二 幼児期の発達特質

 

 二歳ないし六歳の幼児の発達の特質を身体的発育・知的発達・情緒的発達・社会的発達の四項に分けて表示すると次の通りである。身体的発育の中には、身体的な面と運動的な面とを特に分けて示した。この表は発達の標準を示すものであるから、個々の幼児については個人差が認められる場合が多い。また発達の各側面について見ると、一側面のみ発達が進んでいたり、一側面の発達が遅れていたりする場合もある。円満で調和のとれた発達を助長し、その幼児として最高度の発達を図るようにすべきである。発達の程度は、実践的指導の基礎として、その他いろいろの活動や経験において、常に考慮れなければならない点である。

 この時期の幼児たちは、主として家庭がかれらの生活環境である。けんかをしてもその解決は家庭までもち帰られ、多くの欲望を充たすのも家庭である。家庭のかれらに及ぼす影響は著しく大きいと言わなければならない。しかも、その家庭はそれぞれ異なったものであるから、発達のそれぞれの面において著しい個人差を来たすことは当然である。したがって、次に示した表はあくまで標準的なものである。殊に、知的発達や社会的発達において幼児の個人差は著しくなるであろう。

 

発達の特質についての説明 (説明補足、必要なものだけを簡単に説明する。)  二歳児 運動的発達においては、主として、全身的な大まかな運動と手先の細かな運動とにわけて特質を挙げた。1、2、3は前者に、4、5、6は後者に属する。

 知的発達において、まず目立つことは、自分の環境に対する興味が芽ばえ、これにもとづいて知識が広まる。すなわち「1、茶わんとか、はしとかいうようなものの名まえが言え」、「2、性別や」「3、名まえが言えるのは」、すべてこの現われである。「4、絵を見せるとその中の三つ以上のものの名まえを列挙する」ということも同様の意味を持つ。5、6の項目も広い意味における環境への認識の成長である。7は特に観念というものの発生を示すたいせつなことがらである。

 情緒的発達においては、情緒の分化とともに、まだ十分に統御されない状態が見られるのは表の通りである。

 社会的発達においては、社会人としての個人的行動の発達と、社会的行動の発達とに分けた。1、2は前者に、3、4、5は後者に属する。4の並行的遊びとは、幼児が数人集まっているとき、おたがいの遊びのきっかけは、他の子供がいるということで始まるが、遊びはじめると並行的に、たがいの交渉なしに進むものをいうのである。

 三歳児 運動的発達は二歳児と同様の意味の項目が掲げてある。(四、五歳児も同様) 知的発達における1は、描いてしまつたあとで名まえをつけるものである。2は今、子供自身が直面していないような場面、たとえば今おなかはすいていないけれども、すいたらどうするかというようなことの考えができるようになるのである。4は記憶に関係する。

 四歳児 知的発達における2は、比較能力の発達を示す。4はたとえば「この本を向こうの机の上に置いて、入口の戸をしめて、そこにあるほうきを持っていらっしゃい」というような三つの命令を正しくまちがえないでやれるということである。7は好奇心、知識欲の発生を示す。8はたとえばひもに通してぶらさがっているもののひもをはずしてそのものをとるというような、物の関係をよく見て、どうするかということを考える力ができることを示すものである。

 五歳児 知的発達における1は、質問や観察に、四歳児より更に強く現われる。3は、たとえば絵を描く前に何の絵を描くという意図がはじめからはっきりして来ることを示す。4は、たとえば「鉛筆はどんなもの」と聞かれると「書くもの」と答えるというように、用途によって定義するので、定義の最も原始的な形である。5は数えないですぐに言えるので、数と環境に対する興味と学習の結果できるものである。6、8等も同様に自分の周囲に対する興味の結果として得られる知識である。たとえば10は一定の順序にしたがって並べられたものの関係(たとえば球が赤、白、赤、白という順序に並んでいるという反復関係)をつかむことができることをさすもので推理能力の発達を示すものである。