(附)

 

高等学校における社会科の選択教科について

解 説

 高等学校において授けられる教科表には,次の四つの社会科の選択科が含まれている。

 最初の三つの教科には教科書が使用される。「時事問題」に対しては教科書はつくられない。われわれの時代の諸問題を理解るためには常に新しい材料を用いるのが最もよい方法である。新聞,雑誌及びラジオ放送には,この教科を効果的に教授するのに役に立つ多くの情報を見出だすことができる。

 四つの各教科はそれぞれ毎週五時間与えられることになる。こゝで与えられるということばを強調しておく。高等学校はすべて,これらの教科を選ぼうとする生徒のためを考えて,各教科を設置するようにしなくてはならない。それは,しかし,すべての生徒がこれらの教科のすベてをやらなくてはならないという意味ではない。文部省は種々の目的を持つ生徒のために,高等学校の教科課程を通って行く二種の課程の大要,あるいは二種の系統を,文書(発学一五六号)によって発表している。ある学校は生徒がいっそう上級の学校に入学するための準備の課程となろう。示してある他の課程は生徒に一定の職業の準備を与えるように計画されることになるであろう。

 これらの各学校はその課程の種類に応じて,一定数の社会科の教科を,それぞれのやり方で行うことになろう。例えば,もし上級の学校への入学準備中の生徒は,五つの社会科の教科のうち三つをやる必要があるとすれば,生徒はまず第十学年に一般社会科を必修するわけであるから,その後の二年間は社会科の四つの選択科のうち二つを選ぶことになろう。これはもとより説明のための実例にすぎない。はっきりしたことは,これについて出す文部省の文書で明らかに述べられるであろう。

 一 歴 史

 「東洋史」及び「西洋史」は,生徒の学習経験を指導して,現在の姿にまで至った世界文化の発展を理解させることを目ざしている。この歴史の学習全体を通して,今日の世界の社会において重要である諸制度に大きな重点がおかれなくてはならない。人間の社会的進歩・発展・科学技術の使用・芸術・哲学・教育・家庭生活などが強調されなくてはならない。歴史のおもな任務は,近代世界の理解及びその制度と,その問題についての理解を与えることである。生徒は,常に歴史の出来事や事実と日本の日常生活との関係を理解しなくてはならない。歴史の事実はそれ自身として重要なのではない。それは今日の世界におけるその意義という点において,重要なのである。

 この程度の学校(即ち高等学校)では歴史をおゝまかに年代順に示してやることは,有効であろう。時間的に連続的に示すのは,それがある思想や制度が歴史のどこかに始まり,現在までどのように発展したか,を理解させ,生徒に,歴史の流れと現代人にとってのその意味について概観を与える場合には有益である。しかし,単に事実とその年月とを連続約に挙げることは無意味であろう。

 一般社会科に用いられている単元の大要の形式は,この書物ではとらなかった。それはそれを用いるのが不適当だからではなく,単元を作成するに要する時間がなかったからである。すでに記したように,一般社会科の単元大要は,各々要旨,目標の表,教材の排列の大要,生徒の学習活動の例及び学習効果の判定についての参考例からなっている。歴史において生徒の学習経験を指導するに当たって,教師が自分の単元大要を作成するのは,よいことだと思われるが,しかし何も第七,八,九及び十学年の社会科の単元に用いた形式に従う必要はない。用いる形式はどうであれ,教師は生徒に与えるベき歴史的教材の意義について,要旨あるいは予備的概観を持たなくてはならない。教科の目標は教師と生徒で考え出さなくてはならないし,掲げられた目標が生徒にとって意味のある場合に限って,これを探用しなくてはならない。教科の順序と内容は教科書の内容によって示してある。生徒の学習活動は,掲げるには及ばない。しかし,教師は信頼し得る参考書や教便物を用いて,学習活動を個々の生徒の必要に適合させるようにし,教科書から日を追ってページ順に割当てをして行くような指導をしないことが望ましい。次に学習活動の例を参考のために掲げる(東洋史・西洋史並びに人文地理の単元大要は別に文部省から発行されるはすであるから,それを参考にされたい。

〔生徒の学習活動の例〕

 

 学習活動は,教科の目標を達成するに役だつものでなくてはならないことを常に念頭におかなくてはならない。

 これらの歴史の教科の最も重要な目標の一つは,現在の生活を史的発展の結果として見る能力,及び,その知識を結局現在の問題について用いることのできる能力を生徒に発展させることである。この点の例として,日本の新憲法を選んでみよう。これは決して現在の思想や生活から自然につくられたものではなかったのである。この文書に現われている多くの原則は何世紀も前に生まれたものであり,これらの世紀を通して,それは人間生活に影響を与えて来たのである。男女同権というような原則を十分に理解するためには,種々の歴史的時期における種々の社会の男女の関係や,劣等な地位からの女性の漸次的解放や,なぜこの原則が生まれたかという理由や,数世紀にわたってそれは人間生活にどのような影響を与えたか,どのようにわれわれにそれが伝えられたか,ということについて,学ばなくてはならない。このことはわれわれの近代生活のあらゆる面についてもあてはまる。われわれの政治的・経済的・社会的生活のどの面も,過去のどこかに始まっているので,過去を知ることによって,いっそうよく理解されるのである。

 二 人文地埋

「人文地理」の課程は,人間とその環境の間に存在する相互関係についての理解を発展させることを目ざしている。地理を知的に理解する必要はなんら疑いのないところである。生徒は自分たちの生活している地理的環境の基本的な諸要素,即ち,土じょうや気候や地形やその他の地理的要因の自分たちの生活に対する影響,及びその地理的環境を人間が変えて行く仕方についての理解を発展させなくてはならない。このような現境の諸要因と,生徒がきわめてよく知っている人間の経済的活動との間には密接な関係がある。それを学ぶのは世界の他の国民の諸問題,及び世界の諸国民の間に次第に増大している相互依存の関係について,認識し,理解するために,大いに役に立つのである。このような理解は,すべてあらゆる国民がこれを持たなくてはならないものであるが,現在の日本人にとっては特に意味がある。

 歴史の課程の場合と同じように,この学習指導要領には単元大要が含まれていないが,しかし教師が,人文地理の諸問題について十分な予備的見通し(要旨)を持っていること,また教師と生徒が意味のある一定の目標を展開すること,それから学習活動を「暗しょう」をやらせる日課に限定するようなことがあってはならないこと。こういうことは,こゝでも同じようにたいせつである。歴史の課程の参考として挙げておいたいろいろな活動には,地理にとっても適当なものがあろう。知識を得るための多くの読書に続いて学級討議を行わなくてはならない。地図の研究や適当な略図が用いられない場合は,地図を描くことも十分やらなくてはならないであろう。個々の生徒の個人的必要・興味・能力に応じて興味をもって地理に近づくことができるように十分に種々の種類に富ん活動を選ぶべきである。

 三 時事問題  先に述ベたように,時事問題の学習には教科書を用いない。その教材はおもに新聞や,雑誌や,ラジオ放送やその他情報を提供するものから引き出される。この教材は,もとより単なる事件や報道を扱うに止まらず,日本のおもな時事問題を系統的に研究するものである。そこで,事件や報道という形で提供されるものを手がかりにして,一二年の間継続して,われわれの主要な時事問題と考えられるものを引き出し,これを研究するように指導することになる。その主要な問題は,公民的,経済的,政治的,社会的な諸問題や,国際問題,社会政策など問題を含むであろう。その学習の仕方は生徒の調査の研究・討議を通して,教師の指導のもとに進められる。

 以下に,昭和二一年下半期の新聞から特殊な問題をひろい出して,これを一般的な問題にまで展開してみた。これらの新聞記事の標題は参考に示してあるのではない。それらはある時期の重要な問題をきめるために用いる方法を示したのである。これは生活の学習に対する実例にほかならないのであるから,このような例に従って,生徒と教師は自ら事件や報道を手がかりとして,適当な一般的問題を引き出して,学習を行うことが必要である。ここに掲げてある一般的問題は余り多すぎるから,一年間に全部学習することはできない。教師と生徒は自分たちにとって最も重要だと思うものを選ぶ必要があろう。

 
時事問題の実例(記載新聞名は略し,日附だけを記入する)
新聞にあらわれた特殊な問題   一般的問題
官庁の団体協約(8,31)

国鉄の争議(9,13)

標準賃銀(11,14) 

労働委員会と組合(11,20)

労働戦線の統一(11,20)

完全雇ようと生産復興(11,20)

電産ストライキ(12,5)

教員組合の要求(12,7)

  従業員と雇よう主の問題
買出部隊(9,30)

食糧輸入(11,15)

味そ・しょう油の配給減る(11,17)

労務加配米(12,4)

米の増配(12,6)

供米29%(12,8)

  食糧問題
露店の認可制(8,25)

配給方法の問題(8,27)

物価行政(9,10)

主食の欠配(9,13)

燃料問題(10,10)

魚と野菜(11,8)

統制と自由競争(11,18)

木炭の配給(11,22)

専売制度の拡充(12,4)

石炭の新価格(12,7)

  配給と価格統制
炭鉱の国有(10,3)

石炭増産国民運動(11,16)

労資と産業復興(11,20)

生産資材の国家統制(11,20)

綿紡績の再建(11,24)

綿業不振の打開(11,25)

経済危機と鉄(12,1)

基礎物資の増産(12,4)

経済復興会議(12,6)

賠償問題(12,8,11)

  日本経済の再建
憲法案可決(8,25)

民法・刑法の改正問題(9,2)

知事の公選(9,26)

公吏の任用法(11,20)

国会法の問題(11,21)

新憲法普及と政府(11,21)

地方選挙の問題(12,5)

行政機構の改革(12,11)

  新憲法の実施
船出する絹織物(7,19)

粗悪品の輸出取締(11,12)

輸出産業の振興(11,15)

日本の生糸(11,17)

生活水準と輸出振興(12,7)

  外国貿易の問題
娘の家出(8,20)

少年の詐偽(12,4)

少年の悪化と社会(12,5)

  少年の不良化
警察陣の強化(9,3)

犯罪の科学的そう査(11,16)

防犯と警察力(11,17)

役得犯罪(11,21)

女性の警官(11,26)

青少年の精神鑑定(12,1)

  防犯
歳出と歳入(8,23)

勤労所得の問題(8,29)

補償打切(11,16)

財産税施行細則の交付(12,2)

明年度予算(12,9)

  財政問題
政府の新党樹立失敗(8,14)

四党首会談分裂(8,23)

国鉄争議と共産党(8,27)

自由・進歩党の合同問題(8,29)

労働運動と政党(11,15)

保守政党の問題(11,17)

社会党と電産スト(11,19)

社会党の政治不信任案(12,6)

  日本の政党の地位
引揚者の学校占拠(8,23)

衣類の無償配給と宿泊寮(11,8)

引揚者と生活苦(11,10)

引揚孤児(11,16)

引揚戦災者の失業と労働組合(11,19)

引揚者の座談会(11,21)

ソ連領よりの引揚(11,28)

引揚者へ貸出し(11,29)

引揚戦災者の七割が失業(12,3)

引揚代表首相と会見(12,6)

  海外引揚者の問題
婦人代議士(7,2)

民主主義婦人大会(7,8)

働く母性(8,26)

女教員の差別待遇の問題(11,15)

女人解放と教育の普及(謝女史談)(11,19)

  婦人の解倣
学術の普及(8,19)

人文科学の振興(9,14)

かなづかいの問題(9,24)

国語審議会(11,28)

学生討論会(12,2)

出版権法と出版綱領(12,7)

夏目漱石と今日の課題(12,9)

学術語の制定(12,11)

  日本文化再建の問題
戦災校の問題(9,2)

成人教育(11,14)

私学の振興(11,14)

学生の生活問題(11,20)

教員組合の統合(11,22)

適格審査委員会と文部省(11,24)

6,3制の問題(11,25)

教員ストと父兄会(12,4)

教師の身分保障(12,6)

  教育再建の問題
パレステイナ問題(8,19)

国連第二回総会(10,22)

アメリカと一つの世界(11,13)

中国の国共内戦(11,18)

トリエスト問題(11,18)

軍縮管理(12,6)

ソ連拒権放棄(12,7)

国連において軍縮計画の樹立へ(12,8)

  国際平和への努力
転入と住宅(8,27)

家主と強権(11,10)

住宅問題(11,18)

邸宅開放の強化(11,19)

余裕住宅へ強化(11,20)

材木の配給(11,21)

役所アパート(12,1)

  住宅問題
財閥解体(9,25)

経済分散化勅令(11,14)

経営の民主化(11,17)

経済界の追放令(11,23)

財閥の再現を封ず(11,24)

特殊会社整理委員会(12,4)

  経済体制の民主化
インフレ激成の危機(7,25)

インフレと賃金引上の限度(11,7)

ハンガリーのインフレ対策(12,1)

新円対策(12,9)

  インフレーション
電産ストの疑問(11,8)

日本新聞の自由について(インーデン少佐談)(11,10)

世論のちょう達(11,14)

評論批判の権利(11,17)

  宣伝と世論
社会保険(11,13)

浮浪者の問題(11,22)

  貧困と社会保障
対日理事会の拡大(8,14)

国連への日本の参加(8,27)

米綿の入荷(9,3)

ゴムの輸入(11,13)

  外国関係の再建
造林五ケ年計画(8,25)

国立公園の再検討(11,15)

電力の制限(11,17)

伊勢志摩国立公園(11,20)

電力不足と雨(11,29)

  天然資源の愛護
交通安全の運動(11,18)

人口政策委員会(11,21)

保健婦制度(11,22)

冬と幼児の病気(11,25)

  人的資源の保護
国鉄の再建(8,13)

国鉄の合理化とゼネスト(9,13)

放送管理(10,7)

農地調整施行例(10,30)

硫安の値下げ(11,12)

関門国道トンネル(11,15)

生産資財の統制(11,20)

国土経済計画局案(11,22)

自作農創設特別措置法(12,2)

鉄道貨物を海送(12,7)

  政府と工業,交通,農業の関係
【もちろんこの外にも種々の一般的問題があろう】

 次に学習単元の例を示しておくが,これは参にすぎないものであり,このような形式で,生徒は教師の助力のもとに,問題単元を構成し,教師の指導のもとに,学習を進めるべきである。その学習の方法については,一般社会科の「学習指導要領」を参照すること。

単 元 の 例

 わが国の食糧問題の解決はどうすればよいか。

要 旨

 わが国は昭和二一年(一九四六年)度において,きわめで深刻な食糧危機に見舞われた。同年の六,七,八月頃,主要都市においては配給主食糧の遅配,欠配がおこり,この情勢は次第に地方の中小都市にまで波及して,街には栄養失調によって餓死にせまられている者があり,東京やその他の都市においては,民衆による食糧デモンストレーションが行われ,買出し部隊は食糧生産地帯に殺到して,闇取引は一般化してしまった。連合軍の厚意による輸入食糧の放出が行われて,この危機は一応切り抜けることができたが,この問題はまだ決して根本的に解決されてはいない。また,昭和二一年度の豊作によって,問題は一時的に軽減された。しかし,もしこの解決に失敗するならば,国内の秩序は破壊され,暴力と罪悪が民衆を支配して,敗戦による傷いと疲弊に悩む日本国民に,再び立ち上る気力を失わせるほどの危機が訪れるかも知れないのである。

 このような食糧問題の危険な状態は,終戦という事実によって,一度に起きたものではない。もちろん敗戦にもとづく国内的当時の混乱が,この問題をさらに激化させたことは疑えないが,病根はもっと深いのであって,これを完全に治癒することを怠るならば,将来幾度か,この問題は再燃するであろう。戦前から,わが国は食糧の自給自足のできない国であった。大正時代には,年々相当量の米穀を南部アジアから輸入し,昭和に入ってから,朝鮮,台湾における米穀増産改良策の成功によって,外国からの輸入は,これらの地方からの移入に代わったが,それでも年々一千三四百万石(約188万トン)内外の主食を国外生産に求めていたのである。その他,副食物の主要原料として,満州の大豆やカナダの小麦粉,北支,台湾の塩の輸入は,年々相当の金額にのぼっていた。太平洋戦争中には,わが国は海上封鎖を受けたので,国外からの食糧輸入が困難となり,国民の食糧事情は日を追ってひっ迫するに至った。終戦直前には,国内食糧のストックも次第に減少して,きわめて危険な状態のまゝ終戦を迎えた。しかもその年の秋の収穫が,未曾有の減収となったため,これら多年重なって来た悪材料は,一度に社会の表面に現われ,どうにもならない状態を招いてしまった。政府はしばしば食糧危機の深刻なことを説き,生産者の協力を要請し,肥料,農具の生産者に対する配給にできるだけ努力するほか,生産報償金の増額や,米価のつり上げによって,農民の生産に対する協力の意欲,供出意欲を高めるとか,調理の工夫や代替食の研究をすゝめ,また家庭自給菜園の奨励等にも努めたのである。しかしながら,問題の解決はもっと根本的なものを要求している。

 今日,米の価格は,新しい物価体系の基準になっている。農民にいわせると,政府の決定したこの価格は不当に安いという不満を持っているようである。そのために,米の闇価格は著しく高くなり,これを反映して,労働賃銀や,日用必需品価格も一せいに上昇して,物価の騰貴は次第にはげしくなって来ている。したがって,これらの問題は,どの一つを取り出しても,単独にそれだけの解決をつけることは不可能であって,これに経済総合政策を必要とするであろう。このように食糧問題こそ,現在わが国の直面している経済,政治,社会のあらゆる難問題の集中的表現であるといってもよい。もとより生徒に,これらの問題の内容をすべて理解し,解決することは期待できない。しかし,この学習を通じて,生徒は問題の所在を知り,その問題に,興味をもって,また科学的に迫ってゆくことによって,この問題の重要性を知るとともに,それに対して,一般社会人として真剣に解決していこうとする熱意と,解決の方法への理解とを与えられるであろう出発点となる生徒の経験は,新聞,雑誌の記事・論説及びラジオの放送などによって,家庭や社会で話題になっている関係問題についてのかれらの理解と興味である。また家庭における日常の食糧上の困難や問題も,出発点として利用されるであろう。

目 標

(一) 一般目標

 現在のわが国の食糧問題が複雑であることを理解し,その解決には総合的な対策の必要であることを認識し,それを通して社会の成員として,及び消費者として,社会の福祉に対する自己の責任を理解すること。

(二) 特殊目標

教材の排列

(一) わが国現在の食糧事情は,いかなる状態にあるだろうか。

(二) 食糧事情の悪化は,国民生活にいかなる影響を与えるだろうか。 (三) 食糧事情の悪化した理由はどこにあるだろうか。 (四) 政府は食糧問題の解決にいかなる努力を払っているか。 (五) 国民は,食糧問題の解決に,いかなる寄与をなすことができるであろうか。 (六) わが国の食糧問題を根本的に解決するために,どんな方法があるであろうか。 学習活動の例

(一) 日本の主食糧の需給関係を統計的に調ベ,大正年代以後における主食糧の不足をいかにして調節して来たかについて,研究すること。普通ひとり当たり,どのくらいの米を一年間に消費するであろうか,人工の増加につれて,米穀生産高は,どんな割合で増えていったか。先生からマルサスの人口論について説明を聞き,日本の場合と考え合せでみること。

(二) 戦時中における食糧の配給について,その変化を時間的的経過をおって表にすること。主食や主要副食糧,調味料などは,どのように消費の統制をうけていったであろうか。配給機構や配給の方法は,どうであったか。日本人の成人ひとり当たりの必要カロリーより見て,配給されてる食糧では,どの程度にその必要を満たすことができたであろうか。

(三) 食糧の不足は,個人生活や社会生活に,どのような影響を及ぼすであろうか。昭和二○年六,七,八月頃の食糧危機を中心にして起った種々の問題について研究し,学級で討議すること。

(四) 戦前及び戦時中におけるわが国の食糧の不足を補うために,海外のいかなる地方から,どんな食糧,食品を,どのくらい輸移入していたか。外国,例えば英本国における食糧事情について調ベ,これをわが国のそれと比較してみること。

(五) わが国における過去の食糧危機(飢きん)の歴史を調ベ,その原因を明らかにすること。文明の進歩と人間相互の協力関係を増進することによって,飢きんは避けられるであろうか。過去の時代に比して,現代においては食糧危磯に対する不安が減少したのは,なぜであろうか。戦後における食糧不安の原因がどこにあったかを調べて討議すること。

(六) 日本の各府県について,人口と必要生食糧とを計算し,生産地帯と消費地帯との流通関係を明らかにすること。昭和二一年における国内の需給関係を全国的並びに府県単位で調ベてみること。食糧の不足は,絶対的なものであっただろうか。それとも,生産地帯に偏在していたためであろうか。情報を集め,それにもとづいて,このことについて討議すること。

(七) 最近の米や麦,じゃがいも等の供出状況に関する資料を集め,それぞれ,生産者と消費者の立場を代表して,「主食糧の供出について」という題で,討議すること。

(八) 最近における世界の食糧事情に関する情報を人手して,外国における食糧事情が,わが国のそれに影響するかどうか,研究すること。

(九) 現在における配給量を,年齢,労務その他の加配等を考慮して表にし,主食によって摂取できる栄養価を計算すること。現在の配給量,配給方法等で,さらに改善すべき点がありはしないか,討議して,その点を見出すこと。

(一○) 一箇月間の家計の支出中で,食費にかける経費の割合を調ベてみること。食費について,主食費と副食費,嗜好品費等にかけられる割合を調べること。以上の結果をグラフにかいてみること。この割合を,できれば過去のものと比較すること。エンゲル法則について調ベ,現在のわが国の生計支出について,この法則を適用できるかどうか研究すること。

(一一) 雑誌や報告書などから,わが国最近の物価指数について資料を集め,グラフをかき,食料品の物価上昇について,他の品物のそれとを比較すること。

(一二) 栄養の摂取という観点から,日本人の食生活を研究して,その改善策を討議すること。栄養失調によって引きおこされる病気に,どのようなものがあるか。また栄養の不適当な場合に,特にある種の病気は重くなる場合がありはしないたろうか。

(一三) 食糧の買漁り買だめによって引き起される社会への悪い影響に,いかなるものがあるたろうか。これらをできるだけ少なくする方法について,討議すること。

(一四) 食糧をめぐる犯罪行為とその防止法について,討議すること。

(一五) 昭和二一米穀年度における稲作の大減収について,その原因をできるだけ挙げ,そのうちで,明らかに人間の努力によって克服できたと思われるものについて,その方法を研究すること。

(一六) 昭和二一米穀年度における食糧危機の原因とその解決方法を,討議すること。

(一七) 食糧問題をめぐって,消費者と生産者,都市と農村どの間に,対立や確執はないであろうか。あるとすれば,それを解消させる方法について,討議すること。

(一八) 国内食糧のひっ迫につれて,政府は,どのような手段によって生産の増強率をはかって来たであろうか。生産者に対する政府の統制について知識を得て,学級に報告すること。

(一九) 生産物の集荷統制にいかなる方法が講じられているだろうか。供出制度とその実績に関する種々の情報や資料を入手して,その改善方法を討議すること。

(二○) 政府の行っている消費者に対する食糧について,統制方法を挙げてその得失を研究すること。食糧配給制度の変遷を調べ,また,諸外国において行われているものと,比較すること。

(二一) 食糧の増産・集荷・供出・配給等について,農業会と水産業会の事業を研究して,学級に報告すること。

(二二) 農林省の食糧管理局の官吏を訪問し,または,手紙を出して,食糧問題に関する意見を聞いて,学級に報告すること。

(二三) 市・町・村の食糧営団・配給所を訪問して,そこの事業について情報を得て,学級に報告すること。一般に営団という機構の性質を明らかにし,これについて討議すること。営団はいかなる事情で成立したものか,役職員の組織・機能・職責・任免法はどうか。営団の利益はいかにして生まれ,その利益の処分はどうなるのであろうか。

(二四) 米の価格を,政府はいかなる方法で統制しているか。米の価格の決定方法は,どうしてやっているのか。米の公定価格の近年における変遷を,グラフにかいてみること。米の価格は,他の労銀や諸物価にいかに影響するであろうか。米の価格が,自由に市場できめられていた頃と現在とで,生産者,消費者にはそれぞれいかなる異なった影響があるであろうか。

(二五) 米の価格を中心として,他の主要なものの価格を比較してみること。公定価格と闇価格とでは,いかなる違いがみられるか。

(二六) 農家の生産意欲を高め,供出を促進するために,政府の講じている手段を挙げて,その実際の効果を検討すること。

(二七) わが国の肥料工業の変遷を歴史的に調べてみること。農家で用いる肥料には,どのようなものがあるか。昔から,それにどのような変化が行われて来たか。普通どの位の肥料を使用するものか,各種の肥料について調ベること。これらの肥料のうちで,国内で自給できるものがあるであろうか。海外からの輪入によっている肥料について,その種類,輸入国名,輸入量を調べること。以上の結果を表にして,学級に報告すること。

(二八) 現在農家の最もほしがっているものは何であろうか。それらは与えられているであろうか。それらの品物の供給について,工業と農業との相互関係を討議すること。

(二九) 種々の資料を調べて,二,三の作物を選び出し,農民ひとり当たりのその生産高を,わが国や諸外国(特に合衆国・イギリス・ソ連・ニュージランド)について比較すること。わが国の農民の生産能率の低いのは,なぜであろうか。

(三○) 動物性たん白質の扱取量について,わが国民のそれと諸外国人のものとを比較すること。日本における動物性たん白質の補給源として,水産物の重要性について,討議すること。

(三一) 近くの漁港の水産業会を訪問して,水産物の水揚げから消費者の手に渡るまでの径路や,水産物価格の決定法などについて知識を得て,学級に報告すること。

(三二) 味そ,しょう油の生産について,販売者や,生産者に会見し,その現状と将来の展望についてを聞き,学級に報告すること。

(三三) 家庭用食塩の生産について政府の行っている施設,民間での製造施設,生産高,将来の見通しについて情報を得て,学級に報告すること。

(三四) 政府の専売事業になっている煙草の生産と配給について情報を得て,学級に報告すること。専売制の利害について研究するためである。

(三五) 自由経済時代の販売業者と,今日の配給業者について,種々の方面から知識を得て,その利害について討議すること。「統制経済組織と配給機構という題で,討議すること。

(三六) 「乏しきを憂えず,等しからざるを憂う」ということばについて,消費者としての立場から,学級で討議すること。

(三七) 家庭における食糧自給の実際を調べ,それによって,個々の家庭のみならず,社会全体がいかに利益を得ているかについて,討議すること。

(三八) 近くの小学校を訪問して,学校給食の実際を調べ,この制度を自分の学校にも採用することの可否について討議し,その結論を校長先生に報告すること。

(三九) 農村と都市,日本の普通の家庭と欧米の家庭の食生活についての知識を得て,その長所や欠点を検討すること。日本人の食べ物と,外国人のそれとの著しく異なる点は,どういうところにあるか。その改善策を具体的に研究して,その結論において,母親の意見を聞き,学級に報告すること。

(四○) 「日本人の食生活の改善と婦人の責任」という題で,討議すること。

(四一) 日本の食糧事情の将来の見通しについて情報を集め,絶対量の不足を補う方法として,政府の行っている施設方策について,討議すること。今後さらに改善すべき点はないであろうか。

(四二) 「日本経済の再建と食糧問題」という題で,学級討論会を開くこと。

学習効果の判定

 教師と生徒とで掲げた目標に即して,判定を行うことが必要である。それは以下に参考として挙げた諸点を中心として行うのが便利であろう。

(一) 生徒が社会において重要な問題に対して,これに関心を持ち,責任感を示すようになったかどうかを,生徒の討議や,その報告文書などを調ベて,明らかにすること。

(二) 生徒は,問題の解決のために,多くの情報や資料を集めて,その上で複雑な事情を分折する態度を発展させたろうか。それについては,生徒の口頭あるいは文書による報告を,聞いたり見たりして判断すること。

(三) 生徒は,家庭において食糧に対する関心を高めたであろうか。両親の報告にもとづいて明らかにすること。

(四) 生徒は,この問題を扱うことをたいせつだと思うようになったろうか。討議や報告における熱心さを観して,きめること。

(五) 生徒の討議の仕方の進歩を記録しておくこと。

(六) 生徒が物をたいせつにする習慣を発展させたかどうかを,観察によって確かめること。

(七) 生徒が協力的精神を発展させたかどうか,集団生活の観察を記録しておくこと。

(八) 生徒は,家庭において食糧生産に,進んで従事するようになったかどうかこれを記録すること。

 

昭和22年6月18日翻刻印刷 学習指導要領 〔社会科編〕Ⅱ

昭和22年6月22日翻劾発行 定価 金拾貮円拾銭

〔昭和22年6月22日文部省検査済〕

 

著作権所有   著作権 発行者   文 部 省

東京都北区堀船町一丁目八五七番地

 

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of Education

(Date Jun. 18,1947)

 

翻刻発行者         東京書籍株式会社

              代表者 井上源之丞

印刷者         東京都北区堀船町一丁目八五七番地

              東京書籍株式会社

発行所           東京書籍株式会社