第八章 第 六 学 年

 

 この学年の児童の心理的特性,その生活や興味の中心等については,第五学年の所で一括して述べてあるから,これを参照してほしい。

 第六学年の児童について特に注意すべきことは,凡そ次のようであろう。

 小学校の最後の学年であるから,十分に自信を与えるとともに,低学年以来獲得して来たよい習慣や態度を,しっかりと身につけさせなければならない。

 第六学年の社会科としては,次のような事項を理解せしめ,これと関連した能力や態度を得させることを目標としている。

 これらの理解は,いろいろな学習活動による社会的経験のおのずからなる帰結として,児童がみずから会得すべきもので,これを直接教えこんだり,あるいは無理にこじつけて教えてはいけないことは第一学年の場合と同じである。

 第六学年の問題としては,次のようなものを参考に挙げているが,その意味,これを中心とした単元の意味や取り扱い方,各単元に示された学習活動の意味や取り扱い方,学習指導計画との関係などは,すべて第一学年の場合と同じであるから,その部分を熟読対照していただきたい。

 また巻末の作業単元の実例を参考にすることも必要である。

 問題一 仕事を通じて人々はどんなふうに協力するか。

一 指導の着眼

 児童は諸種の経験を通じて,いろいろな人々の従事している仕事の価値に気づく。農村の児童は野菜や果物が栽培され,それが遠くの土地に運ばれて,そこで消費者に売られることを見聞しているし,都会の児童は自分たちの衣服が工場で生産されることや,食料が遠いいなかで作られることを知っている。大工や左官やかじ屋などの仕事は子供たちの日常眼にしている所であるし,その土地の医者や歯科医や看護婦の仕事についても十分な知識をもっている。そして子供たちはそれらの人々のおかげで生活しているということ,すなわち他人の恩恵ということをある程度まで理解している。こうした相互依存への理解を深めさせて行くことは教師の責任である。

 指導上注意すべき事項としては次のようなものが考えられる。

二 指導結果の判定

 この学習活動の成果は,他人の仕事の価値を理解するということが,いろいろな仕事を生かすようになることや,また仕事をしてくれる人に対する尊敬や礼儀となってあらわれて来ることによって知られよう。

三 学習活動の例

 (一) 分業の方法といろいろな職業を知ること。

 (二) あらゆる仕事の価値を理解する。  問題二 社会を発展させるものは何か。

一 指導の着眼

 現在わが国民の社会生活は大きな変動に遭遇している。児童のうちには家族とともに転々と移り住んだ者も少なくない。子供たちの社会経験も決して単純とはいえない。土地を移る者は,それとともに新しい友達を作り,新しい土地の生活に順応して行かなければならない。一方,家や家族たちの職業も著しく変化し,家族のうちには新しい仕事を求めて家を出て行く者もある。とにかくどの家庭にでも,多かれ少なかれ生活苦の訴えが聞かれる。それだから,いっそう児童は明るい希望をもって,これに対処して行くように指導されなければならない。郷土の社会生活も大きな変化を受けた。住宅の状況,人口の移動,指導者の交替等経済の再建,民主日本建設の動きはあらゆる部面に発見される。児童の関心をひく政治的な出来事も次々とあらわれて来る。これらの関心事を手がかりとして新しい社会を建設して行くためには何が必要であるか。各自の広い,しかも統一のある関心と活動,並びにこれを可能ならしめる生活条件,変わり行く社会に対する各自の迅速且つ正当な適応というようなものが社会を進展させる上にどんなに必要であるかを理解させることができよう。しかし大量生産の基盤に立つ現代の社会では,これらの事がらは容易に認めにくいから,教師は特に慎重にして十分な理解をもっていなければならない。

 指導上注意すべき点としては,

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は次の諸項から判定される。

 人が相互に依存していることや自然資源が大いに活用されていることの理解。

 おたがいの意見を交換したり,物資を手に入れたり,いろいろな便宜(医療と通信とか厚生とか)を受けるのに都合のよい土地や社会は,発達するということの理解。

 人の幸福は変化する状況への適応如何によるということの理解。

 友人をつくる能力は発達したか。

 郷土を研究する能力は発達したか。

 地図やグラフや参考文献を使用する能力は発達したか。

三 学習活動の例

 (一) 家庭及び学級の変化を発見する。

 (二) 郷土(児童の住んでいる土地)の社会の変化を知る。  (三) わが国の将来の発展を考え,それに対する適応を工夫する。  問題三 どうすれば私たちは安全な生活ができるか。

一 指導の着眼

 この年齢の児童は機械の使用による事故の経験を持っている,自動車や電車の事故はいうまでもない,農村でも,発動機その他の農業機械による事故があり,都市などでは工場や鉱山の事故を見聞している。ことに現在のわが国では,交通機関をはじめ,あらゆる機関や施設が酷使されているので,これからずる危険が非常に多い。児童は,また両親その他が今日の騒がしい生活のために疲れ頭痛などを訴えている状態を見たり聞いたりしている。この年齢の児童は,すでに安全に関する法則を知り,健康に注意し,応急処置を施し,救急施設の世話をしたりしている。こゝから出発して,自分並びに他人のために安全な環境を作り出すことに努めさせることは必然的なことである。

 教師は次のような点を参照しながら,考えて行くのがよいと思われる。

二 指導結果の判定

 この問題に関する学習活動の効果は,次の諸項の理解の状況から見られる。

 機械が生命の保全と同時にその損亡に影響すること。

 人間の生命をむだにしないような方策と注意とが必要であること。

 事故の際の応急処置。

 過労や過度の緊張を防ぐには睡眠と休息とが必要なこと。

三 学習活動の例

 (一) 事故や病気を来たす原因を知る。

 (二) 事故を防ぐ方法を発見する。  問題四 私たちと私たちの子孫のために,天然資源を保存するには,私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 この年齢の児童は浪費とその防止に関し,若干の理解を持っている。子供たちは大水の経験をしている。また山火事を知り,キャンプやハイキングの時,たき火の始末に気をつけたこともある。森林の濫伐による電力不足のにがい経験もあり,心ない人によって美しい風景が破損されたりするのを見ている。教師はこのような経験を出発点として選ぶことができよう。

 教師にはこの資源保存に関する多くの材料を知ることが必要になるであろう。

 次の事項が参考になると思われる。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,自然資源の所在地及びその使用と保護に関する知識,石炭・木材その他の財産の顧慮に示された資源の重要性の理解とその保護に対する責任感等に,あらわれるであろう。その発展の度は,資源保護に関する現在の計画及びその発展を取り扱う際に示された生徒の質問や叙述や興味等を記録しておいたり考査したりすればわかるであろう。

三 学習活動の例

 (一) 天然資源の種類に関する知識を集める。

 (二) 天然資源の保護の重要さとその方法に関する知識を得る。  問題五 上手な物の買い方には私たちはどんな知識を必要とするか。

一 指導の着眼

 児童は色々な点で大量生産の影響を受けている。工場が閉鎖されたり,その生産物が減少したり,変わったりすれば,たちまちに商店にある品物に変化があらわれる。生産から配給に至る過程になんらかの変化(障害や統制)が現われると,自分たちの入手できる品物の値段や種類に変化があらわれることをよく知っている。また児童は食料を買いに行き,衣服やはき物を選び,新聞や雑誌の広告を読み,時には,一家の経済には手のあわない品物とか,入手のはなはだ困難な品物(例えば自転車とか望遠鏡とかグラブやミットのような運動具)を買いたいと思う。このような経験は上手な買い物に導く手がかりとなるであろう。

 教師の調査すべき事がらとしては,

二 指導結果の判定

 学習の効果は,陳列されたり広告されたりしている品物を評価する力,

 買えるもの,必要なもの,価値のあるものに自己の欲望を制限する力。

 所持品の取り扱いが上手になること。

 自分たちで使うものを次第に自分で作り出す力が出て来ること。

 等によって知られるであろう。

三 学習活動の例。

 (一) 商業について調べ

 (二) 衣服や食品について調べる。  (三) 経済的に家のかざりつけをする。  (四) 小遣い銭の使い方を発見する。  問題六 工場生産は,どこにどのように,発達するか。

一 指導の着眼

 農林といわず,漁村といわず.今や全国にわたって,工場が設けられている。都市における工場はいうまでもなく,今後の日本経済再建のためには,農村漁村の工業化が叫ばれている。児童の接触している工場や工場の労働者がどんなふうにして発生して来たか,またどんなふうに社会生活に貢献しているかを理解させることは,決してむずかしいことではない。

 わが国の工業がどんな形をとって行くべきかという切実な問題に対する教師の深い研究は,児童の社会生活特に今後の生産活動に対する理解を開いて行くであろう。もちろんこの学年の児童にとっては,経済機構の十分な説明は困難である。しかし,いかなる工業が,いかなるところに発達し,いかなる影響を与えているかを理解することは,人間生活の相互依存の認識と,社会の発展の契機とを認識させる上に重要である。

 教師の着眼すべき点としては,次のようなものが挙げられる。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は次の諸点から判定できるであろう。

 工場の組織の理解。

 わが国の工場分布の理解。

 工場労働者の生活の理解。

三 学習活動の例

 (一) 工業製品の種類を発見する。

 (二) 工場の立地条件を発見する。  (三) わが国の工業の将来について考察する。  問題七 時間の余裕を作るにはどのように文明の施設を使えばよいか,またその時間を有効に使うには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 児童の生活にも,時間の問題はいろいろな形をとってあらわれている。起床,食事,就床の時間があるし,農村の児童は,家の仕事をしたり,市場に品物を運んだりしてから,大いそぎで学校に間に合わなければならない。都会の児童たちは,親たちがラッシュアワーにあわてて出かけて行き,夕方にならないと帰らないし,時には,夜になっても帰って来ないことを知っいる。お手伝いや遊びや勉強に時間をわりふるのに当惑した経験もあろう。

 時間とその割りふりの問題はわれわれの生活が複雑になったために生じたのである。教師は次のようなことを検討して,この問題に関する理解を深めなければならない。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は

時間の賢い使用法を会得すること。

時間割りふりの理解とその技術の進歩すること。

 によって知ることができよう。

三 学習活動の例

 (一) 時間と労力を節約する機械や設備を発見する。

 (二) 時間を上手に使う方法を知る。  (三) 時刻を知る方法の発達を学ぶ。  問題八 世界中の人々が仲よくするには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 わが国民が平和を愛好する真情を卒直に表明し,平和の破壊者という汚名をすすぎ,進んで世界平和の障害を除去しようとすることは,わが国の大人にとっても子供にとっても等しく課せられた重大な使命である。児童は自分の身のまわりに絶えず不和口論の起ることを見聞きしている。そしてそれらがな起るかということについて幼い胸を悩まし,時にはこれを避け和解させるためにいじらしい努力を払うことさえある。子供たちは,遊びなかま,ほかの土地の人,外国人などと,どのようにつきあって行くべきかを理解し,交際することができる。人間性の理解尊重及びその主張を中心として,この課題をはたして行くその一歩一歩の意味を理解するようにならなければならない。

 教師の留意考察すべき事項は,

二 指導結果の判定

 学習活動の効果判定のためには,

日常生活における争いごとに対し,公正寛大な気持でその原因をきわめ,その排除に力を尽くすか。

自国並びに他国の文化をよく理解評価し正当な敬意を払うか。

外国の旗に敬意をあらわすか。

 等に関して注意すべきである。

三 学習活動の例

 (一) 友だちとの交際の仕方を知る。

 (二) 家,学級,学校間の交際の仕方を知る。  (三) 国と国との交際の仕方を知る。  (四) 戦争の原因とその災害について知る。