第二章 家庭科学習と児童・青年の発達
第五ないし第六年は,やがて青年前期にはいろうとしているが,心身の安定はなお保たれていて割合に平和な時代である。女児は身長・体重の発達が男児をしのぐようになるが,まだこの時代には,男女別に取り扱わねばならぬほどの相違は出て来ない。しかしすでに空想的な時代は過ぎて,現実的なものに関心を持ち,事実をつきとめて知識をひろめようとする。同時に,だんだん社会的となり,一定の秩序に従って行動するようになり,一定の組織における自分の地位を自覚するようになる。
これを遊戯についてみると,学齢前から女児に圧倒的に人気のあったお客遊び・おままごと・着せかえ・お医者遊び等がだんだん少なくなって行く。これは,調理や被服や看護等に関する興味が衰えたのではなくて,ようやくこれらが現実化されつつあることを物語るといってよい。
勤労においては,第一年からはじまる掃除が,庭はき・ぞうきんがけというように著しい進境を示し,女児にはせんたくや裁縫等もそろそろ現われる。
炊事・御飯たきは第四年から現われ,第七ないし第八年で顕著となるが,水加減・火加減の一から十までを,はたしてひとりでやっているかどうかは確かでない。
子守りは,これ又第一年からはじまる最も普遍的な家事手伝いの一つであるが,興味というよりは,いやおうなしの重荷であることが多い。実際,たいていの者は赤んぼうを喜ぶが,仕事としては必ずしもすきな部類に数えていないのである。このことは,子守りを課程に取り上げる場合,十分心得ておくべきことであり,できるだけかれらの興味から出発するように,又幼児の研究を通して人々に幸せを与える態度を学ばせることである。
女児はこの年ごろになると,何でも早く針を持って物を縫いたくてたまらない。手指の筋肉運動も相当に発達し,こまかな運動ができるようになる。
第七ないし第九年は青年前期である。女子は月経初潮をみ,男女ともにしだいに性的自覚を生ずる。思考は論理的に,観察は精密になる。機械的記憶はこの期を頂点としてくだり坂になる。この期になると,農村の男児は農耕・取り入れ・草かり・まぐさ飼い・薪拾い等農事の初歩を課される。たいていの女児は,炊飯・調理の手伝いをする。
この時代の終りには,いよいよ青年期にはいる。内省的で自分だけの世界にとじこもりがちになり,反社会的で粗暴に陥るが,又親友も生まれる。心身の発達の不つりあいから,器物取り扱いにそそうが起こりがちなのもこの期である。この期には特に満足な社交生活ができるような指導が必要である。
第十年に進むころからしだいに情操が発達し,美的世界に対するあこがれを生じ,又学科にすききらいができる。身体が十分発育を遂げるとともに,女子は家庭の主婦となり母となるという自覚も芽生え,家事に真の興味を持つ。新しい経験,新しい世界へのあこがれは家庭生活刷新の追求に,政治的,社会的関心の著しくなるのは,よき家庭人,よりよき社会人への発展に,最もよい機会であることを示す。