一 全体の指導目標
第五学年は抽象的,概念的なものの理解が第四学年よりも更にいっそう強まって来るから,第四学年において導入されたもろもろの新しい目標を互に発展させて行くべきである。それとともに創作教育にも力を注ぐ必要があろう。
二 歌 唱 教 育
一 指導目標
2.音楽の総合的理解の基礎として,音楽の形式並びに構成に関する知的理解を持たせる。
3.音楽の表現についての理解を持たせる。
4.詩の内容を音楽的に生かして行くことにつとめさせる。
5.歌唱教育は旋律を中心とするが,リズム及び和声への関連を常に理解させることにつとめる。
6.音楽の美的表現においては秩序ある協力が不可欠であることを理解させる。
7.ヨーロッパ音楽を主体とするが,なお日本の伝統的音楽の音組織による歌も教える。
8.音楽の自発的学習へ導く。
2.音域は次の標準による。
3.自然な充実した発声を重視するとともに,音域の拡張をはかることに留意する。
4.児童の心理的発達段階は種々な角度から見て最も円満な状態にあるから,音楽の指導においても感覚的,情緒的,知的各方面にわたり平均のとれた方法を実施する。
5.拍子は第四学年の場合と同じであってよい。
6.音符の種類及びその組み合わせについては自由であってよいが,三十二分音符以上のこまかい音符の使用は避けるほうがよいであろう。
7.音階は長音階・短音階を自由に使用し,これに日本音階をも加える。
8.調子は長調でも短調でも幾分拡大してよいであろう。
9.漸次合唱に力を注ぐ。
10.伴奏の形及び和声の種類を次第に複雑にする。
11.歌の長さは自由とするが,あまり長いものは避けるほうがよい。これらの歌についてその形式及び旋律の構成の特徴等を理解させる。
12.歌の内容は第四学年のものと同じで,次第にその程度を高める。
13.視唱を重視して読譜力の養成につとめるとともに,自主的なまた積極的な学習へと導く。
14.歌唱技術の程度の向上及び表情の巧みな表現について習得させる。
第五学年の歌唱教育における学習結果の考査は,次の諸点を中心に行うべきであろう。
1.音程
2.リズム 3.記憶 4.和音 5.読譜 6.表情 |
これらの諸点に対しては前学年よりも程度を高める。 |
7.理解 楽曲の形式や詩と音楽との関連についての理解の程度を考査する。但し,詩と音楽との関連についての説明は慎重でなければならない。即ち,詩の文学的内容の音楽的描写ではなく,詩の語感,句調,あるいは詩全体の調子をもととした音楽的表現に重点を置くべきである。
巻末に示す教材は,教材の全部ではなくて一部である。したがって教師はそれらを参考として,なお広い範囲から選択することが許される。
三 器 楽 教 育
一 指導目標
2.楽器の持つ三つの要素の総合的把握,並びにこれと形式との関連についての理解を持たせる。
3.合奏に対する興味を深めるとともに,各人の協力の必要を深く感じさせる。
〔説明〕独奏・室内楽・管弦楽等についての理解を持たせる。
2.歌唱教材の利用及び歌唱の伴奏を実施すると同時に,指導目標の3を達成するため,純粋の器楽曲合奏の機会を増加する。
3.教材の選択については歌唱教育及び鑑賞教育との関係を十分考慮する。
4.楽器の種類を増加し,これまでのものに各種の旋律楽器(例えば弦楽器・管楽器等)を加える。
5.楽器の編成も漸次程度の高いものとして行く。しかし入手できる楽器を中心とすべきである。
6.児童の才能によってそれぞれに適する楽器を試みさせる。
7.特に高度な技術を持つ児童のある場合には,これに十分適当したパートを与える。
8.さまざまな楽器の形体・音色・性能等を実物あるいは補助手段によって教えることができる。
第五学年の器楽教育における学習結果の考査は,次の諸点に対して行うべきであろう。
1.リズム
2.旋律 3.和音 4.技術 5.読譜 6.表情 |
これらの諸点については前学年よりも程度を高める。 |
7.理解 楽曲の内容及び形式に対する理解の程度を考査する。
歌唱教育の教材の利用と独立した器楽曲との両者にわたって選択する。
四 鑑 賞 教 育
一 指導目標
2.音楽についての理論的並びに歴史的知識を持たせる。
3.曲の理解には一定の解釈を強制すべきではなく,各人の個性的解釈を深め且つ広めて行く。これとともに各人の理解の基礎になる音楽に関する知識を与える。
4.リズムの基礎の上に流れる旋律及び和声の美を総合的にとらえさせるとともに,音楽の形式並びに構成についての理解を持たせる。
5.楽器に関する知識を深めるとともに,楽器の組み合わせによる音色美を味わわせる。また合唱の美も味わわせる。
6.標題と音楽との関係について理解を持たせる。
〔説明〕従来の音楽鑑賞教育では,音楽に対する文学的解釈が中心となっていたために,標題楽的なものが重要な位置を占めていた。しかし鑑賞教育は音の直接的理解をまず確立すべきで,したがって標題と音楽との関係についての理解は高学年において行うのが適当と考えられる。
7.ヨーロッパ音楽に対する理解を深めるとともに,日本の伝統的音楽及び楽器についての理解も持たせる。
8.各国の民謡と労働及び社会生活との関係についての理解を持たせるようにするとともに,民謡を主題とした音楽に対する理解を持たせる。
〔説明〕民謡は素朴(そぼく)な形からはいって次第に民謡を主題とした芸術的音楽に及んで行く。例えば,スペインの民謡「ラ=モスカ」は,ラベルの「ボレロ」にまで芸術的に高められ,フランス民謡「王の行進」は,ビゼーによって「アルルの女」の中で,序曲の変奏曲の主題やファランドールの主題などに用いられている。
2.一曲の長さは六分ないし九分までを適当とするが,音楽の性質によってはそれ以上にわたる場合もある。それは音楽の性質または児童の心理的状態によって決定すべきである。
3.教材は絶対音楽と標題音楽の両者にわたる。
4.形式及び構成に関する初歩的な知識を系統的に与える。形式については二部形式・三部形式・ロンド形式・変奏曲形式等を中心とする。
5.日本の伝統的音楽のうち単純で且つ上品なものを聞かせる。
6.労働及び社会生活と関係深い民謡を聞かせるとともに,民謡を主題とした各種の音楽を聞かせる。(例 ヴォルガの舟歌,麦打歌,アンダンテ カンタービレ(ロシア民謡による),ボレロ(スぺイン民謡))
7.特に楽器の特徴を生かしているような音楽を聞かせるとともに,日本の伝統的楽器についても教え,ヨーロッパの楽器との相違に気づかせる。
8.合唱曲の中にコラールのような若干の単純な宗教音楽を含める。
9.さまざまな楽器の組み合わせによる音楽を聞かせ,楽器の混合による音色美を味わわせる。これとともに,人声特に合唱の持つ美しさを器楽との比較において味わわせる。
10.音楽を聴く場合,その曲に対する歴史的なあるいは形式的な説明を加えたり,またその曲に対する児童の感想を述べさせたりするような方法をも加え,児童自身の感想・理解・批判を発表せしめ,これを基礎にして適当なヒントを与えて行く方法を強化する。
11.作曲家や演奏家についての話を聞かせる。
第五学年における鑑賞教育の学習結果の考査は,次の諸点に対して行うべきであろう。
2.楽器及び音色に対する理解 楽器の組み合わせについての判別力についても考査する。
3.要素の特徴に対する理解
4.判別
以上の四点に対しては前学年より程度を高めることが必要である。
5.形式 形式に対する理解力の程度を考査する。
6.標題 標題と音楽との関係に対する理解力の程度を考査する。
五 創 作 教 育
一 指導目標
2.豊かな想像力を持たせる。
3.創作教育はりっぱな作品を作ることを目的にせず,児童に創作の体験を味わわせることを目的とする。
4.創作教育は全部の児童に強制すべきではないが,なるべく多くの児童に創作の体験を持たせることを目的とする。
2.進歩の程度の低い児童に対しては,第三学年で実施した方法を継続する。
3.進歩の程度の高い児童に対しては,それに応ずるよう理論的基礎知識を与えると同時に,適当した課題を与えて作曲させる。
4.楽典についての知識を漸次高めて行く。
5.鑑賞教育との関連により,形式並びに音楽の構成に関する理解を持たせる。
第五学年の創作教育における学習結果の考査は次の諸点に対して行うのが適当であろう。
2.創作力 旋律及び楽曲の創作力についての程度を考査する。個々の児童の能力に応じた問題を考慮することが必要である。