第五章 第 三 学 年

 

 初等科第三学年及び第四学年の児童の心理的特性については,国民学校公民教師用書二六頁及び一般編「第二章 児童の生活」の中に説明があるから,ここでは具体的にあらわれて来る一般的な特性を列挙して参考に供しよう。

 一,二年において,人間・動物・植物の相互依存,家庭や地域の生活に及ぼす自然の力がどんなに偉大であるかに関して,いくらかの理解を児童たちは与えられている,三,四年においては,この理解を更に大きく発展させなければならない。というのは,三,四年になると,児童は,植物や動物や人間がどんな環境を必要としているかとか,自然の力を支配し,有効に使うようになって来た人間の力,といったような環境への順応ということに,興味が向いて来るからである。三年と四年とを分けるとすれば,四年では,歴史的な面からも,これを取り扱って行ったらよいと思われる。

 生活を持続して行くのに必要な順応ということを理解させるためには,児童がその身ぢかな生活の中から得ている理解に出発して,これを次第に広い範囲に及ぼすのである。よその土地の文化のことを児童の生活と関係なしに教えてもだめである。児童の興味や経験を通じて,いろいろな環境への順応を理解させなければならない。よその土地の子供の服装などでも,劇をやってその衣しょうを作ってみたり着てみたりして,はじめてその色彩や布地の違いなどに気がつくのである。また例えばわらじが児童の好奇心をひきつけたとしたならば,そういうものから出発して,それがどんな所で使われているかとか,また,いつごろ盛んに使われたか,どうして今はすたれたかというように,追求させて行くのよいのである。昔の人のはきものはどんなだったか,というふうに直接これを調べさせようとすると困難である。

 四年の児童は,冒険の物語を好んで読むし,そのいっしよにやっている遊びにも,冒険を好む傾向がよく見られる。それで,昔の人たちが不便な自然環境の中で,いろいろな工夫をして生活して来たようすや,また現在でも,常人の行かない不便な環境で,いろいろな工夫をしながら,ほかの人たちのために働いている人々のようすなどを理解させることができるし,児童もまた,そのような順応のようすを知ったり,まねしたりすることをよろこぶ。

 三,四年を通じて,教師は,動植物そして人間の生活している環境は常に変化しつゝあり,動植物や人間はこの環境に順応するか,あるいはこれを制御して行かないと滅亡してしまうということを,常に念頭において指導されたい。

 第三学年の児童について特に注意すべきことは,次のような事であろう。

 第三学年の社会科としては,次のような事項を理解せしめ,これと関連した能力や態度を得させることを目標としている。  これらの理解は,いろいろな学習活動による社会的経験のおのずからなる帰結として,児童がおのずから会得すべきもので,これを直接教えこんだり,あるいは無理にこじつけて教えてはいけないことは第一学年の場合と同じである。

 第三学年の問題としては次のようなものを参考に挙げているが,その意味,これを中心とした単元の意味や取り扱い方,各問題に示された学習活動の意味や取り扱い方,学習指導計画との関係等は,すべて第一学年の場合と同じであるから,その部分を熟読対照していたゞきたい。

 また巻末の作業単元の実例を参考にすることが必要である。

 問題一 世の中で一人前になるには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は,自分の体力を意識できるほどに成長しており,またほかの者の意見を理解できるようになっている。したがって,ほかの者といっしよに団体活動をしたり,団体的な規則に従ったりすることを喜び,ほかの者の世話をしたり,手助けをしたりすることを得意がるのである。その反面,自分たちの仕事の結果に注意を払い,それを批判する。学業についていえば,その学び方が秩序立って来,積極的に質問をするようになっている。要するに,人格成長の一転機に遭遇しているのである。

 この転換期にある児童を指導するに当たって考えらるべきことは,児童が家や学校や遊びなかまの中で自立心を持っているかどうか,学習に当たってはどんな困難を感じているかということ,及び感情の爆発といったことである。

二 指導結果の判定

 この問題に関係している学習活動の効果は,以下のような諸点から知られよう。

 児童がどのくらい自信を持って団体生活をしているかという点,学習態度がどれほど進歩したかという点,団体活動の規則にどのくらい気をつけるようになったかという点。それから,ほかの者,特に自分のなかまのために,どれほど役立とうとしているかという点。

三 学習活動の例

 (一) 家で自主的にふるまう。

 (二) 学級で自主的にふるまう。  (三) 遊びなかまの間で自主的にふるまう。  (四) 進んだ勉強法を実行する。  問題二 適当な着物を選ぶには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 児童は新しい着物に強い魅力を感じている。そして着物の原料とか,着物と気候,天候との関係,着物の種類などに興味を持っている。このような興味を利用して,児童に,着物と環境との関係に対する理解を与えることができることと思われる。

二 指導結果の判定

 この問題,関係づけた学習活動の効果は,着物の選び方,使い方,手入れの仕方,その原料に関する知識と見わける力などを観察して知ることができよう。

三 学習活動の例

 (一) 着物の原料を知る。

 (二) 天候,気候に応じた着物を用いる。  (三) 着物の種類を知る。  問題三 家はどのようにして建てるか。

一 指導の着眼

 子供たちは,新しい家の建築を見ることが好きである。いろいろな建築材料にも大きな好奇心を持っている。戦災者の子供なら,ごう舎やバラック,簡易住宅を建てるのを,身ぢかに経験しているであろう,一部の児童には,自分の室を持ち,いろいろの体験を持っている者もあろう。更にまた,家の掃除や手入れを分担している者も少なくない。このような点に,関連して,児童の体験を拡めるのに,注意すべき点は次のようである。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果は,以下のような諸点の理解から知られるであろう。

 家とは健康を守るために作るものであること,気候とか地勢が家の形や建築材料に影響を及ぼしていること,家を長持ちさせるにはよく手入れをすることが必要なこと。

三 学習活動の例

 (一) 家はどんなふうにして作られているかということを知る。

 (二) いろいろな家の形を知る。  問題四 動植物はどのように人間に頼っているか。

一 指導の着眼

 子供たちは,動植物の生態に非常な興味を持っており,これらといっしょに遊ぶ性質がある。そしてまるで友だちか何かのようにむやみとかわいがるのであるが,しかしまた,それとは反対に残酷なことをする傾向もないとはいえない。児童を指導するに当たっては,このような点に注意し,こうしたことから出発して,生物の生命に対するより深い理解と,生物の生態に対する科学的な態度を持たせることができよう。

 この問題は,これを動物と植物の二つに分けることができ,そのおのおのにおいて注意すべき諸点は次のようである。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果を判定する一つの方法としては,以下のような点について観察することである。即ち

 児童が以前よりもたくさんの動植物の性格を認識し了解するようになったかということ。

 動植物がどんなふうにして環境に適応しているかを理解するようになったかということ。

 家や学校で動植物の世話をよく見るようになったかということ。

 生命の起源と成長に厳粛な理解を持つようになったかということ。

三 学習活動の例

 (一) 動物がどんなふうにして身を守っているかということを知る。

 (二) 植物の生育するようすを知る。  問題五 動物はどのように人間の役に立っているか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は,動物に関する経験をたくさん持っている。家畜は人間の生活に欠くべからざるものであって,子供の日常生活もまた,家畜のあることによって楽しさを増大していることが多い。更にあらゆる子供,あらゆる人間が動物性製品及び食料を使っている。

 このような点から出発すれば,児童に動物の効用と人間がどんなに動物のおかげをこうむっているか,という理解を与えることが容易であろう。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果は,問題四のとほゞ同様な点から観察することができるであろう。

三 学習活動の例

 (一) 食用に使われている動物のことを知る。

 (二) 旅行,運搬に使われている動物のことを知る。  (三) 動物がどんなに人々を楽しませているか,ということを発見する。  (四) 衣類の材料に使われている動物のことを知る。  (五) 農業に役立っている動物のことを知る。  問題六 いろいろの物を手に入れるには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 いろいろな物がほかの土地や外国から移入,輸入されて,日々の生活に使われている。このことが,この問題解決のいとぐちになるであろう。これを取り扱うに当たって注意すべき諸点は次のとおりである。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果は,児童の観察態度,会話,筆答試験等を通じて,気候・地勢・天然資源と生産物の関係,物資輸送における骨折り,各種の分業に子供としてできる手助け,に関する理解の程度を察することによって知ることができるであろう。

 更にまた,児童が物を取り扱う際にどれほど巧妙になったか,ということも,よい手掛りとなろう。

三 学習活動の例

 (一) どんなふうにして食料が提供されるかということを発見する。

 (二) よその土地でできるものが,どんなふうにして移入輸入されるか,ということを知る。  (三) よその土地から来ている品物について調べる。  問題七 水や電気やガスなどを私たちはどう使えばよいか。

一 指導の着眼

 人間の生活で水は絶対に欠くべからざるものである。近代生活と電気の関係もまた不可分のものである。更に一部の都市生活者にとっては,ガスもまたたいせつなものである。そして,児童はこうした公共施設の中で生活し,その恩恵に慣れ切っている。これらのものに関する児童の日常の諸体験をとおして,その有用性とその活用保全の必要性を理解させようとするのがこの問題の目的である。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,児童が,水その他の必要をどのくらい感ずるようになったか,それらの物の使用に当たって十分の注意を払うようになったかどうか,ということを考えることによって,知ることができよう。

 水・電気・ガスのほかにも,これと同様な例はいくらもあるであろうが,それらをも適当に活用されたい。

三 学習活動の例

 (一) 水の効用を知る。

 (二) 水の害を発見する。  (三) 水をじょうずに使う。  (四) 電気の効用と使用法について学ぶ。  (五) ガスの効用と使用法を学ぶ。  問題八 土地によって交通運輸の方法がどんなに違っているか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は,よその土地における人間の生活に非常な好奇心を持ち,想像をめぐらしている。そして冒険や探検の話がとても好きである。たとえば,小さな木立ちを大密林と考えたり,ほんの小川を大河のごとく想像したりする。教師はこの好奇心と想像力を利用して,各地の交通運輸に関する理解を与えることができよう。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果は,児童が地域のひろがりに関する興味をどのくらい増すようになったか,いろいろの物の性格や,それらが運ばれる道すじについてどのくらい疑問を提出するようになったか,更に交通運輸に従事している人々の価値をどれほど理解するようになったか,といったことから察することができるであろう。

三 学習活動の例

 (一) 土地で使われているいろいろの交通運輸の方法を発見する。

 (二) 山岳地方の交通運輸の方法を知る。  (三) 河川や湖沼地帯の交通運輸の方法を知る。  (四) 大洋航海の船の絵を集めたり,話を読んだりする。

 (五) 熱帯や寒帯地方の交通運輸について話を読む。

 (六) さばくの旅の話を読み,隊商の絵を見る。

 (七) 各国の旅行の方法を示した映画を見る。

 問題九 ほかのなかまの者と仲よくするには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は,なかまを作っており,なかまに対しては忠実であるが,ほかのなかまとは対立し,それと競争する傾向がある。しかもなお一面においてほかのなかまの者に対しても十分同情を持ち,よくめんどうを見たがるものである。したがって,こうした感情は,これをうまく利用するならば,競手相手に十分な同情を払い,公正な態度で競争する性質を発達させることができると思われる。

二 指導結果の判定

 この問題の学習活動の効果は,どんな友だちにでも公正な態度で対するようになったかどうか,自分のなかま内で物の貸し借り,遊びや仕事をなごやかにするようになったかどうか,といった点から察し得るであろう。

三 学習活動の例

 (一) 自分たちのなかまをよくして行く。

 (二) ほかのなかまの者と仲よくする。  問題十 国や宗教上の祝祭行事は各地で,どのように行われているか。

一 指導の着眼

 児童は祝祭日を楽しみにし,その日に行われる行事やにぎやかな光景に心を踊らせている。

 またその日に見られる古い習慣や伝統的事物に興味の目を見張っている。こうしたことを土台に,祝祭日行事の計画を立てたり,祭や年中行事の催しを見た話や,それについて読んだり聞いたりした話を,お互に話しあったりする事を通して,児童の知識と理解を広めることができるであろう。

 指導に当たって心がけるべき点は

二 指導結果の判定

 学習活動を通じて,児童はいろいろな祝祭日についての理解と外国の祝祭日で行われる風俗・慣習についての知識を増し,各地の祝祭日で行われる行事の変化が何にもとづいているかを理解できるようになろう。このような理解の増進の結果は,種々の事がらにおける形態や色彩・調和・均衡・律動に対してより深い鑑賞力を増し,美術的・音楽的な表現法も進歩するであろう。更にまた,人々の美を鑑賞しようとする衝動が,環境や宗教の力によって相当程度影響を受けている,ということについての理解を増すことと思われる。

三 学習活動の例

 (一) 土地の祭や年中行事について学ぶ。

 (二) よその地方の祭や行事について学ぶ。  (三) 外国の祭や行事のことを学ぶ。