自発的にリズム遊びをするようになるためには、快くたのしい自然のふんい気がたいせつである。

 自発活動は尊重されなければならない。そのためには、広い場所、自由なふんい気、時、しげきとなる材料を与え、よく物を観察させることも必要である。

 リズム遊びに用いる音楽は、音楽的な立場から、最も美しく簡単なものであること、自分で音楽を解釈して、リズムに合わせてからだを動かし子供らしい振り付けが出来るものであること。興味は短く、音楽的気分はつたないものであるから、リズム劇などは子供中心に考え、教師の考えによって教えこむことは避けた方がよい。よろこんで楽しく遊ぶということがたいせつである。

 

3 休   息

 

 人間の生活には大きなリズムがあり、一日の働きにおいても緊張と解放、労働と休息とが適当に交代してゆくのが健康な生活である。子供たちにとっては、その生活はすべて遊びであり、逆に遊びはすべて働きであるといえる。この特徴から、子供の生活における休息の意義は時に見失われやすい。また子供は自分では疲労を意識しないために、休息を自らしようとはしないのが普通である。しかし、成長の途上にある幼児にとって休息は身体的にも精神的にもまことに重要である。ことに集団生活においては、個人々々の特質を無視し、過重なしげきや運動を与えやすいから注意を要する。 (一)、環境の整理

 疲労を避けるためには、まず身体的、精神的に不必要なしげきを避けることが必要である。雑音のない静かな遊び場・保育室、遊具等の明かるいやわらかい配色。何かさせる時に楽な姿勢でものを見たり、聞いたり、したりできる配慮。たとえば紙芝居などをみる時、舞台と子供との距離、高さ、舞台の大きさ、光線のとり方、子供の列び方等、どの子供も楽に見ることができるようにする。また遊びやすい、からだに合った衣服・はきものなどを身につけるようにしたい。

(二)、体息のとり方

 なるべく午睡室を設けることが望ましい(設備の項参照)。戸外の場合は木陰とか、子供が静かに休むことのできる草原を選ぶ。

 保育のプログラムの編成に当たっては、緊張と解放とが交互に行われるように変化を持たせる。たとえば、運動のあとには静かに音楽を聞かせる。長時間にわたる緊張状態ののちには、軽い運動や短時間の休息を行う。

 食後には、直ちに激しい運動を行うことなく、静かに絵本を見たり話し合ったりする。 保育時間の長い四歳未満の幼児は午後一回の昼寝を必要とする。三歳未満の場合は午前、午後の二回あってもよい。四歳以上の幼児も家庭環境・季節等によって適宜昼寝をさせる必要がある。年長児は眠らないまでも静臥(せいが)(眠らないで静に横になる)をとらせたい。

 唾眠時間は家庭における睡眠を妨げない程度とする(一時間ないし一時間半ぐらい)。 昼寝をさせる時には、その準備や片づけをなるべく自分でするようにする(就寝前後の用便、衣類の脱ぎ着、寝具の始末、髪とかしなど)。そして眠りを誘うふんい気を作り(暗くし、静かにさせることなど)、添い寝や子守歌などを歌って寝かしつけることはさけた方がよい。時間が来たらレコードなどをかけて静かに起すようにする。睡眠状態については特に注意し、睡眠時の姿勢や眠り方、寝汗・おもらしの有無等をしらべ、健康状態を観察して異常があればすみやかに適宜の処置をとるようにする。

 

4 自 由 遊 び

 

 子供たちの自発的な意志にもとづいて、自由にいろいろの遊具や、おもちゃを使って生き生きと遊ばれる遊びが自由遊びである。

 そこでは活ぱつな遊びのうちに自然にいろいろの経験が積まれ、話し合いによって観察も深められ、くふうや創造が営まれる。また自分の意志によって好きな遊びを選択し、自分で責任を持って行動することを学ぶ。子供どうしの自由な結合からは、友愛と協力が生まれる。

(一)、遊び場所と設備

 まず環境を最もよく利用することが必要である。子供がよく遊べるように設計することはいうまでもないが、子供がその遊び場所をどう使っているか。たとえば高いところから飛び降りたり、あるいは幅とび、小石並べなどをしている子供の遊びをよく見て、設計や設備を変えてゆくこともたいせつである。遊具も子供たちにその使い方をくふうさせ、おとなの定まった観念にとらわれず、利用させてゆくとよい。

(二)、自由遊びとその指導

(イ)一日の保育プログラムと自由遊び。 登園するとすぐ行われる自由遊びは、一日の生活のスタートとして最も効果的でなけれはならない。一日の保育計画にもとづいて、遊び場・保育室の整備、遊具の配列を考える「子供の発見や、よいくふうが見られたら、見のがさず取り上げてよいヒントを与え、必要があれば他の子供たちの意見も聞いて解決し、経験を生かして子供の生活内容を豊かにする。」

 食後の自由遊びは激しい運動を控え、帰りの時間を考慮して遊びを発表させる。

 一日の生活は自由遊びが主体となるが、集団的に行われる次の遊びや、食事、昼寝等によって中断される。但し、これらは朝の自由遊びから発展的に継続されるものである。

(ロ)自由遊びの打ち切り方。 子供の遊びは尊重するが、友だちといっしょに暮らすことによって当然起る生活のきまりには、その必要を自覚した自律的な行動をとらせたい。遊びの打ち切りも命令によって行うのでなく、その必要を自覚した自発的な打ち切りでありたい。

(三)、自由遊びの観察

 子供の行動をよく観察し、遊びの種類、遊び方、交友関係などから、その子供の特徴、すなわち個性をつかんで、よいところを伸ばしてゆく。

 グループ遊びが共同の目的の下に秩序正しく行われているかどうか。その中で子供のひとりひとりがどんな役割を果たしているか。更に他のグループと交捗を持ち、遊びを発展させてゆくかどうか。指導の目標はあくまで個々の子供の発達段階に即していなければならない。

 教師は子供たちのよきなかまであると同時によき観察者でありたい。周到な観察こそ、健全な指導の基礎である。幼児が遊びの時間を楽しむことができないならば、そこには何か問題があるのである。そこに行われる活動がその年齢の幼児に適さないかもしれない。あるいは教師があまり指導しすぎているのかもしれない。あるいはまた遊具が少なくてすべての幼児が遊ぶ機会を持つことができないのかもしれない。いずれにしても、その原因を見つけて、どの子供もほんとうに夢中になって遊べるように導きたいものである。

 

5 音   楽

 

 幼児に音楽の喜びを味わせ、心から楽しく歌うようにすること、それによって音楽の美しさをわからせることがたいせつなのである。音楽美に対する理解や表現の力の芽ばえを養い、幼児の生活に潤いを持たせることができる。 (1)歌は旋律の美しく明かるく単純なもの。音域のあまり広くないもの。調子は長調とし、拍子は単純な二拍子か四拍子を主としこれに三拍子のものも加える。中途で調子や拍子の変わるものや、附点音符の多いものは避け、曲の長さは短いほどよく、八小節から十六小節どまりとする。音程の飛躍したものはいけない。発声は無理のない自然なものとする。

 幼児たちがときどき即興的な歌を唱っている場合があるが、教師は、注意深く、それを聞き、いっしょに唱ったり、適宜に訂正してから他の幼児に紹介して探り上げるのはよいことである。教師はできるだけ多くの歌を知り、幼児が歌を要求した場合、直ちに唱って聞かせてやれるようにしておくのはもちろん、また、ときには即興の作詩・作曲ができるようでありたいものである。

(2)器楽(楽隊)は幼児が音楽に興味を持ち、静かに楽しめるようになってから始める。楽器としては子供用の太鼓・小太鼓・シムバル・トライアングル(三角鉄)・笛・和音笛(口をつけるから衛生上注意が必要)・カスタネット・シロホンなどがあればこの上ない。もしなかったり、または数が少ないような場合は、有り合わせの材料で作るとよい。たとえば帽子箱で太鼓を、あきかんでシンバルを、火ばしでトライアングルを作る(一本の火ばしを糸でぶら下げる)。そのほか鈴は幼児の楽器の一つとして好適なものである(鈴は六、七個を一つにまとめるか、輪切りにした竹に数個つけて用いる)。楽隊を指導するには、まず幼児たちに曲目を選ばせ、最初は曲を十分よく聞かせる。次に曲のリズムを理解するため手をたたいたり、竹ばし・横み木・リズム竹等をたくさん用意して、リズムや休止の練習をする。曲の部分部分の感じを楽器の特質によって生かすにはどうするかを、幼児に考えさせる。のちに幼児を指揮者として、幼児に自由な楽器を選択させて演奏させる。一、二回こうした指導をし、その後は幼児たちで自由に指揮者を選ばせ、自由に演奏ができるようにする。特に思わしくない場合は、幼児たちに考えさせ、適宜に訂正させ、決して教師の命令によって演奏させてはならない。

(3)よい音楽を聞くことは、幼児の音楽教育の重要な部分を占める。レコードやラジオを聞いたり、演奏会を楽しんだり、ことに園児の音楽会はそのよい機会となろう。その場合の曲目等はなるべく広い範囲から選択し、上品で明朗かつ律動的なものがよい。音の美しさを直接に感じさせることもたいせつである。曲はあまり長くない方がよく、一曲の長さは三十秒ないし一分間が適当である。

 音楽を聞くときには、静かにして聞いて、楽しむこともたいせつであるが、ほかの遊びをしながら聞いたり、身体の運動をともなって聞いたりすることも幼児としては自然である。

 要は音楽を楽しむことを通じて、幼児の生活を豊かにすればよい。

鑑 賞 レ コ ー ド
   曲    目     作  曲  者     レコード
行進曲

旧友

カール王

星条旗

美中の美

トルコ行進曲

トルコ行進曲

ミリタリーマーチ

舞踏曲

こおろぎの踊

かえるの行列

ドイツ人形

メヌエット

ミュゼット

妖(よう)精の踊り

組曲、くるみ割り人形より

金米糖の踊り

ダニューブ河のさざ波

ガボット

星の踊り

描写曲

とけい店にて

森のかじ屋

トルコの巡羅兵(じゅんらへい)

狩猟の景

国際急行列車

サイレントナイト(聖歌)

金魚

森の狩猟

その他

おもちゃの交響楽

スプリングソング

モーメェントミュージカル

子守歌

鈴の兵隊進め

アンダンテカンタビレ

バグダットのしゅう長

白鳥

スーベニール

郭公

 

タイケ

ウィラート

スーザー

ベートーベン

モーツァルト

シューベルト

 

プロカン

クルッフェルト

ラウルス

ベートーベン

グルック

ベルリオーズ

チャイコフスキー

イバノヴィッチ

ゴッセ

グリーン

 

オルト

ミカエリス

ミカエリス

ブカロン

 

グルーバー

ドビュッシイ

フェルカー

 

ハイドン

メンデルスゾーン

シューベルト

ピエルネ

チャイコフスキー

ポルデー

サンサーンス

ドウドウラ

ダカーン

 

コロンビア

ビクター

 

コロンビア

ポリドール

コロンビア

ビクター

コロンビア

ビクター

 

コロンビア

ポリドール

 

コロンビア

ビクター

コロンビア

ビクター

 

6 お   話

 

 保育所や幼稚園にはいる幼児は、すでに、ほかの人の語る簡単なことばを理解し得る程度に達している。また、自らも人にわかるやさしいことばを使い得るようになっている。しかも幼稚園を終るころに、言語習得や言語使用において著しい進歩を示すものである。

 幼児は書かれた文字を通してではなく、話されることばを耳を通して学ぶのである。ことばの抑揚・発音・声の調子・語数・文法等すべて耳を通して習得するのであるから、常に正しいことばを聞かせてやることがたいせつである。ささやきにはささやきをもって、大声には大声をもって応ずるものであるから、よい手本を示すことが、幼児に対する正しい言語教育である。それゆえに、幼稚園の時間はすべて言語の教育に利用することができるであろう。また正しいことばという意味をあまり狭く解して、おとなの語をいわゆる標準語と考えてはならない。子供には子供らしいことばがあり、地方にはその地方の方言がある。それらを何歳ごろから訂正するかは実際に即して決めたい。

 はっきりした声、あまり高くない調子、自然的な抑揚で話してやることがたいせつである。あらあらしいことばは幼児の情緒を動揺させる。

 幼児に正しいことばを聞かせてやると同時に、幼児自らが話をするように指導することもまたたいせつである。それには、幼児に話をする必要を誘発してやる。親しみのある態度をもって、幼児に興味のあることがらについて話しかけてやる。それでもなお口を開かない子供もあろう。そのような子供には簡単なことばで答えられるような問を発してみる。はじめは単にうなずくだけの反応があるだけでもよい。漸次、短いことばをもって諾否を答えるようになるであろう。あるいは、なかまどうしの会話に参加する機会を作ってやる。年少のグループでは独言の連続となるかもしれない。むしろ、一つの筋を追って話し合いを進めてゆくようなことを求めるのは無理であろう。おもちゃや遊具などを話の題材にしてやると、それを中心に話題がなめらかに展開してゆくこともあろう。絵本なども共通の話題を提供するであろう。

 そのほか、電話ごっこや、ことばの遊びなども有効な手段である。なぞなぞ遊び、考えもの、しりとり遊びなどには、子供は喜んで参加するであろう。

 この時期の子供の語数の進歩は著しい。しかし、単に単語の数の増加が目標ではなく、かれらの意志や思想を発表する必要を感じているときに、適切にして正確なことばの使用を知らせてやればよい。したがって、新しい対象とか新しい経験と結びついて具体的に新しい単語が習得されてゆく。このためには、新しい絵本、新しい本、新しい遊び道具はよいしげきを与える。遠足に出かけたり、やお屋を見学したり、郵便局を訪れたりして、新しいことば、新しい表現を習得してゆく。そして、そのあとで話し合いの会を開いたり、ごっこあそびをしたり、やさしい劇に組んだりすることはいっそう効果的であろう。

 一般に、理解し得ることばと使用し得ることばとの間には相当開きがあるから、教師はあまり控え目にして新しいことばの使用を恐れる必要はない。

 子供は一般にかん高い声で話をするものであるが、もっと低い声で話す方が楽であり、聞くにも聞きやすく、不愉快でないことを知らせる必要がある。興奮した時には調子が高くなりがちで、そのためにけん騒におちいる。疲れたとき、ことに神経的に疲れたときも同様であって、その場合、騒がしいからといって、更に高い声で物をいうのはいっそう騒ぎを大きくするばかりである。まずその原因を確かめることが必要である。また低い声で話すことが案外よく徹底することを忘れてはならない。

 幼児はときどき不適当なことばや、不正確なことばを使うものであるが、多くは次第にそういうことがなくなってゆく。但し、言語障害のあるために、そうなっているものもあるから、専門医の診断を必要とするものもある。正しいことばを聞くことによって正しいことばを語ることができるのであるから、耳の悪いことが言語発達の遅れる原因となっている場合もある。

 人の語ることばをよく聞く態度を養成することもたいせつである。このためには、童話・おとぎ話・詩などを聞かせてやる。それはまた幼児の想像を豊かにするものである。

 よい童話としては次のような規準が考えられる。

次のようなものは、なるべく避けた方がよい。   7 絵   画

 

 絵を描くことに興味を持たせ、よく描けたかどうかという結果よりも、楽しみながら描くことの喜びを味わわせることがたいせつである。のびのびとした気持で自由な表現をさせ、表現をすることの喜びを十分に味わわせ、創作的表現に対する興味を養う。

 材料はクレヨン・チョーク・墨(墨じゅう)・絵の具(ポスターカラー)・鉛筆等が用いられよう。

 紙は小さいものより大型の紙を用いたい。画用紙・ラシャ紙・ザラ紙・印刷した紙や広告の紙の裏、新聞紙を利用する。墨絵・水絵のための筆も使い古しの筆を用いるとよい。描きたい時に描けるように材料を豊富に用意し、幼児が出し入れできるように置き場所にくふうをする。

 白墨やクレヨンや白墨でいろいろの形を黒板や紙の上に自由に描いてみて、描きちらしているうちに、何かの形ができることに興味を覚え、自分の描いた形がだんだん物の形に似て来ることを喜び、描いてみることによって事物を注意してみるようになる。

 教師は幼児に絵の手本を与えたり、描くものを示唆すべきでない。各幼児は表現すべき自己の思想を豊富に持っている。描きたくなるような環境を作ることが望ましい。

 墨絵及び水絵 大型の紙に大きな絵筆で描く作業は幼児の筋肉調整の上に役立ち、また自己表現の良い手段となる。

 新聞紙で机をおおい、机をきれいにすることを教える。こぼさないように水を注いだり運んだりして、紙・すずり・絵の具・墨・筆・水の取り扱いに責任を持つことを教える。

 絵の具の色にはどんな色があり、どうすればどんな色が出るかを幼児がくふうして見て彩色の喜びを味わう。

 鑑賞 自分の描いた絵だけでなく、他の幼児の描いた絵を見せて、絵について話し合う。また他の組や他の幼稚園の子供たちの絵も見せてやる。いゝ絵本も見せる。

 子供たちの描いた絵や、おとなの描いた絵のうち、幼児に興味あるもので、芸術的価値も高く、且つ幼児に理解できるものを選び、室内や廊下に掲示して鑑賞させる。台紙にはるか額ぶちに入れるとよい。できるだけとりはずしの容易なようにくふうして、新しい絵が陳列されることに興味をいだかせるようにする。

 

8 製   作

 

 粘土 粘土は幼児が最も興味を持って、いろいろの形を作るのによい材料である。適当の堅さの粘土であれば、幼児の望むままに自由に、しかもすみやかにいろいろのものを作ることができる。作る興味のほかに、でき上がった製作品は立体的で、実際におもちゃとして幼児の遊びを充実させてくれるものである。

 たとえば、ままごと遊びの道具・ごちそう、動物園ごっこの種々の動物、乗物遊びの汽車・電車、やお屋遊びの野菜などと、数々の遊びの材料として幼児たちを喜ばしてくれる。

 でき上がった作品は乾燥させて色を塗り、実物の感じに近づけたり、また乾燥後焼いてじょうぶにしておもちゃにすることもできる。粘土製作では材料をできるだけ豊富に与えて、大きなものを作るようにしたいものである。粘土はどの年齢の幼児にも十分に興味を起させて、創作のおもしろみを味わわせてくれるものであるが、こわれやすい欠点もある。

 紙粘土 紙粘土は、古新聞紙・雑誌などを細かにむしって水につけ、これをつき、柔らかくして、これにふのりをまぜてつくる。冬期には冷たい普通の粘土よりも暖かく、幼児の手をいためなくてよい。またこわれやすい粘土の欠点を補つている。

 いずれも一得一失があって、紙粘土は幼児が作るのに細かい部分の製作にはやりにくい点もある。しかし、紙粘土の長所は、でき上がった作品はじょうぶで、おもちゃとして長く遊ぶことができる点である。

 粘土のほかに幼児の製作の材料として紙類がある。厚いもの、薄いもの、ボール紙・だんボール・画用紙・模造紙など諸種の紙類がある。新しい紙でなくても、包装紙の使ったあとのものなどもよい。またボール紙のあき箱、マッチ箱、たばこのあき箱、その他のあき箱など立体的なものを作るのによい材料である。はさみは西洋ばさみが幼児の手を痛めなくてよい。幼児のひとりびとりにそれぞれ一つのはさみを持たせておくことができるとなおよい。

 木 木箱のあいたもの、小さい板切れなどを材料として、ごく簡易なものを作らせるのもおもしろい。用具としてのこぎり・金づち・くぎなどのようなもののうちで安全なものだけを使用させる。

 自然物 これはきわめて材料の範囲が広いものである。四季おりおりの木の葉、葉柄・花・実などの植物から、小石・貝がら等に至るまで、無限に製作の材料となる。趣味豊かなもので、農山漁村などの保育所・幼稚園ではこの材料を大いにとりいれるとよい。

 終りに製作全体については、材料をできるだけ豊富に与えて、幼児が自由に選択し、十分表現して満足するようにさせたい。物を作る興味、自分自身で創作する機会を与えることが何よりたいせつなことである。ただ幼児の製作中これを観察していて、幼児が自分の創作について教師の援助を求めたり、あるいは別々に新しく作るものを要求することがある時は、教師はよい相談相手であり、またよき手伝い役でありたい。

 製作には平生の観察がたいせつで、そのために自然や社会的事象に関心を持たせ、また幼稚園や保育所にいろいろの材料が豊富に備わっていることが望ましい。

 また教師自身の製作している実際の様子を、幼児たちが見る機会のあることは最もよい。先生が興味を持って作っている様子を見て、幼児も製作にひき入れられるものである。

 

9 自 然 観 察

 

 幼児にとって自然界の事物・現象は驚異と興味の中心をなす未知の世界である。それで幼児期から素ぼくな直感によってものごとを正しく見、正しく考え、正しく扱う基礎的な態度を養うことがたいせつである。但し、あくまでも幼児の年齢・能力・興味に応じて行われるべきであって、幼児の疑問に対してもその時期の幼児を満足させる解答を与えてやることがたいせつで、最初から高きを求めてはならない。

 科学的態度を養うには、幼児にその生活環境を理解させなければならない。それは必ずしも多くの費用や設備を必要としない。教育者の創意くふうによって与えられた環境を利用し、有り合わせの材料を使って十分できる。例をあげるならば、近くの山や河や池や林や野原やたんぼや公園や工場や市場や停車場等はそのまま教育の場とすることができるからである。但し、最低限度の設備としては砂場・花壇・飼育箱・水そう等がほしい。遊び・見学・遠足等の場を適当にとらえ、疑問と興味を起させるように指導してやるのがよいので、特別な時間を設ける必要はない。

 こわしたり、よごしたりするようなことはあまり気にかけないようにして、実際に幼児にやらせることがたいせつである。

 自然の経験を与える一つの計画例を参考までに次に掲げる。

 

自 然 の 経 験

 

四 月——小川あそび 要旨 めだか・おたまじゃくし・たにし等を捕り、ささ舟を流し、春の自然を体験させる。

注意 浅い危険のないところ。たんぼなどもよい。手や足を洗う場所を考慮にいれる。

五 月——草花つみ 要旨 野原で草花をつんで遊ばせ、春の自然を楽しむ。

注意 四月下旬から五月上旬がよい。危険のない場所で自由にのんびりと草花をつんで遊ばせる。

花……つめくさ・れんげそう・たんぽぽ等。

草……のびる・はこべ・すいば等。

六 月——かえるつり 要旨 小川や池などで、かえるやえびがにをとって遊びながら観察させる。

注意 つるには小さい捧に糸をつけて虫などをくくりつける。

七 月——水あそび 要旨 砂場で水鉄砲をしたり、じょうろで水をまいたりして遊ばせる。

注意 人に水をかけないように、けんかのもとにならないように社会性の発達を考慮する。

九 月——秋の草花つみ 要旨 すすきの穂が出、はぎが咲くころ。秋の野原でおもしろく草つみをして遊ばせる。

注意 月見の行事と結びつけるのもよい。すすきは手を切るので注意を要する。

十 月——どんぐり拾い 要旨 どんぐりがおちるころ、どんぐりを拾って遊ばせる。

注意 拾ったどんぐりでいろいろの遊びをさせる。

十一月——落ち葉拾い 要旨 雑木林の中にみちびいて落ち葉を拾いながら遊ばせる。

注意 落ち葉だけでなく、きのこ、その他虫などに及ぶのもよい。落ち葉はただ拾うだけでなく、並べたりして落ち葉遊びをするとよい。

十二月——三月——雪あそび 要旨 適当に雪が降った時、雪投げや、雪だるまを作って遊ばせる。

注意 終ったあと手を暖めたり、足をかわかしたりすることを忘れてはならない。

 

10 ごっこ遊び・劇遊び・人形芝居

 

ごっこ遊び

 人形・おもちゃの動物・積み木・草花・木の葉などなんでも使って幼児たちは自由に社会や家庭の模倣遊びをする。おかあさんごっこ・動物園ごっこ・汽車ごっこなど、次から次へと展開されてゆく。幼時はこの遊びを通して社会性を獲得してゆく。ごっこ遊びはできるだけ幼児の自発活動を尊重して干渉しない方がよいが、全く放任して悪質の摸倣をするようなことがあってはいけないから、正しい誘導を忘れてはならない。

 ごっこ遊びは子供の経験にもとづくもので、周囲に起るさまざまの事件を再現しようとする。

 このようにして、ごっこ遊びを通して、自分の日常生活経験を総したり、明らかにしたりするのである。

劇遊び(お話遊び)

 幼児自身の生活となって楽しめるお話遊びなども大いに取り入れられなければならない。幼児は童話を聞くとそれを遊びにしてみたいと考えるものである。たとえば、三匹の子ぶたの話を聞くと、これを直ちに遊びにする。大きい男の子はおおかみになり、小さい子はそれぞれ三匹の子ぶたになって、話で聞いた筋を興味深く再現しようとする。ちょっとした指導によって、少しの組織とヒントとを与えてやると、おもしろい劇化されたお話の遊びができるものである。

人形芝居

 人形劇は立体的であり、活動的であり、具体的であることによって幼児には特によろこばれる。

(1)指使い人形芝居 指で使うもので、製作も操作もきわめて簡単である。先生が作って見せてやるだけでなく、幼児たちに製作させて実演させることもおもしろい。

(2)糸あやつり人形芝居 糸であやつるもので、人形の動作が自由である点から、幼児は興味を持つ。

(3)影絵芝居 厚紙で人形の形を切り抜き、スクリーンに影を映す。昼間は太陽光線を利用して映すことができる。

(4)その他 おもちゃを利用しての劇的な取り扱い、おもちゃの人形芝居・あきびん利用の人形芝居なども、ちょっと手をかけて指導すれば、おもしろいものができる。

  11 健 康 保 育

 

 幼児の健康を保ち、十分な発育をとげさせるためには、生活全般にわたる細かい配慮が必要である。

 健康記録

 そのためには、まず健康記録を作っておくことが必要である。すなわち少なくとも毎月一回ずつ、体重・身長・胸囲の計測を行い、記録する。頭囲や座高はあまり必要でない。前に掲げた身長・体重の標準は平均値であるが、身長と体重とのつりあいがとれていたら、標準からは多少劣っていても健康でないとはいえない。毎朝の健康検査の必要なことは前に述べた。かかった病気、欠席の原因などはいちいちつきとめて記録を確かにしておき、特に伝染病・寄生虫、かかった病気の傾向などは注意して記録しておく。すべて一年を通じて記録できるよう、そしてこれによって幼児たちの健康状態が見渡せるようにカードを用意して置くことが望ましい。

 環境 健康生活のためによい環境としては、新鮮な空気・十分な日光・適当な温度が必要である。室内の換気をよくし、特に冬は換気に十分注意しなければならない。また、庭には水をまいてほこりの立たないようにする。日光は健康の源であるから、なるべく日なたで過ごす時間を多くする。毎日少なくとも二時間ぐらいは屋外で過ごすようにしたい。但し、直接日光の当る所で絵本など見ることは目のためによくない。紙芝居なども、幼児たちは日を背負い、舞台が日に向かうようにするとよいが、後頭部を長く日光にさらすのはよくないから注意する。なお、曇った日でも外に出れば外気浴は十分できることに注意しよう。

 運動 子供がじっとしている場合は、何か身体に異常があるものと考えてよいくらい、健康な子供はよく運動する。筋肉は適当に使い、適当に休ませることによって強くなる。走りまわり、とんだり、はねたりし、ジャングルジムに登ったりぶらさがったりし、ブランコに乗り、すべり台ですべって、からだじゅうの筋肉を動かす。幼児の時期はことに全身の大きな筋肉を動かす運動が必要である。全身で持ち遊ぶような箱積み木、からだじゅうで動かす重い車、いずれもこのような目的にかなった遊具である。

 休息 過度の運動は子供のからだに悪い影響を与える。だから運動のあとには必ず適当な休息をとらせなければならない。休息の間に、運動によって生じた有害な物質は新鮮な血液によって清められる。一度に多量な運動、たとえば長時間の遠足などをすると、その回復には長時間を要する。また、子供たちは自分の疲労に気づかないことが多いが、いらいらして来たり、けんかしやすくなったり、すぐ泣くような様子が見えたり、むやみにおしゃべりになったりするようなことがあれば、疲労が相当進んで来たしるしであるから、すぐに休息をとらせることが必要である。そうでないと、身体に悪い影響を与えるばかりでなく、かんしゃく持ちの子供になるおそれがある。

 休息のためには強いしげきのない静かな環境を与えることが第一に必要である。身体的に最も完全な休息は横になって寝ることである。しかし、いままで走ったり、はねたりしていた子供を急に寝かせることはよくない。しばらくの間静かに歩かせて、それから腰をおろさせ、そのあとで寝かせるというように徐々にやすませるようにするのがよい。

 昼寝は幼児には必要な休息であるが、詳しくは休息の項を参照されたい。また絶対的休息としての夜の睡眠は十分にとるように家庭と連絡を密にしたい。

 生活習慣、規則正しい生活は健康の基である。起床時間・就床時間を一定にし、食事・間食・昼寝・排便等、すべて規則正しくすることは、すべての身体の働きと休息の効果を十分にあげることができる。

 また清潔の習慣を養うことも健康生活のために欠く事のできないたいせつなことである。食前に手を洗うこと、戸外運動後に手と足を洗うこと、顔を洗うこと、うがい、鼻をかむこと、歯をみがくこと、つめ切り、髪の手入れなどはすべて幼児が、自分でするように習慣をつけたい。また衣服や手ぬぐいなどを清潔にすること、せきやくしゃみをするときに人の方に向かってしないというような習慣を養うことが必要である。

 栄養 幼児の栄養上注意しなければならないことは、必要カロリーが成人に比べて相対的に多いということと、たんぱく質のうちでも発育に必要なアミノ酸を多量に含むものを与えなければ栄養が不完全となることである。たとえば動物性のたんぱく質では卵・魚類・肉、植物性たんぱく質ではだいずのようなものがよい。また幼児の一回に摂取できる食物の量が少ない割にエネルギーの消費量が多いので、三度の食事のほかに間食が必要である。間食は午後だけでなく、朝早く食事する子供や年齢の低い子供には午前の間食も必要である。与える分量などは年齢によって差がある。

 幼稚園や保育所でとる昼食は、分量が十分であることと、副食物の質と量が十分であることが必要である。冬は暖かい食物を与えるようにくふうすべきである。暖かいミルク・スープ・みそしるなどを与えたい。肝油・バター・牛乳・くだもの・くだものジュース・きなこ等の発育に必要なビタミンA・B・B・C・Dを多量に含むものを間食の時を利用して与えることも効果的である。肝油などの服用も、家庭におけるよりも幼稚園や保育所で与える方が一層正確に、且つ永続的に与えられるであろう。なお、偏食の子供は家庭と協力して直すように努めたいものである。

 疾病の予防と早期発見、各種の伝染病の予防は病気になった子供の早期発見と隔離及びワクチン類による免疫獲得によってなされる。

 幼児に多い伝染病の早期発見に役立つ重要な特徴は、次の通りである。

 はしかは、子供の伝染病中最もかかりやすいものである。潜伏期は約十一日で、潜伏期の終りごろからせきが出て、これが昼夜を問わずしきりに出る。潜伏期の末に発熱するころに、口の中の奥歯の当たる附近のほおの粘膜に白い点々としたものが現われる。これはコップリック氏斑(はん)といわれる。この潜伏期の末から発疹(しん)したあとの二・三日間が最も感染力が強いから隔離する必要がある。発疹(しん)が出て十四日以上経てば感染力はないから通園させてもよい。

 百日ぜきのはじめは普通のかぜと全く変わりなく、七日ないし十日たったのち、だんだんと百日ぜきの特徴を現わして来るのである。すなわち、せきは昼よりも夜、ことに夜半から明け方にかけて多くなり、その後数日間でついにあとへひゅうと引く笛のような音を出すようになるのである。この笛のような音が出るようになるまでの間もよくうつるから、数日以上も引き続いてせきの出る子供があったら、その経過を注意して観察し、家庭の者に夜半や明け方にせきが多くなることがないかどうかを確かめる方がよい。

 しょうこう熱はのどが赤くはれ、そしてのどを痛がることから始まり、発熱後一日以内にまず首・胸・腹部等に、日やけのような赤い発疹(しん)が現われて来る。

 ジフテリアものどを痛がることが最も多い。のどをあけさせて見て、赤くはれたへんとうせんの上に白いはん点や義膜がついている場合は、まずジフテリアの疑いがあるものとして隔離し、早く医師に知らせる。

 ワクチン注射 ジフテリアなどの保菌者も多いから、すべての幼児にジフテリアの予防注射をした方がよい。百日ぜきワクチンも、まだそれほど確実ではないが、する方がよい。はしかの血清注射は流行時には励行した方がよい。

 結核については、幼児にも感染しているものがあるから、ツベルクリン反応検査を行って結核児の発見につとめ、結核感染の有無、その進行の程度を半年に一度ぐらいずつ、確かめておく必要がある。

 

12 年 中 行 事

 

 幼児の情操を養い、保育に変化と潤いを与え、郷土的な気分を作ってやる上から、年中行事はできるだけ保育にとり入れることが必要である。

 元来、わが国古来から行われている年中行事、ことに祭などは、子供が参加し、楽しむ行事になっている。たとえば、三月のひな祭、五月の端午の節句、七月のたなばたなどは子供を中心にしている。これをそのまま保育に取り入れて、ともに楽しみ合う気持を養うことができる。

 年中行事には自然物がきわめて巧みに取り入れられている。たとえば、ももの節句、しょうぶの節句、月見の秋の七草、クリスマスツリーなど、生活を自然に結びつけさせる味があり、また人間の美しい気持を表現しているもの、または慈悲・博愛・感謝・報恩の人間的な美しい精神や社会的生活の楽しさを表わしているものが多い。たとえば母の日、彼岸会(え)、国の記念日、祝祭日等、みなそれである。

 これらの日にふさわしい催しをすることは、教育上有意義である。

 園の行事としては、創立記念日、園児や先生の誕生日の会などを開くのもよい。

 この機会をとらえて幼児に集会の作法を正しく教えたい。