第四章 指導の方法
一 教師の準備と活動例
1.教師は生徒のためによき環境を整備することを第一に要求される。環境は教室ばかりに限らず,社会・家庭をも含む。生徒はその環境の中から研究すべき問題を見出し,それを追求し,解決しつつ成長するのである。
2.教師はまず,問題をつかませるための手がかりを与える必要がある。例えば
(二) 食生活においても,郷土の食習慣,郷土でできる食品,郷土食等について調査する。
(三) 家庭看護についても,医学的にみていろいろ不合理なことが行われていないかということを研究する。
(四) 育児にしても,郷土によっていろいろの育て方が行われているから,これらも教育的な,又医学的な方法と照らし合わせて,間違っているところがないかを研究する。
(五) 家事経理においても,郷土によっていろいろ特色のあるがらがあると思われるから,これについても観察・調査等をする。
(六) 教師は生徒各人の家庭状況について詳しい知識を持っていること—家族数とか,その間がら,又住居の広さ,すまい方等に対し—又更に教師は生徒の友だちの間における関係を学校内外を問わず広く知っておくことである。
3.教師は,以上の事がらのほかに,衣・食・住あるいは育児・看護・家務の処理に関した新聞の切り抜き,雑誌・書籍等を用意する。
4.そのほかいろいろの標本・見本・図表・統計表等を準備する。
5.調理・食品加工・看護・被服等の実習には正確・簡明で手ぎわのよい示範を伴なうのが最も効果的である。
二 生徒の活動例
1.被 服
(二) 生徒各自の被服の数量調査,必要数につき討議
(三) 被服の改良についての討議
(四) 被服の形・材料・着方について討議
(五) 既製品及び標本による模範的技術の観察
(六) 作品の鑑賞
(七) 裁縫実習・実験・試作
(八) 着用記録の作成及び反省事項の記録
2.食 物
(二) 調味料・甘味料・香辛料等について,その製法及び使用量の研究(観察・見学・実習,参考書の利用)
(三) 食事のとり方の研究(調査・討議・実習,参考書の利用)
(四) 日常食における必需量の算定(調査・討議・実習,参考書の利用)
(五) 食品の新古・良否等についての鑑別(観察・討議,参考書の利用)
(六) 食品加工に際しては,衛生上どんな注意が必要かについての研究(調査・討議,参考書の利用)
(七) 食品の市価と栄養価に関する研究(観察・見学・討議,表の作成)
(八) 食物の調理手法の種類やその特色についての研究(調査・観察・討議,参考書の利用)
(九) 地方における食習慣の研究(調査・観察・討議,報告書の作成)
(十) 栄養的方面からみた郷土食の研究(調査・観察・実習・討議,表の作成)
(十一) 献立を作る際にいかなることに注意しなければならないかの研究(観察,報告書の作成,討議,参考書の利用)
(十二) 調理は病人・老人・乳幼児等によって異なるが,どんな点に注意しなければならないかの研究(見学・観察・実習・討議,参考書の利用)
(十三) 調理は季節によっていかにしたらよいかの研究(観察・討議,報告書の作成)
(十四) その地方における年中行事を基にして,特別調理の研究(観察・討議・実習)
(十五) その地方でできる食品の加工とその貯蔵についての研究(見学・観察・調査・実習・討議,報告書の作成)
(十六) 調理用具の扱い方及び燃料の使い方の研究(観察・調査・討議,表の作成,参考書の利用)
(十七) 日常食の改善についての研究(観察・調査・討議,報告書の作成)
3.家庭衛生
(一) 人体の構造,その生理作用等の研究(観察,参考書の利用)
(二) 疾病はどうして起るかという科学的研究(観察・討議,参考書の利用)
(三) おもな疾病の経過の研究(観察・調査,参考書の利用)
(四) 疾病栄養との関係の研究(討議,参考書の利用)
(五) 疾病予防についての研究(討議,参考書の利用)
(六) 保健とその増進に関する研究(討議,参考書の利用,論文の作成)
(七) 看護技術の研究(見学・観察・実習,参考書の利用)
(八) 看護技術の科学的根拠の研究(参考書の利用)
(九) 看護用具の研究(調査,報告書の作成)
(十) 医薬及び医療器材の取り扱い方の研究(参考書の利用,実習)
(十一) 健康保持のために生徒の住んでいる地区に公共的な設備があるかどうか調べておく。
4.家族関係と子供
(一) うまく行っている結婚というのはどういうのか討議し合う。又,どうしたらよき配偶を得てうまく行く結婚をすることができるか話し合う。民主化された日本の家庭生活はいかにあるべきかについて話し合う。
(二) 結婚についての知識を十分に得ること(専門家の話,よき性教育の本の利用)
親となることの責任についての研究
(三) 子供を育てるにはどんなに苦心するものであるかということについて話し合う(調査・討議)
(四) 乳幼児が成人と相違する点の研究(観察・調査,図表の作成,参考書の利用)
(五) 乳幼児の性格と形成し,その行動を正しく導くためのしつけの研究(観察・見学・実習・討議,報告書の作成,参考書の利用)
(六) 乳幼児のおもちゃと遊びの研究(観察・調査・実習・見学,報告書の作成,参考書の利用)
(七) 乳幼児のおもな疾病とその予防の研究(観察・見学・調査,図表の作成,参考書の利用)
(八) 乳幼児の保健についての研究(観察・見学・調査,図表の作成,討議,参考書の利用)
(九) 乳幼児の不慮の災害の発生する場所・器物・時期・種類及びこれの予防についての研究(観察・調査,統計の作成,討議,参考書の利用)
(十) 乳幼児の食事と栄養についての研究(観察・調査・見学・実習,参考書の利用)
(十一) 乳幼児の看護や手当の研究(観察・見学・実習・参考書の利用)
(十二) 出産についての心得の研究(調査・見学,参考書の利用)
(十三) 家庭の和楽及び隣人との交際にはどうあるべきかについての研究(観察・調査・討議)
(十四) 子供をしつけのあるよい公民として世に立たせるにはどうしたらよいかの研究(観察・調査,参考書の利用,討議)
(十五) これからの主婦はいかにあるべきかの研究(討議,論文の作成)
5.住居と家事経理
(一) 進歩的で且つ能率的な充実した日常生活を営むにはどんな条件が必要であるかについて話し合う(観察・調査,参考書の利用,討議)
(二) 科学的,経済的な住居・家具・造作の使用について話し合う(見学・観察・調査・実習・討議)
(三) 上手な買い物にはどんな計画が必要であるかについて話し合う(見学・観察・調査・討議)
(四) 堅実な経済生活とはどんな生活であろうかについての研究(調査,参考書の利用,討議)
三 指導結果の考査
1.被服・食物・家庭衛生,家族関係と子供,住居と家事経理を通じて,理論的方面の理解の考査は,生徒平常の学習状態やノート・論文・報告書等によって総合的考査法,あるいは完成法・再生法・真偽法・判定法・排列法・組み合わせ法・分類法等の分析的方法によって考査する。
2.又,技術的方面の考査は,排列法・図解法・記述尺度法・品等法の分析的方法によって考査する。