第三節 読 み か た
小学校四、五、六学年における読みかた学習指導の目標は、一、二、三学年のそれを、さらに高めたものであって、だいたい、次のような能力を発展させる。
(二) 文を読む技術を身につけさせる。
(三) 読みかたの学習によって、聞くこと、話すこと、読むこと、つづることの四種の言語活動を相関的に行いうるようにさせる。
(四) ことばとその意義とを、しっかりと結びつけさせていく。
(五) 文字および語いを、ますます拡充させていく。
(六) 文章やことばのだいたいの構造を理解させていく。
(七) 文章の全体を概括させていく。
(八) 文章の表現および内容を正しく理解し、思考し、判断する力をつける。
(九) 文を正しく読むことによって、ふかい知識と、広い経験をえさせる。
(十) 広い読書によって、たくましい創造力をやしなう。
(十一) 多種多様の文形にふれさせていく。
(十二) ローマ字の読み書きができるようにさせる。
(十三) 辞書や参考書の使用法を身につけさせる。
(十四) 児童のための新聞や雑誌を読みこなさせる。
二 読みかた学習の材料
教師は、児童にできるだけ多くの読書の材料を与えて、広い読書活動を展開させなければならない。児童の読書材料は、児童の興味をそそるものであり、それを読むことによって、おのずからよい人間生活を営むことができるようなものでありたい。
次に、読みかた学習材料をいくつか拾いあげてみよう。
(二) 児童のための有名な文学作品。
(三) 児童を楽しませ、情感を豊かにするような神話・伝説。
(四) 美術・建築・音楽に関するもの。
(五) 文化の創造に寄与した人々の伝記およびその話。
(六) 宇宙の神秘、自然の法則、生物の生態など自然科学の原理に関するもの。
(七) 生活環境を科学的に観察したもの。
(八) 協同奉仕の精神を示したもの。
(九) 人類愛・国際平和・国際協調などの精神を啓発するもの。
(十) 国語に関するもの。
2 国語愛。
3 言語の本質。
4 日本語の成立。
5 外来語。
6 言語生活。
(十一) 自由・平等・博愛・平和・正義・寛容の思想の理解と発達を助けるもの。
(十二) 真・善・美に対する理解を与えるもの。
(十三) 信仰心をやしない、ぎせい・責任の精神生活を表わした物語。
(十四) 児童の体験記。
児童の読書材料は、このように広範囲にわたるものであるが、これを表現の様式のうえからわけてみると、
童謠・童詩・抒情詩・叙事詩・和歌・俳句など。
(二) 思索・記録のむれ。
手紙・日記・記録・報告・論文・随筆など。
(三) 物語のむれ。
童話・ぐう話・伝説・伝記・小説など。
(四) 演劇一般のむれ。
脚本・シナリオ・よびかけ・詩劇・謠曲・狂言など。
というように分類される。
国語教科書にかかげている各教材は、こうした意味の材料を集めて一つの基準を示したものと考えていい。
三 読書における身体的障害について
児童の読書能力をさまたげたり、あるいはこれを阻止するものに、次のような身体的障害がある。この障害は第一、二、三学年においても見られるが、高学年において、もっとも、いちじるしく現われるものであって、一時も早くこの障害をとり除いてやらなければならない。
ここに、それらの身体的障害と、その簡単なきょう正法をかかげてみよう。
児童の読書能力をもっともさまたげるものは、視力による障害である。この障害をとり除くために、教師はできるだけの努力をし、学校でできないことは父兄に注意して、適当な手段をとらなければならない。
窓・光の位置・内部裝置・光度等が不十分であり、不適当なばあいには、これらは、視力障害を起すおもな原因となる。これをふせぐには、
(2) 児童の席や向きをかえて、教室内で一ばん適当な位置をあたえる。
2 弱 視。
弱視は、いろいろな原因から起ってくる。眼のいたみとか、ふだんに頭痛のあるものの中には、弱視のものが多い。弱視を発見するには、次のようにする。
(2) 絵の中の細部を観察させる。
(3) カードに記された文字を見ていわせる。
この障害をきょう正するには、教師の力ではおよばない。したがって、教師は父兄に注意して、專門医の診断を受けさせる。
3 近視と遠視。
この障害を発見するには、
(2) 児童が地図とか、図表とかを見るために、そこから離れて立っている距離を見る。
このきょう正は、めがねの正しい調節を必要とする。
4 斜 視。
この障害もまた、観察することによってあきらかにされるが、これは、專門医の治療を受けるよりほかはない。
5 片眼の弱視。
この障害を発見するには、
(2) 実体鏡を見させる。
ただし、きょう正は、專門医によるほかはない。
(二)聴 力。
聴力障害もまた、読書能力をさまたげる大きな原因である。それで、児童は簡単なテストを受け、いちじるしい欠陷のあるものは、專門医の治療を受けさせる。
このテストに二つの方法がある。
(2) 時計の音でするテスト。
2 音の識別のできないもの。
正常聴力をもっている児童のなかにも、音の識別のできないものがある。これを発見するには、教師のことばを児童に反唱させてみる。なお、このテストには母音をつかうのが適当である。きょう正の方法としては、
(2) いろいろな音をだすときのくちびる・舌・のどの運動のようすを見せる。
(三) 言語障害。
この欠陷は、主として神経過敏から起ることが多い。これをきょう正するには、
(2) 児童とともに読み、次に単独で読ませる。
(3) はじめ、ささやき声で読み、次第に声を大きくさせる。
2 舌もつれ。
これは、発声器管に、き形があるかないかを調べる必要がある。それには、医師の検査を必要とする。きょう正の方法には、
(2) 音声をだす時、いかに舌・くちびる・口を用いるかを示す。
(四) 読書における身体的疲労。
座席の不適当であることもまた、疲労を招く原因となる。
(2) こしかけの高さ。
などを身長に適したものにする。
2 温 度。
疲労には温度が関係する。温度があまり高いときは、いっそう疲労が早い。また、反対に温度があまり低いと、誤読をしたり、作業にしくじったりする。
学習に適当な温度は、だいたい華氏七十度(摂氏二十度)である。
3 湿 度。
湿度もまた、学習に関係がある。暑い時に、湿度が多いと、むし暑さを覚える。このむし暑さは児童を疲労させる大きな原因となる。したがって、室内の温度に注意することは、児童の学習能率をあげるうえに大きな要素となる。
4 騒 音。
騒音の中で学習すると、いつも、精神を集中しなければならないので疲労しやすい。
四 読みかたの学習指導
2 読めない文字やわからない語句があったら、明らかにしていく。
3 内容を正しく、たしかに理解していく。
(2) なにが書いてあるか、文の筋をよく考えながら読んでいく。
(3) 自分の経験に照らしあわせて読んでいく。
(4) 文のおもしろさを発見していく。
(5) 文の組みたてを明らかにしていく。
(6) 文の書き表わしかたをしらべていく。
(7) 文の意味を大づかみにする。
(8) 文の内容について話しあいをする。
4 文の内容を正しく音声に表わすような朗読をする。
(2) はっきりした気持のよい声で読んでいく。
(3) お話するように読んでいく。
(4) 句読点に注意して読んでいく。
(5) 聞いている人によくわかるように読んでいく。
(6) 感情をあまりこちょうしないで、すなおに、人を喜ばせ、楽しませるように読んでいく。
5 意味をとる速度と正確さとを発達させる。
(2) 誤った目の運動や、くちびるの運動などを、自分で訓練していく。
6 読みかた学習の興味とその活動をふかめる。
(2) 物語や伝説などを脚色する。
(3) 対話・話しあい、あるいは発表などをする。
(4) 文章の内容を紙しばいにしたり、シナリオに書きかえたりする。
(5) 実験したり、観察したり、実地調査したりする。
7 読みかた学習に適する環境を整理する。
(2) たくさんのよい参考書やよい辞書をそなえる。
(3) 世界地図・日本地図・郷土地図・歴史年表などをそなえる。
(4) 名画集・風俗写真帳・絵はがきなどを集めておく。
8 ローマ字で読み書きできるようにする。
9 児童のための新聞や雑誌に興味をもって読んでいく。
(2) ニュース価値の高いものを読んで話しあいをする。
(3) 文学的・科学的な内容および表現をもった品の高いものを読んでいく。
(二) 第四、五、六学年後期の学習指導。
2 最初の感じが正しいかどうかを、読みを重ねるにつれて、たしかめていく。
3 文の意味を正しく、なるべくはやく、つかむようにする。
4 文の内容について思考し、判断する。
(2) 文の中にでてくる人物の考えや、行いが、正しいかどうかを考えてみる。
(3) この文が、自分にとって役にたつかどうかを考えてみる。
5 文の表現について具体的にしらべていく。
(2) 書き表わしかたが適切であるかどうかを見る。
(3) 文章がうまく表わされているかどうかを見る。
6 文の表現や内容を調べるために、話しあいをする。
7 多種多様な文を読んで、いろいろな文形にふれていく。
8 参考書や辞書のつかいかたになれていく。
(2) その辞書や参考書の特徴をよく知っておく。
(3) どんな辞書や参考書がよい本であるかを知るようにする。