第三章 第 一 学 年

 

 初等科第一学年及び第二学年の児童の心理的特性については,国民学校公民教師用二六頁及び,一般編「第二章 児童の生活」の中に明があるから,こでは具体的にあらわれて来る一般的な特性を列挙して考に供しよう。

 一・二年の児童の生活はだいたいにおいて家庭・学校及び身ぢかな社会に限定されている。児童はそこにさまざまな興味をいだき,多種多様の活動を営んでいる。したがってこれらの学年においては、こゝにおける生活経験を中心に,指導が行われるべきである。

 教師は児童がさまざまの家庭から学校へ来ていることを深く考えなければならない。ある家庭には本やおもちゃがあり,家族そろっていろいろな楽しみをし,児童は児童としての仕事を持っている。また,ある家庭は物持ちであるか,児童には受持の仕事といったものがない。ある家庭では,家じゅう朝から晩までただー生懸命働いていて,休息とか団らんというような機会がほとんどない。ある家庭では保健・衛生の注意が行き届いているのに,他の家庭では無関心である。これらの差別は,児童の経験ならびにその成長に大きな影響を与えている。

 児童は,学校生活に非常な関心を持っている。新しい友だちができ,新しいことを学び新しい遊びや新しい活動が可能になるのであるから,学校がおもしろくなるのは当然である。しかし学校のふんいきが親切な協力的なものでなければ,児童は不安になるのである。児童は教師や衛生婦が親切であるかどうかに敏感であり,まだ自分の学校ではただ教師の命令を実行しさえすればよいのか,それとも自分から進んでいろいろな仕事をする方がよいのかを,直感的に理解する。児童生活における学校の位置は極めて重大であって,児らの抱いている問題が,こゝで解決され得ると同時に,更に新しい問題を与えることができるのである。

 近隣の社会もまた,自童の生活に反映して,大きな影響を与えている。その広範囲かつ複雑な問題が,児童の生活に反映して,児童の中にもいろいろの問題を生じさせている場合も多い。そうして身ぢかな社会におけるいろいろな人,例えば医者・警察官・商人・農民・労働者等から受けている恩恵は,児童が,社会生活を理解するための有力な手がかりとなるのである。

 第一・二学年においては,かゝる家庭・学校近隣の社会の生活に慣れさせ,その生活を豊かにして行くところに重点をおくのが,児童の興味に即するゆえんであろう。

 第一学年の児童について特に注意すべきことは,その入学の当初,一般に次のような傾向を生ずるということである。

 更にこの学年の児童が身体上の欠陥や,言語上の欠陥,あるいは家庭における教養の欠陥などのために,非常に各個人によって違う問題を持っていることにも,注意しなければならない。

 第一学年の社会科としては,次のような事項を理解せしめ,これと関連した能力や態度を得させることを目標としている。

 これらの理解は,色々な学習活動による社会的経験から当然出て来る帰結として,児童がおのずから会得すべきもので,これを生のまま教えこんだり,あるいは無理にこじつけてはいけないのである。

 教師はこれを目標としつゝ,適当な問題を取り上げ,学習活動を選択し,社会関係の理解と社会的責任感とを発展さすべきである。

 こゝに掲げる問題は,教師及び児童が関心を有するすべての問題を尽くしているわけではない。問題は,児童及び児童の生活している問題を,教師が発見し,これを学習指導計画の基礎として使用する一助とし,また児童の学習活動を組織立てる中心として役立たせるために参考として,選定したものである。

 以下に問題を列挙する。

 以上の諸問題を中心に,その問題を解決するための多くの学習活動を挙げている,その目的は,この問題を中心として,児童の社会的経験に統一を与えるためであって,その意味でこれを単元とよんでもよい,しかしそれは必ずしもこの問題を順序通りに,また継続して取り扱うためではない。ある問題は一箇年を通して指導される方がいっそう望ましい場合もある。

 例えば問題一,二,三,六のごときはその傾向が強い。

 問題の中に示された学習活動もまた,この順序通りやるべきものでもなく,またその全部をやるべきものでもない。教師がいろいろな学習活動を見のがさないように参考として,できるだけ多数挙げておいたのである。したがって,自分の定めた目標の事項とよく照合し,また児童の生活,学校及び地方の特性によくあうように,適宜に選択及び加減をして,学習指導計画に取り入れるべきである。この際,先に述べた指導方法の項を十分参考していただきたい。

 なお多数の学習活動を浅くやるよりは,前もって学習活動を比較的に少数にして,よく吟味し研究し,これを深く広く展開して行くことが望ましいということもまた留意してほしいことである。

 学習指導計画は,選定された学習活動,技能の修練,各児童の興味の進展,児童の個人的問題の解決,両親その他との協力のつごうなどを,十分考慮に入れて作らなければならない。

 巻末に附した作業単元の実例は,学習指導計画作製のため,大いに参考となるであろう。

 問題一 家庭や学校でよい子と思われるには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は,両親や特に教師に従順である。そして家庭や学校で自分の役目として何か仕事を言いつけられ,それをうまくやったとほめられれば,非常に誇りを感ずる傾向がある。こういう点を利用すれば,みんなに喜ばれるお手伝をしようとする意欲を増進させ,それにはどうすればよいかという理解を深めることができると考えられる。

 一面,わか国では児童が自分のことは自分でするという習慣が十分につけられていない。朝起きて着物を着ることからはじめ,学校に行く支度も,はき物の整理も,運動場での遊びも,便所に行くことも,かばんその他の整とんも,夜寝床を敷くことも,ことごとく両親や教師の手をわずらわしている。したがって児童の入学を機に,教師及び両親は,児童がその日常生活で一歩一歩,自主的になるようにし向けなければならない。更に,わが国では児童が学校にはいるまでは,よい行儀をしつけるということには,あまり注意を払わない傾向がある。それ故に教師及び両親は,児童の正しいしつけを確立するよう努めなければならない。しかし,いわゆる型にはまったよい子を作ろうとすることは,十分警戒しなければならない。児童自体の自主的な性格を確立し,しかも年長者,年少者ならびに仲間の児童と調和して行くように指導しなければならない。

 指導に当たって留意すべき諸点は次のとおりである。

二 指導結果の判定

 この問題に関する学習活動の効果は,次のようなことから判断できよう。

 児童が自分の周囲によく注意するようになったかどうか。

 どれほど自分のことを自分でやれるようになったか。

 両親や教師の言いつけに積極的に従うか,またどれほど役に立つようになったか。

 家や学枚で危険防止に気をつけるようになったかどうか。

 食事・登校下校並びに家族の送り迎えなどに,ちゃんとあいさつができるようになったか。その作法をだんだんとのみこんだか。

 年下の者に物を分けたりするようになったか。

 家庭内での児童の態度は,児童や父兄と何回も親しく話しあうことによって推察することができるであろう。

三 学習活動の例

 (一) 家庭や学校をきれいにする。

 (二) 家庭や学校で危険防止をする。  (三) 自分のことは自分でする。  (四) 父母・兄姉及び教師の言いつけに従う。  (五) 行儀をよくする。  (六) 幼い者をいたわる。  問題二 私たちはどうすれば丈夫でいられるか。

一 指導の着眼

 児童は自分自身の成長に大きな興味を持っている。体重や身長をはかって,おたがいに比べあったりする。こうした点を有効に使えば,その健康に対する関心を増させることができるであろう。歯医者に行くこと,近所の家消毒されたりすること等々,児童の日々の生活には,不思議な体験が数多くある。こういう点も健康に関する習慣養成のよいいとぐちとなると思われる。一年生では,正しい食事のとり方,日々の衛生,衣服に関する習慣に重点がおかれる。教師はこういうものに関する正しい習慣がどんなものであり,どの程度家庭で実行されているかを知らなければならない。

 指導に当たっては次のようなことを念頭におくべきである。

二 指導結果の判定

 学習活動の判定は次のような点からすることができるであろう。

 正常な発達を阻害するような保健上の欠点がなくなされたか。よい姿勢を保つようになったか。休息時間には十分休むか。排せつの時間に規律があるか。防疫のきまりを守るか。戸内ではがいとうを脱ぐか。適切な衣服をつけて登校するか。間食を適時にとるか。どんな野菜でも好ききらいがないか。清潔・衛生の習慣を守っているか。以上のことが教師に要求されるからでなく,自分自身から進んで行われているか。健康法の改善に満足を感じているか。

三 学習活動の例

 (一) 適切な食物をとる。

 (二) 食物の取り扱いと,準備のときの清潔さを観察する。  (三) 適切な衣服を選んで使う。  (四) よい習慣を実行する。  問題三 自分のものや人のものを使うには私たちはどうすればよいか。

一 指導の着眼

 この年齢の児童は,自分の所持品に大きな関心を感ずるようになっている。新しい上衣・筆箱,自分の飼い犬などは,これを宝物のようにだいじにする。こういう点を活用して指導して行けば,自分や他人の所有物の扱い方を向上させることができるであろう。

 指導に当たって留意すべき点は次のとおりである。

二 指導結果の判定

 学習活動の結果は次のような点から知られるであろう。

 室内でがいとうやえりまきを脱ぐかどうか。

 衣服等を汚さないように工夫をしたり,気をつけたりするかどうか。

 書籍やおもちゃ・道具等をきまった場所にしまうかどうか。

 室をきれいにするため,何か役目を積極的に引き受けるかどうか。

三 学習活動の例

 (一) 家に飼ってある小動物の世話をする。

 (二) 使用品を清潔にし整とんする習慣をつける。  (三) 物をうまく使う。  問題四 私たちは食物や衣服住居をどんなふうにして手に入れるか。

一 指導の着眼

 この年齢の児童は,台所に行って母親が料理を作るのを見るのが大好きである。もちろん普通の母親は子供が台所に入って来るのを好まないが,子供は料理に手を出したり,自分で料理をしたがったりする。戸外では植物の成育して行く有様を見るのを喜び,時には大人のまねをして,妙な所に種子をまいたり,草花を植えたりする。一方衣料品が不足しているわが国の現状にもかゝわらず,子供たちは一向むとんじゃくに衣服を汚したり損じたりし,そのため多くの親たちは,子供たちの衣服について,特に季節の変わりめには頭を悩ましている。しかし生活条件の困難さが加われば加わるほど,両親の衣服・食糧調達の苦心・努力は非常なものなので,このことは児童に自然,父母の努力を理解させ,また食物や衣服の材料が,どこで,どんなふうにして生産されるかを知ろうとする興味を高めている。したがって以上のような諸点を利用すれば,衣食住に必要なものの生産・分配に関する理解を深めさせることも,比較的容易だと思われる。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,米とか綿布とかが,どんなに多くの人たちの努力や協力によって生産され,分配されているかということに対する理解の深度,その他のいろいろな必需品の生産・分配などに対する関心の程度,商店の人たちに対する理解と感謝の気持の発現の状態,食糧・衣服への注意といった点から考察することができるであろう。

三 学習活動の例

 (一) 日々の食物について調べる。

 (二) 日々の衣服について調べる。  (三) 食物を作ったり,衣服をとゝのえたりする母親に手伝う。  (四) 住居について調べる。  問題五 私たちは旅行の時にどんなことを心得,どんなことをする必要があるか。

一 指導の着眼

 子供たちは乗り物が大好きである。汽車に乗りたい,自動車に乗りたいというのは,この年ごろの児童の最大の願望である。かれらは自動車や汽車や電車の絵を書く。それ自体がかれらにとってはすでに大旅行なのである。また,かれらは日々学校に来たり,家に帰ったりするし,学校からは遠足にも行く。中には父兄と共に本当の旅行をしたものもあろう。こういう活動に,より深い意味を与えるために,教師は次の点に留意することが望ましい。旅行における安全,道すじや慣習,行儀,適切な服装,道案内に関する知識。

二 指導結果の判定

 この単元の学習活動の効果は,次のような点から判定できるであろう。

 いっしよに旅行の計画をたてる。自分のことを自分でやる。簡単な道案内を読み,その意味を知る。小額の金の使用のしかたと,その価値を知る。事故を防止するため,不注意な行動をしなくなる。

三 学習活動の例

 (一) 交通の安全につとめる。

 問題六 私たちはどうすればみんなといっしょに楽しい時間が持てるか。

一 指導の着眼

 この年ごろの児童は積極的活動的で楽しい自分たちの時間を持つことに熱心である。教師はこの点を利用して,かれらの活動をもっと豊かなものにして行くべきである。楽しい時間を持つことは,一年だけでなく,全学年を通じて強調されるべきである。

 子供らの楽しい時間はだいたい次のようなものではあるまいか。

 競技や遊戯や勝負事。レコードを聞く。ラジオを聞く。友だちを呼んだり,友だちに呼ばれたりする。小動物と遊ぶ。旅行に行く物語を聞いたり読んだりする。劇をする。絵本を見る。身や手足でリズムをとる。ピクニックに行く。物を書いたり作ったりする。

二 指導結果の判定

 学習活動の効果は,次のような点から知ることができるであろう。
 いろいろな競技や勝負事のしかたを知っているか。リズムや劇で気持を表わすか。歌ったり,よい音楽を聞いたりすることが好きか。面白いことをしようと提案するか。いっしょに遊ぶときに作法を心得ているかどうか。順番がおとなしく待てるか。おゝぜいのやりたいという遊びに気持よく加わるか。一番にされなくても,ひがんだりしないか。学校内外での遊び方の種類がふえたか。

三 学習活動の例

 (一) 音楽を楽しむ。

 (二) 競技をする。  (三) 集まりをする。  (四) 戸外の楽しみを味わう。  (五) 本を続む。  (六) おもちゃで遊ぶ。