第十二章 第七学年から第九学年までの音楽指導
一 全体の指導目標
中等科において生徒は青年期に入り,自我の自覚とともに精神の成長は著しくなり,芸術に対する欲求も次第に本格的となる。したがって,音楽教育も各分野にわたって芸術的に深めるとともに,体系的に行うことが大切である。そして初級中学校三年間は,基礎教育の完成期として,小学校で実施して来た各種の指導目標を継続しつつその程度を高め,十分な音楽的教養を高めなければならない。特に表現力の方面では合唱・合奏に力を注ぐとともに,創作力の伸長をはかる。
二 歌 唱 教 育
一 指導目標
2.歌唱においては旋律を中心とするが,リズム・和声並びに形式への関連を十分に理解させる。
3.合唱の技術を高める。
4.正確な歌唱につとめる。
5.歌唱における表情的技術を習得させる。
6.詩の内容を音楽的に生かすことにつとめる。
二 生徒の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.音域は次の標準による。
第一学年 |
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第二学年 |
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第三学年 女 子 |
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男 子 |
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3.生徒の精神的発達に対応し,音楽への興味を芸術的,体系的に発展させる。
4.拍子,音符の種類,音階・調子,曲の長さについては,生徒の能力及び傾向にもとづき自由に選択する。
5.曲の内容は多様にわたって差支ないが芸術的に価値のあるもの及び生活感情を豊かにするものを選ぶ。
6.合唱の訓練を十分に行い,合唱の技術を高めるとともに,合唱の喜びを十分に味わわせる。
7.読譜力・記譜力の養成につとめる。
8.音楽的に正確な歌唱をなすように指導する。
9.歌唱における表情的技術を教え,表現を美しくするよう指導する。
10.詩の内容を音楽的に生かし,歌曲の内容に深い理解を持つように指導する。
三 学習結果の考査
下級中学校の歌唱教育における学習結果の考査は,次の諸点に対して行うべきであろう。
2.音程 音程をとらえることがどの程度にできているかを考査する。
3.記憶 歌曲の記憶がどの程度にできているかを考査する。音楽の表現には記憶が非常に重要である。
4.発声 自然な正しい発声がどの程度にできているかを考査する。なおこれには発音も加味する必要がある。
5.和音 和音をとらえること及び和音に対する判別がどの程度にできているかを考査する。
6.読譜 読譜力の程度を考査する。できれば初見の力をも考査することが望ましい。
7.表情 さまざまな表情技術についての習得の程度を考査する。この考査は表情技術の各方面にわたることが必要である。
8.理解 楽曲の内容及び形式に対する理解力の程度を考査する。
9.合唱 合唱技術の習得の程度を考査する。
四 教 材
巻末に示す教材は,教材の全部ではなくて一部である。したがって教師はそれらを参考として,なお広い範囲から選択することが許される。
三 器 楽 教 育
一 指導目標
2.楽器の演奏技術を高める。
3.正確な演奏につとめる。
4.合奏の技術を高める。
5.演奏における表情的技術を高める。
6.音楽の内容及び形式に対する理解にもとづく演奏を行うことにつとめる。
二 生徒の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.生徒の精神的発達に対応し,音楽への興昧を芸術的,体系的に発展させる。
3.教材の選択については,歌唱教育及び鑑賞教育との関係を十分考慮する。
4.教材は多様にわたって差支ないが,芸術的に価値あるもの及び生活感情を豊かにするものを選ぶとともに,演奏技術の程度についても十分な考慮を払う。
5.楽器の編成を漸次本格的なものにするとともに,純粋器楽曲演奏の機会を多くする。
6.読譜力の養成につとめる。
7.音楽的に正確な演奏をし,且つ合奏の技術を高めるように指導する。
8.演奏における表情的技術を教え,表現を美しくするように指導する。
9.形式及び構成に対して十分な理解を持つように指導する。
10.生徒の指揮技術を高めるよう指導する。
三 学習結果の考査
2.技術 楽器演奏技術の程度と確実さとを考査する。
3.読譜
4.記憶
5.表情
6.理解
7.合奏
特に説明を附さない項目は歌唱教育の考査に準ずる。
四 教 材
純器楽曲教材を主とし,これに歌唱教育の教材の利用を加える。
四 鑑 賞 教 育
一 指導目標
2.音楽に対する知的理解を系統的に深めることによって,鑑賞力の増大をはかる。
3.音楽の持つ各要素の総合的把握を確実にする。
4.音の感覚的把握を通し,それの意味する内容及びそれの持つ情操を理解させる。
5.楽器及び人声の多種類な組み合わせによる美をとらえさせる。
6.国民牲の相違による各国の音楽の特徴を理解させる。
二 生徒の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.曲の長さは自由に選択できるが,常に生徒の興味と注意力とを集中できる程度を考慮する必要がある。
3.教材はあらゆる範囲から選択できるが,芸術的に価値あるもの及び生活感情を豊かにするものを選ぶことが大切である。
4.音楽に対する理解を体系的に発展させる。そのために音楽に関する理論的,歴史的知識を十分に持たせるよう指導する。
5.生徒自身の感想・理解・批判を発表させたり,またそれについて話しあう機会をできるだけ多く持たせる。
6.あらゆる種類の音楽,また各国の音楽の鑑賞を通して人間性への理解を深める。
7.音楽の様式についての理解を持たせるよう指導する。
三 学習結果の考査
2.音楽の形式及び構成に対する理解
3.楽器及び音色並びにそれらの組み合わせに対する理解
4.音楽の要素に対する理解
5.標題と音楽との関係に対する理解
6.音楽の判別力
7.各国音楽の特徴に対する理解
8.様式に対する理解
以上の諸項目を学年により適当に取捨選択する。
四 教材 巻末に示す。
五 創 作 教 育
一 指導目標
自我の自覚の強化及び情操の発達につれて,創作への興味及び意欲を増大させ,創作力の発達をはかる。
二 生徒の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.音楽に対する知的理解を系統的に深めることによって,創作力の増大をはかる。
3.演奏技術を進歩せしめることによって,創作への興味を深める。
4.鑑賞力の発達を創作力の成長に結びつける。
5.記譜力を養成する。
三 学習結果の考査
2.創作力