第四章 通信教材の構成

一、通信教材はどんな性質を持っているか

 新らしい教育は、これまでの教材観を一変させている。これまでのいわゆる教科書中心主義の考えからすれば、教材はそのまま教科書であり、学習活動はいかにその内容を理解し、応用するかにあった、ところが新しい教育では、中心となるのは生徒の学習活動であり、生活経験そのものの発展である。教材とはその目標や内容を示すものであって、固定した教科書の内容そのものを意味するのではない。このような見方に立って、教科書は、その意味と形式とを著しく変えることになったのである。したがって通信教育にとっても、教材とは、学習活動の方向と内容を規定するものであり、書き表わされ、固定された文化材ではなくなったのである。古い形の教科書学習を中心とするものであれば、教材はそのまま在来の講義録風のもので十分であろう。しかし、新しい意味での通信教材は、何よりもまず通信教育生の学習活動の目標を示し、学習過程の指針となるものでなければならない。この意味において、通信教育も、その根本の精神は新しい「学習指導要領」を基準とすべきである。中学校の通信教材は基本教材とそれに対する学習指導書とから成っている。基本教材は、内容や程度を普通の学校の場合と同一にするために現行の国定教科書を用いるが、これを生徒が独習してゆくのを指導するについては、スクーリングの場合とは異なるいろいろな特殊な問題が生じてくるのである。すなはち通信教育では、学習方法の指示や内容の解説は通信によって行われなければならず、問答に代わって質疑や添削の方法が活用せられ、参考資料を示し、個人差に対する配慮も加えられなければならない。このように、教材の目標や内容は普通の学校のものと同一であっても、教材の組み方、提示の方法、解説の方式等は、すべて通信教育の特質を生かすように配慮しなければならない。この役割を果たすのが学習指導書である。

二、学習指導書の編成はどうなっているか。

 教育の内容は、それぞれの教科に分かたれ、各教科は一定の分量の教材を含んでいる。ところが、各教科を履修するに要する時間の標準は教科によってそれぞれ異なっている。たとえば中学一年の国語の履修時間は毎週五時間であるが、理科は四時間である。このように、教科によって、要求されている履修時間に差があり、同時に教材の分量にも大小があるので、通信教育では中学校でも高等学校の場合と同様に単位制をとる必要がある。だから、単位制は通信教育生が修めたクレディツトを計算する規準にもなるのであって、その教科について満足に修得した場合にその単位を与えられることになり、この単位が一定数与えられたときに、卒業することになるのである。このような単位の計算は普通の学校において週平均一時間(一年間三十五週)に要求されている学習を果たした場合これを一単位とし、五時間の場合には五単位とするのが一般の標準とされている。ところが通信教育の場合に問題となるのは、教科のうちには、実験実習とか共同学習を必要とするものがあり、このような直接指導を必要とする部分は、通信の方法では一定の制限をうける。一般に経験が浅く、知識のレベルの低い生徒の場合には、できるだけ各科の進度を調整するように指導せられたい。たとえば理科の学習を進めるためには、どうしても数学がこれに伴なわなければならないし、職業料の学習効果を十分にあげようと思えば、社会科の裏づけが望ましい。普通の学校の一箇年分の教材には一つのまとまりを持たせてこれを一つの課程とする。この課程の内容をなす教材は、学習の便宜上、さらに幾つかの学習単元(アサインメント)に分かたれている。教材はすべて学習単元にまとめられているから、その一つ一つについて学習し、各学習単元ごとに逐次学習報告を提出して添削・批評をうける。かくして一つの課程を相当な程度に復習した者には、その課程の終末試験を受ける資格を与え、これに通過した者には、その課程を修了した証明を与える。

 次に各教科の教材や学習単元の内容は、それぞれ教科の性格に応じて異なっていることはいうまでもない。しかし各科を通じての構成の標準はだいたい次のようになっている。

A その教科全体についての学習上の心得が最初に示される。その教科は全体の教科課程のうちでどのような位置を占めるものであるか。他の教科との関係はどうであるか。その教科の学習はどのような目標を持ち、どのような理解や態度や技能を身につけさせようとしているのであるか。学習の方法は、どのような計画で、どのような準備と方法とをもって進られるべきであるか等がまず示される。

B 教材のまとまりは、各学習単元を成しているわけであるが、学習単元は必ずしも教科書の章の順序を追わず、通信教材としての独自の編成がなされているのが普通である。

 各学習単元の内容は次のようになっている。

(イ) その単元についての学習興味を換起し、正しい学習態度に導き入れるような説明が与えられる。設問によってすでに持っている経験を反省させ、これを明確にし、どの点に学習の重点をおくべきかを考えさせる。既習教材との連関を示す。この単元を学習するに必要な標準の時間数が示される。

(ロ) 基本教材の理解をたすけるために、教科書をいかに正しく読むかを指示する。教科書は本来、自分で読んで理解できるたてまえのものであるが、特に難解と思われる部分には註をつけ解説を加える。

(ハ) 学習活動の展開を指導する。研究の中心点や課題を正しくとらえるような指導を与える。学習の結果をノートに整理させる。作業課題を課して作業の結果をまとめさせる。これらは必ずしも指導者に報告を提出することを必要としない学習作業である。教科書の内容から、どうしても共同学習が必要であり、実験実習を要するものについては、できるだけその方法をくふうし、手近のものを利用し、またできれば指導者の直接指導を受けるような指示が加えられる。そのためのディスカッションの課題を示し、実験・実習の手続を示してその結果を記録せしめる。

(ニ) 学習が正しく行われたかどうかの自己検査(セルフ・イグザミネイション)をさせる。学習の結果がよく整理されているかどうかを設問によって反省させる。問題を課して応用的な活動ができるかどうかを検査させる。一定の作業をさせて、示された規準にしたがって自己判定をさせ、その結果を数量的に示させる。

(ホ) 報告書を提出すべき課題を示す。課題は、教材が全体として十分に理解されているかどうかをみるもの(整理課題)、作業の結果を作品として提出させるもの(作業課題)、及び発展的な学習活動を展開させるもの(応用課題)等に分かれている。

(ヘ) 学習の今後の発展を指導する。今後学習を発展させるべき課題の所在を示し、参考文献を教え、ラジオその他の利用法を指導する。図書以外の見学調査の方法を指導する。

(ト) 参考資料を添える。特に通信教育生にとって現在入手の困難なものについては、最後にまとめてこれを掲げ、学習の便をはかる。

 通信教育生の学習指針は、一般に以上のような編成になっているから、教師はこれを十分に理解し、できれば地方の特殊性や通信教育生の個性を考え、補充的な指示を与えることが望ましい。