第八 学 年(中学校第二学年)

 

単 元 一

 世界の農牧生産はどのように行われているか。

要 旨

 食糧問題が真剣に論ぜられている今日,わが国の農牧生産の世界的地位を理解するためからも,世界各地の農牧生産状況の概要を知ることが望ましい。農業生活は,牧畜と並んで,自然環境と深い関係を持っており,各地の地形や気候から,かなり強い影響を受けることはたしかである。しかし,一方では,同一あるいは隣接地域内でも,住民の文化に応じて,作物の種類・収穫高・経営法などに,いろいろ異なっていることが認められる。例えば,南部アジア熱帯の原住民は,自然の食物を採集したり,幼稚な農業を行ったりして,わずかにその生命を支えているのに対し,同じ地域内に,大規模な農園農業が,ヨーロッパ人の手によって営まれている。また,アジア季節風帯の住民は,古くから集約的な水田耕作に従事してきたが,単位面積からの収穫高は,その経営法の科学的程度に応じて,地方によってまちまちである。われわれ日本人は,米作に深い執着を持ち,土地を極度に利用して,その生産の増大を計り,さらに,水田耕作の前線を,北海道のような高緯度地方にまで,押し進めることに成功した。しかし,それは,全く国内の自給を目ざしてのことである。

 このような東洋の農業に対して,西洋,特に新しく開かれた大陸の農業は,一般に市場に売り出すことを目標とし,広い農場で,機械力を盛んに利用して,大量生産を行っている。そして,小麦・とうもろこし・綿花・たばこなどの大量を,世界の市場に供給している。さらに,牧畜経済においても,旧大陸に見られる遊牧民のものと,新しく開かれた大陸で行われている牧羊や牧牛の場合とでは,はなはだ相違している。農牧生産事情が,このように地域によって異なっている上に,さらにわれわれは世界各地ではそれぞれの環境に適応した特産物を持っていることを知る。このようにして,食糧品や,原料品の世界貿易の必要性が生まれて来る。それと同時に,輸入国側では,その代償として,国土の自然,及び文化環境に最も適応し,しかも特色のある農業の振興に,力を注がなければならない。

 世界の人類は,古来,いろいろな方法によって,生産の増大を計るとともに,居住及び生産地域の拡大に向かって,絶えず努力を払って来た。そしてこの努力は,今後も続けられることであろう。しかし,現実として,今日のわれわれは,この方面に,最善の努力を注がなければならない状態におかれている。

目 標

(一) 世界諸地域の自然環境の特色を理解させる。

(二) 世界の農牧生活は,住民の文化を背景とし,各地の自然に適応して,いろいろに営まれていることを理解させる。

(三) 人類は,古来,生産を増大し,また,生産地域の拡大に向かって努力して来たことを理解させる。

(四) 農牧生産物に関する,世界貿易の重要性を認識させる。

(五) 地図投影法の大要を理解させ,また,地図の使用に熟練させる。

(六) 統計・図表などの製作や利用になれさせる。

(七) 自分たちとは,違った生活様式を持つ世界の諸民族に対して,理解を持ち,親善を深める態度を養う。

教材の排列

(一) 郷土の自然環境は,農業及び牧畜生活にとって,どんな点で有利で,また,どんな点で不利か。

(二) 世界の地勢環境はわれわれの農牧生活の舞台として,どんな状態か。

(三) 世界の気候環境は,どんな状態か。 (四) 世界は,どのように開拓されて来たか。また,食糧の大供給地は,どのように移り変わって来たか。 (五) 古くから居住されて来た諸大陸では,農牧業は,どのように行われているか。 (六) 新しく開けた諸大陸の農牧業には,どんな特色があるか。 (七) 極地方は,現在どの程度まで人類の活動を許しているか。 学習活動の例

(一) 縮尺の大きい地図,縮尺の小さい地図とは,どういう意味か。なぜ地図には大小いろいろな縮尺のものが作られるか。内務省発行の地図には,どんな縮尺のものがあるか。今までに見た地図の中で,いちばん縮尺の大きかったものは何分の一で,それは,どんな目的で作られたものかを調べて,報告すること。

(二) 学校あるいは自分の家の附近の概略の地図を,いろいろな縮尺で描いてみること。

(三) 地球儀の上に,適当な大きさの円を幾つか描き,これらの形や面積が,地図の描き方によって,どのように変わって表わされるかを調べて,報告すること。

(四) 世界で,米を主食としている住民は,どのように分布しているか。また,日本の米と外国の米とは,その品質がどう異なるかを調べて,報告すること。

(五) 西洋人が,穀物というときには,主としてどんなものを指しているか。また,西洋人が消費する穀物を多く産する地方は,世界に,どのように分布しているかを調て,報告すること。

(六) 熱帯の原住民は,いつもどんな服装をして,どんな家に住み,食物として,どんなものをたべているか。また,どんな農業を営んでいるかを調べて,報告すること。

(七) 熱帯の生活の有利な点,不利な点を調べて,討議すること。

(八) 極地方の住民の服装・家・食物について調べて,報告すること。また,極地方の生活には,どんな不利な点や有利な点があるかを調べて,討議すること。

(九) 世界の有名な高山の図表を,大陸別に作ること。

(一○) 各大陸の高さの表を,わかりやすいような図表になおすこと。

(一一) 世界の平野は,どこも多数の人口を養っているか。そうでないものがあれば,それはどこどこの平野か。また,その理由について調べて,討議すること。

(一二) 県の人口分布図を描いて,自然や産業との関係を調べて,報告すること。

(一三) 世界の山地の中で,特にけわしいものは,どのような排列を示しているか。また,火山はどのように分布しているか。世界から見て,わが国の地勢には,どんな特色があって,それが,われわれの生活に,どんな影響を与えているかを調べて討議すること。

(一四) わが国の雨量は,世界の文明諸国に比べて,多い方か,少ない方か。また雨の降り方(月別の雨量)には,世界諸地域で,それぞれどんな特色があるかを,雨量表から調査して,討議すること。また,わが国の雨の降り方は,われわれの生活に,どんな利益・不利益を与えているかを調べて,討議すること。

(一五) アジア州の大山脈・大高原を図示して,それぞれの名前を書き入れること。

(一六) アジア川のおもな河川,及びおもな平野を図示して,それぞれの名まえを書き入れること。また,同し図に,内陸流域の範囲を書くこと。

(一七) アジア川で,最も気温の年変化が大きい地方はどの辺か。その反対に,最も小さい地方はどの辺か。わが国の気温の年変化は,世界の同じくらいの緯度の他の海岸地方に比べて,大きい方か,小さい方か。郷土の気温年変化はどんな状態かを,気温表によって調ベ,報告すること。そして,各地域の生活には,これによって,どんな有利な点,不利な点があるかを考えて,討議すること。

(一八) 世界の米・茶・小麦・綿花の生産は,それぞれどのような気候と深い関係を持つかを調べて,討議すること。また,郷土の特産物についても,郷土の気候と関係があるかどうかを調べて,討議すること。

(一九) 外国を旅行したり,外国に住んだことのある人を学校へ招いて,諸外国の産業,住民の生活状態や風習などについて,話してもらい,また,いろいろな質問をして,各国の特色を理解すること。

(二○) 東部アジアのおもな平野は,どのように分布しているか。また,各平野には,どんな都市が発達しているかを図示すること。

(二一) 東部アジアの諸平野には,どんな作物が栽培されているか,平野によって,作物にどんな相違があるかを調べて,図示すること。

(二二) 華北・満州(中国東北地方)の農民は,日常どんなものを常食としているか,また,華北の食糧問題対策として,歴史的にどんな施設がなされたかを調べて,報告すること。

(二三) 新開や雑誌から,華北の社会状態や,人々の生活状態を書いた記事を集めること。そして,万里長城が作られた当時と今日とでは,社会状態や生活状態が,どんなに異なっているかを調べて,討議すること。

(二四) 中国本部のほぼ中央部を,東西に走る秦嶺(じんれい)を境として,その北と南とでは,気候・産業・人々のことばや気質などに,どんな相違があるかを調べて,報告すること。

(二五) 華北の黄土地帯に営まれている穴居について調べて,報告すること。そして,郷土附近の斜面に穴を掘って,何かに利用している例があるかどうかを調べること。

(二六) アジア季節風帯の農業のやり方について,次の諸点を調べて,討議すること。また,郷土についても,同じようなことを調べて,今後の農業をどのように改善したらよいかを討議すること。

(二七) 世界の遊牧民の生活状態について調べて,報告すること。

(二八) 内部アジアの牧畜は,新大陸やオーストラリアの牧畜に比べて,どのように違っているか。今後どのように改善・発達させたらよいかを調べて,討議すること。

(二九) 雑誌や本から,世界の泉地の自然状態や,住民の日常生活の有様を調べて,報告すること。

(三○) チベットのような高い高原の上で,人々はどんな生活を営んでいるか。また,世界でこれにおとらず高い所に人が住んでいるのはどの辺か。そこでは,どんな生活が営まれているかを調べること。また,郷土でいちばん高い村について,その名まえ・場所・地形・高さ・人口・戸数・特色のある産業や日常生活などについて調べて報告すること。

(三一) シベリアの諸都市の気温と雨量の年変化の状態を図示し,四季の特色について調べること。そして,わが国とどんなに異なるかを報告すること。

(三二) シベリアの開拓の歴史と現在の農業状態を調べて,報告すること。

(三三) シベリアの都市分布図を描き,重要な都市は,どういう地帯に最も多く発達しているかを調べて,討議すること。

(三四) 東インド諸島の気温の特色を,気温・雨量表によって調べ,住民の生活に対する利益・不利益について,討議すること。

(三五) 南部アジアのゴム栽培の歴史,現在のゴム園経営の特色,及びその生産の持つ意味について調べて,報告すること。

(三六) インド及び南部アジアのおもな港の分布図を描き,また各港の重要なわけを,簡単に書いた表を作ること。

(三七) インドのおもな農産物に関して,

(三八) 自然から見て,ヨーロッパが,人類の活動舞台として有利な点,不利な点を列挙して,討議すること。

(三九) デンマルクの農牧の特色を調べ,わが国の農牧業で,見習うべき点があるかどうかについて,討議すること。

(四○) 北部・東部・中部・南部ヨーロッパの気候の特色を明らかに示す図表を,気温・雨量表から作ること。

(四一) われわれの日常生活に,ヨーロッパ人の生活様式が,どのように取り入れられているかを調べて,討議すること。

(四二) エジプト・メソポタミア・インド・中国の黄河流域の文化は,世界の四大古文明といわれているが,これらの地方に,はやく文化の発達を促した有利な自然条件について調べて,討議すること。

(四三) アフリカの開拓がおくれた理由を調べ,アフリカの生産地としての将来性について,討議すること。

(四四) コンゴ川とアマゾン川流域の自然及び住民の生活状態を比べて,報告すること。

(四五) 北アメリカの開拓の歴史を調べて,報告すること。

(四六) 新大陸発見後,旧世界各国から,新大陸への移住の歴史を調べて,報告すること。

(四七) 新大陸はどんな動機によって発見されたか。また,コロンブスの新大陸に到着するまでの航路を,図に描くこと。

(四八) アメリカ・インデイアンの分布及び生活状態を調べて,報告すること。

(四九) アメリカから,旧世界へ移された,おもな農産物を調べ,また,これが現在のわれわれの生活にどんな利益を与えているかについて,討議すること。

(五○) 北アメリカの農放業のやり方の特色を調べ,これと同じ方法を,アジアで有利に行うことができるかどうかについて,討議すること。

(五一) 新聞や雑誌の記事や,北アメリカの事情をよく知っている人の話から,北アメリカのいなかの生活状態を調べること。そして,わが国のいなかの生活を改善するには,どんな点を見習ったらよいかについて,討議すること。

(五二) われわれの日常生活に,アメリカの生活様式が,どのように取り入れられているかを調べて,討議すること。

(五三) アマゾン川の自然の流域の産業・住民の生活状態に関する資料を集め,アマゾン川こさかのぼる話にまとめて,学級で話すこと

(五四) 南アメリカに発達した古代文化について調べて,報告すること。

(五五) 南アメリカの地図を描き,各国名・その首府,及びおもな港を書入れること。

(五六) 南アメリカの農業及び畜産の分布図を描くこと。

(五七) マジェランの航海の図を描き,この航海が,どんな重要な結果をもたらしたかを調べて,報告すること。

(五八) オーストラリアの牧畜業が,今日のように盛んになって来た歴史を調べて,報告すること。

(五九) オーストラリアの開拓の歴史,都市の発達について調べて,報告すること。

(六○) ハワイ諸島の気候,農業の特色について調べて,報告すること。

(六一) これまでに行われた北極及び南極地方の有名な探検に関し,

(六二) 郷土附近では,農産や畜産の改善や収穫の増大に,どのような努力が払われて来たかを調べ,また,今後,どのような方面に努力すべきかについて,討議すること。

(六三) 郷土附近では,水田の階段耕作は,どの辺に最もよく発達しているか。そこの土地は何度くらいの傾斜で,平地から何メートルくらいの高さまで発達しているかを調べて,報告すること。

(六四) 郷上附近には,まだ耕せる土地が残っているか。それはどのような所か。そこを開懇すれば,どれだけの生産を増すことができるかを調べて,討議すること。

学習効果の判定

(一) 生徒は,世界の各地域において,それぞれの自然環境に適応して営まれている,いろいろな農牧生活様式の理解に,興味を感じて来たように見えるか。

(二) 農牧生活に対しても,自然は決定的な作用を持たないこと,並びに人類は,創意と工夫によって,不利な自然条件をのぞき,あるいは,これを有利に変更する場合さえもあることを,生徒は理解することができたか。

(三) 生徒は,食糧や原料品に関する世界貿易の必要性,及びそのもとをなす国際親善の重要性と認識したか。

(四) わが国の主食改善・食糧増産・特殊産業の振興などの諸問題について,生徒は,真剣に,また科学的に考えるようになったか。

(五) 地図投影法に関するいろいろな規約を理解し,使用目的にしたがって,適当な投影法の地図を選ぶようになったか。

 

単 元 二

 天然資源を最も有効に利用するには,どうすればよいか。

要 旨

 われわれの生活は,一として天然資源の利用に関係を持たないものはない。それにもかかわらず,われわれはこれに余りにもなれ過ぎているために,かえって,天然資源の恩恵を忘れがちであり,むしろ最近は,わが国の天然資源の不足をかこつ声が高く叫ばれている。しかしながら,試みに生徒をして,天然資源に余り恵まれていない地域,例えば,さばくの土地を想像させてみるがよい。そこでは,水も得がたく,樹木もなく,地味もやせて作物もみのらない荒涼とした風景が展開しており,特殊な地点以外では,人間の生命を支えることすらできない。これと比較すれば,われわれの自然現境は,全く反対であり,生徒は,わが国土あるいは郷土が,いろいろな天然資源に恵まれていることを容易に理解し,また,その恩恵を認識するであろう。われわれの先人は,このような環境に抱かれて平和な生活を営んで来たことも,直ちに想像できる。ところが,機械文明の発達以来,天然資源の新しい利用法がひき続いて発見され,各種の天然資源の積極的開発が開始された。そして,これによって,われわれの生活が,過去とは比較にならないほど,便利でかつ豊かになったことは事実である。しかしながら,その利用開発が,年とともに急激な速度をもって進むにしたがい,天然資源に関するいろいろ新しい問題が発生し,ことにその保存の必要が,世界各国で論じられるようになった。

 わが国では,明治以来の商工業の発達とともに,人口が激増し,各種の天然資源の開発が急速に行われて来た結果,過去には,むしろその豊かな存在を認められていた資源で,すでに枯渇の危険に近づいて来たものが少なくない。元来,埋蔵量の少ない鉱産資源については,これはやむを得ないこととしても,林産や水産資源についても同様な傾向があり,土地それ自身も,多年の過重な負担によって疲れて来ている。のみならず,天然資源の濫用にともなう,いろいろな悪結果が,各地で目だち始め,現在のわれわれの生活のみならず,われわれの子孫の生活について,多大の不安が感じられるようになって来た。これを世界的に見れば,このような例は枚挙にいとまなく,天然資源の濫用か,現在の調子で進めば,他日,世界のさばく化の危険さえ考えられるくらいである。

 終戦後のわが国は,天然資源の開発に,さらに一段の努力を必要とすることは当然である。しかしながら,これが実施に際しては,天然資源は現在のわれわれの財産であるのみならず,子孫の生活の源泉であることを考えて,悔を後日に残さないように注意しなければならない。と同時に,新しい資源の発見,及び在来の資源の新しい利用法について,真剣に研究調査をする必要がある。

 

目 標

(一) 天然資源の重要性,及びこれをたいせつに使うことの必要性に対する興味と認識とを深めさせること。

(二) 機械文明の世の中となってから,天然資源の保存に関して,いろいろな問題が起って来たことを理解させること。

(三) 公共財産の保護に対する関心と,責任感を養わせること。

(四) 資源保存の問題に関する理解と,問題解決に対する熱意を高めること。

(五) 郷土・県・日本及び世界のいろいろな天然資源につき,過去及び現在の利用状況,将来の計画に関する知識を養わせること。

(六) 天然資源を愛護し,現在及び将来の国民の健康・平和・幸福の源泉とすることの必要性を,理解させること。

(七) 資源保護の諸問題に対して,正しい知識のもとに,建設的な考え方をする能力を養わせること。

(八) 現在,でき得る範囲で,資源保護の事業に協力させ,他日この仕事に熱意をもって望む素地を養わせること。

教材の排列

(一) 郷土にはどんな天然資源があるか,また,それはどのように利用されているか。

(二) 世界の鉱産資源には,どんなものがあるか。

(三) 水力資源は,どのように利用されているか。 (四) 世界の林産資源は,どのような状態にあるか。 (五) 土じょう(土壌)資源は,なぜたいせつにしなければならないか。 (六) 水産資源は,どのように開発されているか。 (七) 自然美は,われわれにどんな利益を与えているか。 (八) われわれは天然資源の保存について,どのように協力したらよいか。 学習活動の例

(一) 郷土には,どんな天然資源があるか。この表を作り,また,その分布図を描くこと。

(二) 郷土の日常生活は,どのように天然資源の利用と結びついて営まれているかを調べて,報告すること。

(三) 郷土の天然資源のうち,特色のあるものは何か。これは郷土の繁栄とどんな関係を持っているか。また,今後,郷土をいっそう栄えさせるためには,その天然資源を,どのように活用したらよいかについて考えて,討議すること。

(四) 郷土には,どんな先史人類の遺跡があるか。当時住んでいた人々は,郷土の天然資源を,どのように利用したかを調べて,討議すること。

(五) 郷土の鉱産資源に関する資料を,できるだけ集めること。そして,鉱産資源が現在どのように利用されているか。きた,いつごろから,それぞれの鉱業が開始されたかを調べること。

(六) 郷土に近い鉱山へ行って,鉱床のあり方や,探鉱・製錬の状況を見学すること。

(七) 郷土の県・地方,さらに日本全体の各種の鉱産資源分布図を描くこと。

(八) 郷土の土地は,どんな岩から成っているか。地質図を現地と対照して,地質図の描き方の大要を理解すること。そして,自分である適当な範囲の土地の地質を調べて,地質図を描いてみること。

(九) 郷土の鉱産資源は,どんな地形や地質と関係を持っているかを調べること。

(一○) 地質学の専門家を学校へ招いて,世界や,日本の地史の話を聞き,また,いろいろな鉱床は,どのようにしてできたかを説明してもらうこと。

(一一) わが国のおもな炭田分布図を描き,地質図と対照して,どんな時代にできた地層と深い関係があるかを調べること。また,世界のおもな炭田も,わが国と同様な地層の部分に多く発達しているかどうかを調べ,もしそうでなかったら,その原因を地質学の専門家に問い合わせるなり,書物で調べるなりして,報告すること。

(一二) 世界のおもな炭田のうち,まだ余り盛んな採炭が行われていないものの例,及び埋蔵量はわすかでありながら,盛んに開発されているものの例を挙げること。そして,埋蔵量と開発の程度とが比例しない原因を考えて,討議すること。

(一三) わが国の油田分布図を描くこと。そして,地形図及び地質図と対照して,わが国の油田は,どの時代の地層,及びどんな地形と深い関係を持つかを調べること。

(一四) アメリカの油田は,どんな地層と関係を持ち,わが国の油田の場合と,どのように違うかを調査して,報告すること。

(一五) 石炭や石油は,どんな状態で地層中に含まれているかを調べて,いろいろな場合を図に描くこと。

(一六) 郷土では,石材として,おもにどんなものが,どのように利用されているか。また,その石材は,どこで産出するかを調べること。

(一七) 日本の鉱業や,鉱産資源に関する記事が新聞に出るごとに切り抜いて,問題別に整理しておくこと。そして,これが相当な分量になってから,それをもととして,適当な問題について討議すること。

(一八) いろいろな鉱産の産額増減の図表を作ること。そして,産出の多かった期間や,少なかった期間について,その原因を調査すること。

(一九) 郷土,あるいは日本の鉱産資源で,枯渇の危険に陥っているものがあるかどうかを調べること。また,いろいろな鉱産資源について,その埋蔵量と年産出額とから,その資源の寿命を推定してみること。そして,この推定が適中するためには,どんな仮定条件が必要かを考えること。

(二○) 戦前の統計によって,いろいろな鉱産の日本への輸入状況を調べること。そして,その種類・量・買い入れ先を示す地図を作ること。

(二一) 県の係りの人,あるいは専門家を学校へ招いて,日本及び県の鉱産資源開発の現状,及び将来の計画について,説明してもらうこと。

(二二) 郷土では,水力をどのように利用しているかを調べて,表に書くこと。また,さらに有効な利用法について討議すること。

(二三) 郷土へは,電力が,どこから,どのような方法で,供給されているか。そのありさまを地図に描くこと。また,近くに発電所があれば,これを見学して,いろいろな説明を聞くこと。

(二四) 日本のおもな発電所の分布図を描くこと。そして,その分布が,日本の自然とどんな関係を持っているかを調べること。

(二五) 郷土の月電力消費量を調べ,これから,人口及び戸数割を計算すること。そして,その量が,日本の平均に比べて多いか少ないか。もし多ければ,何か特殊な事情のためか,あるいは,消費節約をしないためか調べること。

(二六) 発電に関する専門家を学校へ招いて,日本あるいは郷土の県にはどれだけの利用し得る水力資源があり,この極限に現在はどの程度まで近づいているか。また,日本では,地方によってこれにはどんな差があるかを説明してもらうこと。

(二七〉郷土の老人から,郷土にまだ電気が通じなかった以前には,どんなありさまであったか。いつから電気が来るようになったか。その時はどんな気持がしたかなどの話を聞くこと。そして,以前の生活状態と現在のそれと比較して,著しい変化が認められる点についての表を作ること。

(二八) 世界で電燈がよく普及している地域を調べて,その分布図を描くこと。

(二九) 外国の水力利用状況を調べて,日本と比較すること。

(三○) 郷土で,電力をさらに有効に使用するにはどうしたらよいかを考えて,討議すること。

(三一) 郷土では・電力の供給を増加させるために,どんな計画が立てられているかを調査して,報告すること。

(三二) 渇水期の電力不足を補うために,わか国ではどんな対策がとられて来たか。また,将来どんな計画があるかを調べて,報告すること。

(三三) 日本の電力の中,水力発電によるものと,火力発電によるものとの割合を図示すること。そして,なぜ現在でも火力発電が必要であるかを調べて,報告すること。

(三四) 新聞やラジオで,日本の電力に関して報道されることを記録しておき,これをもととして,日本の電力の現在及び将来について討議すること。

(三五) 熱帯地方の林産資源は,なぜ開発がおくれているかを調べて,討議すること。

(三六) 世界で,木材家屋が多い地方はどこか。また,家屋の材料には,世界の地域によって,どんな相違があるかを調べて,報告すること。

(三七) 樹木の切り株について年輪を調べ,樹木の種類や,地形などの相違によって,その成長量がどのように違うか。また,郷土では有用材は,その苗木を植えてから,木材として役に立つようになるまでには,何年ぐらいかかるかを調査して,報告すること。

(三八) 郷土には,どんな果樹が多く植えられているか。そして,これは郷土の経済とどんな関係を持っているかを調べること,また,その果樹の日本国内の分布図を書くこと。

(三九) 郷土の特色ある林産資源,あるいは林産に関係のある独特の資源としては,どんなものがあるか。これは,現在,郷土の経済とどんな関係を持っているか,その特来性はどうかについて,討議すること。

(四○) 郷土には,森林を伐り過ぎたために,何か悪い結果を招いている例があるかどうかを調べること。そして,もしあれば,どんな結果か起っているか,これを防ぐにはどうしたらよいがを考えて,討議すること。

(四一) 郷土では,日常生活に必要な燃料を,どこから,どのようにして得ているか。あるいは,配給になる前には,どこから,どんな燃料が多く入って来たかを調べること。

(四二) 世界で,木林を多く供給する地域の分布図を描くこと。そして,その木材のおもな輸出先も書き入れること。

(四三) わが国の木材消費量の,時代に上る変化を示す図表を作ること。そして,その変化の原因について調査すること。

(四四) わが国の主要な森林地の分布図を描いて,国有林を区別し,また,重要な製材業地を書き入れること。

(四五) 北海道の林産資源の重要性について,短い作文を書くこと。その他,わが国のおもな森林地について,その重要性,及びそこの木材が,どのようにして,どこの製材所へ送られるかを調べて,報告すること。

(四六) 郷土で,植林事業に従事している人があれば,その人から,植林がどんな利益をわれわれに与えるかの説明を聞くこと。

(四七) 外国の植林事業について調査し,その成績を,わが国,あるいは郷土と比較して,報告すること。

(四八) 植林について,深い知識を持っている人を学校へ招いて,その人を中心として,日本及び郷土の植林問題について,討議すること。

(四九) がけや切り割りへ行って,土じょうの断面を観察し,土じょうの成熱状態の変化を写生すること。

(五○) 郷土のいろいろな土じょうの標本を集めること。

(五一) 郷土の土じょうの肥よく度は,地形や地質によって,どんな違いがあるかを調べること。

(五二) 郷土の土じょうを,農事試験所へ持って行って,その肥よく度を測定してもらい,また,現在よりも肥よく度を高めるには,どうしたらよいかを教えてもらうこと。

(五三) 郷土では,土じょうの肥よく度を維持し高めるために,どんな方法がとられているかを調べること。

(五四) 世界で有名な肥えた土じょう地帯の分布図を描くこと。そして,それぞれの地帯では,現在どんな農業が営まれているかを調べること。

(五五) 中国の黄土の肥よく度について調べること。また,これは,中国の文化の発達とどんな関係を持って来たか。黄土地帯には,どんなものが多く作られているか。黄土地帯の自然には,どんな長所や短所があるかを調べて,報告すること。

(五六) 北アメリカの肥えた土じょう地帯の開拓の歴史について調べて,報告すること。

(五七) 外国は,土じょうの肥よく度を維持し高めるために,どんな方法がとられているかを調べ,これをわが国の場合と比較すること。

(五八) 世界では,開墾したために,かえって悪い結果になった例として,どんな場合があるかを調べること。そして,わが国,あるいは郷土でも,同様な例があるかどうかを調べること。

(五九) わが国の肥料製造に関する資料を集めること。そして,郷土で用いている化学肥料は,どこで製造されるか,値段はどれくらいかを調べること。

(六○) 農林関係の専門家を学校に招いて,わが国の土じょう問題や,化学肥料の問題についての説明を聞くこと。

(六一) 近くの農事試験所をたずねて,郷土の食糧増産について,どんな研究がなされているかを調べること。

(六二) 「世界各地域の住民の幸福は,土じょうの肥よくと,どんな関係があるか」という題で,作文を書くこと。

(六三) 郷土へは,水産物が,どこから,どのようにして入って来るかを調べること。そして,現在の消費高で人の健康が保特されるか。もしそうでなかったら,その対策として,郷土ではどんな手段をとったらよいかを考えて,討議すること。

(六四) 郷土附近の貝塚の分布を調べ,先住民の生活状態について話し合うこと。

(六五) 戦前の統計によって,日本人の生活が,どんなに水産資源に依存して来たかを示す図表を作ること。そして,水産関係の人の話や,新聞の記事などから,現在わが国では,水産物の増産に,どんな計画が立てられているかを調べて,報告すること。

(六六) わが国近海では,どこで,どんな漁業が営まれているか。これに対して,郷土の漁業にはどんな特色があるか,その将来性はどうかを調べること。

(六七) わが国の海岸で行われている漁業で,その漁獲高が以前に比べて減少したり,以前のように容易に魚がとれなくなったりした例を調べること。そして,それは,どんな原因からか,また,それによって,その海岸の人々の生活はどんな影響を受けているかも調べて,報告すること。

(六八) わが国で行われている製塩法と,朝鮮や中国の海岸で行われている製塩法とでは,どんな違いがあるかを調べること。

(六九) 世界で行われているいろいろな製塩法について調べて,報告すること。

(七○) アジアの熱帯の海で魚を濫獲すれば,その影響がわれわれにどのように及んで来るかを調査して,報告すること。

(七一) 世界で行われている捕鯨について調べ,また,わが国の捕鯨事業の重要性について,討議すること。

(七二) わが国では,どこで,どんな養殖事業が行われているかを調べ,養殖事業の重要性について討議すること。

(七三) 日本の水産業に関する新聞や雑誌の記事を集めておいて,これをもととして,わが国の水産業の将来について,討議すること。

(七四) 郷土附近で,風景美で名高い所の分布図を描き,その風景の特色や,交通状態・施設及びこれまでそれらの風景美がどのように利用されて来たかを調べること。

(七五) 郷土の風景美を,地形・地質・植物・気候・人工的造営物などの方面から分析して,その特色を調査し,討議すること。

(七六) 世界の熱帯・寒帯・乾燥地帯などの写真から,それぞれの地方の風景の特色を調べ,これを日本の風景と比較すること。

(七七) 郷土の風景によって,人々はどんな精神的・肉体的の利益を得て来たかについて討議すること。

(七八) 郷土の風景の長所・短所について,討議すること。

(七九) 従来,日本三景と呼ばれで来たところの風景の特色を調べること。その他,国立公園以外で,風景美で名高い所,及びその風景の特色を調べること。

(八○) 日本の風景美は,これまでどのように利用されて来たかを調べ,外国の場合と比較すること。

(八一) 郷土では,人工,あるいは自然の災害などによって,風景美が破壊された例があるかどうかを調べること。また,それによって,どんな不利な結果が起っているか,これを回復するためには,どうしたらよいかを考えること。

(八二) 郷土には,すぐれた風景美を持ちながら,あまり人に知られていない例があるか。もしあれば,この風景を最も有効に利用するには,どうしたらよいかを考えて,討議すること。

(八三) 郷土の名高い風景美を犠牲にして,こゝを何かに利用する場合(例えば,生産地に化したり,発電所を設けたりすること)と,風景美をそのまゝ保存しておく場合とでは,どちらが郷土の人々に有益か,具体的な例を中心として討議すること。

(八四) わが国の過去の観光事業について調べること。

(八五) わが国の観光事業に関する新聞記事を集めること。そして,日本を世界的観光地にするにはどうすればよいかについて,討議すること。また,それによって,どんな利益があるかについても,討議すること。

(八六) 日本交通公社その他から資料を得て,わが国の観光事業発展として,どんな計画がなされているかを調べること。

(八七) 外国では,観光事業にどんな力を注いでいるかを調べて,報告すること。

(八八) わが国の国立公園や,その他,美しい風景の地方について,いろいろな情報や資料を集めること。

(八九) 郷土の天然資源保存に対して,自分らはどのような方法で協力できるかを討議すること。

(九○) 郷土の物産展覧会の計画を,他の組の人や,町の人,及び他の学校の人々と相談して立て,みんなで協力して開催すること。

(九一) 郷土の天然資源保存の必要性について調査し討議すること。

(九二) 外国で用されている天然資源保存法に関する資料を集めて,報告すること。そして,それらの方法が日本にも適用できるかどうかを,討議すること。

(九三) 新聞や雑誌から,日本の天然資源の利用に関する記事を集めて,組で読むこと。そして,これを後日のために保存すること。

(九四) 次の問題について,短い作文を書くか,または報告すること。

(九五) 次のことばについての正否を,討議すること。 学習効果の判定

(一) この単元の学習に入るに先立ち,生徒にいろいろ質問を発するなり,あるいは,適当な調査書を渡して記入させ,天然資源保護の問題について,どんな意見と,どの程度の理解を持っているかを確かめること。そして,この単元の学習が終ってから,同様な方法によって,生徒の意見や,理解にどのような進歩がもたらされたかを判断すること。

(二) この単元を終るに際して,この学習によって,どのように啓発されたかを生徒とともに討議すること。

(三) この単元の学習に初期に行われた生徒の討議から,生徒の天然資源保護の問題に対する理解の程度を判定し,この単元の終りに近づくにしたがって,どのくらいその理解が深くなって来たかを,比較して判断すること。

(四) 学習期間を通じて,資源保護に関する生徒の発案にかゝる具体的対策手段の表を作ること。

(五) 学習期間を通じて,この単元の目的とする諸点のどれかが達せられたと認められるごとに,その証拠を記入しておくこと。

(六) 学習の最後に当たって,この単元の学習期間に,生徒がいろいろ実行したことに関して,生徒とともに話し合い,また,これらがどのくらい役に立ったかについて,組全体で評価すること。

(七) 以上挙げた諸方法によって,この単元の目的とする理解が,どの程度に達成されたかを判定すること。

(八) 生徒が,資源保護に関する資料を,どのくらい熱心に集めたかを書きとめておくこと。

(九) 生徒が,この単元の学習の最中にとった行動や興味について,生徒の両親と話し合うこと。

 

単 元 三

 近代工業は,どのように発展し,社会の状態や活動に,どんな影響を与えて来たか。

要 旨

 初期の人類の工業は,まず石器・土器り製作に芽ばえたが,金属の有利な使用法が発見されるに及んで,工業は速かな進歩をとげた。そして,更に銅器・青銅器の製作から,鉄器の使用に発展し,これが現代文明のもといをなしているわけである。しかしながら,世界の工業も,中世から近世にかけては,家内工業を主とし,その製品も,一家あるいは一地方の需要をみたすに過ぎなかった。しかるに,十八世紀になって,紡績機械・蒸気機関,その他の機械が発明されて,産業革命が起った結果,われわれの経済生活に,一大変化がもたらされることとなった。まず,ヨーロッパでは,大工業の発達によって大量生産が開始され,そのために,工業原料品を海外に求める必要が起り,海外の未開地の開拓は急速に進んだ。一方,国内では,農村の人口は都市の工場へ吸収され,都市はこのために急速に発展したのに対し,農村は次第に衰えた。社会組織においても,農村では,従来の主従関係が破れて,新たに地主・小作の関係が生まれ,都市では,ギルド組織が崩れて,純然たる経済的立場を持つ,雇よう関係が成立し,資本家・労働者という新階級が出現した。そして,労働者側では,その生活を守る必要から,最近では,組合運動が盛んになって来た。

 東洋では,産業革命の影響は,ヨーロッパに比べて,はるかにおくれた。即ち,産業革命によって更新された西洋の工業が,そのまゝ輸入され,わが国や中国の工業の内容及び様式を改めた。しかし,こゝには,まだ多分に家内工業的要素が残されており,中小工業が広く行われている。

 近代工業の発達も,ほかの諸産業と同じく,各地域の自然条件とかなり深い関係を持っている。特に交通が便利なこと,動力資源に恵まれていることなどは,欠くことのできない条件であるし,その他にも,工業の種類によっては,いろいろな条件が挙げられる。もっとも,近代科学の発達は,自然的悪条件を補うことに向かって,大いに進歩したが,現代の世界の主要工業地帯分布図をながめると,自然条件の重要性は,まだ余り解消されていないことがわかる。

 工業の健全な発達は国を富まし,個人の経済生活を豊かにし,文化の向上を促す。しかし一方では,近代工業の発展によって,多くの好ましくない現象が,同時に生まれて来たことを忘れてはならない。不健康・不自然な都市生活,人間が機械の奴隷化する危険をはじめ,研究・改善すべき多くの新たな社会問題が発生して来た。したがって,われわれは,今後の工業の健全な発展に対して,最大の努力を払わなければならない。

目 標

(一) 現代文化の一大特色である工業地帯の発達には,いろいろな自然的及び社会的条件が必要であることを理解させること。

(二) 世界の工業地帯の現状についての理解を得させ,また,わが国の再建にとって,新しい方向の工業的発展が,どんなに重要であるかを認識させること。

(三) 産業革命が,世界の経済生活に,どんなに重大な変化を与えたかを認識させること。

(四) 近代工業の発展によって,社会組織が著しく変化し,これに伴なって,新たな社会問題が,いろいろ発生して来たことを理解させること。

(五) 近代工業の発展がもたらした,社会生活上の長所や短所を認識させること。

(六) 終戦後のわが国では,工業方面でも,いろいろな社会問題が発生していることを認識させ,また,これらの解決のために提出されている,いろいろな対策を理解させること。

教材の排列

(一) 近代工業の発展によって,われわれの日常生活は,どんなに豊かになっているか。

(二) 工業的発展は,どんな状況のもとに行われているか。

(三) 世界の大工業地帯ではどんな工業が行われているか。 (四) 世界の工業は,どのようにして今日の状態に発展したか。 (五) 産業革命は,社会組織にどんな変化を与えたか。 (六) 近代工業の発展による悪い影響としては,どんなことがあるか。これを除くためには,どのような努力をしたら,よいか。

学習活動の例

(一) 工業の発達によって,われわれは日常生活において,どんな利益を受けているか。自分たちの衣・食・住の点について,歴史的資料によって,産業革命以前の状態を調べ,これを現在と比較すること。

(二) 工業の種類や様式については,わが国では,どのような分類が行われているか。その分類表を作ること。また,わが国で行われている,おもな工業の表を作ること。

(三) わが国のいろいろな工業について,それらが,明治以前には,どんな状態であったか。そして,それらが,どのようにして,現在の状態に発展したかを調べて,報告すること。

(四) 郷土で行われている工業の中で,家内工業・工場工業(手工業・機械工業・または中小工業・大工業)の代表的なものを,それぞれ挙げること。

(五) 郷土では,どんな様式の工業が,最も多く発達しているか。また,どんな種類の工業(綿・絹・製紙・製材・金属・機械・造船など)が最も多いか。そしてそれは,いつごろから発達し始めたかを調べること。また,その発達によって,郷土はどんな利益・不利益を受けて来たかを調べて,討議すること。

(六) いろいろな工業の種類の中で,原料が近くで得られることを,その発達の重要な条件としているものとしては,どんな例があるか,その代表的なものを,数種挙げること。また郷土の工業の中で,近くで得られる原料を用いて行われているものとしては,どんな例があるかを調べること。

(七) 近くに,燃料用動力資源を持っていることを必要とする工業の種類としては,どんなものがあるか。また,郷土の工業の中で,近くから燃料の供給を受けて,有利に営まれているものの例としては,どんなものがあるかを調べること。

(八) 製品をその近くの土地で,需要・消費してくれることを必要とする工業の種類にはどんなものがあるか。また,郷土の工業の用で,製品が直ちに郷土で需要・消費されるものの例を挙げること。

(九) 近代工業の発達には,ほとんど例外なしに,交通・輸送の便のあることを必要条件としている。わが国及び世界の大工業地帯につき,それぞれが,交通・輸送の便と,どんな関係を持っているかを調べること。

(一○) 多量の水や,良質の水の供給を必要とする工業としては,どんな例があるか。わが国の例について調べること。また,もし郷土にも,この種の工業が行われていれば,その工場はどんな位置を占めているかを調べること。

(一一) 特殊な気候条件を必要とする工業としては,どんな例があるか。わが国,あるいは郷土の工業の中で,この種のものがあれば,その例を挙げ,気候条件との関係を調べること。

(一二) 郷土で行われている諸工業について,

(一三) 郷土で行われている諸工業について。 (一四) 世界の人口分布図と,大工業地帯図とを比べて,人工と大工業地帯の位置との間には,一般にどんな関係が認められるかを調べること。また,その一般関係があてはまらない例としては,世界にはどんな地方があるかを調べること。

(一五) 世界の諸工業地域に比べて,わが国の地理的位置は,工業的発展の上から,どんな有利な点,不利な点があるかについて,討議すること。

(一六) わが国の工業は,世界の諸工業地域に比べて,原料・動力・資源・労力・市場などの上で,どんな特色を持って来たか。そして今後の工業の進み方をどのように改めるべきかについて,いろいろな資料(新聞・雑誌・ラジオなど)によって調べて討議すること。

(一七) わが国の都市は,近代工業が輸入されてから,どのような発展・膨脹を示して来たか,代表的都市について調べること。また,郷土の都市についても,同じような調査を行うこと。

(一八) 満州(中国東北地方)の鉱産資源,及び主要工業都市の分布状態を調べること。

(一九) (1) 中国の都市は,現在でも一般に,周囲に堅固な城壁をめぐらしていることを特色とする。この城壁の規模や平面形について,華北と華中・華南とでは,どんな違いがあるかを調べること。

(二○) 中国の都市の中で,近代工業が起って来たものの名まえ及び位置を,地図によって調べること。また,そこに近代工業が行われるようになったおもな原因について調べること。さらに機会があれば,中国の近代的都市と,古い都市の住民の生活状態を描写した物語を読むこと。

(二一) 揚子江の水運が,沿岸の工業の発達と,どんな関係を持っているかを調べること。また,沿岸の主要都市の分布図をかき,近代工業が行われているものについては,その工業の種類も書き入れること。

(二二) 満州(中国東北地方)及び中国本部と,蒙古地方との境近くに発達している都市の名まえと,位置とを調べること。また,それらが現在持っている意義と,それぞれの都市の工業的発展の見こみについても調べること。

(二三) 中国本部の炭田の分布状態を調べること。その豊富な炭田が,なぜ工業動力資源として,余り開発されなかったか。これまでに開発が進められて来た炭田は,どの辺のものか。それはなぜか。また,最近の中国本部では,どこに,どのような近代工業が起って来たかについて調べて,報告すること。

(二四) 南部アジアに行われている工業の中,世界的重要性を持つものとしては,どんなものがあるか。この工業の現状及び将来性について調べて,報告すること。

(二五) 南部アジアの主要都市の分布を調ベること。また,こゝに行われている近代工業について調べ,主要工業の種類,及び分布をあらわす図を作ること。

(二六) シベリアの工業的発展について調べること。また,重要鉱産資源,近代工業地帯の分布状態や,最近の工業的発展によって,こゝの住民の生活が,どのように変わったかについても調べること。

(二七) 中部及び西部ヨーロッパを流れる河川が,工業の発達に,どんな便利を与えているかについて調べること。

(二八) 中部及び西部ヨーロッパのおもな炭田・鉄鉱産地,おもな工業都市及び貿易港の分布状態を,地図によって調べること。

(二九) イギリスの地図を描き,主要工業都市を記入すること。

(三○) イギリスのマンチェスターを中心とする綿工業地域の発達の歴史を調べ,綿工業の発達に有利であった自然及び社会的条件の表を作ること。そしてこれを,わが国の綿工業の発達に関係を持つ諸条件と比べること。

(三一) 産業革命によって,イギリスを中心として,ヨーロッパには機械工業が急速に発達したが,その背後には,自然及び社会的に,どんな有利な条件がそなわっていたか。これを,

(三二) 産業革命によって,世界にはどんな変化が起ったかを,少し調べることにしよう。生徒各自は,産業革命に関連する次の事がらについて調べ,その結果を,組で報告すること。

 家内工業組織,十七世紀における科学の進歩,産業革命のおこり,紡績業における発明,蒸気機関の工業への応用,鉄・石炭の利用の進歩,石油の利用,動力としての電力の利用,ゴムの利用,汽船・蒸気機関車と鉄道・電車・自動車・航盗機・電信・電話・海底電線・ラジオとテレヴィジョン・映画。

(三三) ヨーロッパの近代的大都市も,中世には,人口もどんなにわずかで,市民の生活もいかに不便であったかを,代表的な都市(例えばロンドン)について調べること。そして近代工業の発達以前と以後とでは,市民の生活程度が,どのように違ったかを比べてみること。

(三四) ヨーロッパの中世の都市は,一般に,周囲に城壁をめぐらしていたが,現在では多くとり除かれている。しかし,現在の都市の名に,ボロー(イギリス)ブール(フランス)ブルグ(ドイツ)などの語尾を残しているものが少なくない。この種のものの実例をできるだけ多く挙げ,また,その位置を,地図で調べること。

(三五) ヨーロッパの代表的都市の人口に関する資料を集めて,産業革命以後どんな急速な人口増加が起って来たかを示す図表を作ること。

(三六) フランスの衣服製造業が,世界の流行にどんな影響を与えて来たか。また,近年この影響には,どんな変化が起って来たかを調べること。

(三七) 中部及び南部ヨーロッパで行われている手工業の中で,世界的に有名なものを列挙し,また,その生産地を地図によって調べること。

(三八) 南部ヨーロッパのおもな都市の分布状態を,地図で調べること。そして,特に有名なものにつき,その持つ意義(歴史的及び現在)を書いた表を作ること。

(三九) ヨーロッパの山地の水力資源につき,これが豊富に存在する地方はどこか。それはなぜか。そこの水力は現在どのように利用されているか。また,これによって,どんな工業及び工業都市が発達しているかを調べること。

(四○) 資料を集めて,スイスの工業の発達条件,及び現在行われている工業について調べ,これをわが国の工業と比べること。そして,こゝの工業には,わが国の今後の工業的発展に,参考とすべき点があるかどうかについて,討議すること。

(四一) ソビエト連邦の鉱産資源分布状態,及びおもな工業都市の名まえと位置とを調べること。

(四二) ソビエト連邦の工業的発展について,

(四三) 北アメリカの工業の発達史について書いてある本を読むこと。また,現在北アメリカでは,地域によって,工業地の分布状態にどんな違いがあるかを調べること。

(四四) 北アメリカの都市のうち,人口五十万以上のものを調べ,その分布図を描くこと。そしてその分布には,地域によってどんな違いがあるか。それらの都市の発展に対して工業がどんな役割を演じて来たかを調べること。

(四五) 合衆国のカルフォルニア州南部が,映画製作に対して持っている,すぐれた自然条件を調べて,討議すること。

(四六) 合衆国の映画には,どんな著しい特色があるか。また,わが国の映画界で,どんな勢力を持っているかを調べて,討議すること。

(四七) 合衆国東部山ろく地帯の,ばく布線都市として重要なものを挙げ,その分布図を描くこと。そしてこれらが,合衆国の工業発達史の上に,どんな意味を持って来たか。また,現在この地帯は,工業上どんな地位を占めているかを調べること。

(四八) アメリカの五大湖の水運が,どんなに附近の都市の工業的発展に対して,大きな利益を与えているかを調べること。また主要都市の工業の特色を挙げること。

(四九) 合衆国の製鉱業地域について,おもな製鉄業都市・鉄鉱埋蔵地・炭田の分布を調べること。そして,これらが,たがいにどんな関係を持っているかを示す図を描くこと。

(五○) 合衆国の自動車工業の特色及びこの自動車工業が,国際貿易上どんな位置を占めているかを調べること。また,自動車の普及が,われわれの生活様式に,どんな影響を与えて来たかについて,討議すること。

(五一) 合衆国の農具製作工業の発達状態を調べること。また,広大な土地を持っている国では少数の人手ですむ機械力利用が,どんなに農産物の大量生産に役だっているかを調べること。そしてわが国の農業に,合衆国と同じ方法がそのまゝ採用することができるかどうかについて,討議すること。

(五二) 合衆国の大西洋岸の重要な都市を列挙し,それらの地理的位置には,交通・貿易・工業の発達の上に,どんな有利な点があるかを調べること。

(五三) ニューヨーク港との発展の歴史を調べること。また,現在この都市が持っている交通・商業・工業・貿易上の意義を示す表を作ること。

(五四) 合衆国の都市の摩天閣について調ベること。そして,その長所・短所及びわが国の都市では,なぜこのような高層建築が作られないかについて,討議すること。

(五五) ニューヨーク及びシカゴの人口に関する資料を集め,今までにどのような人口増加を示して来たかを調ベること。

(五六) カナダの主要工業都市につき,それぞれの工業的特色を示す分布図を描くこと。また,これらの市民の生活状態と,工業がまだ余り起っていない町のそれとを比ベること。

(五七) 南アメリカのおもな都市につき,近代工業の発達程度,及び現在どのような工業化の方向に進みつゝあるかについて調ベること。

(五八) 南アメリカの各国の首府が,海運とどのような連絡を持っているかを調べること。

(五九) オーストラリアの都市分布と,自然及び産業との関係を調ベること。

(六○) 世界の文明国の首府の中で,工業が余り行われていないものがあるか。もしあれば,その発達の歴史及び,現在その都市の持つ特色について調ベること。

(六一) 中世の工業の特色は,家内工業で,その職人組織はギルドであった。このギルド組織は,近代工業組織とどう違うかを調ベること。また,郷土の工業の中にはまだギルド的遺制があるかどうかを調ベること。

(六二) 産業革命は,いつごろ,わが国へ波及し,日本の産業や国民の生活様式に,どのような変化を与えたかについて調べること。

(六三) 郷土に残されている昔の織物機械や,紡績機械を写生すること。できれば,それらを集めて学校に陳列すること。

(六四) わが国の昔の工業に関する図や絵を,なるべく多く集めて陳列し,各時代の工業について,その特色を明らかにすること。

(六五) 郷土で「老舗」や「親方」と呼ばれている家をたずねて,昔の親方と徒弟との関係についての話を聞くこと。特に,年期・義務などについて説明を聞き,それが,現在どのように変化しているかを調べること。

(六六) 手工業が行われている家庭や仕事場をたずねて,その方法,製品の質や量,価格,労働者の収入,労働条件などについての説明を聞くこと。また,手工業は,だんだんすたれてきているか。または盛んになりつゝあるかをも調ベ,その盛衰の原因について討議すること。

(六七) 大工場へ行って,近代的機械の活動状況や,工場内の仕事がどのように分業的に行われているかを見学すること。そして,同じ製作を手工業でやれば,時間と費用にどれだけの違いがあるかを調べること。

(六八) わが国の農村も,次第に近代化されては来たが,農業方法や組織に,昔の遺物として,どんなものが残されているか。郷土の村について調ベること,そして,これらに関連して,今後,わが国の農村生活を,どのように改善すベきかについて,それぞれの専門家の意見を聞き,また,組で討議すること。

(六九) 産業革命以前には,世界には未開地がどのように分布していたかを,地図に描くこと。そして,産業革命以後,これらの土地が,どのように開拓されて来たかについて調べて,討議すること。

(七○) 資本主義の意義を専門家に聞き,また,資本主義の発達について,特にわが国の場合を例にとって説明してもらうこと。そして資本主義の長所,短所について討議すること。また,資本主義は,現在どのように修正されつゝあるかについて調べること。

(七一) 郷土の農業人口と工業人口,及びその比はどれくらいか,この人口や比は,今までにどのように変化して来たかを調ベること。そして,その変化の状態が,果たして郷土の生産生活にとって,有利と考えられるかどうかについて,討議すること。

(七二) 農業者と工業者とでは,その日常生活にどんな違いが見られるか。毎日の仕事,生活程度・教育・レクレーションなどの方面について比ベること。

(七三) 都市の発展に伴なって,郷土の都市の生産及び生活に関して,現在,どんなことが問題となっているか。そして,これをどのように解決したらよいか,これについて,都市問題に関する専門家を学校へ招いて,わが国の都市に関するいろいろな問題や,その解決策についての説明を聞くこと。

(七四) 郷土の戦災都市について,そこの工業施設が,どのような戦災を受けたか。また,その復興は,どんな方針で進められているかを調ベること。

(七五) 終戦に伴なって,わが国の工業方面では,どんな社会問題が起って来ているか。これに関する新聞や雑誌の記事を集め,これをもととして,いろいろな問題について討議し,また,将来の参考として保存しておくこと。

(七六) 工業の発展に伴なって,郷土の日常生活の上に,どんな悪影響がもたらされて来たかについて調ベること。そして,これを除くためには,生徒各自として,現在,どんな努力ができるかについて,討議すること。

学習効果の判定

(一) 近代工業地帯の発達に必要な条件は,複雑であることを理解し,郷土の工業の発達,及び工業立地条件の調査に興味を持つようになったか。

(二) 欧米の工業に比ベて,わが国の工業は,まだ完全な近代化の域に達していないことを認識したか。

(三) 近代工業の発達に伴なう,郷土の社会組織の変化に関する調査を,どの程度に熱心に,またたがいに協力して行ったか。

(四) わが国及び郷土の工業の現在と将来について深い関心を持ち,これに関するラジオや新聞の報道を熱心に集めるようになったか。

(五) 郷土の生活の近代化に向かって,努力する気分があらわれて来たか。

(六) 近代工業の急速な発展に伴なう生活変化の中には,悪い結果も少なくないことを認識し,郷土の生活について,この方面を,新たに研究しようとする気分が起って来たか。

(七) 工業に関連する複雑な社会問題に関心を持ち,家庭や学校で,これらについて,いろいろ話し合うようになったか。また,一部のかたよった人々の意見を,そのまゝうのみして,年齢に似あわない意見や態度を示すような,悪い結果に陥ってはいないか。

 

単 元 四

 交通機関の発達は,われわれをどのように結びつけて来たか。

要 旨

 交通及び通信機関の発達は,実に現代の驚異である。しかし,われわれの日常生活は,あまりにも深くその恩恵と関係しているために,かえってその重要性の正しい認識が困難なくらいである。

 これを知るには,交通機関の発達が,まだ幼稚であった過去の時代をかえりみて,現代と比較するのが,最も簡便であろう。道路の発達すら不十分であったわれわれの先人の時代には,わずかな距離の旅行にも,多大の労苦を忍ばねばならなかった。ことにわが国のように山がちの土地では,いかにそれが困難であったかは,今日から容易に想像できよう。したがって,当時の社会生活も,今日とはかなり違った点が少なくなかった。例えば過去のわが国では,人々は,各地で割拠的経済及び社会生活を営み,その結果,郷土や同郷人を愛する精神が強く養われて来た反面,他地方の人を排斥する傾向さえあり,民心の統合は望み難い状態であった。これは,ひとりわが国にかぎらず,過去の世界には,その程度の差こそあれ,共通な現象であった。現代ではこの弊が,かなり除かれたが,それについては,交通・通信機関の発達に負うところが多大である。しかし,現在でも,世界にはまだ近代的交通機関の恩恵に浴さない土地も,広く残されている。アジア・アフリカ・南アメリカの内部地方などはその例であり,そこでは,今日でも幼稚な運搬様式がまもり続けられている。

 交通・通信機関の発達によって,国内の連絡が円滑となり,生産及び文化は向上した。さらに外国との文化の交流や貿易が盛んとなった結果,こゝに世界全人類提携の希望が可能となった。ところが,このような機関にめぐまれた世の中となりながら,これまでの現実としては,これが国家間の誤解や争いを除くことに対して,十分な効力を発揮して来たとはいえないことは,まことに残念である。また,わが国内でも,時代に即応しない古い習慣や気分が,完全にぬぐい去られているとはいえないことも事実である。したがって,われわれは今後ますます交通・通信機関の改善と発達につとめ,文化・経済生活の向上,並びに世界人類の親密の増進を,はかることが必要である。

目 標

(一) 交通・通信機関の発達か,近代日本の建設に,どんなに大きな役割を演じて来たかを理解させること。

(二) 昔の交通状態を理解させ,現代の交通機関の発達によって,われわれは,どんな大きい恩恵をうけているかを認識させること。

(三) 日本及び世界の現在の交通・通信状態を理解させ,将来,まだ大いに発達の可能性が残されていることを認識させること。

(四) 交通・通信機関の発達によって,世界人類の提携の希望が増して来たことの理解,及び今後これに向かって努力しなければならないことの認識を得させること。

(五) 交通・通信機関の発達によって,日本の文化の向上が,大いに促されたことを理解させ,また,われわれの習慣・思想などは,交通・通信機関の発達と,歩調をそろえて進まなければならないことを認識させること。

(六) 交通・通信関の愛護改善の気持を養うこと。

教材の排列

(一) 郷土では,どんな様式の交通機関が用いられているか。

(二) わが国の昔の旅はどんなに苦労であったか。

(三) 世界の交通は,どのように開けてきたか。 (四) 各国の交通,通信はどんなに便利になっているか。 (五) 交通機関の発達は,世界の人々を,どのように結びつけているか。 (六) 交通・通信機関の発達は,われわれの社会生活を,どのように変化させたか。 (七) 将来の交通・通信機関には,どんな発展が期待されるであろうか。また,われわれは交通・通信機関の改善発達に対して,どのように協力できるか。

学習活動の例

(一) 郷土の道路分布図を描き・道路の幅や道のよしあしを区別すること。

(二) 郷土のおもな道路について,それらが,どんな地形を,どのように利用して通っているかを調ベて,報告すること。

(三) 生徒が幾組かに分かれて,郷土の各道路の適当な地点に待期し,一定時間にわたって交通調査を行うこと。そして,その結果をみんなで協力してまとめ,各道路の交通上の特色を明らかにし,また交通量の相違を示す図を描くこと。

(四) 華北の都市や,アフリカのカイロの市街では,らくだの隊商が通ったり,古い形式の交通,運搬機関が存在する一方,自動車,その他の近代的交通機関も利用されていて,新旧の著しい対照を示している。郷土の道路にも,これと似た光景が見られるか。どこの道路で,どのような新旧交通機関の対照が最も著しいかを,交通調査によって明らかにすること。

(五) 郷土の鉄道分布図を作り,各停車場を中心として,いろいろな半径の円を描き,鉄道利用の便,不便な地方を区別すること。

(六) 郷土の鉄道は,どんな地形を,どのように利用して敷設されているかを調査し,また,これを図に描き表わすこと。

(七)  郷土の鉄道敷設に際して,難工事であった場所,その理由,どのようにしてこれを克服したかを調ベて,報告すること。

(八) 郷土の乗合自動車の発達状態を示す図を描くこと。そして,各線がどんな目的をもって開かれたかを調ベて報告すること。また,郷土やわが国における乗合自動車交通の重要性,及び乗合自動車交通をいっそう発達させるためには,どんな問題を解決しなければならないかについて,討議すること。さらに,合衆国で行われている乗合自動車通学組織について調ベ,わが国で,同様なことを実施するには,どんな困難があるかについて,討議すること。

(九) 郷土の水運は,どのように利用されているかを調べ,これを図に書き表わすこと。

(一○) 郷土では,物を運搬するに際して,どんな形式がとられているか。その表を作ること。また特色のある交通,運搬具があれば,その構造・用途の郷土で用いられている理由,将来の存続性について調べて,報告すること。

(一一) 郷土あるいは郷土附近で,いろいろな交通連絡機関の便のある二地点を選びこの間を往復するに際して,鉄道・自輔車・自動車・水運などを利用した場合では,それぞれどんな得失があるか。また,貨物輸送に際しては各種の陸運や水運は,それぞれどんな長所・短所を持つかを調べて,報告すること。また郷土・わが国・世界という立場から,それぞれながめる時,どんな種類の交通機関が最も役に立っているかについて,討議すること。

(一二) 郷土では,鉄道の開通以前と以後とでは,交通状態にどんな変化が起って来たかについて,両親や老人に聞いて報告すること。また鉄道の開通が,郷土の生活に,どんな影響を与えて来たかについて,討議すること。

(一三) 両親や老人から,郷土の昔の交通状態はどんなであったか,遠距離の用足しや通学には,どんな労苦があったか,などの話を聞くこと。

(一四) 郷土の停車場について資料を集め,停車場がいつ開かれたか。客数は日にどれくらいで,これが,今日までに,どんな変化をして来たか。季節によって,どんな変化が見られるか。それはなぜか。どんな貨物がおもに輸送されているかなどについて調査し,これをもとにして,組で討議すること。

(一五) 郷土を通るおもな街道について,それがどんな歴史をもっているか。昔の道すじと違う個所があるか。それはどういう所で,いつごろ,なぜ改められたか。道路の改修は,どのように行われてきたか。今日は,交通上,どんな意味をもち,昔とは違ったところがあるか,などについて調ベ,これらをもととして,組で討議すること。

(一六) 郷土では,昔の道路のすべてが,今日でも交通上重要な意味をもっているか。もしそうでないものがあれば,その意味を失った理由について調ベて,討議すること。

(一七) 郷土で最近開かれた道路の分布図を描き,どんな目的をもって,いつごろ作られたか。それによって,交通が,以前に比ベてどんなに便利になったかを調べて,報告すること。

(一八) スエズ運河の開通に関する歴史を調ベ,またこの開通によって,アジアとヨーロッパの距離がどんなに短縮されたか。この影響をうけて,どこで,どんな新しい産業が起ったか。どんな新しい物資の輸送が開けたかについて調ベて,報告すること。

(一九) パナマ運河についても,同様なことを調ベて,報告すること。

(二○) スエズ運河とパナマ運河の工事や設備を比較すること。

(二一) 中国の大運河について,

(二二) 中国から,陸路でインドに渡った高僧の伝記を読んでその話を組ですること。

(二三) いろいろな旅行記を読んで,それについて話を組ですること。

(二四) 昔,わが国の関所では,通行人に対してどんな取り調べが行われたかを調査して,報告すること。

(二五) 関東地方のまわりにある峠の分布図を描き,それのもつ交通上の意味(過去及び現在)について調ベて報告を書き,これを組で読むこと。

(二六) 奥羽地方の地勢と,主要交通路の道すじとの関係を調ベて,報告すること。

(二七) 北海道の道路の発達と,開拓との関係について調べて報告すること。

(二八) 中央日本の街道で,昔の難所といわれていたところについて,その原因を調べて報告すること。

(二九) 瀬戸丙海の交通について,その歴史的意味,現在の重要性,潮流の特色について調べて,報告すること。

(三○) 東海道の昔の旅の状態について調査して,報告すること。

(三一) わが国の鉄道分布図を描き,各線の旅客列車の運転回数を調べて,これを表わす図になおすこと。

(三二) 関東地方の鉄道分布図を描き,東京を中心とした交通所要時間分布図を作ること。

(三三) 近畿地方,九州地方についても,代表的都市を中心として,同じような図を作ること。

(三四) 郷土の都市を用心とした鉄道図を描き,交通所要時間及び運賃分布図を作ること。

(三五) 九州に開かれた古い港(歴史的港)の分布図を作ること。そして,

(三六) 資料を集めて,わが国のおもなトンネル,及び鉄橋の表を作り,その線路名・場所・長さを附記すること。

(三七) わが国の鉄道線路の中で,地形によって,特殊な敷設のしかたにされているものについて調べて,報告すること。

(三八) わが国の機関車・客車・貨車の変遷を調べ,この図や図表を作って,展覧すること。

(三九) わが国の船舶は,時代によってどのように発達して来たかを調べ,これを示す図や図表を作って,展覧すること。

(四○) 外国の汽車や,船舶の変遷及び現在の状態を調べて,これを,わが国の場合と比較すること。

(四一) 世界の古代から現代に至る,各種の代表的交通機関の変遷を示す絵を描き,また,模型を作ること。

(四二) わが国の航空路の現状について調ベて,報告すること。そして,航空路の発達が,われわれの経済及び社会生活に,どんな影響を与えるかについて,討議すること。

(四三) 資料を集めて,世界のおもな国について,自動車の普及状態を調ベ,わが国の現状と比較すること。

(四四) アメリカ合衆国の自動車利用状況が,わが国と,どのように違うかを調ベて,報告すること。また自動車が輸入されてから,わが国民の生活の上に,どんな変化が起って来たかについて,討議すること。

(四五) わが国の河川は,水運上,どんな意味を持っているか。外国の有名な河川に比べて,水運の上に,どんな違いがあるかを調べて,報告すること。

(四六) 世界のおもな河川を,水運の便が多いものと,少ないものとに分類した表を作ること。

(四七) シベリアの河川と土地開拓との関係を調ベ,また各河川の水運上の長所,短所について,討議すること。

(四八) 北極海の航路の現状について調ベ,また,こゝが年中航行できるようになれば,どんな利益がもたらされるかについて,討議すること。

(四九) 黄河の水運について調べて,報告すること。またこの河川が,中国人の生活にどんな有利,または不利な影響を与えて来たかについて,討議すること。

(五○) アマゾン川とコンゴ川を,その自然及び水運の上から比較すること。

(五一) ヨーロッパの河川の利用状態は,地域によって,どのように違うかを調べて,報告すること。

(五二) アメリカ合衆国の内陸水運の発達史,その現状及び商工業の発達との関係について調べて,報告すること。また,わが国の内陸水運状態と比較すること。

(五三) 無線電信,無線電話の発明の歴史を調ベること,そして,これが,わが国へ,どのようにして輸入されたか。これによって,われわれの生活は,どんな便利をうけているかについて,調ベること,また,わが国の現在の発達程度を諸外国の場合と比較すること。

(五四) 日本各地から発せられた郵便物が,郷土へとゞく日数を調ベて,これを地図に表わすこと,また,郷土の日常生活が,郵便制度の発達によってうけている恩恵について,討議すること。

(五五) 郷土では,ラジオの普及状態はどんなか,人口に対する聴取者の割合を調べて,これを他地方や,日本全国の場合と比較すること。そして,ラジオが国民の日常生活に,どんな重要性をもっているか。学校では,どんな有効な利用法があるか。郷土のラジオの普及,改善をはかるには,どうしたらよいかについて討議すること。

(五六) わが国の運送局の分布図を書くこと。そしてわが国の放送事業は,どんな組織のもとに行われているかを調べ,現在の組織が,果たして報道の自由及び迅速という点から,不便がないかどうかについて討議すること。

(五七) 郷土には,まだ交通不便な地方が,どのように残されているか。そこでは,どんな交通状態かを調べて,報告すること。そして,交通不便なことが,住民の経済生活の発達を,どんなに妨げるかについて,討議すること。

(五八) 郷土の交通機関の事故及び災害としては,どんな種類のものがあるか。その中で,どれが最も多いかを調ベ,これを防ぐにはどうしたらよいかを考えて,討議すること。

(五九) 大洋を横切る最短航路が,地図の投影法によって,どのように違って表わされるか。いろいろな実例を図に描くこと。

(六○) 各自で,世界一週旅行を計画し,その道筋を地図に書き入れること。そして,その道すじに当たる世界各地では,どんな交通機関が利用できるかを調ベ,これをもととして,その旅行の物語を書いて,組で読むこと。

(六一) わが国のおもな港の分布図を描き,それぞれどんな意味をもっているかを書いた表を作ること。

(六二) わが国では,陸運と水運とで,運賃にどれくらいの違いがあるか。輸送時間には,どんな差があるかを,具体的な例をとって比較すること。また貨物の種類によって,それぞれどんな輸送機関を利用した場合が,最も有利となるかを,いろいろな例から調ベること。

(六三) 世界のおもな港の分布図を,大陸別に描くこと。できれば,後背地の範囲も書き入れること。

(六四) アジアのおもな仲継貿易の分布図を描き,それぞれのもつ貿易上の意味を調べ,これを地図に表わすこと。

(六五) 郷土の港の自然及び人文条件について調べ,その長所,短所を討議すること。

(六六) わが国のおもな貿易港について,その発達を促した有利な条件を調ベて,討議すること。

(六七) わが国の日本海沿岸は,港の発達上,どんな有利及び不利な条件があるかを調べて,討議すること。

(六八) ロンドン・ニューヨーク・横浜・神戸は,世界貿易の上から,それぞれどんな重要な意味をもっているかを調ベて,報告すること。

(六九) 戦前の資料によって,わが国のおもな輸出品,輸入品につき,その種類・量・相手国・輸送路を調べ,これを世界地図に描き表わすこと。

(七○) わが国の有望な輸出物資及びその増産法について調ベて,討議すること。

(七一) 郷土の物産の中で,輸出品として重要あるいは有望なものを挙げ,これを,今後さらに発展させるには,どうすれはよいかを考えて,討議すること。

(七二) わが国の欠乏物資としては,どんなものがあるか。今後,どこからの輸入に頼らねばならないかを調べて,討議すること。

(七三) 国際貿易の発展が,いかに世界人類の幸福を増進する上に重要であるかについて,討議すること。

(七四) 郷土では,交通機関の発達によって,土地の開拓や人口の移動に,何か変化の起った例があるかどうかを調ベること。

(七五) 郷土では,交通・通信機関の発達によって,何か特殊な産業が起った例はないか,もしあれば,その種類・現状・発達し始めた年,交通機関との関係,及びその産業の特来性を調ベて,報告すること。

(七六) 郷土の商工業には,交通・通信機関が発達していなかった昔と現在とでは,どのような相違が見られるか。昔の状態を両親や老人に聞き,また,古い統計を調ベて現在と比較すること。

(七七) 郷土の都市の燃料は,どこから,どのようにして輸送されるか。またこれが交通機関の発達によって,どんな変化をしてきたかを調べて,報告すること。

(七八) 郷土から送り出される物資や,外から入って来る物資が,交通機関の発達するにしたがって,どのように変化して来たかを調べて,報告すること。

(七九) 郷土の衣・食・住の様式や,文化の程度は,交通及び通信機関の発達によって,どのように変わって来たかを調ベて,報告すること。

(八○) 郷土の村や町の発展は交通機関の発達と,どんな関係をもってきたかを調ベること。そして,今後,さらに郷土を発展させるには,どんな交通機関を,どのように発達させたらよいかを考えて,討議すること。

(八一) 郷土には,交通機関の発達によって,かえって衰えた町や産業の例があるかどうかを調べること。

(八二) 郷土の交通事業に関係している人をたずねて,現在,郷土では,交通上のおもな問題として,どんなことがあるかの話を聞くこと,そして,それらの問題を,どう解決したらよいかについて,組で討議すること。

(八三) 交通に関する専門の人を学校へ招いて,わが国の鉄道や水運,あるいは航室輸送について,将来どんな計画が立てられているかについての説明を聞くこと。

(八四) 交通・通信機関が,公共機関として,どんなにたいせつであるか。これを愛護するのにどうすすばよいかについて,討議すること。

(八五) 郷土の交通上の混雑を整理,改善するには,どうすればよいかについて討議し,その結果の中で,自分たちの助力できることを実行すること。

(八六) 日本の交通・通信に関する新聞や雑誌の記事を集めておいて,これをもととして,適当な問題について討議すること。

学習効果の判定

(一) 生徒は,過去の人々が,旅行に際して忍んだ多大な労苦を理解し,特に大旅行家の熱意と忍耐とに対して,尊敬の念を抱くようになったか。

(二) 生徒は,現代の交通,通信機関の恩恵を改めて認識し,その愛護改善に向かって努力する態度を新たにしたか。

(三) 生徒は,世界諸文明国と比較することによって,わが国及び,郷上の交通,通信機関の長所と短所とを認識し,将来の進歩・発展に,深い関りを持つようになったか。

(四) 日本や郷土に残されている時代後れの慣習・思想などを認識し,これを除去して,明朗な国民となろうと努力する態度が見えてきたか。

(五) 生徒は,世界貿易の必要性,及びこれに関連して,国際親善の重要性を認識するようになったか。

(六) 生徒は,わが国における交通,通信機関の発達による影響を過大視して,郷土の日常生活や産業に見られる種々な進歩的社会現象の原因を,すべて交通・通信機関の発達に求めようとする傾向が,認められはしないか。

 

単 元 五

 自然の災害を,できるだけ軽減するには,どうすればよいか。

要 旨

 アジアの諸地域は,古来,多くの天災に悩まされ,これによって,今日までに,どれだけの人命を失ったか,はかり知れないくらいである。例えば,中華民国では,ひでりや大水による凶作が最も多く,その度ごとに,これによる犠牲者は実におびただしい数にのぼってきた。近くは一九二○−二一年に襲来した大干ばつに際して,餓死者五○万人を出し,窮乏に陥ったものに至っては,数えきれないほどであった。また,気候不順の結果,時々起るインドのききんも世界に有名である。

 ひるがえって,わが国の歴史を調ベると,わが国でも,昔から天災に原因する悲劇が,しばしばくり返されている。地震・山崩れ・火山噴火・台風・津浪・大雨・ひでり・その他による災害の記録が多数見出だされるのみならず,今日でも,いつこれらの天災が,われわれを襲ってくるかも知れないことは,常に覚悟していなければならないのである。

 科学が大いに進歩した現在でも,人類に大災害をもたらすこれらの自然的異変を,自由に制御し得るまでには至らない。しかしながらわれわれの努力しだいでは,これらの災害の程度を,大いに軽減できる揚合が,少なくない。例えば,地震現象それ自身は防止することができないとしても,耐震的な家屋を建てたり,地震に際しての心得をよく研究して,あらかじめこれに準備しておくことによって,災害を軽くすることができる。また,山地の植林や河川改修工事,貯水池の建設などによって,耕地や住居地が水害に脅されることから,かなり免れることができるし,ひでりの害についても,かんがい(灌漑)事業の発達や作物の改良,産業施設の改善などが,凶作の危険やその他の不利を,どんなに防いでくれるかわからない。さらに,交通機関の発達は,被害地へ食糧その他の物資の輸送を迅速に行わせるから,ますますその犠牲を軽度に止めることができる。

 人類は,たゞ自然の威力に屈していてはならない。自然力の利用法を発見するごとに,文化は進歩してきた。われわれは,科学の力を十分に利用し,これを促進させることによって,自然の災害をかなり軽減し得るのである。人類に災害を与える自然現象の研究が進めば,ついにはかえってその自然力を利用することができるようになるであろうし,少なくともこのような自然的異変が襲来する前に,適当な災害予防手段を講ずることが可能となる。例えばわが国の地震学者は,わが国土が一九四六年の春ごろから,地震活動期に入ったことを知った結果,たとえその発生の正確な時期や場所は,明らかに示し得なかったとしても,近い将来に大地震襲来の危険性のあることをだいたい予想し得た。また,長期天気予報がさらに発達し,気象異変が予告されるようになれば,これによって来たるべき気象的災害に対して,万全の策を講ずることができるわけである。これに関連して,従来のわが国では,天災をできるだけ軽減する手段についての科学的知識,即ち防災科学の普及が十分でなかったことは,まことに遺憾といわなければならない。そこで,生徒に,われわれの生活を脅す危険性のある,これらの自然現象並にその作用に関する理解を与え,また災害時に際しての,いろいろな心得についての知識や経験を得させておくことが,学校教育に課せられた一つのたいせつな使命となる。さらに,われわれの過去をふりかえると,天災に対する宿命的な考え,特に人力ではどうともできないものであるから,たゞおとなしくこれに服従するほかはないというような思想が,どんなに防災科学の発達,普及を妨げてきたか知れない。したがって,学校教育においては,各現象に対して科学的態度をもって臨む心がまえを育成する必要がある。

 次に注意すべきは,天災による被害の範囲や程度は,単に自然的異変の規模だけによって定まるものではないことである。例えばある震度の地震がどの程度の災害を与えるかについては,社会状態もかなり深い関係をもってくる。社会が安定し,進歩的であり,かつ全国民が相互に助け合いながら平和な生活を営んでいる状態のもとでは,万一,大きな天災が襲来しても,その被害から速かに回複し得る結果,犠牲の程度も少なくてすむ。これに反して,社会が乱れ,人心が退えい的であり,各自が自分の安全だけを考えているような社会では,軽度の天災でも,驚くべき程の猛威をたくましくしてきたことは,歴史のよく教えるところである。のみならず,近くは一九四五年の大風水害及び一九四六年末に西日本を襲った大地震の結果を見ても明らかである。これらの自然的異変は,その規模も大きかったことは事実であるが,一方では,長年の戦争の結果,国民は疲弊し,社会は乱れ,ために困窮者や被災者を,十分に救助することができなかったのである。それ故に,天災による被害を,できるだけ軽減するためには,防災科学の発達・普及を計らなければならないとともに,不幸にして災害によって犠牲が出た場合でも,これを最小限度にくい止めるような進歩的,平和的社会の建設に向かって努力しなければならない。

 この学習を通じて,教師も生徒も,理科教科内容と密接な連関を保ちながら,必要に応じて,地震,火山活動,気象異変その他の自然現象自身についての理解も得るように努力することが望ましい。その場合,この単元の目的に関係が少ない方面は,できるだけ簡略にすべきであるが,目ざす理解に達するためには,いろいろな材料を自由に使って,学習を進めることが必要である。

目 標

(一) わが国は,いろいろな天災に襲われる危険性が多いことを理解させ,また,天災は,いつわれわれを襲って来るかも知れないことの注意を喚起すること。

(二) わが国を襲いやすい,各種の天災に関する科学的知識と理解を深め,科学的根拠のない迷信や俗説を打破すること。

(三) 人類は,不利な自然環境のなすがましに甘んじているものではなく,努力しだいによっては,かなりの程度まで,自然の威力から免れ得ることを理解させること。

(四) 各種の天災に対して,容易に実行し得る科学的対策を理解させること。

(五) 災害時に際して,各自の強い責任感と,被害者を助けようとする深い愛情心が,どんなにたいせつであるかを認識させて,平常からこの気持を養わせること。

(六) 防災科学の進歩・普及が,いかに各種の天災の軽減に重要であるかを認識させること。

(七) 平常の心がけや,訓練が,どんなに災害時に役だつかを認識させること。

(八) 社会状態いかんが,被害の程度や復興の速度に,どんなに深い関係を持っているかを理解させること。

(九) 天災によって,どんな打撃を受けても,再起の精神が重要なことを認識させること。

教材の排列

(一) 郷土では,これまでにどんな天災に苦しめられたことがあるか,また,わが国には,どんな天災が多いか。

(二) 地震はわれわれをどんなに悩まして来たか。

(三) 火山噴火によって,どんな災害をうけるか。 (四) 台風は,われわれにどんな損害を与えるか。 (五) 水害や雪害には,どんな種類があるか (六) そのほかに,恐るべき天災としては,どんなものがあるか。 (七) 平常及び災害時に際しては,どのような心がけがたいせつか。 学習活動の例

(一) 一 般。

(二) 地震関係。 (三) 火山関係。 (四) 風害関係。 (五) 津浪関係。
    (1) 郷土の海岸では,これまでに津浪に襲われたことがあるか。もしあれば,その年月日,津浪発生の原因,被害状況について,調べること。また,その後どんな対策がなされるようになったかも調ベること。

    (2) わが国の海岸で,最近ひどい津浪の害をけた所はどこか。その被害状況はどんなであったか。そこは,以前にも津浪の害を受けたことがあったか。もしあれば,その後どんな対策がなされてきたか。それにもかゝわらず,また,大きな災害を受けたのはなぜかなどについて,調べること。

    (3) わが国の海岸で,どんな地形の所が,津浪によってひどい害を受けやすいといわれているか。そして,それはなぜか。これについて,機会があれば専門の学者に説明してもらうこと。

    (4) 津浪が襲来したとき,郷土では,どこへ避難すれば最も安全かについて学級で討議すること。

    (5) 郷土の海岸では,これまでに津浪にともなって,どんな異常現象が起ったといわれているか。また,そのうち津浪の前徴と考実られてきたものには,どんな現象があるか。これらには,果たして,科学的根拠が認められるかどうかを調ベること。

    (6) 近くの海岸で,津浪に対して,特に厳重な施設がなされている所があれば,そこを見学して,その施設の特色を調ベること。

    (7) わが国の砂浜に多く見られる松林は,津浪に対して,どんな効果があるかを調ベること。

(六) 水害関係。
    (1) 郷土の最近の水害につき,その年月日,原因,はん濫した河川,水害を受けた範囲,被害程度を調べること。

    (2) 郷土では,過去数十年間に,最もひどい水害をうけたのはいつか。そのときのありさまはどんなであったかを,両親や老人に聞いたり,記録を調ベたりして,報告すること。

    (3) 郷土の河川の中,どれが最もはん濫しやすいか。それはなぜか。その場合どの辺が最も被害をうけやすいか。それはなぜかを調べること。

    (4) 郷土で水害の多い時期はいつごろか。なぜその時期に水害が起りやすいかを調べること。

    (5) 郷土の水害に関する資料を,できるだけ古い時代のものから集めて整理し,水害表を作ること。

    (6) 郷土で水害に見舞われやすい土地では,村の位置に何特色が見られるか。また,村として特別な設備がしてあるか。各家についてはどうかを調ベること。

    (7) 郷土の山地の砂防及び植林事業は,なんの目的で,どのように行われてきたか。その結果,どんな効果があったかを調ベること。

    (8) 郷土の水系図を作り,堤防を書き入れること。そして,

      (イ) 堤防の分布状態には,地方によってどんな特色があるか。

      (ロ) どの辺が一番破壊されやすいか。それはなぜか。

      (ハ) 堤防保護について,どんな努力が払われてきたかについて調ベること。

    (9) 郷土の河川については,これまでにどんな改修工事が行われたか。それによってどんな利益をうけたかを調べること。

    (10) わが国の河で,放水路(分水路)工事が行われたものの代表的な例を挙げ,その図を描くこと。そして,この工事によって,附近の土地がどんな利益をうけているかを調査して,表に書くこと。

    (11) 河川に関する専門家を学校へ招いて,県・郷土の河川の特色,将来の事業計画についての話を聞くこと。

    (12) 資料を集めて,郷土及びわが国全体が,水害によって,年々どれくらいの損失(金額)を受けてきたかを調べること。

    (13) 郷土のある河川について,上流から下流までの縦断面を描き,河床の傾斜の変化状態を明らかにすること。また,大雨が降った場合,その水害状況は上流部と下流部とで,どのように違うかを考えて,討議すること。

    (14) 平地を曲流している河川としては,わが国にはどんな例があるか。この種の河川が,はん濫しやすいのはなぜか,この欠点を除くには,どすればよいかについて討議すること。

    (15) 郷土には,著しい天井川の例があるか。もしあれば,その地方が天井川を作りやすい原因,及び,それによってこれまでに,どんな不利をうけたことがあるかを調べること。

    (16) 中国の黄河について,歴史的及び現在に関する,いろいろな資料を集めて整理すること。また,揚子江と黄河とを,はん濫の危険性の上から比較すること。

    (17) 郷土の治水工事の先覚者について,その残した仕事,及びそれによって人々がどんな利益を得てきたかを調べること。

(七) 雪害関係。
    (1) 深雪地では,屋根の雪おろしにどんな方法が用いられているか,その方法は,昔に比べてどのような進歩が認められるかを調ベること。

    (2) わが国の深雪地の都市・村・家で,特別な防雪の設備のしてある例をできるだけ多く調ベ,これを比較して,それぞれの得失を討議すること。

    (3) 深雪地では,冬の期間は,農家の人々は家ではどんな仕事に従事するか。また,出かせぎに行く例としては,どんなものがあるかについて調べること。

    (4) 郷土の人々の記憶に残っている中で,雪が最も多かった年はいつで,いちばん深いときはどれくらい積ったか。そして,どんな雪害を受けたかを調ベること。

    (5) 深雪地では,交通機関はどんな雪害をうけるか。これに対して,どんな防雪工事や対策が講ぜられているかを調ベること。

    (6) 最近わが国の交通機関が,最もひどい雪害を受けた年月・地方・そのときの交通支障状態を調ベて報告すること。

    (7) 郷土では,凍上現象が見られるか。これによってどんな危険が起りやすいか。これについてどんな対策が考えられているかを調査すること。

    (8) 郷土では,吹雪によって,これまでにどんな事故が起ったか。過去数年間の事故の表を作ること。

    (9) 郷土で,なだれは,いつごろどんな所に起りやすいか。それはなぜか。なだれによって,どんな災害を受けた例があるか,その危険防止に対して,どんな調査や設備がなされているかを調べること。

(八) ひでり関係。
    (1) 郷土ではひでりの害をうけ易い季節はいつか,過去の記録を調ベたり,老人に聞いたりして,何月ごろが最もその危険性が多いかを判定すること。そして,郷土がこれまでに襲われたひでりの年・季節・被害状況の表を作ること。

    (2) 郷土では,長近ひでりの最もひどかった年はいつか。その時は雨の降らない日がどれくらい続いたか,それによって,作物はどの程度の害を受けたかを調べること。

    (3) 郷土では,ひでりの対策として,どんな手段がとられてきたか,それはこれまでどの程度の役に立たかを調べること。そして,将来,さらに改良,発達させるべき点がないかについて,討議すること。

    (4) わが国よりも,華北や満州のような大陸方面が,ひでりの害をうけやすいのはなぜか。これについて,気候及び作物の方面から調べること。

    (5) 郷土の稲作の豊凶には,稲作期間の気温と雨量とでは,どちらが深く関係してきたか。農業の専門家に問い合せたり,あるいは農事試験場へ行って,これまでの結果を調べて,報告すること。

(九) 冷害・虫害関係。
    (1) 郷土の稲作が,これまでに冷害を受けたことがあるか。その年・季節・被害の程度を調ベること。

    (2) わが国の冷害は,西南日本には少なくて,東北日本に多いことには,どんな自然及び社会条件が関係しているかを調べること。

    (3) 資料を集めて,東北日本が,今日までに冷害を受けた年代・被害の程度の表を作ること。

    (4) わが国では,冷害に対して,いつごろから本格的な科学的研究が始められたか。そして,今日では,その研究の結果,どのような利益をうけているかについて調ベること。

    (5) 郷土では,作物の霜害については,いつごろ最も警戒を要するか。これについて,どんな対策が考えられているか。最近最もどい稲害をうけたのはいつで,その時の被害状況はどんなであったかと調ベること。

    (6) 郷土の作物は,これまでにどんな病害や虫害をうけたことがあるか。その年,季節,被害状況を調ベ,さらにその災害の種類には,他の地方と異なった特色があるかどかを調ベること。

    (7) 郷土では,作物の病害や虫害について,どんな対策が一般に行われているかを調べること。

    (8) 農事試験場へ行って,郷土の作物の病害や虫害の防除法について,どのような研究が進められているかの説明を聞き,これを郷土の人々に話すこと。

(一○) 火災関係。
    (1) 郷土には,これまでどんな大火事が起ったことがあるか。これについて,できるだけ古いものから調ベて,その年月日.焼失戸数の表を作ること。

    (2) 資料を集めて,過去数十年間の出火数を調ベ,この月別変化表を作って,気象要素との関係を調査すること。

    (3) 郷の大火災について,それが早く消しとめられなかった原因を調ベること。また,火事に際して,その延焼がどんなに速やかに行われるかについての実見談を聞くこと。

    (4) 郷土の大火に際して,人々は,どこへ,どのようにして避難したか。そして,その結果はどうであったか。安全であった例,結果の悪かった例を調べ,その原因について討議すること。

    (5) 火事に際し,避難者が荷物をたくさん持っていたために,かえって悪い結果を招いた例をいろいろ集めて,報告すること。

    (6) 学校や各自の家が火事になった場合,どのような品物を持って,どこへ避難するのが最もよいかについて調べ,万一の場合のために準備しておくこと。

    (7) 郷土の家では,どんな防火設備がしてあるか。古くから伝わっている特殊な防火建物はどんな構造になっているか。それは過去の火事に際して,事実どんな効果があったかを調べること。

    (8) 大地震直後の火事が,特に延焼しやすいのはなぜか。自然的にはどんな原因があるか。また,社会的原因としてはどんなことが挙げられるか。これについて討議すること。

    (9) 万一,何か大きな天災が襲って来た場合,その被害をできるだけ少なくするために郷土では平常どんな心がけや準備をしておくことがたいせつか。これについて討議すること。

    (10) 「文化が進むにしたがって,いろいろな防災施設もだんだん進歩するから,損害は次第に減ってくる。だから,われわれの努力によって,ついには天災の被害から免れる日がくるであろう」。「文化が進むにしたがって,人口も多くなり,建物の数や種類も増加し,耕地も広くなるから,損害を受ける範囲もたんだん大きくなってくる,それ故に将来は,天災による被害がますます大きくなるであろう。この二つのことばは,郷土の将来にとっては,どちらがよくあてはまるように考えられるか,これについて討議すること。

学習効果の判定

(一) この単元の学習のはじめに当たって,生徒にいろいろ質問するなり,あるいは他の適当な方法で,各種の天災に対する生徒の理解の程を判定して,これを記録しておく。そして,各種の天災に関する学習が終るごとに,質問その他の方法で,それぞれの天災に対する生徒の科学的理解,及び認識の程度を測り,これを前の結果と比較して,どれくらい進歩したかを判定すること。

(二) 「天災は忘れられたころに,またやってくる」場合が多いことを認識し,常に警戒,注意しなければ,過去の人々が払った犠牲を,幾度もくり返すおそれのあることを認識したか。

(三) 各種の天災による被害も,科学的施設や平常の心がけしだいで,大いに軽減できるものであることを認識したか。

(四) わが国における防災科学の進歩普及が,どんなに重要であるかを理解したか。

(五) これまでに郷土を襲った各種の天災に関して,科学的調査を行い,これをもととして,将来に備える態度が見えてきたか。

(六) 郷土や家庭の人々に対して,災害予防に関する,科学的知識の普及につとめるようになったか。

(七) 学校や各自の家の施設について,防災という立場から,見なおす態度が見えてきたか。

(八) 秩序ある平和な社会,進取的な気持の維持が,災害軽減の上にも,重大な意味をもつことを理解したか。

(九) われわれは自然の威力を軽減し,地表を住みよくすることに向かって,努力しなければならないことを理解したか。

 

単 元 六

 社会や政府は生命財産の保護についてどういうことをしているだろうか。

要 旨

 われわれはすべて社会の一員である。一つの社会は多くの人々から成り立っているが,それらの人々はおたがいにその必要を満たすために協力する目的で,いっしょに生活し,共通の社会活動を行っているのである。人間は自分が自分だけで暮らすよりも,社会のなかで生活する方が,その個人の必要を,よりよく満たしうることを,長い間の経験によって知ったのである。

 すべての人は,いやしくも生きていこうとする限り,だれでも基本的な欲求を持ち,また,満足な,幸福な生活を営もうとする限り,たれでもその他の要求に直面しなければならない。このような要求に適合するために,多くの人々は共同の努力を必要するのである。というのは,だれでも自分一人で病気や不慮の事故や火災や犯罪を防ぐことはできないからである。

 この単元の学習は,社会における個人の生活が,自分たちのおたがいの利益のために協働しようとする方法を,すべてゝこに包含せしめようとするのではない。例えば食糧や衣服や住宅を求めるための社会生活についての問題は,別の単元において考えて来た。こゝで主として取り扱うのは,社会の成員の生命と財産の保全をおびやかすものに対する保護についての問題である。一定の組織を持った社会の一つの重要な機能は,このような保護をなすことであり,われわれの経済生活や社会生活はきわめて複雑であるから,これらの活動に対する要求は次第に大きくなってきた。

 われわれの生命や財産は,地震や津浪や台風やその他の自然の災害によってしばしばおびやかされる。われわれはそれらのものを防ぐことに無力であるが,もしそれらの災害の被害者たちが,たがいに助けあうことができるならば,その来襲を予知することによって,災害の影響を減少させることができるであろう。また適当な個人や集団による防護手段を講じるならば,避けられるような別のいろいろな危険がある——例えば火災・疾病・不慮の事故や個人の過失によって他人の生命・財産をおびやかすようなものがそれである。科学が発達した結果,われわれは多くの病気を予防することができ,その他の災渦の影響を減少させることができるし,個人や集団の努力によって火事を予防するか,仮にそれが起ってもその損害を最少限に止どめることも可能である。

 人々の権利や生命,財産を保護するために組織された社会によつて,探諾された規則に従うように正しい訓練を受けていない人々がいることによって,社会の個人と人間の集団である,共同会をおびやかすような,犯罪行意をなす場合がしばしばある。ここにもまた正しい教育と訓練によってこれらの不法行為や犯罪を防ぐ可能性がある。こうした行意を適当に防ぐ手段を持たぬ所では,その社会の人々は自ら犯人を捕える組織を作らなければならないし,犯人がそれ以上に社会の安寧を乱すことのないように社会から隔離し人間にもどるまで訓練するために入れておく特別の設備をその社会のうちに設けなければならない。

 大昔から人間は相互に防衛する組織をもつことの必要を知っていた。けれども災難や疾病は何か悪い命にあやつられて起るものだという考えのために,長い間そうした相互に協力しようとする努力が妨げられていた。ある者はこれを因縁だと考えて宗教的な慰めを求めたし,またある人は自らの不運とあきらめて神仏の加護にすがったのであった。科学の発達によつて人は,病気や事故や火災やその他の災難を防ぐことができるということを発見し,それができない場合でも人々が協力することによって,その影響を減少させることはできるのだということを知ったのである。

 現代の社会は,何であろうとその成員をおびやかすようなものから,これを防衛しようとする働きを持っていることは,広く認められていることである。共同会は人間を放れた何物かであって,それ独自の存在を保つているものであると考えたり,また社会や政府が一方に考えられて,他方に人間が別にあるのだというような区別はできないということを,このような相互防衛の努力によって理解しなければならない。共同社会というものはそこに生活する人々の社会であり,人々によって維持され,人々のためにあるものである。このことは市町村のような地方の共同社会に適用できるし,県や国のように,より大きい社会についてもいわれることだし,またもと大きい世界や世界の人類によって形造られる社会についてさえも,いわれることなのである。

 この単元は健康や生命・財産の保全のために社会の成員によって,いかなる手段がとられているかということを,生徒に発見させるように指導するのに,適当な習活動や学習経験について教師に示唆を与えようとしたものである。こうした適切な手段の理解には,必然的に過去においてとられてきたいろいろな手段の研究を含むことになるであろう。それによって,われわれの共同社会の将来が現在よりも,よりよいものとなり,より楽しい,住みよい安全な,もっと満足のゆく場所となるように生徒各個人が社会生活の改善に貢献しようとする意欲をわかせ,現在の保全の手段にみられる欠陥に注意を向け,建設的にこれを批判する能力を発展させるように努めなければならない。この単元の学習に当たて生徒は中学校理科教科書,私たちの科学一八,「生活をどう改めたらよいか」を参考にすることができるであろう。

目 標

(一) 一般目標。

    (1) 健康・生命・財産の保全について地方の社会(市・町・村など)や国家によって行われている努力と,現在の防衛方法を改善することの必要と,その可能性に対する理解を発展させること。

    (2) 生徒に対して,自己の属する社会や国家の中において,生き生きとした健康にして平和な生活を建設することに,協力しようとする意欲を発展させること。

(二) 特殊目標。
    (1) 個人と集団はすべての人々の生命と財産を保全する責任を負うべきことの理解と,この目的に到達する方法として協力手段に訴えることの知識。

    (2) 伝染病予防方法に関する知識と,市町村における防疫施設を利用する能力。

    (3) 健康・衛生・厚生の基本的な原理に関する知識と,これらの原則を自分自身の生活と社会生活の上に応用する能力。

    (4) 火災の原因と火災予防の実際的手段並びに異なる場所に要求されるさまざまな消防施設についての知識と,火災予防と消防活動に協力しようとする意欲と能力の発展。

    (5) 不慮の災害の発生する事情についての理解とその防止方法に関する知識,突発的事故が起った際の応急処置の訓練。

    (6) 交通安全施設の必要なことの理解と,交通事故の予防方法に関する実際的な知識の発展。

    (7) 犯罪の原因と性質に関する知識と理解環境と犯罪との関係と教育や適当な公民的訓練を施すことによって犯罪を少なくする可能性についての理解,よき公民として行動に対する個人的責任をとろうとする態度の発展。

    (8) 警察官の職責に関する知識,警察署の正当な機能についての理解の発展,警察官の合法的活動に協力しようとする意欲の発展。

    (9) 裁判所・刑務所の目的と機能に関する理解の発展,裁判所や刑務所の改善に協力しようとする積極的な意欲を養うこと。

    (10) 日本の人口問題と,その解決方策の重要なものに対する理解。

    (11) 健康・生命・財産保全についての法律の知識。

    (12) 社会の種々の施設や機関を訪問して,事業運営の実際を観察し市町村のそれらの施設の運営に当たっている人に会見して実際的知識を得る能力を養うこと。

教材の排列

(一) 個人や社会集団の成員は,われわれの健康と生命の保護に対していかなる活動を行っているか。

    (1) 個人衛生
      (イ) 健康法

      (ロ) 疾病予防についての活動

      (ハ) 家庭・学校における衛生

      (ニ) 休息と,レクリエーション

    (2) 公衆の健康と衛生。
      (イ) 疾病予防に対する社会のとっている手段(身体検査・検疫・予防接種と予防注射・隔離)

      (ロ) 社会によってとられている健康に役だつ条件の維持(家屋・建物・道路の清掃)

      (ハ) 健康と衛生のための公共機関・公衆衛生院・伝染病研究所・健康相談所等

    (3) 国民病とその対策。
      (イ) 種々の国民病

      (ロ) 結核とその対策

      (ハ) 青年と結核

    (4) 空気・日光・水。

    (5) 食 糧。

(二) 不慮の災害や危険からわれわれの生命・財産を救うためにいかなる公共の努力がなされているか。
    (1) 安 全。

    (2) 火 災。

      (イ) 火災の件数・性質・損害

      (ロ) 火災予防の手段

        1,火回り番(夜回り)

        2,防火建築

        3,火の用心と取り締り

      (ハ) 消 防
        1,火災報知施設・器具

        2,家庭消火器

        3,消防制度

        4,消防署・消防組

        5,消防機械器具

        6,消防手とその教育

      (ニ) 山火事
    (3) 交通事故。
      (イ) 交通事故の件数・原因

      (ロ) 交通安全教育

    (4) 工場災害。
(三) われわれの生命・財産をおびやかす犯罪行為に対して政府や社会はどのような手段を講じているか。
    (1) 犯罪と犯罪者

    (2) 犯罪の原因。

      (イ) 犯罪者の素質にもとづくもの

      (ロ) 環境の影響によって起るもの

    (3) 青少年犯罪。

    (4) 犯罪の防止。

      (イ) 教 育

      (ロ) 経済的条件の改善

      (ハ) 家庭や学校における公民的訓練

      (ニ) 防犯施設

    (5) 警 察。
      (イ) 警察制度と組織

      (ロ) 警察の機能

      (ハ) 警察官,その職権と採用法

      (ニ) 警察制度の変化

    (6) 検察と裁判。
      (イ) 犯罪捜査と犯人の逮捕

      (ロ) 裁判所

    (7) 刑務所。

    (8) 法律と秩序の維持。

    (9) 司法制度の改革。

(四) 人的資源の保護に政府はどのような手段を講じているか。
    (1) 国勢調査。
      (イ) 人口構成とその動態

      (ロ) 国土と人口扶養力

    (2) 国民の肉体的,精神的素質。

    (3) 人口問題とその対策。

学習活動の例

(一) 自分の経験や読書をもとにして,人間の身体を健康に保つためにはどういう条件が必要であるかを表につくること。(例えば新鮮な空気,適当な睡眠)その反対に健康を害するいろいろな原因を同じく表につくること。それについて学級で討議し,身体を健康に保つための条件を一覧表に書いて学級の壁にはりつけること。

(二) 附近の医師を招き身体の発達のありさまや,健康な時と病気の時との相違がどのように現われるか話を聞いて記録すること。

(三) 自分の幼児から現在までの健康状態及び病無の年譜を父母や兄姉の助けを得て作り上げること。それを持ちよって,学級全体の統計を作ってどの年齢に比較的病気が多いか,何月が最も病気が多いかなどについて一覧表を作ってみること。自分の健康日誌をつけること。

(四) 緒方富雄著「からだを護るもの」を読んでわれわれのからだが病気を防ぐためにどのような仕組みを持ち,またどのように働いているかを明らかにすること。以上のことを自分が病気やけがをした時の経験にてらしてグループで話し合ってみること。伝染病の予防のためにどのような予防注射をしているか級友について調べてみること。

(五) 自分の家の月々の支出のうちで医療薬品購入のためにどのくらいの金を払うか。それを他の支出と比較して扇形グラフにかいてみること。最近一年間で最も保健のために多く支出のあった月はいつか。なぜ支出が多かったか。また最も少なかった場合についても調ベてみよ。

(六) 家で家族の者が病気にかゝらないようにするためにどんなことを平素実行しているか。またそれを実行するためにどのくらいの費用がいるかを調べて表にすること。これを上の(五)の表と照し合わせて予防費と病気の治療費とではどちらが負担が大きいかを比べて学級に報告すること。

(七) 家に普段から備えつけてある薬品(腹の薬・傷の薬・消毒剤など)や医療品(氷のう・氷枕・体温計・吸入器など)を全部調べて表にしてみること。家の者が最もよく利用するものはなにか。それらがどんなに病気の場合に役だつかを調べてみること。

(八) 自分の町にある病院を調べてその取り扱っている業務の内容(例えば,内科外科小児科のような)を全部挙げて表にすること。また町の略図をかいて病院の位置を記入してみること。

 日本全体について医者のない町や村がどれくらいあるか調べてみること。無医村では急病のある場合にどんなに人々が困っているかを明らかにして中央や地方の責任ある機関がそれにどんな態度をとっているか調ベて学級で討議してみること。

(九) 自分の地方でまじないや神や仏の信仰によって病気をなおす習慣や迷信があるだろうか。あれば調ベて表にすること。それについてこのような民間療法は将来どうなってゆくだろうか,またどうしなければならないかを討議すること。また,そういうものがなぜいつまでも引き続いて行われるのであろうか研究してみること。

(一○) 適度の休養ということが健康のためになぜたいせつかということについて学級で討議すること。休養の種類や方法について調べて学級でよいものを決定すること。この場合各個人の興味や性質や体質・年齢などを十分考慮することは必要なことである。また戸内での静かな休養のみでなく戸外で清い空気や日光の下で行われる軽いゲームやスポーツなどもできるだけ取り入れてみること。さらにこのようなレクリエションを通して他の人々と協力するということも考えることがたいせつであろう。青年期の心身の発達が著しく進むころにはの使い方や物の考え方にもいろいろ複雑な関係ができて来る。青年の心理について書いた書物を読んで知識を得て「青年とスポーツ」という題で作文を書いて学級に発表すること。

(一一) 自分の地方にある有名な製薬会社を訪問してそこで生産されるいろいろな薬品の工程を視察すること。またもし附属の研究所があればそこの研究員に最近の新しい薬剤についての話を聞いて来て学級に報告すること。政府は品質のよい薬品を作らせるためにどのような手段を講じているであろうか。また有害な薬剤の製造・販売に対してどのような方法をとっているか。

(一二) 市・町・村の代表的な病院を訪問して病院の組織や運営の状態を調ベてくること。これをいなかの私立の小さな病院のそれと比べてみること。「医療組織や医療制度は政府の責任においてすべて運営すべきである」という題について学級で討議すること。

(一三) 世界各国の死亡率の変遷を調べて現代において死亡の減少して来た背後にそれぞれの国がどのような努力をなしてきたかを調べてみること。新しい医学上の発見や新しいすぐれた薬品の発明などの歴史を調ベて上の表に当てはめてそれと死亡率の低減との関係を研究してみること。

(一四) わが国において西洋医学が輸入されてから公衆衛生の問題がどのように政府や責任ある人々によって取り扱われて来たであろうか。日本歴史の書物や日本医学の発達などを取り扱っている書物を読んで調ベてみること。

(一五) わが国における死亡率の変遷と医学の発達との関係を調べて学級に報告すること。死亡率の低下した時期はいつごろからか。またその変化の原因になったのはどのような理由にもとづくだろうか調ベてみること。

(一六) わが国において悪質の伝染病が流行した時(例えば大正八年ごろの流行性感冒など。またペスト・コレラ・腸チブス等)にどのような方法でこれを防いだかを明らかにすること。

(一七) エドワード・ジエンナー,ルウヰ・パストウール,ロバート・コッホ,マリー・キューリー,北里柴三郎,野口英世の伝記をよんでその人の一生を知り,その研究の業績によって,今日われわれがどれくらいに恩恵を受けているかを明らかにすること。そのだれかひとりを選んでその伝記の一部を学級で朗読すること。

(一八) 世界で伝染病の起りやすい地帯はどの地方であろうか。コレラやペスト,天然痘のような悪質の伝染病はどのような径路でわが国に入って来るであろうか。海外から入る可能性のある伝染病に対して政府はどのような手段を講じているであろうか。以上のことを調べて学級に報告すること。

(一九) 政府は伝染病の予防のためにどのような処置をとっているであろうか。自分の町の防疫の責任にあたる役所(市・区・町・村役場や警察署)を訪問して,その細かい点について話を聞いて学級に報告すること。

(二○) 悪性の伝染病をあげて,その病気の性質・兆候・伝染径路・危険率等を記入して学級に報告すること。特に子供のかゝりやすいものに注意すること。

(二一) 交通の発達と疫病の伝染との関係について調ベて,病気を防ぐ社会施設がそれに伴なっていないと人間に不幸をもたらすこともあるという考えについて討議すること。

(二二) グループの各個人が分担して町の医師を訪問して,去年一箇年に町の人がどのような病気で病院にかよったかを明らかにすること。これを学級の出席記録によって調査した級友の病気にかゝった割合と比ベてみること。去年はどんな病気が最も多かっただろうか,特に青少年に多いものはなかったであろうか。また自分たちの町の流行病を数年にわたって,統計的に研究すること。町の官憲や私設団体が公衆衛生のためどんな活動をしているかを調査すること。

(二三) 全校生徒の身体検査の結果を整理記録して生徒一般に通じてみられる身体的欠陥を明らかにしそれをなくする方法を討議すること。身体検査の結果をできるだけ平素の生活の改善に役だてる方法を研究して学級について,その実際的な方法を立てて実行すること。

 身体検査ということが公衆衛生の改善に有効であるとして,これを一般社会にも広く行うためにはどうすればよいか討議すること。

(二四) 政府は公衆の衛生状態を改善するためにどのような施設を経営しているであろうか。それらをあげて所在地,事業の概要を明らかにすること。

(二五) 近くの衛生試験所,伝染病研究所などを訪い,クチンの製造工程について見学し,また係の人から説明を聞いて,学級に報告すること。

(二六) 自分の地方である地域または職域を単位にした国民健康保険組合が存在しているかどうかを調ベること。もしあるならば委員を選んでこれを訪問させること。組合の役員からその目的,組織,事業運営の大要を聞いてきて学級に報告させること。

 町の病院で健康保険医として組合に関係ある医者があれば訪問して医者の立場から組合についての情報を得てくること。

(二七) 自分の町の保健婦さんを訪問して保健婦の仕事について話をきいて来て学級に報告し,その効果について討論すること。また派出看護婦についても調ベてみること。

(二八) 自分の町にある生命保険会社(またはその代理店)を訪問し,生命保険についての知識を得てきて学級に報告すること。級友の家族のだれかで生命保険に入っている人があれば,その保険証書を見せてもらうこと。

(二九) 国民の保健衛生について取り扱う官である厚生省について書物を読んだり,年長者から話をきいてその仕事についての知識を得ること。厚生省の沿革を調ベてこの省ができる前とできた後とにおいて国民はその健康な生活を営むためにどれだけの恩恵を受けるようになったかを比ベてみること。

(三○) 統計を調ベてわが国の年々の死亡数とその死亡原因を明らかにし,死亡者数の多い病気を順にあげてみること。またそれにかゝることによって,多数の国民がその活動を阻害せられるような病気を順にあげてみること。以上の表にもとづいてわが国で国民病とでもいえるようなものがあればそれにしるしをつけること。国民病について,病の種類,どの地方または地区に多いか,患者数と死亡率などを表にまとめてみること。これらの病気を外国のそれと比較すること。なぜこのような病気が日本には多いのだろうか。

(三一) 学級内に委員を設け,わが国最大の国民病としての結核についての調査研究をすること。結核問題を取り扱った多くの書物や統計表,グラフ,掛け図,ポスター等を集めること。またラジオ放送でこれに関係のあるものを聞くこと。

 この委員会では特に次のことを明らかにするとともに必要な実行計画を立てること。

    (1) 結核患者の数,他の病気との比較,外国の結核患者数との比較,その数は過去においてどのように変化し現在どのような状態にあるであろうか。わが国で結核が拡まった原因を考えてみること。

    (2) 国民病としての結核の重要視される理由。

    (3) その病状,死亡率,回復率,療法。

    (4) 原因と予防法(特にツベルクリン反応検査,X線診断,BCG注射,血沈,たんの検査等)。

    (5) 青年と結核の問題,自分の学校における実状とその具体的な対策。

    (6) 政府や社会の結核に対してとっている対策。

(三二) 学校生徒の全体について近視眼のものを調ベてその比率を出し,グラフに書いてみること。また生まれながらに近眼の素質を持っていたかどうかを明らかにすること。日本人に近眼の多いといわれる原因はどこにあるだろうか,将来われわれの努力によって治すことができるであろうかを眼科医等に聞いてきて学級に報告し,学級で近眼のふえないような具体的な注意事項を考えて実行すること。

(三三) 貧民街を訪問して健康上悪いと思われる点を見つけ出すこと。特に彩光,通風の点からしていかに改善すべきであろうかを討議すること。

(三四) り災者や引揚者の住宅を調査してみること。その人たちの生活は住居の点についてどのように現在苦しんでいるであろうか。直接それらの人々に会見して,もしその人が感情を害しないならばその困難や,苦痛や希望を聞いて特に保健衛生という点からみてその改善案を討議すること。次の点を考慮すること。

    (1) バラックや仮住宅は採光,通風,湿気,雨もり,保温等の点からみてどうであろうか。

    (2) 多数の家族が狭い家に同居している場合,畳一枚当たり幾人住むのが最大限度であろうか。

    (3) 上の問題を解決するには,根本的にどういうことになるのが望ましいか。

    (4) 政府はこの問題にどのような態度をとっているであろうか。

(三五) 健康な住宅の充たさるべき条件を挙げて表にすること。

 住宅に関して自分の町の現況(人数,世帯数と戸数)間数調査を実施すること。自分の考えている将来の理想住宅(アパートを含む)を考案設計してみること。他の国々の都市計画において実行して来たこと研究すること。

(三六) 自分の町の水の供給状態を調査し,町の人々が最もよく使う水の見本を衛生試験所に送って水質試験をすること。試験所の報告について適当な役人と討議すること。

(三七) 自分の町に上水道の施設があれば見学すること。水源はどこにもとめているか。水の浄化にはどのような方法が用いられているか。配水,給水の施設や方法は適当であるかどうかを調べて係の人と討議すること。

(三八) いなかの村の井戸を調ベて,その位置,井戸わくの作り方,流し場の構造等について改善すべき点がありはしないかを討議すること。飲料に供する水として備えるべき施設の条件を研究すること。

(三九) 異なった年齢,環境(風土を含む)労働量とそれに必要な「カロリー」につきグラフを作ること。自分の現在とっている熱量はいくらか,科学的見地から主食,副食を検討し,数種の段階をつけて献立表を作成してみること。わが国における主食の絶対不足量とたんぱく質補給の方法について対策を考えてみること。

(四○) 食物を清潔にする基準について討議し,それを表示すること。自分たちの市場の食品を視察し,清潔の度合とその不足について討議すること。自分たちの町の食物を清浄に保つ方法を発達させるように努めること。

(四一) 自分たちの町で衛生状態の悪い場所を見つけ出すこと。その問題について討議し,改善案を提議すること。公衆便所は整備されているだろうか。下水は完備されているか,汚物の処理はどうか。道路にたんつばが,はき散らされていないだろうか。

(四二) フランクン自伝を読んでかれが都市の清掃のためにとった一市民としての態度について学級で話し合うこと。町の道路の溝掃や下水をさらえることについて人々はどのように協力しているであろうか。

(四三) 身体の清潔をはかる方法として入浴と洗たくについて話し合うこと。町の公共浴場の位置を略図の中に書きこんでみること。浴場における望ましい態度について討議すること。

(四四) 自分たちの町に起る保健上の障害について研究すること。その障害の完全な表を作ること。保健問題について報告をかき,その解決案を提議すること。

(四五) 自分の市・区・町・村役揚の役人,府・県の役人がどんなに公衆衛生に力しているか調ベること。その人たちを訪問し,現にとられ,または企図されている実際の処置について討議すること。公衆衛生に助力するため自分の学級で計画表を作ること。

(四六) 学校に医師を招き綿密な健康調査を実施しまた各人の環境,境遇を周密に調ベて両者の関連性について論ずること。時々このような企てを実行し,グラフを作って比較検討すること。

(四七) 健康生活のための注意すべき点を十箇条学級できめて,これを教室に掲げること。

(四八) 自分の家や道路や,乗物や,人の集まる場所などで起る不慮の災害について表をつくつてみること。場所に応じて起り得る事故の性質を研究しそれらを排除するための実際の計画をたてること。

(四九) 自分の市・区・町・村は昨年一箇年に火災が何件ぐらい起ったか。それはどのような原因によって起ったか,また損害はどれくらいであったかを調べて表にすること。また自分の住む県や国全体についても同じような調査をして討議してみること。

(五○) 昔から火の用心のためにどのような方法がとられて来たであろうか。柳田国男著「火の昔」を読んで自分の地方で今でも残っている火に関したことば,迷信,習俗,防火の道具などを調ベてみること。

(五一) 火災を予防するために,自分の地方ではどのような手段が講じられているか。家の中で火の取り締りの責任をおっている人はだれであろうか。家家にける火の用心のために何か特別の設備や,準備や,訓練がされているであろうか。同じことを自分の学校や,町についても調ベて学級に報告すること。

(五二) 自分の家を中心にして火災が起った時に,近所や警察に報知する方法と危険が迫った場合に逃げるためや,援助に来る人や消防隊の入って来る道を予め調査して図示すること。最寄りの交番や消防署に通報するのにどのくらいの時間を要するであろうかをも予め調べておくこと。

(五三) 防火に役だてる目的から日本の建築を調査すること。これを洋式の建築に比較して改善すべき点をまとめてみること。戦災都市においては焼け残った地帯や,建物(例えば土蔵造りなど)を調査して,その延焼をまぬがれた理由を明らかにすること。

(五四) 自分の町の消防組織を調べること。民間の自主的な消防組織があるかどうか,あるとすればいつころからどのようにしてできあがり発展してきたかを明らかにすること。町の官(公)設の消防署を訪問して,その組織,編成・器具・設備・消防手の職責と教育・訓練,その採用方法と給料,実際の活動状態などについて話を聞き学級に報告すること。学校の最寄りの消防署長を招いて火災予防と消防の仕事についての話を開くこと。

(五五) 学校の中に教師,生徒の全体で編成する消防組織を設けること。時々町の消防署と連絡して学校の一部に火災が起った想定のもとに消防訓練を実施してみること。避難方法・通報組織・消火活動の分担を平素から訓練すること。

(五六) わが国では年々山火事でどのくらい損害があるだろうか。山火事の原因は何であろうか。その対策はどういう方法がとられているか。以上のことを書物や,統計によって調ベたり,また自分の地方の営林署の役人に手紙を出して聞いてみること。ハイキングや,登山や,キャンピングに出かけた場合に山火事を防ぐための協力方法を学級で討議すること。

(五七) 町の火災保険会社(またはその代理店)を訪問してその事業のあらましについて聞いて来て学級に報告すること。火災保険はどんなに社会に役だっているか。またその種類や,組織や,機能はどんなものであろうか。

(五八) わが国全体を通じて年々交通事故のために死傷した人々の数を調ベ,これを病気やその他の原因で死傷した人の数と比ベて,グラフを書いてみること。近年交通事故による死傷者の増大はいかなる原因によるのであろうか。死傷者の年齢や,男女の別を調べてこれらを材料にして学級で交通安全についての討議を行うこと。

(五九) 交通の実状について,情報を手に入れて具体的な緩和策を討議すること。自分の学校の近くで交通事故を防止する計画を立て実行すること。

(六○) 町の保険会社を訪問して,傷害保険に関する知識を得て学級に報告すること。

(六一) 工場や作業場等において起る不慮の事故によって労働者が死傷をうける数は年々どのくらいに上るであろうか。事故の性質,その原因や,損害を調ベて,その予防方法について討議すること。このような問題は工業が発達するにつれて次第に増す傾向があるが,会社や,雇よう主,または団体等でその災害を防止し,損害を補償するためにどのような処置がとられているであろうか。

(六二) 鉱山・炭坑・トンネル工事場等で起る災害や,事故についても上と同様の方法で研究してみること。工場・鉱山における安全教育に関する情報を集めて学級で討議するとと。

(六三) 自分の地方において起る特殊な災害(天然の災害以外の)例えば鉱毒による作物の被害,海上における難船等について,調ベて,これらの損害を予防するのに政府や社会はどのような方法を講じているかを明らかにすること。

(六四) 毎日の新聞で犯罪を取り扱った記事を読むこと。それを学級に報告し学級討議をすること。

(六五) 最近一年間における犯罪数をその種類及び原因について犯罪者の年齢,職業,階級等の境遇に関する統計によって示し,一定の結論を導くため討議すること,その対策を自分たちとして,また政府の努力に協力する立場から考えてみること。

(六六) 犯罪が戦前,及び戦争中にくらべて増加しているかどらか,ふえているならばその程度を明らかにすること。その際増加した犯罪の類型を調ベ,そのおのおのにつき犯行の理由に説明を与えること。少年の犯罪は増しているか。ふえているとすればその理由は何だろうか。

(六七) 犯罪の統計を都会と農村とについて比較してみること。その異なる理由を説明すること。都会において犯罪の行われやすい時はいつごろか,またどんな場所で行われやすいかを調ベてみること。

(六八) 犯罪を減少させるために提議された方法について円卓を囲んで論じあうこと。役に立ついっさいの情報を集めた後「犯罪の原因としての貧困」という題で学級討議すること。

(六九) 学校はいかにして犯罪の防止を援助できるか」「家々はいかにして犯罪の防止を援助できるか」という問題を学級討議すること。

(七○) 犯罪とその防止を扱った和洋の書物をできるだけ手に入れて読むこと。その結果を学級に口頭で報告すること。刑務所の改良者として名声のあった人の残した仕事について報告を用意すること。

(七一) 次の項目を手引きにして罪を犯したある人に関し事実を調査研究してみること。

    (1) 環境にもとづく犯罪者の性格。

    (2) 犯行の際の年齢。

    (3) 健康状態。

    (4) 教 育。

    (5) 家庭生活と宗教的訓練。

    (6) 経済状態。

    (7) 本人の習慣。

    (8) 職 業。

    (9) 犯罪の原因は除去され得るものであったかどうか。

    (10) 二度とその行為をくり返さぬという保証。

(七二) 青少年の犯罪につきその原因と対策とを論じ,その処置についても討議してみること。できれば少年審判所を見学すること。刑を終えた人々にはどのような態度で接すベきかということについて論ずること。適切な犯罪事例について研究討論すること。

(七三) 地方警察の職務についてできるだけ調べること。どのようにして警官は任命されるか。かれらの持つ権能はどんなものか。犯人を拘引逮捕する方法についてかれらと話し合ってみること。

(七四) 逮捕拘引はどうして行われるかを調ベること。警察官吏を訪い,そのやり方を研究すること。警察官吏を教室に招きその職責について話し合うこと。

(七五) 罪の確証を得るために拷問の方法が現在用いられているか,過去には用いられていたかを調査すること。なぜこうした取り扱いが人道に反しているのか。被告と証人とから確証を得る仕方は他国で用いられているのと同じであるか。

(七六) 職後に日本の警察制度について戦前と変わった点はないであろうか,新聞などに報じられる警察に関係ある問題の切り抜きを作り整理すること。

(七七) 市・町・村単位,県単位,国家単位の各政府機関の中で犯罪防止や犯人逮捕に関係あるものを研究すること。

(七八) 自分たちの地方にある法廷を訪うこと。法廷の手続き,進行法等を研究し(他国の裁判手続きを勉強して)他国における手続きに比較すること。裁判官や他の法廷官吏の選抜法を明らかにすること。司法制度についていかなる変化がなされたかを明らかにし学級で討議すること。法廷官吏に会見し,かれらの職責と法廷の手続きとを説明してもらうこと。

(七九) 地方の法曹を教室に招いて法律と法廷とを論ずること。

(八○) 新憲法の規定のもとにおいて司法官の地位はどのように変化するであろうか。その任免について重要な点を明らかにすること。

(八一) 人がある犯罪のために起訴された時から獄に下るまでに起ることがらの概略を述べること。できれば刑事裁判を傍聴すること。日本の法廷の手続きと他の国のそれとを比較すること。

(八二) 地方の刑事問題を取り扱う弁護士を教室に招待して犯罪の問題を論ずること。地方の裁判官を招待してその人が法廷で取り扱った犯罪の問題について論ずること。

(八三) 最寄りの刑務所を訪い囚人に対する保護の状況を観察すること。外国の囚人取り扱い法についてできるだけ勉強し,日本の方法と比較すること。刑務所官吏の任命法とその職責を調べること。

(八四) 歴史の参考書から日本で古来犯罪者を処罰してきた方法に関する資料を集めること。いろいろな時代において取り扱ってきた方法を犯罪者の近代的な取り扱いかたに比較してみること。

(八五) 犯罪者の処罰に関する国家の法律や,府県の規定について勉強すること。現行法はいかなる場合にも適当であるかどうか明らかにすること。

(八六) 罪を犯して投獄れた人々の学歴について資料を手に入れること。犯罪と教育の不足との間に関係があるかどうか調ベること。自分が囚人のために必要だと思う教育の種類と量について概略を述べること。

(八七) わが国でかって犯罪と考えられていたが今では,もはや犯罪ではなくなった行為について表をつくること。

(八八) 犯罪の物語,犯罪映画,犯人の物語を内容とするラジオ番組等が若い人たちに与えた影響について研究すること。

(八九) 人命,財産を保護するために政府はいかなる機関をもって活動しているであろうか。内務省・司法省の組織・権限・機能について研究すること。

(九○) よき公民たるに必要な行動の表をつくり,他の生徒のつくった表と比較すること。学級討議により,それらを集成した表を作成すること。公民クラブを学級や学校内に組織し趣意書といったかたちでいくつかの条項を選定すること。町の公民館を中心として大人も子供も含めた公民のつどいを作る計画を立ててみること。

(九一) 国・府県・市・町・村・単位の人口調査の資料を集め,出産数と死亡数(年齢と死因)人口増減数をグラフに作り,自分の地方,町の人口密度を他と比較すること。諸種の資料の検討により,十年後,二十年後の人口を予想してみること。これらのグラフによって,外国の人口のそれとを比較すること。わが国の人口状態によく似た国があるだろうか。また我が国に比ベてはるかに人口問題についての悩みの少ない国はどこであろうか。それらの原因や,理由について学級で討議すること。

(九二) 日本の人口問題を取り扱った書籍,雑誌あるいはラジオ放送などを聞き,わが国の人口が明治以後に急に増大した理由を明らかにし,日本人口の将来について討議すること。

(九三) わが国の人口問題について日本人の素質,体力,能力などについて調ベ,これにもとづいて「日本人の素質をよりすぐれたものにするにはどうすればよいか」という題を中心にして公開討議をなすこと。人口問題の研究家を招いて「日本人口の将来」について話を聞くこと。

(九四) わが国における人口の国内,または国外への移動について地理や,歴史の書物を読んで研究すること。海外移民とその現状,国内における耕地の開発と人口移動,人口の都市集中等について,できるだけ情報を集めて討議すること。

(九五) 耕地あたりの人口の割合を計算して,これを外国のものと比較すること。日本の将来の人口と食糧との関係はどうすべきであろうか計画を立てて学級で討議すること。

(九六) 中央並びに地方の責任ある機関において,人口の過剰によって引き起されるいろいろな困難な問題に対してどのような対策を講じているか,特に厚生省の仕事について知識をうること。

(九七) 人命,財産が十分に保護せられ,国民が楽しく日々の暮しを立て,犯罪者も少ないような理想的な国家についての作文を書いて学級に発表すること。スエーデン・デンマーク・合衆国などにおいて行われている進歩した状態について明らかにすること。

学習効果の判定

(一) 健康,生命,財産の保護と保全について社会や政府の行っている施設,努力や法律について生徒の理解の程度をテストする。

(二) 生徒のかゝりやすい種々の病気とその予防についてどれだけの理解を持ったかを記録した,自分の健康を保持するために,どういう規則正しい習慣を持つようになったかを生徒と話し合うこと。

(三) 社会の不健康な部分を改善するためにどんな熱意を示すようになったか生徒の態度を観察して記録すること。

(四) 火の取り扱いにどんな慎重な態度をとるようになったか話し合ってノートをとる。消火器具の取扱いにどれくらい熟練したかをテストする。

(五) 事故が起った場合の応急処置(例えば救急法,人工呼吸)にどのくらい熟練したかテストする。

(六) 登校,下校や学校内での道路の正しい歩行ができるかどうか,交通標識や信号をよく守るようになったかどうか観察する。

(七) 犯罪発生の社会的原因についてどれだけの認識を示しているか話し合ったり,報告を出させたりして調ベる。

(八) 警察や消防署や裁判所,刑務所に関してどれだけの知識を持ち,その活動に対してどれだけの協力を示すようになったかの発展の結果を記録する。

(九) 種々の情報を得るために人々に会見する能力の発展を生徒の記録によって調べる。