第 四 章

第一 音楽の学習指導法

説 明

 

 

第二 学習指導上注意すべき要点

一 本格的な発声法の学習には困難があるけれども,次のような点に注意する。

 

二 リズムは音楽の鼓動であるから,正確に且つ自然に表現されなければならない。

 それについては次のような点に注意する。

 

三 音階は音感を養成する上に重大な関係があるから,小学校低学年では長音階を大多数とし,小学校の高学年から短音階や日本音階を次第に導入して行く。また調子も低学年ではハ長調を主とし,次第にト長調・ヘ長調・変ロ長調・ニ長調その他に及んで行く。 小学校第一学年 長音階

 ハ長調を主体とし,これにト長調・ヘ長調をまじえる。但し,第一学年では聴唱法を主とするから,少数のやさしい変ロ長調・ニ長調をまじえることもできる。

小学校第二学年 第一学年に同じ。

小学校第三学年 長音階 大多数

 ハ長調・ト長調・ヘ長調を主体とし,変ロ長調・ニ長調も次第に増加する。

小学校第四学年 長音階 多数

 短音階その他の音階  少数

 調子はこれまでのものにイ短調あるいは日本調をまぜる。

小学校第五学年 長音階を多数とするも,短音階その他の音階も増加する。調子も,これまでのもののほかにイ長調・変ホ長調をまぜることができる。

小学校第六学年  第五学年に同じ。

中  学  校  別に制限を設けない。但し嬰(えい)記号・変記号ともに四つ以上の調子は避けるほうが適当であろう。

四 器楽において使用する楽器の種類の選択は,児童の身体の発達の状態によく適し,且つ児童の興味に適合するものを用いることが大切である。

 

五 歌唱においても,器楽においても,表現の技巧として次のような点を注意して練習させる。

 

六 鑑賞教育の詳しい指導目標及び指導法については,第六章以下において各学年別に示してあるが,ここでは,特に注意すべき要点と教材の若の実例について例示する。

 

七 創作教育は新しい分野であるから,それの階梯については今後の研究に待たなければならないが,次に若干参考となる方法を示す。

 

 以上七つの項目に分けて説明した学習指導上注意すべき要点は,すでに述べたように決して指令ではなく,一つの参考であるから,その点は十分誤解ないように望む。

 

第三 音楽と他教科及び学校生活との関連

 

一 体育との関連

 音楽と体育とは特に深い関係にある。中でもダンスは音楽と体育との総合されたもので,リズムを中心として児童に精神的,身体的な喜びを与える。幼児及び小学校の低学年児童においては,ダンスという形においてでなく,広い意味の遊戯として音楽と体育との結合が考えられる。遊戯は児童が最も好むものの一つであるが,それによって次のような事がらが習得される。

 

 リズムは頭脳的なものとして理解せられる前に,身体的,感覚的なものとして直感的に身について来なければならない。例えば,われわれの足がそろわないのは,リズム感の欠除から起るのである。その意味で,リズムを身体的にとらえさせる遊戯は高い価値を持っている。そして,そのようなリズム感の獲得は,年齢とともに精神的なものに発展して行く。次にリズミカルな運動を行うことによって,身体的能力は無理なく自然に発達して行く。また遊戯を実施するためには,児童たちが協力することが大切である。もちろん幼児あるいは低学年児童は自己中心的傾向が強いから,全部の児童がいっせいにそろうということには困難があり,またそれを強制することもよくないが,遊戯を通して自然のうちに協力への習慣を養い,秩序の快感を味わわせることは大切である。遊戯を反復しているうちに無理なく旋律を記憶することも,音楽の上から考える時には一つの利益である。最後に全体として遊戯は精神の解放に役立つ。児童が遊戯を好むのも,要するに精神の解放,即ち生き生きした喜びを感ずるからである。

 小学校高学年から中学校にかけては,ダンスあるいはマスゲームのようなものが遊戯の発展として考えられる。ダンスでは個性の自己表現が加わるとともに,フォームの美がはいって来る。そのような特徴は,情操の発達の上にも,身体の発達の上にも,よい結果が得られる。またマスゲームでは団体訓練の利益が大きく考えられる。ダンスやマスゲームにおけるこれらの特徴は,遊戯の特徴の上に更に加わって来るものである。

二 社会科との関連

 今度新たに設けられた社会科は,児童の社会生活経験を組織的に発展させることを目標にしており,したがって極めて複雑な内容を持っているとともに,あらゆる教科に関連を持っている。音楽が社会科と接触を持って来る面もかなり多く,それをどのように取り扱うかは将来の最も興味深い問題の一である。音楽の社会的効用というような点については,第一章の説明の最後の部分に触れてあるが,これをもう少し詳しく考えてみよう。社会科では,児童の社会生活のうちにおけるいろいろな楽しみというものが重要な単元である。この楽しみの内容のうちには,レクリエーション(厚生)があり,娯楽があり,また更に宗教的な要素さえも考えることができる。この面において音楽が持つ役割は,演劇や映画やスポーツ等とともに極めて大きい。第一章の説明の中でも述べたように,鑑賞という事がらのうちには,楽しみ即ちレクリエーションやまた品のよい娯楽の意味が含まれている。これは,余暇善用や自由研究やまた広く学校生活全体の中で十分考えられなければならない面である。この場合でも,音楽教育の方針を少しもゆがめる必要はなく,音楽そのものを味わわせ楽しませることで十分目的を達することができる。次には,児童の社会生活の中での意志感情の疎通という面がある。これは文通あるいは交際というような形で現われるが,ここでも音楽は重要な役割を持つ。多くの人間が集まって合唱や合奏をしたり,また音楽を聴いてそれについて話しあったりすることは,互の意志感情の疎通に大いに役立つ。それを通してクラスの気分がなごやかにもなろうし,また心を語りあう友を得ることもできるであろうし,また互の教養や物の考え方・感じ方を高めることもできる。更に合唱や合奏が,社会的協力や団体的訓練に役立つことはすでに述べたからここではくりかえさない。これは要するに秩序を愛する心を養うことであり,協力の精神を養成することである。以上のような事がらはいずれも小学校時代から実施できる社会科と音楽の関連であるが,中学校ではこれらの事がらが持続するとともに,更に次のような面が加わって来る。その一つは文化様式の問題で,音楽教育としても様式に対する理解を持たせることを望んでいる。様式の真の理解は,それを裏附けている世界観をとらえることによらなければならず,そこから社会科との深い関連が生ずる。従来の音楽教育ではこのような問題に触れることは考えられていなかったが,国民の音楽的教養を真に高めるためには,どうしてもここまで到達しなければならない。次に,音楽的創造において果たしている社会の役割を真に理解することである。すぐれた音楽的創造(広く言えば文化的創造)はただ単に芸術家の力によってのみできるものではなく,すぐれた社会の協力によって,言いかえれば芸術家と社会との交流の中から生まれるのである。芸術家もまた社会に属するものであることは言うまでもないが,音楽的創造という一つの限定された活動の中で考える時,芸術家と社会との二つの要素が見出だされるのである。真の音楽的創造が芸術家と社会との交流によって生まれるとすれば,過去の歴史の中で,芸術的創造について社会が果たした役割と意味とを十分理解することは大切である。この面における社会科と音楽との関連は,最高のものであり,また最も総合的なものである。このような関連を具体的にとらえさせることは将来の重要なテーマの一つである。

三 理科及び算数との関連

 理科で取り扱う音の問題は音楽にとって基礎的な事がらである。そして,理科において理論的,概念的な説明がなされる前に,児童は音についての感覚的経験を持つことが大切である。多数の感覚的経験が集合され,これに理論的説明が加えられる時,児童ははじめて真の理解を持つことができるのである。その意味から,小学校第四学年ごろから,音は何かがふるえることと関係があるということに気づかせ,のどや楽器などについてその経験をさせて行く。歌を歌うことも,笛を吹くことも,弦を鳴らすことも,打楽器を打つことも,発音についてのよい経験であろう。

 算数と音楽とは無関係のように考えられるが,実は決してそうではない。音楽の表現上重要な速度のごときは,数理観念がなくては理解ができない。また,拍子を計るにしても,長さを調べるにしても,数量と深いつながりを持っている。算数と密接な関連を持たせることの必要は,今更説明の要はあるまい。

四 工作との関連

 音楽と工作との関連は簡易楽器の製作という面で見出だされる。小学校で竹工が課せられるのは第四学年であり,木工が行われるのが第五学年である。そのような時,工作の教師と協力して簡単な笛や弦楽器や打楽器を作ることもよい練習となるであろう。これらのことはすでに実施せられており,新しいことではないが,いっそうの研究によってよい結果を得るようにしたい。

五 国語との関連

音楽と国語との関連は従来も深く考えられていた。直接には,国語教材を作曲して,児童の歌唱教材とすることである。これは今年度においても行われている。その他,劇においてこの両者を結合することで,これもまた従来から行われていた。このような方法は今後も当然続けられるであろう。更に根本的な点で,国語教育と音楽教育との間における情緒的発展の関係もまた考慮せらるべきであろう。これについては,今直ちに解決を得ることは困難であるが,将来の問題として考究する必要があろう。

六 音楽と学校生活

 音楽はただ単に音楽の時間においてだけでなく,学芸会・運動会・遠足・音楽会・学校行事・儀式などにおいて学校生活全体と深く関連している。このような場合に音楽が正しく扱われ,第一章において説明した音楽の持つ社会的価値が発揮せられることは大切である。このような機会を通して,音楽は児童の生活と結びついて行く。教育はある場を限って行うべきものではないから,音楽の教育においても,児童の生活全体にしみこんで行くことが望ましい。