以下に挙げる作業単元の実例は,特定の学校とか,特定の学級を予想してつくられたものではない。そこに述べるような児童の生活環境も,現在の日本としては,あまりにも理想的にすぎるかも知れない。したがって,そのまゝの形で実施しようなどと考えてはならない。またこれをまねようとすることも無理である。
むしろ各種の活動が,どんな見地から選択され,どのような顧慮のもとに,どんなにして提出され実施されるか,またその活動の成果をどんな点から判定しようとしているかを,具体的に示すものとして,各自の研究の対象として考えてほしいのである。そしてその研究によって得た学習活動の取り扱い方の理解に基づいて,各教師が自分自身の案を立てることを望むのである。
作業単元とは,学習指導計画に予定された一連の学習活動の意味で,一定時間継続して取り扱われる学習活動の統一されたものをさすのである。したがってその選定は,本書に述べられた学習指導計画の立て方を十分考慮して行わなければならない。それは,本書に掲げた各学年の問題(単元)そのまゝであったり,その一部であったりする必要はない。むしろ,その時その時の児童の生活に則し,且つ本書におけるいくつかの問題(単元)に関係しつゝ設定すべきものである。
作業単元の題目も,以下の例にこだわる必要はなく,郵便屋さんごっことか,校具校舎の破損調べとかいうような,児童の活動を示すものにしてもよく,「昔の子供はどんなおもちゃを使ったか」というような問題の形にしてもよい。
作業単元の内容となる学習活動は,本書に示されたところによって,十分慎重に選定されなければならない。しかし本書に示した学習活動は,すべて例であって,その形をかえることもよいし,一つの学習活動から発展する他の学習活動を加えることもよいし,もっと一般的には,児童の問題を解決させ,各学年の目標を達成するのに適当な学習活動は,どんどんこれをとり入れてよいわけである。
以下の例は,このことも考慮に入れて,研究されることを希望する。
一 この作業単元の学習活動において得られる児童の生活経験の種類。
料理・掃除・育児・交際・買物のこと──やおや,米の配給所のことにつながる。(室内および戸外の遊び)。
やおやのこと──荷車や市場や農園のことにつながる(室内および戸外の遊び)。
主食の配給所のこと──トラックや営団や家庭のことにつながる。(室内および戸外の遊び)。
トラック・汽車・リヤカー・荷車等の動くもののこと──野菜市場・貨物駅・配給所等のことにつながる。
いろいろなものを取り扱ったり作ったりすること。
木や竹やむしろで家を造ったり店を造ったりする。
料理やお菓子を作るのに砂や水を使う。配給所のことに導く。
木箱や木片を使って,リヤカーや荷車を作る。
おもちゃで遊んだり,おもちゃを作ったりする。
この作業単元は,学習指導要領に示された第一学年の問題の一から六までのすべてに対して,これを解決する有効な学習活動を含んでいる。こゝでは便宜上,児童に対する効用と,民主的社会の秩序に対する効用とに分けて考えてみる。
(一) 児童に対する効用。
家庭的および家事的な活動は,幼い児童の成長に多くのよい機会を与えている。
家庭的および家事的な活動を中心とした学習活動は,あまり家庭外の経験のない児童たちには,家庭から社会への最初のかけ橋となるであろう。またこの学習によって,恥ずかしがりやの児童や内気な児童は,安らかな気分で団体の遊びができるようになるであろう。手技的あるいは動作的,感覚的な遊びの域を脱していない児童に対しても,家のことについてのこの学習は,めいめい勝手に遊びながらも,他の児童たちといっしょに遊ぶ機会を与える。また,そのような児童たちよりもっと進んでいる児童に対しては,家庭や家を中心とする遊びは,家の人がやおやに買物に行くとか,お米の配給をとりに行くとか,新聞屋が配達に来るとかいったことと関係して,社会生活への出発点を提供するであろう。
児童は,家の食量やその配給などには,強い興味をもっているから,やおやや配給所に行ってみたり,田や畑の作物を見たりすることによって,この興味は,食物はどこから来,いかにして作られ,且つ分配されるかといったことについて,児童の知識を深めるよい手がかりとなる。
まゝごと遊びの一部として,お客になったり,お客をもてなしたり,あるいはお父さんお母さんになったり,子供になったりしているうちに,正しい作法やよい行儀が,どのようなものであるかを理解して行くことができる。
また,料理を作ったり食事の準備や後始末をしたりしているうちに,清潔の重要なことを知り,どうすれば丈夫でいられるかという問題の解決に,一歩を進めることになる。
また,おもちゃを使ってみんなで遊ぶことによって,楽しい時間をすごす方法をいっそうよく覚える。
木片や竹をいじくったり,これで何かを作ったりすることは,手技的な活動や感覚運動的な活動をまだ多く必要としている児童に有用な経験を与える。
(二) 民主的社会の秩序に対する効用。
この作業単元の前述のような諸経験は,
自分の権利を主張することを学ぶこと,
他人の権利・感情・見解を尊重することを学ぶこと,
みんながうまく行くように,正しい権利を尊重し,これと協力することを学ぶこと,
物事を処理するのに,自動的な簡易な処理の道筋をたてることを学ぶこと,
しかも,この作業単元の中には,前に列挙したような社会的反応が,児童にとって十分意味のある状態で,くり返し実行される可能性がある。
三 指導過程
(一) 発端
家事的なことを中心とする部面は,教師が児童と協力して設定し,十分な用意と配列をしておく。この設定した場面は,永久的なものでもなく,固定的なものでもない。大いに融通性のあるもので,道具立てなども,ある時には生活のある部面を,またある時にはその他の部面を強調して,何度もとりかえられる。例えば料理ごっこの時には,勝手道具や食器類を持ち出して気分を出し,洗たくごっこの時には,洗たくだらいとか,のし板,人形用の洗たくもの,かごなどが活用され,また赤ちゃん遊びの時には,赤んぼうの人形や着物などを含ませて,その活動を誘発する。
家というものは,他の部面を中心とする学習活動からも,しばしば必要になってくる。例えばやおや遊びからも配給所遊びからも,配給を受けるものとしての家が必要になってくるようなものである。
2.やおやの遊び
この場合の環境も,十分気分が出るように,教師が児童の助けを得て整備する。机や箱や板で作った簡単な勘定場や陳列台などを利用するのがよかろう。小さな積み木にはりつけた野菜や果物の絵・レジスター・はかり・電話などもこの遊びを愉快にする。 学校やその附近にある,箱・花・葉っぱなども,やおや遊びのしげきになるであろう。また,児童の一人にやおやにお使いに行ったことの話をさせるのも,やおや遊びの興味を呼び起すであろう。また,身ぢかにある物語や絵画や絵本も,この興味を誘うのに役立つであろう。
3.配給所の遊び
この遊びにおいても,教師は児童と協力して,はかり・トラック・リヤカー・空き袋などの道具立てをしてやる。
家事遊びが,主食の配給の必要を感じさせ,また主食運搬に使う空き袋やリヤカーを作りたいという願望を生み出すこともあろう。
4.トラック・リヤカー・荷車等の乗物遊び
劇化遊びの材料──トラック・リヤカー・荷車──がこの学習活動を呼び起すであろう。
教室の後方に,むしろを利用して,座敷の部分と,机を利用した流し場のある勝手の一部分とを造る。教室の前方にも,やおやの店の部分に続いて,その座敷の部分を造る。
座敷の部分には,人形・人形の寝床・テーブル・おもちゃ・本などを備え,勝手の部分には,食器・調理用具,清潔な乾いた砂(あるいはおがくず)を用意する。こうした材料は,遊びの重点が変るにつれて,加えられたり,取り除かれたりする。
最初児童は,お互どうし話しあうこともなく,めいめい勝手な遊びをするのが普通である。
赤んぼうを抱いたりおぶったりする児童もあるであろうし,また食器やどんぶりをテーブルに並べたりする児童もあるであろう。中には,なべを卓上にあげるものもあろう。そして初めはテーブルや床の上に食物(砂)をたくさんこぼす。
どんぶりの中で砂と水をやたらにかきまぜ,お菓子を作り,かまどの上で焼くものもあろう。
最初はほとんど会話もしないが,やがて自分たちのしている事について話しあうようになる。
更に進めば,仕事を分担したり,家族めいめいの役割を分担したりするようになる。「わたしはお母さんよ,あんたは赤ちゃんね。」「きみはお客さんだよ,きみもだよ。」「お父さん,行ってらっしゃい。お弁当はこゝにあります。」
ある児童は本を見たり,ある児童はおもちゃを使って遊びはじめるであろう。
児童たちが,遊びの中での役割をきめはじめたり,仕事の分担をきめたりするようになると,分けあったり代りあったりする必要が,はっきりとしてくる。
この段階になると衝突もかなり起る。ある児童は人形にお湯を使わせたいと思っているのに,他の児童は洗たくをしたいと思って対立するようなことも起ってくるであろう。こういった事情は,かえって社会的な順応性を作り,また望ましい社会生活の技巧を学ぶ豊富な機会を与えるのである。
(2) 学習活動の発展
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もっと道具やおもちゃを備えつけたい。 | どんなものを備えるかを話しあう。
家から持って来る物について,教師から家庭への通知を持って行く。 持って来た物にしるしをつける。 持って来た道具やおもちゃの並べ方を話しあう。 座敷や台所を造りなおして,みんなのつごうのよいようにする。 |
お客様遊びをいれたい。 | お客になる人のすること,お客の取り扱い方を話しあう。
お客になる人をきめる。 お客様遊びをしてみる。 もっと上手にするしかたを話しあう。 |
料理の材料が入用になる。 | どんなものが入用か話しあう。
やおやや配給所を造ることをきめる。 |
やおや遊びは,粘土・木の葉・草の実・絵をはりつけた木片などで気分を出す。
児童は,切り抜きを作ったり,いろいろな野菜のくずなどを持って来たりして,やおやの店先をにぎやかにするであろう。やおやの看板や,荷車なども工夫するのがよい。
(2) 学習環境への反応
やおやになろうという児童たちは,はじめはお互に話しあいもしないで店の品物を並べたり,葉っぱを集めに行ったり,粘土で野菜を作ったり,品物に値段をつけたり,めいめいが勝手なことをするであろう。またお客になって野菜や果物を買いに来るものも現われよう。
(3) 学習活動の発展
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本当のやおやを見たい。 | やおやを見に行くことについての通知を家庭に持って行く。
何をみるかを話しあう。 店頭のようすを見る。 売っている品物の名を聞く。 荷車のある所に行ってみる。 どんな野菜が運ばれて来たかを見る。 野菜のくずを鶏や豚のえさにもらう。 |
自分たちの店を本当のやおやの店のようにしたくなる。 | 野菜や果物の種類をふやす。
こんにゃくその他の売品を加える。 はかりを作ってつけ加える。 荷車や野菜を入れて運ぶ箱やかごをそろえる。 |
やおやでの経験を遊びの中に再現したくなる。 | やおやで見たことを話しあう。
荷をおろすことをまねする。 いろいろなものを計ったり,包んだりして,売るようすをまねする。 |
配給所遊びは,校舎の南側に造った道具立てによって気分を出す。会計係や記帳係の人のいる机やいす,お米の目方を計る容器,お米の俵,小麦粉の袋,配給所の標識なども,配給所での活動を暗示するためにとゝのえられる。
(2) 学習環境への反応
俵や袋を,さわったり,調べたり,持ち上げてみたりする児童もあるであろう。
お米を計ってあける装置をいじってみる児童もあるであろう。
係の机にすわって何か叫んだりする児童もあるであろう。
しかしまた,少し進んだ児童は,砂やおがくずを計って袋やおけに分けたりするであろう。更に発達している児童は,配給所のしきたりについていろいろ話しあったり,仕事の分担をしたりするであろう。「お米を取りに来た人はならんでください」「きみは帳面つけをするといい,ぼくは計り手になるよ」
(3) 学習活動の発展
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配給所に行って,お米などの配給のされ方をみる必要を生ずる。 | 配給所に行ってみる。配給所に米や小麦粉が運びこまれるようすを見る。
トラックの荷をおろすのを見る。 俵や袋の積み重ねられるところをみる。 配給所の掲示をみる。 配給を受け取りに来ている人や車のようすを見る。 お米を入れるいろいろな容器(袋・かん・おけ等)をみる。 お米や粉がずんずん計られて,容器に入れられるようすを見る。 容器をゆすって,米や粉をつめるのを見る。 近所の人が助けあうようすをみる。 配給所の人たちの服装を見る。 見たことを話しあう。 |
自分たちの配給所を改良する必要を感ずる。 | 荷車やリヤカーを置く場所をきめる。
掲示をつくる。 配給を受ける袋を作る。 配給用の伝票を備える。 |
家の人たちが配給所に行くまでのことが知りたい。 | 配給の通知はどこから来るか話しあう。
通知を受けてからのお母さんたちの仕事を思い出す。 近所を代表して取りに行く人のきめ方を家の人に聞く。 近所に来たお米等の受け取り方を話しあう。 |
配給ごっこを初めから終りまでやってみたくなる。 | 「お米の配給です」と知らせる。
通帳・お金・容器を当番のところへ持って行く。 当番は荷車やリヤカーをひいて配給所へ行く。 会計や記帳の係りのところへ行く。 お米や粉(おがくずや砂)を計ってわたす。 容器に入れて帰る。 近所の人たちが当番の所へ配給を受け取りに行く。 上手な点,下手な点を話しあう。 |
また配給ごっこをやってみたい。 | 役割をかえて,くり返してみる。
上手になった点を話しあう。 |
律動的な劇化遊びで配給所の経験を表現したくなる。 | 配給の通知のしらせ方について。
当番の家に,みんなが順々に行く時のあいさつについて。 荷車をひく人たちについて。 トラックから俵や袋をおろす人たちについて。 お米を計って袋などに入れる動作について。 当番の家からお米を受け取って行く人たちについて。 |
これは児童たちの生き生きした興味の有無によってきまるのであるが,次のようなものが考えられる。
魚屋・酒・みそ・しょうゆの配給所の遊び──それらの見学を含む。
市場の遊び──市場に行くことを含む。
トラック遊び──駅や港での積み荷の見学を含む。
四.期待される発達
(一) 身体的発達
新しい協調運動やその新しい結合が形成される──思うまゝにリズムを変えて,なわとびやぐるぐるまわりをすることを覚える。
みんなといっしよの時あるいは休憩時間に緊張をやわらげることを覚える。
毎日やることのうち,相当数のものは,自動的にやれるようになる。
身辺の世界について正確な観察をする能力を増す。
経験を思うがまゝに思い起す能力を増す。
世の中についての正確な見聞を増す。
ことばを使ったり,ものを作ったり,劇化遊びをしたり,あるいは図画や工作を通じて,自分の経験をまとめたり表現したりする能力を増す。
はっきりした思考を基として問題を解決する能力を増す。
あるグループに参加して,心を合わせて遊ぶにはどうすればよいかがわかる。
時としては,みんなの先頭を切る必要があるが,それにはどうすればよいかがわかる。時としては,他のものたちの指導に従う必要があるが,それにはどうすればよいかがわかる。
順番を待ったり,かわりばんこにすることを覚える。
物を分けたり,自分の考えをつたえたりすることを覚える。
必要に際し,自己を守るにはどうすればよいかがわかる。
自分の行動に対し,責任をとることを覚える。
学校のなかまの中で,自立感と自信を増す。
いろいろな場面に,いろいろな方法によって,情緒を自発的且つ創造的に表現する能力を増す。
感情を抑制し,また感情を建設的に表現して行く能力を増す。
一.この作業単元の有する効用
この作業単元は,学習指導要領に示された第三学年児童の問題八および問題一,五,六,七などを解決するに有効な学習活動を含んでいる。そして実験してみたい,遊びたい,ものをいじってみたい,ものを作ってみたい,という児童の自然の欲求とその持ちまえの好奇心とを利用して,船とか港とかについての,初歩の知識を与えようとしている。児童は,港の役割やその重要性,および港におけるさまざまの活動などを学ぶであろう。また児童は,自分たちの船を作り,自分たちの港で遊ぶうちに,いろいろな計画や読書に目的が興えられ,したがってそれらが意味のあるものになって来る。
港の中に,すべての型の船が持ちこまれ,すべての児童が,港での活動を本ものらしくするために,めいめい受け持ちの仕事をしなくてはならないから,各人の仕事が,自分のためだけでなく,仲間のためにも重要であることを悟らせ,児童の民主的な生き方を助成して行くのに好適である。
二.この作業単元の特性
(一) 児童の発達と成熟とに適合している。
この作業単元の学習活動は,発達の幼稚な児童をも進んだ児童をも引きつける。
学習活動が発達し,いろいろな問題が起るにつれて,興味や好奇心はいよいよ高まる。児童たちは,自分たちの遊びに十分満足できず,港や船のことをもっと調べる必要を感ずる。
船を作ったり,港の諸活動をまねしようとすれば,自分の考えや知識を人に知らせずにはすまされない。それらの活動は,自分の仕事であると共に全体の仕事であるから,経験の交換や協力に大いに役立つであろう。港遊びによって,種々の身体的要求が充たされるが,貨物の積みおろしや,はしけをこぐことや,魚をつり上げることなどは,かゝる活動のリズム的表出に対し,無限の分野を与える。また,このような身体的活動は,実際に近いもので,比較的大きなものだから,児童はのびのびとして大きな自由を意識し,経験をはっきりととらえることができる。
またこの作業単元は,活動の進展につれて,文章によって表現することや,絵を描くことにも多くの機会を与える。
(2) リズム的表出や遊びによって,児童の身体的要求(活動欲)を満足させると共に,グループのものと民主的な生活をすることによって,児童の社会的要求を満足させる。まためいめいがさまざまの仕事に参加する機会が与えられているから,児童の個性は十分に考慮される。
児童のうちには,港に行ったことのあるものや,その話を聞いたり,絵や写真を見たりしたことのあるものが,かなりいるであろう。しかしおそらく,どの児童も,港というものについて筋道を立てて考えたことはあるまい。とはいえ,この経験によって,この学習は非常に親しみ深いものとなる。
このような学校外の経験は,学級の全員に気やすさを与え,かつ,自信を与えて,自分たちの活動を成功させるもとを開く,ということも言えよう。
(2) 大部分の児童は,今までの学習において,すでに船や港の生活に関する知識をいくらかもっているが,これもまた,学習の出発点を親しみ深いものとし,また気やすさや自信を与えるのに役立つ。
基本的学習は次のようなものであろう。
イ.船の作り方
ロ.船の型と用途
(ハ) 油そう船 (ニ) 貨物船
(ホ) 水先案内船 (ヘ) 漁船
(ト) 捕鯨船 (チ) 渡船
(リ) 消火船 (ヌ) 遊覧船
(ル)はしけ (オ) 沿岸警戒艇
ニ.船が浮かぶわけ
ホ.貨物船の貨物の積みおろし
ヘ.おもな輸(移)出入品
(ニ) 生糸 (ホ) 茶 (ヘ)雑貨
チ.安全施設
(ニ)停泊中の隣船
ヌ.船の発達の歴史
ル.港の種類やその発達
ヲ.石炭・水・石油の補給
ワ.船の進水
カ.ドックの機能と操作
ヨ.船舶課(港の事務所)
タ.般員の種々の義務
レ.船や港に関する単語
船体,ぎ装,船橋,マスト,積荷,ボート置場,りゅう骨,へさき,とも,右げん,左げん,さん橋,税関
(2) あらたに修得され,あるいは発展させられる技能。
(ハ) ペンキの取り扱い (ニ) クレヨンの取り扱い
(ホ) 読むこと (ヘ) 書くこと
(ト) 数えること
イ.なかまといっしょに計画し,経験を分かちあう態度
ロ.いっしょに力をあわせて遊んだり,作業したりする態度
ハ.求知心を発展させる態度
ニ.絵や物語や詩や唱歌を楽しむことによる芸術的体験
ホ.各種の船や作業について話しあうことによる現代文明の体験
(4) 次のような広い興味を誘導する。
イ.漁業の研究
ロ.石炭業の研究
ハ.石油業の研究
ニ.工業原料の研究
ホ.海陸連絡の研究
へ.貨客輸送の歴史
ト.舟と車との比較
チ.一般貨物の研究
リ.交通運輸の諸方法
(5) 多種多様な児童の興味が生きる。
児童は,自分の一番興味をもっている型の船を,なかまの助力を得て作ることができる。各自は,自己の能力に応じてなかまといっしよに作業し,自分の水準を向上させる。各人は,港を仕上げるのには,自分のやっていることがたいせつだということを感ずる。したがって,しいて各人の仕事を,全体のために統制する必要は起らない。
(6) 集団の民主的な生活のしかたを向上する。
用意された学習環境に対して,学級の全員が引きうけられるが,各児童は,自分の過去の経験や能力や成長の度の差異に従って,興味を感ずる事がらにも差異があるであろう。
学級全体が,船のことを調べ港遊びをしようとする時,各人は自分の好きな型の船を作ろうとする。そして同じ型の船を作ろうとするものたちはグループをつくり,関係のある船(大洋定期船や貨物船とひき船)を作るものの間にも連絡が必要になってくる。
かくて,各個人は自分の独創性から,小グループは共通の興味から,そして学級全体は満足できる港をみんなが必要とするということから,この作業にひきつけられるのである。
各児童はめいめいの船をもっているが,それは港を仕上げるのに入用なのだから「各人が全員のために,そして全員が各人のために」ということが,作業を進ませる要因になる。
この際,批判的な思考力が発展して来る。それによって,各児童の標準は向上して来るのである。
また児童たちは,ある児童が,その全力を発揮してその標準を上げた時には,その進歩を認め満足する。同じものを作るにも,みんなが上手にやることはできないものだということを知って,そこに寛容の態度が発展する。
港遊びの際,だれかに対して不満が起ったりした場合,学級のものは,「港遊びをしているものの全体のことを常に考慮にいれなければならない」,ということを悟る。自分たちの港にも法律が必要になる。めいめいの権利を尊重する時,はじめて,満足できる遊びが行える。不満はめいめいが力を合わせない時におこる。大洋定期船を持っている児童が,ひき船を持っている児童と力を合わせなければ,遊びは本ものらしくなくなり,活動はなめらかに行かなくなる。そしてひき船を持っている児童たちは,仕事がなくなっておもしろくなくなる。相互批評により,児童の標準は高まり,協力によって,活動はいっそうおもしろくなる。
港遊びのうちに起って来るやっかいな事がらは,社会的調整が必要であることを感じさせ,同時に新しい知識を求める心を盛んにする。このような協力の問題が現われ,討議されるにつれて,児童たちは,自由ということの広い意味を理解するようになる。この作業単元の領域とさまざまの興味とは,児童の自由なる表現に大きな分野を与えているからである。
2.作業単元の内容となっている諸経験は,社会的どう察,および社会的関心を増大させる。児童たちは,港における協力の実際に感動し,この感動は港遊びの進むにつれていよいよ深められる。自分たちの見たり学んだりしたことに動かされて,本もののような港を作り,満足のゆくような遊びをするには,どうしても,みんなが力を合わせることや,港の活動の重要なものをすべて実施しなければならないということに注意を払うようになる。港の活動は,「各人は全体のために,全体は各人のために」ということが主題となっており,ちっぽけなひき船もそのはたらきからすれば,巨大な大洋定期船と同様に重要なのである。
絵や写真や読み物や経験者の談話なども,集めることができる。
2.児童たちのすでに得た過去の経験や知識についても容易に知り得る。
3.学校や学級の事情に応じて,この作業単元に当てる時間は,伸縮できる。
児童の反応がかっぱつであって,十分時間をかければ,精巧な港を作って真に迫った遊びをすることもでき,あらゆる関係分野を十分に研究することができる。
4.素材が豊富で,新しい知識を十分与え,また関係題材の熱心な研究への足場を与える。又材料の点からも実際的である。児童は強い興味に支配されているから,工作用の木片をさがして来たりして,独創性を発揮するであろう。
例えば,前に汽車について学習したとすれば,教師は,倉庫の前で船からおろされた荷がその近くの貨車に積まれて各地へ輸送されようとしている図を示す。
また,前に養蚕や生糸のことを学んだとすれば,生糸がはとばで船に積みこまれている写真や絵を教室に掲げる。
こうしたことにしげきされて,児童が,模型船や倉庫代用の箱や荷物代用の木片を集めて遊ぶようになると,船および港の活動への児童の興味は深まって行く。
2.開始時の学習環境のみを頼りとして始めることもできる。
この場合には,児童が見て,これなら自分でもきっと作れると思うような模型,例えば簡単でしかも実際に近い船やドックや起重機の模型を置くことが望ましい。そうすれば,これらは児童の興味と思考を喚び起し,これをいじくったり自分で作ろうとしたりするであろう。また,教室に船や港の絵本をおいたり,港の図面をかけておけば,児童の興味はいっそう増すであろう。船を作るのに使える木片や,防波堤を作るのによいような石などを用意することも有数であろう。
作業単元の開始がうまくいけば,教師は標準を高め,予定の線に沿うて児童の興味を深めて行くことができる。この際にも,適当な図とか映画とかを利用し得る。
3.児童が教室に持ちこんで来る船のおもちゃや港の写真,あるいはある児童の船旅の話や港の岸壁でのつりの話,あるいは児童たちの作文や詩や物語などで船に関するもの,こうしたものも,教師の適当な指導によって,教師の予定している学習活動の発端になることができる。
4.学習活動は,教師の暗示によって促進され助長される。単元指導のはじめには,教師は主として学習環境にたよる。しかし,学習活動が始まってからは,教室では教師の予想もしなかったことが起ることもある。この際,これを自分の予定している活動に導くことが容易であると思えば暗示を与える。例えば,起重機の模型で船の模型をつり上げてみたりするかも知れない。こういう際には,木片などを荷物に見立てて,船に積みこんでみたらどうか,というふうに暗示を与えて,船荷の積みおろしの活動に導くのである。
(一) 発端
教室内にそろえておくものは次のようなものである。
2.船・港の仕事・ドックおよび倉庫の写真を適宜とり入れた港の絵地図。
3.船の模型。
イ.大洋定期船
ロ.ひき船
ハ.貨物船(正しくぎ装した)
ニ.消化船
ホ.油そう船
4.船の写真および絵画(児童が容易に見られるように低くかけておく)。
5.諸種の活動をしている船の写真および絵画。
6.作業中のひき船の写真の組み合わせ。
7.絵のつゞりこみ(船や港の活動に分類した絵)。
8.書籍
9.遊びに使う木片(船に作り得るような形をした)。
10.倉庫代用の箱
11.教師が作製した書籍(スケッチ写真を入れ説明を附したもの)。
12.船の模型などを作るのに必要な道具や材料。
児童はまず,船の模型を調べ,机の上を押しまわり,自分が船になりきる。そして口で言う。
「ボー,ボー,どき給え。」
「きみ,これ大きいんだよ。」
「これは大洋定期船だよ。」
「シュー,シュー,シュー。」
地図を調べるものもあり,スケッチ写真を見て興味を感じた場所や船を想い起すものもある。その際の児童たちの会話は「ぼく,そこへ行って来たよ。」「あれが燈台だよ。」のようなものであろうが,これをその後に行われる話しあいの際に用いるように,教師は聞きとっておく。
写真や絵本を調べている児童のうちには,過去の経験を思い出して,隣の児童に語りあうものもあるであろう。教師はこれも聞きとっておく。グループの中には,書籍や小冊子を調べるものも幾人かあるであろう。
ゆっくり時間を与えた後,教師のまわりに児童全部を着席させる。児童は,自分の見たものや調べたもののことを話したくてたまらない状態にある。
教師は,これまでの間に各児童が観察や調査によって感じた興味をたくみに誘導しつゝ,話しあいを進めて行く。
もし話しあいが,港の地図に集中して来たら,教師は,「みなさん,この地図のような港を,外でこしらえて見ましょう。さあ,外へ出てその場所を見つけましょう。」というか,あるいは,教室内の床の上に印をつけて港の場所取りをするのがよいであろう。
港がきまれば,児童たちはまた遊びはじめるであろう。—人が一箇の木片を取りあげると,他のものもすぐにそれにならうであろう。はじめのうちは,児童たちは木片を船にして押して歩きまわるであろうが,まだ自分が各種それぞれの船になりきってはいない。そのうちに一人が言う。「ぼくは大洋定期船だよ。シュー,シュー」「消火船だ,どいてくれ給え。」動きのない軍艦になるものがないようにしたい。「君が軍艦であれば,動いちゃいけないよ。軍艦はてい泊して港を防備するんだもの,つまらないだろう。」児童は船をもって歩きまわる事が出来なくては満足をしない。その時教師はすばやくすゝめる。「○○船がないね。」と。
遊びが続いているうちに,ある児童たちは,大きい木片の上に小さい木片を積みかさねるであろう。それは,上部構造のつもりだが,時々ころげ落ちるから,それでは満足しない。
児童の言うことすることのうちで,大事なものは見のがさないように覚えておく。こゝに次の評価の段階へと導いて行く手がかりが得られるからである。
しばらくこのような遊びを行ってからの後,教師は言う。「きみの船は面白そうだったね。デッキがあるから定期船だということがわかるね。」するとその児童は,「そうです。ですが甲板がしょっちゅう落ちるんです。」と答えるであろう。
児童「くぎで打ちつけます。」
教師「そうしたらあとの人が,その木片で遊べないでしょう。あとでほかの人が遊ぶんですから,木でひとつきみが作って見たらどう。」
児童「そうです。木を見つけて船を作りましょう。」
教師「もっと面白く遊ぶには,どんな船を作ったらいゝでしょう。」
児童「本を読みます。」
児童「絵を見ます。」
児童「港へ行って見ます。」
教師「実物同様のものを作るには,それでいゝでしょうか。」
児童「どこへ行ったらいゝでしょうか。」
(三) 学習活動の発展
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児童は詳細な事がらを考えずに船を作ろうともくろむ。 | 船を作る計画を話しあう。
いろいろわからないことがあるのに気づく。 |
船の見学に行く必要がある。 | 見学の許しを頼む手紙を両親に書く。
手紙の冒頭 あいさつ 本文 結び 新語を学ぶ。 必要な字を知るために教師に聞く。 見学を計画する。 港の絵を見る。 港の地図を調べる。 問題の話しあい──研究事項。 港にある船の種類。 船の構造の相違。 港の地図を見て,道取りを決める。 学級の行く道取りを示す地図を作る際,児童は教師から旅行に関しての話を聞く。 見学に行く途中の態度。 見学に行く。 知識を得る。 船の大きさを比較する。 船を見る。 大洋定期船 ひき船 油そう船 水先案内船 渡し船 漁船 消火船 はしけ 船の用途による構造上の相違を知る。 活動中の船を見る。 倉庫およびドックを見る。 船に乗る。 |
港において見学した事がらを遊びにおいて行う。 | 大きな船やはしけをひいて行くひき船のまねをする。
港内の漁をまねる。 船をドックヘ入れる。 遊びを評価する。 |
港で見たものを描いて見たい。 | 計画を立てる。
話しあい。 絵を見る。 絵を描く。 絵を評価する。 |
案内者へ,厚意に対するお礼の手紙を書く必要がある。 | 上手に手紙を書く。
感謝の念をあらわす。 |
港で必要な船種を定める。 | 見学で得た知識を話しあう。
必要があれば船種表に附加する。 |
各児童の作る船種を選択する。 | 港遊びがおもしろく満足にできるように,作る船種を決めること。
絵を見る。 各自が興味を感じた船についての記事を読む。 |
船の工作に使う木材の選定。 | 船の各部の割合,定期船には大きい木,ひき船その他は小さい木。 |
船の作り方を学習したい。 | 教師から実際の船の作り方についての話を聞く。
設計図,模型,進水台,りゅう骨,進水式,ぎ装。 模型の船の作り方を聞く。 設計,船体,仕上げ。 |
船体を作る。 | 型作り。
寸法を測る。 線の引き方を習う。 型を船へうつす。 船体を作る。 サンド・ペーパーで船体をこする。 新語を学ぶ。 船体─へさき─とも |
船体が平らに浮かぶかどうかをためす必要がある。 | 船体を水に浮かべてみる。
平らに浮かばない時はけずる。 新語を学ぶ。 左げん─右げん |
甲板を作る必要がある。 | 船体に甲板をつける。
サンド・ペーパーで甲板をこする。 |
上部構造を作る必要がある。 | 船種によって上部構造の違うわけを知る。
船橋・煙突・マストの用途や種類・位置。 上部構造を作ってつける。 |
塗装をしたい。 | 塗装の仕方を調べる。
塗装をする─一時一色。 |
船の旗を作りたい。 | 日本の国旗。
会社旗。 旗の掲げ場所を見つける。 |
船名を書きたい。 | 船名の種類を学ぶ。
実際の船にならって命名する。 書体を練習する。 船名をペンキでつける。 |
海の詩を聞きたい。 | 海についての詩や歌を鑑賞する。
海の詩を作る。 海の唱歌を覚える。 |
船並びに海上の生活の話を聞きたい。 | 物語を鑑賞する。
さし絵を見る。 気に入った所について話しあう。 |
海や船の絵を描きたい。 | 水の色について話しあう。
水の色を種々に描いた絵をみる。 煙はどんなに見えるかを話しあったり絵で見る。 海や港や船の絵を描く。 |
船の絵を集めたい。 | 船の絵を集める。
昔からの船の絵を見て楽しむ。 九木舟以来の船の発達を学習する。 和船と外国船とを比べる。 |
港の見学で経験したことをいれて港の遊びをしてみたい。 | 水先案内艇および水先案内者のまねをして遊ぶ。
ひき船が大きい船をひくのをまねて遊ぶ。 ドックを使ってみる。 グループで遊ぶ楽しみを味わう。 |
遊びをしているうちに安全施設について学びたくなる。 | 港の役人の仕事の話を聞く。
自分たちの港の役人を選び出す。 港の安全施設について学ぶ。 灯台 浮標 停泊場所 信号灯 |
貨物の積みおろしをまねてみたい。 | 遊びの計画を立てる。
一般船荷を積みこむ。 一般船荷の陸揚げ。 漁船の魚の陸楊げ。 遊びを評価する。 |
漁業に関して調べてみたい。 | 食料に供せられる魚の種類を話しあう(まぐろ・いわし)。
魚のとれる場所を調べる(沿岸,大洋) 魚をとるいろいろな方法を本で読む。 つり 突き棒 網 魚の陸揚げ。 |
漁業について調べたことを遊びに入れてみたい。 | 網をつくる。
まぐろをつる。 いわしをとる。 まぐろやいわしの陸揚げと運搬。 |
船内生活のことを知りたい。 | 船旅をしたことのある人や,船員の話を聞く。
船内の居室や娯楽のことを聞く。 船内の食物の話を聞く。 港における食物や水の補給のことを調べる。 船内の電気,水の使用のことを聞く。 船内の絵を見る。 船内の火災や病気のことを聞く。 |
リズム的活動を楽しみたい。 | 次のような型のものが取り入れられ発展させられる。
波の移動。 船荷の積みおろし。 ひき船の大船ひき。 帆船の帆走。 甲板掃除。 船の操縦。 帆を張ること。 いかりの引き上げ。 まぐろつき。 |
船と港の展覧会をやりたい。 | 展覧会の計画を立てる。
両親や知りあいの人に案内状を書く。 プログラムを作る。 司会者,唱歌,お話,港の遊び。 展覧品の陳列のし方をきめる。 展覧会の準備をする。 計画どおり展覧会を実施する。 |
(一) 身体的発達
クレヨンや絵貝を上手に使うようになる。
筋肉協調運動が発達する。
付随して得られた知識を,必要に応じて適用する。
考えを話しあう。
賢い評価の方法を学習する。
遊びの際に力を合わせることを覚える。
律動的活動の際に力を合わせることを覚える。
他人の話を傾聴することを学ぶ。
港で働く人々やその仕事についての理解が深まる。
港の生活が文化社会に重要なものであることを深く理解する。
問題解決に助力してくれた人々への感謝の心持の表わし方を覚える。
目的達成への熱意を持つ。
有効な活動に満足することができる。
自分らの創作した物語や詩および絵画の鑑賞の態度が発展する。
専門家の創作した物語や詩および絵画の鑑賞の態度が発展する。
一.この作業単元の有する効用
(一) 学習指導計画に対する効用
この作業単元は,学習指導要領に示された第五学年児童の問題六,八および問題一,二,三,七,九の解決に有効な,次のような学習活動を含んでいる。
2.放送局を見学すること。
3.ラジオ放送の発達について,読書したり,話を聞いたりすること。
4.ラジオのプログラムを調べること。
5.ラジオ放送を聞くこと。
6.ラジオ放送(模擬)を計画し実施すること。
7.物語・詩歌・劇の脚本をつくること。
8.ラジオのさまざまの効用を調べること。
9.ラジオを勉強に利用する方法について話しあうこと。
10.自分の家のラジオセットの由来や保全およびそれに要する費用を調べること。
次の諸点から,児童の興味を満足させると共に,児童たちを成長させるのに役立つ。
2.すでに得た経験から出発して,現在の新しい経験に進展する。
3.好奇心を満足させる。
4.団体としての,また個人としての表現の機会がある。
5.物を作ったり,操作したりすることを含んでいる。
6.芸術的,創作的な表現の機会を与える。
7.団体の一員として働く機会を与える。
8.児童の自分たちに直接関係のある問題を解決する機会を与える。
9.特殊能力,特に言語能力の学習に適した活動が含まれている。
10.教室内の施設・時間・視覚教便物等を使って教室内で実施し得る。
民主主義的なやり方に,進んで加わって行くために必要な行動様式を形成させるのに,都合がよい。
各児童には,活動を選ぶ余地があるし,グループ間,あるいは個人間には,協力および交渉の機会が与えられる。学習作業・劇化あそび・リズミカルな表現,その他の自主的活動が満足なものになるには,全体は個人に,個人は全体に依存する。この相互交渉を通じて,協力・寛容・他人の権利の尊重といった態度が養成される。これらのものは,児童が民主主義的な社会の秩序に関係した問題を,正しく理解し,正しく取り扱うのに役立つであろう。
二.指導過程
(一) 発端
第一日は,児童たちは,ラジオ放送についての学習活動を促すようにつくられた学習環境をみて驚く,始業まで,児童たちは環境の事物を詳しく調べるであろう。学習環境には次のようなものが含まれている。
2.擬音装置。
3.ラジオ放送実施状況を示す絵。
4.放送スタジオの写真。
5.放送局の写真。
6.ラジオの放送番組。
7.ラジオセット。
8.書籍及雑誌。
9.ラジオのテキスト。
10.工作用具。
「見給え,本当のマイクだよ。放送してみようか。」
「この箱はどんなふうになるのだろう。」
「それは手品なんだよ。」
「今度はラジオのことを勉強できるんだな。」
「ぼくたちもマイクを使えるのかな。」
「どんなふうに放送するんだろう。」
「いつやりはじめるんだろう。」
「ぼくはほんとうの放送局へ行ったことがある。すてきだぜ。」
「このラジオは聞こえるかしら。」
「スイッチをいれてみよう。」
始業になると,児童はめいめいの席にもどる。
教師 「きみたちは砂箱を面白がっていたね,あれはどうするものだか知っていますか。」
児童 「ぼくは,前に劇のとき,上級生がそれを使っているのを見ました。汽車のような音を出すのです。」
児童 「ぼくたちも,劇をしてそれを使ってみたいなあ。」
教師 「どんな劇をやるの。」
児童 「みんなで決めます。」
児童 「そしてそれを放送するんです。」
教師 「きみたちのお家には,ラジオがありますか。毎日ラジオをきいている人は?」
児童答える。
教師 「劇を作って放送ごっこをするのもよいが,ラジオについていろいろ調べてみるのも面白いでしよう。これからきみたちのやりたいこと,調べたいことを書いてみましょう。」
教師──黒板に書く──
したいこと | 1.劇を作る。
2.擬音装置を作る。 3.放送ごっこをする。 |
しらべること | 1.ラジオ(放送)のはたらき。
2.ラジオ(発明)の歴史。 3.自分の家のラジオ(セット)。 4.放送局の仕事。 5.ラジオの料金。 |
教師 「放送できるかね。」
児童 「できます。」
教師 「できる人は手をあげてごらんなさい。」
(何人かの児童がやれるというので,教師はマイクロフォンを準備する。何人かのものが放送し,他のものは聞き手になる)
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放送をしてみたい。 | 希望者が,準備なしに唱歌や物語などを勝手に放送をしてみる。
ノートを持って,あるいはノートなしで放送する。 放送を聞く。 次のことを見出だす。 1.あまり短い。 2.内容が貧弱で面白くない。 3.擬音装置がほしい。 4.本当の放送で使うような台本がいる。 5.放送の準備についてもっと調べる必要がある。別の放送の準備をしようときめる。よい擬音装置を作ることをきめる。 |
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台本を作って,それによって放送したい。 | 本当の台本は,どんなふうに書かれているかを調べようときめる。
1.何冊かの続いた台本を見て調べる。 2.それが,劇の形に書かれていることを発見する。 3.物語ばかりでなく (1) アナウンサー (2) 説明者 (3) 演技者 (4) 音響効果 (5) 音楽 なども書いてあることを発見する。 4.台本に使われている用語の意味を知る。 5.必要に応じてそれらの用語を使用する。 台本を書くには,どんな用意が必要かを読んで調べる。 「父の看病」の物語を読む。 「父の看病」の物語を細かく調べる。 演劇放送をいくつか聞く。 台本を書くためグループに仕事を分ける。 グループ内で仕事を分担する。 他のグループのものと協力する。 台本を書く。 辞書を使って必要なことばを見つける。 執筆者たちが辞書でことばを見つけられない時は,先生に頼んで手帳に書いてもらう。 音響効果の必要について話しあう。 ラジオで聞いた擬音について話しあう。 台本に入れるための擬音を作ることをきめる。 簡易な擬音装置を読み物で調べる。 擬音装置の実験をして報告を書く。 その実験報告を整理する。 大きな擬音装置を作る委員たちを選ぶ。 擬音装置の設計図を書く。 指揮者の任務を検討する。 必要な道具や装置についての報告をする。 計画にチェックをする。 擬音装置を作りあげる。 マイクで擬音を実験する。 その成績を評価する。 音響効果係を選ぶ。 あとで使いやすいように音響効果を整理する。 実際に放送されている音響効果を聴取する。 録音されている音響効果について,読み物で調べる。 録音による音響効果を実際の放送の中から聞き分ける。 ラジオのプログラムの中にある音響効果の記録をとってみる。 音響効果に関する仕事の分野が広くなってきていることを発見する。 実際の場面で実際の音響効果が録音される状況についての興味深い物語を読む。 それに必要な設備を知る。 音響効果係の人の働いているようすを絵に描く。 第一回目の計画的放送(模擬)の準備をする。 1.台本の校正。 (1) 誤りを正す。 (2) いろいろな本を参照する。 2.演出者や技師たちに渡すだけの台本の写しをとる。 3.だれとだれが台本を持つべきかをきめる。 4.練習に読むのを聞いてもらう。 5.放送用の台本を仕上げる。 6.予習をする。 7.調整室の必要なことがわかる。 8.放送時刻をきめる。 第一回の計画的放送を実施する。 放送の成績を評価する。 1.改善法を列挙する。 2.次回のために,演劇の長さはどのくらいがよいかを判断する。 3.放送を採点してみる。 話しあって次のことを決議する。 1.アナウンスや説明の仕方をもっと勉強すること。 2.筋をどう発展させるかを勉強すること。 3.脚色する技術を勉強すること。 4.合い間というものを知ること。 5.執筆する前に,もっとしっかりした知識を持つこと。 6.声の質を考えて配役を選ぶこと。 7.マイクの技術を進歩させること。 8.台詞を上手に渡し合うこと。 9.放送中にむだな時間を作らないこと。 10.調整室を作ること。 脚本の意義がわかる。 脚本は,どんなふうに展開されているかがわかる。 学級全体で書く脚本をきめる。 あらすじを書く考えを出しあう。 脚本のすじについて,学級の全員が,めいめいの意見をのべる。 |
第二は台本を書くことと,放送の技術を進歩させる必要とである。便宜上,まず調整室の必要をとりあげ,次に台本を書くことを問題としてみよう。
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調整室を作ることが必要である。 | 台詞の言い継ぎをうまくやる必要があることを決める。
アナウンサーがいつも見張っているわけを知る。 ラジオの時間が一分でもたいせつなことを,読み物によって知る。 「放送中」という信号について読む。 自分たちの信号を発展させ,これを使う。 放送室の電気信号について知る。 調整室の重要性について読む。 調整室を見たことのあるものは,そのようすを話す。 その写真や絵を見る。 スタジオを見学することを決議する。 スタジオに問い合わせを出す。 見学の準備をする。 両親に見学の許しを頼む手紙を書く。 見学のときの態度について話しあう。 次のようなことを調べようと決議する。 1.調整室。 2.電気信号。 3.放送中に使われる諸記号。 4.音響装置の使用。 5.アナウンサーの話しぶりと声。 6.台本作製部の組織。 7.スタジオ内の部別。 見学に出かける。 スタジオの人たちの助力に対しお礼を言う。 見学の経験(次のようなことについて)を考えたり話しあったりする。 1.使われていた信号。 2.「放送中」の記号。 3.音の調節(強弱)。 4.マイクの技術。 5.アナウンサーの声の質。 6.舞台の組織。 7.各部(係)の組織。 8.適役の割りふり。 9.音響効果の使用。 10.台本の使い方。 11.調整室の状況。 放送局のスタジオに必要な各係の図表を作る。 調整室の設計について話しあう。 その大きさをきめる。 その場所をきめる。 設計図をいくつか作る。 設計図のうちよいものを選ぶ。 調整室を作る。 放送に調整室を使う。 放送局で見た放送プログラムの種類を話しあう。 ラジオ放送を聞く。 本ものの放送局のような仕組にすることをきめる。 |
よいアナウンサーとはどんなものかきめてみる。
ラジオで聞いたことのあるアナウンサーたちの技術について話しあう。 よいマイクの技術が必要なことを知る。 アナウンサーの話を読む。 放送プログラムがどのようにしてできるかについて読む。 一般の注意をひきつける方法を見つける。 放送には,表情豊かなことばを使う必要があることを知る。 ことばの一覧表を作る。 語数をますため辞書を使う。 記述語とその名称を知る。 物語の中の形容詞に印をつける。 熟語をより分けてみる。 現在使われている俗語をより分けてみる。 俗語の表を作る。 俗語の正しい使い方について話しあいをする。 俗語の価値とその将来についてパネル討議法(代表が出て討論し他はこれを傍聴する)を実施してみる。 パネル討議のさばき方を学ぶ。 アナウンサーの種類について知る。 声の質の重要性を知る。 発音を正しくすることの重要性を話しあう。 学級のものの声の質を調べる。 同じく発音を調べる。 話しぶりをよくする方法について読む。 アナウンサーが目に見えるように話して聞かせる,その仕方を見きわめる。 アナウンサーの話し方によく耳を傾けこれを味わう。 放送のための原稿を書く。 それを評価する。 自分たちの放送局の呼び出し符号を作ることをきめる。 放送局はどのようにしてその呼び出し符号をきめるかを知る。 放送局の名まえは何度ぐらいくり返されるかを調べる。 ラジオの調整法を調べる。 日本放送協会について調べる。 いろいろと波長を変える必要が,わかる。 ラジオの放送網について読む。 有線電話の使い方使われ方を知る。 放送網の地図を見る。 地方放送局とその放送網を示す地図を描く。 放送網がどんな働きをしているかを読む。 |
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他の放送種目を作りたくなる。 | 他の放送種目を見つける。
毎日のラジオ番組を調べる。 次のことについて読む。 1.ニュース放送。 2.スポーツ放送。 3.講演の放送。 4.詩の朗読。 5.放送局からのお知らせ。 6.ラジオドラマ。 7.音楽放送。 そのおのおのをやってみることをきめる。 |
(便宜上ニュース放送から始めることにする)
ニュース放送をしようとする。 |
ニュース放送をやることにきめる。
ニュース放送を聞く。 どんなことが放送されているかに注意する。 日常親しんでいる (1) ニュース時間 (2) ニュース解説者 (3) ニュース報道 について話しあう。 これらのものが重んぜられているわけを話しあう。 やってみたいニュース放送の種類をきめる。 ニュース放送にいれなくてはならないことを話しあう。 ニュースの原稿の書き方について読む。 ジャーナリズムの五つの合いことば,「何を,どこで,いつ,だれが,どうして」を見つける。 新聞と時事問題を研究する。 簡単なニュースの筋書きを書く。 ニュースの筋書きを評価する。 書き出しのことばの必要をさとる。 書き出しのことばを列挙してみる。 よりよいニュースの筋書きを作る。 マイクの技術を評価する。 ニュースの原稿を書くことにきめる。 放送中にやる音楽をきめる。 曲目を用意する。 一番よいニュースの原稿を選ぶ。 放送をする。 放送を評価する。 ニュース放送が人々にどんな影響を与えるかについて話しあう。 ニュース放送が人々にどんなに役立っているかを話しあう。 |
講演の放送をしてみたい。 | 講演の放送を聞く。
放送された講演の種類を列挙する。 講演の原稿を書く時に注意すべきことを調べる。 講演の題材にする社会の問題を選定する。 講演の原稿を書く。 アナウンスの原稿を書く。 講演の予行をする。 講演をする。 放送の評価をする。 1.発音 2.諭旨の発展 3.結論 4.マイクの技術 5.話し手の話しぶり 以前の原稿の取り扱い方を調べる。 研究室に保管されている記録について読む。 |
詩の朗読の放送をしてみたい。 | 学級で詩の朗読を聞く。
一番気に入った詩はどれかを討議し発表しあう。 詩の種類を調べる。 選んだ詩を鑑賞する。 詩を作る。 放送の準備をする。 音楽の伴奏を計画し準備する。 放送の予習をする。 放送する。 批評する。 どんなふうに改善すればよいかをきめる。 放送のしなおしをする。 放送局では放送のしなおしがどのようにして行われているかを調べる。 放送中,放送がどんなふうに記録されるかということを読んで調べる。 放送番組を知らせるポスター用の絵を描く。 その文字の書き方を批評する。 |
一般の人が,どんな放送種目を選んで聞くかを調査する必要がある。 | どんなふうにして資料を集めるかを決める。
必要な資料の種別をきめる。 質問紙を作る。 調べた事実を記録しておく委員会を選定する。 結果を表に作る。 題目や適当な名まえの書き方を覚える。 いろいろな種目の目的を話しあう。 その目的が達成されているかどうかを調べる。 その種目が,人々にどんな影響を及ぼしているかを話しあう。 放送を聞いて評価する。 発見した事項を報告する。 放送種目に決定事項を採り入れる。 ラジオがどのように世論を変えて行くかを話しあう。 ラジオによる弊害について話しあう。 |
ラジオの現在及び将来を調べてみたい。 | 現在のラジオの次のような働きについて,読み物で調べる。
1.市町村への便宜 2.医学および保健について 3.農家への時間 4.宗教の時間 5.両親や教師への時間 6.政治行政上の働き 7.法律の施行について ラジオの動きをまとめてみる。 |
わが国におけるラジオの利用の状況を知りたい。 | 全国の放送聴取戸数を調べる。
自分たちの学級の聴取戸数を調べる。 聴取申しこみの手続きや料金などのことを調べる。 日本放送協会の仕事を調べる。 ラジオの普及の障害となっている事がらを調べる。 |
ラジオの将来について知りたい。 | ラジオの将来について話しあう。
テレビジョンについて読む。 テレビジョンが,ラジオや映画にどんな影響を与えるかについて話しあう。 テレビジョンの原理について読む。 |
ラジオのなかった時代のことを調べてみたい。 | 事件の報道が次のような方法で行われたことを知る。
おふれ うわさ 手紙 旅人などの話 電信,電話 かわら版 新聞や雑誌 新知識が,次のような方法で広まって行ったことを調べる。 経験者の談話 書籍 新聞や雑誌 時報や天気予報が,どんなにして行われていたかを話しあう。 ラジオのなかった時代の人々の楽しみがどんなに少なかったか,音楽や劇やスポーツの放送などを例にとって話しあう。 |
ラジオが発明された事情が知りたい。 | 電気の発見から電信・電話の発明までの話を本で調べる。
電波の発見と無線電信の発明を調べる。 ラジオの発明とその普及のありさまを本で読む。 |
ラジオセットの種類を知りたい。 | 家庭にある受信機の種類を調べる。
ラジオ屋にある受信機の種類やねだんを知る。 受信機の取り扱い方手入れの仕方を聞く。 家庭や学校の受信機がいつ入手されたものか,その性能はどうかということについて話しあう。 |
発表会をやろうとする。 | 放送種目のうち,やれるものを話しあってきめる。
やる放送の種目をきめる。 必要なあらましを書く。 ラジオの歴史を組み入れようときめる。 音楽を用意する。 役員を選ぶ。 各係に分かれる。 1.技師 2.台詞書 3.音楽係 4.監督 5.案内係 6.擬音係 7.番組係 8.試聴係 各係はどんなことを心得,どんなことをしなくてはならないかを調べる。 全員が仕事を受け持つようにグループを編成する。 委員長を選ぶ。 進行時間表をつくる。 アナウンサーを選ぶ。 演技者をきめる。 予行をする。 演出をする。 評価をする。 |
(一) 身体的発達
この作業単元の中で,実施した実際の身体的活動によって,児童は身体的にも成長するだろう。その成長の例を挙げてみると。
2.正確に見たり正しく計ったりする結果,手と眼の微細な筋肉が発達する。
仕事終了後の掃除のような,目的のきまった運動をする。
読んだり聞いたり書いたりする場合にもよい姿勢をとる。
本単元の学習によって次のような児童の知能的発達がもたらされる。
(2) 問題の解決を試み,解決されるまで手をゆるめない。
(3) 参考資料を使う。
(4) 地図や図表を読む。
(5) はやく読みしかも要領を得る。
(6) 必要なことばを書くことを覚える。
(7) 参考資料をまとめる。
(8) 参考資料について報告する。
(9) 討論中,人の考えの筋について行く。
(10) 仕事の計画を立てる。
(11) 適切な返事をする。
(12) 手紙を書く。
(13) 辞書を使う。
(14) 設計図について距離を測定する。
(15) 精神的成長の基盤や高い趣味に導いてゆく興味を得る。
団体の中での行動に現われる児童の社会的発達は次のようなところに見られよう。
2.他のものの提案や意見を寛大に受けいれる。
3.他の個人やグループに対し提案や意見を出す。
4.他の個人や団体の権利を考慮する。
5.団体活動に参加する。
6.他の人やグループから課せられた責任をひきうける。
7.個人やグループの計画に協力する。
2.劇化遊びをする際に,絵を描いたり,歌ったり,字を書いたり,批評したり,物を作ったり,演出したりすること。
3.他人の役に立つことを意識したり,仕事に成功したことを感ずること。
4.失敗してもこれに耐え,またやりなおしをすること。
5.文明の恩沢をうけていることを感ずること。
学習指導要領 社会科編(一)
Approved by Ministry of Education
(Date Apr. 18, 1947)
昭和二十二年四月十八日 翻刻印刷
昭和二十二年五月 五日 翻刻発行
(昭和二十二年四月十八日文部省検査済)
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