これは学習指導上の目標や注意事項などの基準を示した一案であって,将来は完全な学習指導要領が編修されなければならない。
1.目標
中学校で身につけた理科の能力・態度及び知識を基礎として,化学の研究の方法や知識体系を確実に学び取らせ,その結果,さらに高い学習に進む基礎を作り,またこれを実生活に活用する能力を得させる。
2.理解の目標
2.元素の数は約90である。これらの元素はだいたい金属と非金属とに分けられる。
3.化学変化は分子または原子間の反応の結果と考えられる。
4.おのおのの物質の性質は,それを作っている分子や原子の性質により,かつそれらの結合または集合の状態によってきまる。
5.原子は陽電荷を持つ核と,陰電荷を持つ電子から成りたっている。元素の原子番号は核の中の過剰陽子の数に等しく,それはまた原子の核を取り巻いている電子の数に等しい。
6.元素を原子番号順に表に並べると,元素の化学的性質はある間隔を置いてくり返される。
7.化学親和力は原子間の引力である。
8.元素は常にきまった重量比で化合する。
9.どんな化学変化が起っても,物質の総重量は変わらない。
10.二つもしくは二つ以上の元素が一連の化合物を作るとき,一つの元素の一定重量と化合する他の元素の違った重量の間には簡単な整数の比が見られる。
11.すべての物質の分子はたえず運動している。熱はこの運動を増進する。物質の状態の違いは分子の運動の状態の違いによるのである。
12.同温・同圧のもとでは,すべての同体積の気体の中には同教の分子がある。
13.すべて気体の化合する体積比は簡単な整数比で表わされる。生成物が気体であれば,それも化合する気体の体積と簡単な整数の比をなしている。
14.化学変化はエネルギーの変化を伴なう。多くの場合それは熱の発生または吸収として表われる。化学変化が起っても,エネルギーの総量は変らない。
15.溶液は溶質と溶媒の均一な混合物である。真溶液では溶質は分子大の大きさで分散している。こう質(膠質)溶液では分散物質は分子の数倍から数十倍の大きさの粒子の形で存在する。
16.電解質は溶液用でイオンに解離する。イオンは陽または陰の電荷を持っている原子か原子団である。溶液中の陽電荷の量は陰電荷の量に等しい。
17.酸は水溶液中で唯一の陽イオンとして水素イオンを持つ化合物である。塩基は水溶液中で唯一つの陰イオンとして水酸イオンを持つ化合物である。塩は塩其の陽イオンと酸の陰イオンとが化合してできる。
18.反応速度は反応物質の分子濃度に比例する。
19.多くの化学反応は可逆的であって平衡に達する。
20.有機化合物は炭素化合物である。炭素は原子と原子の結合する性質が著しく,これらの原子を多く含む化合物を作る。炭素原子は相互に鎖状あるいは環状に結合して,鎖状化合物あるいは環状化合物を作る。
21.多くの有機化合物は無機化合物のように化学的にかっぱつでないが,高温では不安定である。
22.炭化水素は大きな,なかまを作っている有機化合物の一つであって,水素と炭素だけを含んでいる。
23.多くの有機化合物は持っている基によって特徴づけられる。アルコールは,OH基を,アルデヒドは,CHO基を,有機酸はカーボキシル(COOH)基を持っている。
24.炭水化物・たんぱく質・油脂はからだに必要な三つの養分である。無機物とビタミンもまたからだになくてはならない。
3.教材一覧
2.物理的変化と化学的変化,混合物と純粋物,元素と化合物
3.水素,酸化と還元
4.水・過酸化水素
5.気体の法則,原子・分子,分子式・化学方程式,原子價・原子量・分子量
6.空気・窒素・けう(稀有)ガス
7.アンモニア・硝酸
8.酸・塩基・塩,イオン・電離,原子模型
9.いおう・硫酸
10.りん・ひ素
11.炭素・炭酸ガス・一酸化炭素
12.化学反応と熱,熱化学方程式
13.けい素・けい酸,コロイド
14.ハロゲン
15.元素の週期律
16.金属(一般)
17.ナトリウムとその化合物
18.カルシウム・マグネシウムとその化合物
19.アルミニウムとその化合物
20.鉄とその化合物
21.銅・銀・金とその化合物
22.金属元素の電気化学列,電池
23.亜鉛・水銀とその化合物
24.すず・鉛とその化合物
25.ラジウム・放射性元素
26.合金
27.メタン・エチレン・アセチレン,構造式
28.石炭・石油・燃料
29.アルコール・エーテル・アルデヒド,さく酸,異性体
30.油脂
31.糖類・セルロース・でんぷん
32.たんぱく質
33.石炭タールより得られる物質,染料
34.ゴム,樹脂類,アルカロイド
35.ビタミン
4.指導上の注意
2.基礎的な事項については十分な理解を得させる。
3.なるべく観察・実験を中心として自発的に学習を進め,かつ簡単な実験技術を身につけさせる。
4.物理の法則は,化学研究の基礎として用いられ,その数量的取扱いは教学の予備知識を身につけることによって達せられることを具体的に理解させる。
5.実験と理論との関係を明らかにし,実験の結果については常に吟味,検討をさせる。
6.重要な概念・法則及び理論はいろいろな事象においてくり返しこれを思い出させて,その意義を徹底させ,個々の場合に対する応用に慣れさせる。
7.日常生活並びに産業との関係に留意し,化学の発達が文化の向上にいかに貢献したかを知らしめる。
8.疑問や未知のものを明らかにしようと努めることによって,法則や原理が発見され,化学が進歩したことを理解し,常に新しい方法のくふうに努力する態度を養う。
9.危険や災害防止に関心を持たせる。
10.なるべく参考書・参考資料を活用して,生徒の自発的学習態度を養うように努める。
11.つとめて研究所・工場等の参観を行い,また化学に関する講演会・映画等によって理解を助けるように努める。