第十一章 第六学年の音楽指導
一 全体の指導目標
第六学年は第五学年の傾向がいっそう強まって行くから,第五学年の指導目標を継続するとともに,すでに青年期の目覚めも起って来るから自我の自覚も感じられ,したがって表現意欲の強まって来ることに注意すべきである。
二 歌 唱 教 育
一 指導目標
2.音楽の総合的理解の基礎として,音楽の形式並びに構成に関する知的理解を持たせる。
3.音楽の表現についての理解を持たせる。
4.詩の内容を音楽的に生かして行くことにつとめさせる。
5.歌唱教育は旋律を中心とするけれども,リズム及び和声への関連を常に理解させることにつとめる。
6.音楽の美的表現においては秩序ある協力が不可欠であることを理解させる。
7.ヨーロッパ音楽を主体とするが,日本の伝統的音楽の音組織による歌も教える。
8.音楽の自発的学習へ導く。
二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.音域は次の標準による。
3.自然な充実した発声を重視するとともに,音域の拡張をはかることに留意する。
4.児童の心理的発達段階は,種々の角度から見て次第に高い程度に達して行くから,音楽の指導においても感覚的,情緒的,知的各方面にわたり平均のとれた方法を実施する。
5.拍子は第四学年の場合と同じであってよい。
6.音符の種類及びその組み合わせについては自由でよいが,三十二分音符以上のこまかい音符の使用は避けるほうがよいであろう。
7.音階は長音階・短音階を自由に使用し,これに日本音階をも加える。
8.調子は長調でも短調でも漸次拡大する。
9.漸次合唱に力を注ぐ。
10.伴奏の形及び和声の種類を複雑にする。
11.歌の長さは自由であるが,あまり長いものは避けるほうがよい。これらの歌について,その形式及び旋律の構成の特徴等を理解させる。
12.歌の内容は第四学年のものと同じで,次第に程度を高める。
13.視唱を重視して読譜力の養成につとめるとともに,自主的なまた積極的な学習へと導く。
14.歌唱技術の程度の向上及び表情について習得させる。
三 学習結果の考査
第六学年の歌唱教育における学習結果の考査は第五学年の場合と同様で、ただその程度を高める。
四 教 材
巻末に示す教材は,教材の全部ではなくて一部である。したがって教師はそれらを参考として,なお広い範囲から選択することが許される。
三 器 楽 教 育
一 指導目標
2.音楽の持つ三つの要素の総合的把握,並びにこれと形式との関連についての理解を持たせる。
3.合奏に対する興味を深めるとともに,各人の協力の必要を深く感じさせる。
二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.歌唱教材の利用及び歌唱の伴奏を実施すると同時に,指導目標の3を達成するため,純粋の器楽曲演奏の機会を増加する。
3.教材の選択については,歌唱教育及び鑑賞教育との関係を十分考慮する。
4.楽器の種類を増加し,これまでのものに各種の旋律楽器を加える。
5.楽器の編成も漸次程度の高いものとして行く。しかし入手できる楽器を中心とすべきである。
6.児童の才能によってそれぞれに適する楽器を試みさせる。
7.特に高度な技術を持つ児童のある場合には,これに十分適当したパートを与える。
8.児童に指揮の機会を与える。
三 学習結果の考査
第六学年の器楽教育における学習結果の考査は第五学年の場合と同様で,ただその程度を高める。
四 教 材
歌唱教育の教材の利用と独立した器楽曲との両者にわたって選択する。
四 鑑 賞 教 育
一 指導目標
2.音楽についての理論的並びに歴史的知識を持たせる。
3.曲の理解には一定の解釈を強制すべきではなく,各人の個性的解釈を深め且つ広めて行く。これとともに各人の理解の基礎になる音楽に関する知識を与える。
4.リズムの基礎の上に流れる旋律及び和声の美を総合的にとらえさせるとともに,音楽の形式並びに構成についての理解を持たせる。
5.楽器に関する知識を深めるとともに,楽器の組み合わせによる音色美を味わわせる。また合唱の美も味わわせる。
6.標題と音楽との関係について理解を持たせる。
7.ヨーロッパ音楽に対する理解を深めるとともに,日本の伝統的音楽及び楽器についての理解も持たせる。
8.民謡及びこれに取材した音楽についての理解を深める。
二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.一曲の長さは六分ないし九分までを適当とするが,音楽の性質によってはそれ以上にわたる場合もある。それは音楽の性質または児童の心理的状態によって決定すべきである。
3.教材は絶対音楽と標題音楽の両者にわたる。
4.形式及び構成に関する初歩的な知識を系統的に与える。その種類については,第五学年で与えたもののほか,更に児童の進歩の程度に応じ適宜に増加して行く。
5.日本の伝統的音楽についても漸次その種類を増す。
6.広く各国の民謡を聞かせるとともに民謡に取材した音楽を聞かせる。
7.特に楽器の特徴を生かしているような音楽を聞かせるとともに,日本の伝統的楽器についても教え,ヨーロッパの楽器との相違に気づかせる。
8.合唱曲の中に若干の単純な宗教音楽を含める。
9.さまざまな楽器の組み合わせによる音楽を聞かせ,楽器の混合による音色美を味わわせる。これとともに,人声特に合唱の持つ美しさを器楽との比較において味わわせる。
10.音楽を聴く場合,その曲に対する歴史的なあるいは形式的な説明を加えたり,またその曲に対する児童の感想を述べさせたりするような方法を加える。児童自身の感想・理解・批判を発表させ,これを基礎にして適当なヒントを与えて行く方法を強化する。
11.作曲家や演奏家についての話を聞かせる。
三 学習結果の考査
第六学年の鑑賞教育における学習結果の考査は第五学年の場合と同様で,ただその程度を高める。
四 教材 巻末に示す。
五 創 作 教 育
一 指導目標
2.豊かな想像力を持たせる。
3.創作教育はりっぱな作品を作ることを目的としないで,児童に創作の体験を味わわせることを目的とする。
二 児童の生理的心理的発達段階,教材選択の基準,指導法
2.進歩の程度の低い児童に対しては,第三学年で実施した方法を継続する。
3.進歩の程度の高い児童に対しては,それに応ずるよう,理論的基礎知識を与えると同時に,適当な課題を与えて作曲させる。
4.楽典についての知識を漸次高めるとともに,進歩の程度の高い児童には和声学も施す。
5.鑑賞教育との関連によって形式並びに音楽の構成に関する理解を持たせる。
三 学習結果の考査
第六学年の創作教育における学習結果の考査は第五学年の場合と同様で,ただその程度を高める。