第六章 第一学年の音楽指導

一 全体の指導目標

 第一学年では,児童の心理的発達段階の上から考えて,音楽教育のうちでも最も具体性を持っている歌唱教育に重点を置くのが至当と考えられる。歌うことは人間の感情の自然な表出であり,児童にとって特にそうである。したがって,歌うことによって音楽の美と喜びとを知り,気持を解放し,美しい情操養成への道を開くことは,音楽教育の正しい出発点である。ことに,歌唱においては,人間の肉体が楽器となるものであるから,随時随所で,演奏することができる特徴を持ち,利用にも極めて便利が多いので歌唱が重んぜられるのである。このように一学年では,歌唱教育に重点を置くけれども,しかし,これと同時に他の諸教育即ち器楽教育・鑑賞教育・創作教育に対しても適当な考慮を払い,指導を行う必要がある。なぜならば,歌唱以外の方面に恵まれた能力を持っている児童もあるであろうし,また音楽教育をできるだけ広い方面から行うことは,音楽的能力を健全に発達させ,音楽に対して正しい理解力を持たせる方法にほかならないからである。しかし,これらの諸教育のうちいずれを実施するかということは,直接教育の対象となっている児童の興味や能力や環境やその他学校の設備等によって決定せらるべき事がらであるから,その判断は学校自体にまかせらるべきである。しかし学校及び担任教師自体としてはできるだけすみやかにそれらの諸教育が適当な方法によって実行されるように努力するとともに,その実施についてできるだけの創意工夫をなすべきである。なお未分化段階にある当学年の児童に対しては,他の科目との一体的教育の方法を有効に実施する必要がある。特に遊戯・リズム体操・ダンス等の体育方面との結合,音楽絵画を通しての絵画との結合,歌詞を通しての国語教育との結合等は価値の高いものである。中でも体育との結合によるリズムを身体的,運動的につかむことは音楽教育としてのみならず,社会生活における団体訓練の基礎を作る意味で特に重視すべきである。したがって,この意味からは,従来の遊戯あるいは舞踊においてしばしば見られる抒情(じょじょう)的,文学的傾向よりも,むしろリズム体操やマスゲームなどの純粋にリズムやフォームを主体とした傾向に進む方が適当と考えられる。また絵画との結合においては,音楽から受けた印象を絵画に表現するというような聴覚印象を視覚印象に移す方法でなく,音楽絵画のような手段によるべきである。

 〔口絵参照〕

 音楽絵画とは口絵に示したように,旋律とこれを構成する諸要素とを,歌詞を利用して直接に結びつけたもので,子供の想像力を豊かにすると同時に楽譜の教育にも役立つものと考えられる。

 全体として見る時,第一学年の音楽教育は,教師が教えこむという意味の教育としてでなく,児童自身が持つ音や音楽や楽器等に対する興味と好奇心とを自覚させ,音楽の喜びに心行くまでひたらせることを目的として行わるべきである。

二 歌 唱 教 育

一 指導目標

二 児童の生理的心理的段階,教材選択の基準,指導法 三 学習結果の考査

 第一学年児童の歌唱教育における学習結果の考査は,次の諸点を中心にして行うべきであろう。

四 教 材

 巻末に示す教材は,教材の全部ではなくて一部である。したがって教師はそれらを参考として,なお広い範囲から選択することが許される。

 

三 器 楽 教 育

一 指導目標

二 児童の生理的心理的段階,教材選択の基準,指導法 三 学習結果の考査

 第一学年の児童の器楽教育における学習結果の考査は,リズムを正確にとらえることがどの程度行われているかを中心とすべきである。この考査は楽器を与えてある時は楽器について,また楽器を与えてない時には手拍子あるいは身体の運動によって考査することができる。

四 教 材

 教材は歌唱教育の教材の利用を主とする。

 

四 鑑 賞 教 育

一 指導目標

二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法 三 学習結果の考査

 第一学年の児童の鑑賞教育における学習結果の考査は,音楽の感じに対する理解を中心に行うのが適当である。例えば,速い音楽,遅い音楽,愉快な音楽,静かな音楽などというような感じを理解することである。

四 教材 巻末に示す

 

五 創 作 教 育

一 指導目標

二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法 三 学習結果の考査

 第一学年では創作教育の学習結果の考査は行わない。