第七章 第 五 学 年

 

 初等科第五学年及び第六学年の児童の心理学的特性については,国民学校公民教師用書二六頁及び一般編〔第二章 児童の生活〕の中に説明があるから,こゝでは具体的にあらわれて来る一般的な特性を列挙して参考に供しておく。

 五,六年の児童は,ラジオとか航空機,写真機,発動機,映画その他近代の発明,発見の所産に非常な興味を持ち,科学的読み物に興味を示す。これらの文明の利器は,現在児童の日常生活の一部になっているけれども,教師はそれらのものが生み出されるまでの,労苦や年月やぎせいについて知っていなければならない。児童もまた,このような事がらを知ろうとする。更に教師は,技術の進歩が,どんなに社会をよくしたかということに着眼して,児童によりよく現代の社会を理解させることができよう。社会のよくなった点は多々あるが,科学的方法によって問題を処理すること,個人の才能に応じた適当な職業の種類が増加したこと,人や物資が迅速に運搬されることなどが,挙げられよう。しかし大量生産になったために,自然資源の濫用とか,失業,都市の不健仝な生活等の問題が生じ,家具や布地も大量生産になって,かえって個人の趣味とか芸術性とかが減少させられたことも,考えておかなければならない。ともあれ発明,発見及びその結果としての現代の便利の生活等は,五,六年の児童の興味の中心であるといえよう。教師はこれを念頭において,いろいろな角度から,これを活用する工夫をされたい。

 第五学年の児童について特に注意すべきことは,次のような事であろう。

 この学年で特に挙げていなくても,各種の能力(例えば辞書を引くこと)や態度(例えば共同して計画をし実行する態度等)を維持することに留意しなくてはならないことはいうまでもない。

 第五学年の社会科としては,次のような事項を理解させ,これと関連した能力や態度を得させることを目標としている。

 これらの理解は,いろいろな学習活動による社会的経験のおのずからなる帰結として,児童がみずから会得すべきもので,これを直接教えこんだり,あるいは無理にこじつけて教えてはいけないことは,第一学年の場合と同じである。

 第五学年の問題としては,次のようなものを参考に挙げているが,その意味,これを中心とした単元の意味や取り扱い方,各単元に示された学習活動の意味や取り扱い方,学習指導計画との関係は,すべて第一学年の場合と同じであるから,その部分を熟読対照していただきたい。また巻末の作業単元の実例を参考にする必要がある。

 問題一 私たちはどのように勉強すればよいか。

一 指導の着眼

 児童はまだ家庭や郷土に行われている迷信にとらわれているかも知れない。例えば食い合せとか,治療法などについてかなり多くの例を見出すことができよう。また偏見について見るならば,子供自信抱いているものはもちろん,世の中一般に通用している偏見が数多くある。電気は危険なものであるとか,流行病は防止できないとか,挙げれば限りがない。しかしながら,今や児童は事物を研究することに興味をいだきはじめている。また観察し,分類し,検討し,意見を立てることに興味と自信とを見出だすようになって来ている。新聞や雑誌その他の書籍の読み方も非常に変わって来,その量も著しく多くなる。時には子供らは,読書や勉強に熱中し,家事の手伝いや保健上の注意などを忘れてしまうことさえある。教帥は児童のこのような傾向を活用して,勉強の仕方,読書の仕方,物の考え方などに正しい方向を与えることができるであろう。

 この際教師の注目すべき点としては,次のようなものである。

二 指導結果の判定

 この問題に関する学習活動の効果は次のようなことから判定することができよう。

 児童は順序よく学習するようになったか。実証されない意見には,軽々しく同意しなくなったか。実験をしようとする態度を示すか。日々の生活から問題を発見し,これに対する意見を立てようとするか。読書は無計画でなく,選択をして行うか。他人の意見をよく聞くとともに,自分の意見を理解させようとするか。新聞・雑誌・ラジオ等の報導を活用するか。友人と協力して学習するか。教師の助言を積極的に求め,これに従うか。

三 学習活動の例

 (一) 科学的実証的に知識を獲得する方法を発見する。

 (二) 正しい考え方を養う。  問題二 どうすれば,私たちは自分を安全に且つ健康にすることができるか。

一 指導の着眼

 児童は自分のからだの発達に大きな関心を持っている。しかもそれは各人各様であり,且つその速度が急なので,時には内心の不安の原因となっており,時には乱暴な行為や冒険的なことをする原因となっている。子供たちの食欲はおう盛であり,活動もおう盛である。それと同時に子供たちは食物の価値を知り,またその行動が一定の規則に従わないと,自分や他人に危険や迷惑を及ぼすということを理解できるようになっている。子供たちは事故や種痘や予防接種,有効な消毒剤,蚊,はい等の駆除について経験を持っている。かような経験から出発して,教師は児童の注意を,食物の生産,加工,保存,分配に関する発見発明,医学の進歩や事故防止,並びにこれに関する器具や装置の発明などに向けることができる。

 教師は,科学がいかに事故の防止・病気の予防及び治療に役立って来たか,また人の死亡率を減少させたかなどに関する広い知識を持たなければならない。

 教師は次の諸点に注意すべきである。

二 指導結果の判定

 学習効果は次の観察から反省することができよう。

 学校や家庭でガラスかけなどを拾って片づけるか,せきをする時口を被うか,運動をするか,十分な睡眠と休養をとるか,交通の規則を守るか,上手に食物を買うか。

三 学習活動の例

 (一) 病気の予防法を発見する。

 (二) 事故予防法を発見する。  問題三 自分・家・学校・町村・国の財産にはどんなものがあり,どのように保護保全されているか。

一 指導の着眼

 児童はすでに身のまわりや社会の財産,資源について,その大要を知っているし,これを保護しなければならないことも知っている。しかも,もはやかなり大きくなったので,衣服やはき物,家具や住居,また家庭や学校の菜園,校具,校舎の管理をまかされていることが多いし,またまかすこともできる。時には飼育動物の世話をするであろう。つりとか,猟に伴われて行くこともあり,植林の手伝いをすることもあろう。教師はこれら児童の経験から出発し,財産や資源の保護保全が発明発見とともにいよいよ重要となり,またこれによって,その方法が能率的かつ大規模になって来たことを理解させ,社会生活における相互依存と各人の責任とを認識させることができるようになる。

 教師の指導上,着眼すべき事項としては次のようなものが考えられる。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,文字や文章で明確な報告ができるか,実験的態度で物を取り扱うか,いろいろなものゝ原因を追求するか,自己の管理に属するものの扱い方が向上したかなどから判定できよう。

三 学習活動の例

 (一) 自分・家・学校・町村・の財産にはどんなものがあるかを発見する。

 (二) 自分・家・学校の財産を保護保全する。  (三) 学校園や菜園の手入れをする。  (四) 風景を保護し改善する。  問題四 現代の産業はいかにして発達して来たか。

一 指導の着眼

 敗戦後における産業復興の問題は,郷土の社会に,また家庭にいろいろな問題を提供している。生計の維持,衣食住の最低の必要の充足,賠償責務の遂行等,国民経済の問題は,直接的な形をもって,老若男女を問わず,すべて国民の肩にかゝっている。生活必需品の欠乏,主要食糧の不足,物価の値上りなどについても,児童は十分に経験し,且ついろいろな疑問をいだいている。いかにしてわれわれは生きるか,このような児童の関心を誘導して,現在に至るまでのわが国の産業並びに他の産業との相互依存の事情を理解させることができよう。発明発見による産業の進歩と,これに対するわが国民の適応の状況とは,児童の興味をひき起すばかりでなく,国家の将来に対する責任を痛感せしめるであろう。

 指導上教師の注目すべき点としては,次のようなものが挙げられる。

二 学習活動の例

 (一) 現代の農業(養蚕,畜産,副業を含む)はいかにして発達して来たか。

 (二) 現代の水産業はいかにして発達して来たか。  (三) 現代の鉱業,林業はいかに発達して来たか。  (四) 現代の工業はいかにして発達して来たか。  (五) 物の生産に関係して交通はいかに発達して来たか。  (六) 生活必需品の分配がどんなに便利になったかを発見する。  問題五 発見発明はどのくらい私たちの生活を豊かにしたか。

一 指導の着眼

 われわれの日常生活はあらゆる点において文明の恩恵を受けている。食にしても,住にしても,また衣にしても皆文明の恩恵をうけている。(食については問題二において取り扱われているが,住と衣との問題をこゝで取り扱おうとする。)

 児童は家庭や学校の生活において,いろいろな文明の利器やその効用に接している,(電灯・電話・ラジオやガラス・セメントなど)。またその所持品や身のまわりのものには,昔の人の思いも及ばないものがたくさんあることを知っている。

 紙といい,鉛筆といい,更には通学用のはき物の数に至るまで,ことごとくそうでないものはない。色刷りの本なども余りに見慣れているとはいいながら,その製作の過程を考えたなら,大きな驚異を感ずるであろう。

 児童の所持品からはじめて,その服装並びに,家庭や学校における文明の利器を観察し,発明発見の賜物と,これに対する感謝の気持を起させ,併わせてその活用の必要を理解させることは,容易なことと考える。

 教師の着眼すべき点として次のようなものが挙げられる。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,物の使用に当たって,これを惜しまず,時と場合に応じて,十分その効用を発揮するよう心がけるか。所持品がよく整とんされ,必要にして十分な最小量にとどめられているか。服装が人に好感を与えるようなものになって来たか。多くの生活必要品が,いかに発明,発見の恩恵によるものであるかを理解して来たか,豊かな生活はいかに多くの人の努力や協力によるかを理解して来たかなどを観察することによって判定される。

三 学習活動の例

 (一) 食物の種類の多いことを発見する。

 (二) 食料製作具と貯蔵法の発達を知る。  (三) 食物と身体との関係を見出だす。  (四) 装身材料の種類を調べる。  (五) 家の材料の発達していることを研究する。  (六) 家や身のまわりを気持よくする。  問題六 どのようにして私たちは通信したり,意見を交換したり,遊行したりできるか。

一 指導の着眼

 児童は日々ラジオのニュースをとおして,人々の意見を聞き,またしばしば友人や家族のものと手紙をやりとりしている。子供たちは,本や雑誌や,新聞によっても他人の意見を聞いている。また子供たちは,電信を送る簡単な実験を非常に悦ぶ。子供たちの生活領域はもはや相当に広くなっている。そうして通信とか旅行とか,運輸などに関係して,どうしたならば,早く確実に安くそれらの目的を達することができるかを比較することに興味を持っている。汽車や汽船の時間表を与えるならば,子供たちはいろいろな旅行の計画をすることができ,且つそれを楽しむ。教師はこれらの興味を手掛りとして,人と人と協力するためには,意見を交換しあうということがどんなにたいせつであるか,またその意見の交換・意志の疎通のために旅行をしたり通信をしたりすることが大変たいせつであることを理解させたり,またラジオや新聞や雑誌がいかに役立つか,更に前代並びに後代の人々との協力のために記録や書籍がいかに必要であるか,ということなどを理解させることができる。

 教師の着眼すべき点としては次のものが挙げられる。

二 指導結果の判定

 学習の効果は,交通・通信の方法の理解と,この部門における発明家の苦心の理解度及び自己の意見を発表する能力の向上の状況によって知ることができよう。

三 学習活動の例

 (一) 社会生活において通信を交換する有様を発見する。

 (二) 記録保存法の改良について研究する。  (三) 旅行のよい方法を見出だす。  問題七 外国人との交際はどのようにして行われるか。

一 指導の着眼

 進駐軍の将兵をはじめとし,外国人がわが国のあらゆる地方に来ている。児童は大きな興味を持って,それらの人たちに接している。どういう目的で,その人たちが来たのか,どんな事を希望し,またどんなことをよろこぶか,われわれはどんな態度でこれに接するのが正しいか,これらの疑問は,おのずから児童の胸中を往来している。進駐軍による食糧その他の放出,進駐軍の人たちの学校視察,外国人経営の商店,ジープやかまぼこ型兵舎等,児童の接する事物も少なくない。わが国民は従来外国人を十分理解しない傾向があり,また外国人からも誤解されていた面もあったが,平和を希求する人々の一員として,人間としての平等に目覚めさせる出発点は,以上のような諸点に求めることができよう。

 教師の着眼すべき事項には,次のようなものが考えられよう。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,児童が外国人に対する偏見をすて,自由な気持で接するようになったか。外国人を親切に案内したり,これに悪い感じをいだかせないよう気をつけるようになったか。外国人との交際を,学級として,あるいは個人として計画するか。わが国民の外国人に負うている恩恵を理解するに至ったか,などから判断することができるだろう。

三 学習活動の例

 (一) 外国及び外国人を理解する。

 (二) 外国人と交際する方法を発見する。  問題八 私たちの生活を楽しくするためには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 遠足を計画したり,ラジオを利用したり,避暑避寒を工夫したり,展覧会や学芸会を計画したりすることは,どの学級でも見られることである。このような児童の厚生慰安に対する興味は,厚生保健の意義,創造欲を充たすことの意義あるいは社交の意義を理解させるのに,よい機会を与える。教師は科学や発明発見が娯楽の種類を増し,またその形を変えたこと,個人の厚生活動に大きな影響を与えたことなどをよくわきまえていなければならない。

 教師の注目すべき点は次のような事がらである。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,自分の幸福のために,厚生慰安の活動がたいせつであるという理解を深めたか,児童が厚生慰安の興味を押し進め,積極的に工夫するようになったかなどを見ることによって判定されよう。

三 学習活動の例

 (一) 楽しい時間をもつよう個人的に工夫する。

 (二) 団体的に楽しい時間を持つよう工夫する。  (三) 厚生慰安とその施設のかわった原因を発見する。  問題九 国家の統治にはどんな施設が必要か。

一 指導の着眼

 児童は大人が政府を非難したり,政府に注文したりしている事がらについてもはや無関心ではいられない,配給のこと,供出のこと,引揚者のこと,労働運動のことなどについて子供たちもまた,異常な熱心さをもって聞き耳をたてているばかりでなく,これらに対する意見をさえ開陳する,またいろいろな官庁の名まえやその仕事についても,これを知ろうとして,しばしば質問する。議会でどんなことが行われているかということについてもまた,いろいろな想像をめぐらしている。国家の政治機構やその諸問題を理解させることは,まだむずかしいと思われるが,国民の声がどんなすじ道をとおって,いかに実際の生活に反映して来るかというようなことは,子供たちの学級,学校の生活,郷土社会の生活などと比較して,理解を深めることができるであろう。国の政治もまた,多くの試練を経て,次第にその形を整えて来たものであり,社会の法則及びこれに基づく秩序の上に立っていることを,教師は念頭におくべきである。都道府県及びいろいろな行政区画(警察,郵便,鉄道局,鉱山局等の)とその意味,その中心となる都道府県会,都道府県庁の業務等をも理解させ,全体としての日本の有機的なつながりを理解させることもよいと思われる。

二 学習活動の判定

 学習活動の効果は,学級自治が積極的な明かるい活動を呼び起すか,学校の運営に積極的に協力するか,都道府県の自治の大要が理解でき,いろいろな役所からの文書を読み分けることができるか,選挙に関心を示すか,議会と政府との関係を理解したか,わが国の行政上の統一について興味を示すかなどから判断できよう。

三 学習活動の例

 (一) 国家の政治機関に関する知識を獲得する。

 (二) もっとよい自治の方法を発見する。