第二節 作 文
(二) 作文にその興味を感じさせ、決して書くことに過重な負担をかけないようにする。
(三) 文字による表現の機会を児童の日常の生活の中に見いだし、作文の時間だけでなく、他の教科の学習活動と関連して、その能力の発展をはかる。
(四) 文字による表現の必要と価値とをわからせ、書いたものが、実際に役にたつ喜びを感じさせる。
(五) 話しかたから文字による表現へ発展させる最初のころは、話しかたと作文との関係を理解させることがたいせつである。文字で書くまえに絵で表わすようにして、その発展を容易にするくふうをすることが望ましい。子どもは書くまえにえがく。これは、絵をかくことへの第一歩である。
(六) できあがった作文を、おたがいに読みあったり、他校の作文を読みあったりして、話しあいをし、表現する心を起させるようにする。
(七) 教師は児童に、書く欲求を起させ、書けるという自信をのばさねばならない。はっきりした文章で書き表わすように自分の作文をなんべんも読みなおす習慣をつけさせる。さらに進んでは、なおしかたを教えて書きなおす習慣をつける。
(八) 文のまとめかたは、自分のしたことを時間的順序にしたがうか、思い起す順序にしたがうようにして、自由に書くようにする。
(九) 書き表わしかたは、国語教科書にしたがうとともに、自由な表現をさまたげないように、じょじょに気長に指導する。
(十) 教師は次に挙げるような各発展段階における表現上の特性に留意して、適切な指導を心がける。
二 前期発達段階における表現上の一般的特性
(二) 自分のしたことでも、順序立てて書くことさえむずかしく、きれぎれな表現になりやすい。
(三) ひとりごとをいいながら書く子どもが多い。
(四) 文章になれず書字力も低く、語いも貧弱であるから、長い文章を書くことはむずかしい。
(五) 他人の文章をまねて書く傾向が強い。
(六) 書きたりないところをおぎなったり、書きなおしたりすることいやがる。
(七) 修飾語の使用度数はきわめて少ない。
(八) 同じ語の重複が多い。たとえば、「わたくしは、きのう、がっこうへ、わたくしが、いきました。」また、「すると」「そして」等の接続のことばを乱用する。
(九) 小さな字を書くのに困難を感じ、また書くのもおそい。
三 後期発達段階における表現上の一般的特性
(二) 模倣性とともに、独自な考えを述べ、個性的なめばえが伸びてくる。
(三) 自分のしたことが時間的順序にしたがって、書けるようになる。三年の後半期になると、相当長い文章が書けるようになる。
(四) 生活経験が豊かになるにつれて、書かれる語も数を増してくる。
(五) 書き表わす形式が整ってきはじめるが、まだ筋がとおっていなかったり、語の重複があったりする。
(六) 形容詞・副詞が意識的につかえるようになる。
(七) 書こうとする題材の範囲が、家庭・学校に限らず、社会的な広がりをもちはじめる。
(八) この期の終りごろになると、他人の作文に対して批判的な見かたができるようになる。
(九) 読書欲が盛んになって、雑誌や読物からの影響が作文のうえに現われるようになる。
四 前期発達段階における学習指導(二年の中期まで)
2 生活上の必要から、しぜんに文字による表現を覚える。
3 文字でうまく表現できたことに喜びを感じ、読みあったり、話しあったりする。
4 促音・よう音など簡単な記号の使用ができるようになる。
5 二〇〇字程度の作文ができるようになる。
(二) 一年(入学期)における学習指導。
この時期は口でいい表わすことから文章で書き表わすことに移りかわる時で、作文学習上きわめて重要な意味をもっている。
2 通学の往復で見たり、聞いたりしたこと、家庭で起った楽しいできごと、他教科の学習から展開した話題など、いわゆる日常のことを、たとい小さなことでも話させる。
3 虫・花・動物・乗りものなど、実際のものについて話をさせる。
4 これらのお話の絵を、小黒板にかかせたり、あるいは、画用紙などに自由にかかせる。
5 かいた絵について、口で話させる。
6 児童の生活をかいた絵画を与えて、その絵についての話をさせることなどは、文章による表現のまえに行われなければならない。
7 それらの絵について、児童が何かいったことを、教師はひらがなで書いて、絵と文章といっしょにはりだしておく。
8 児童が、集団的に見たり、聞いたりしたこと、たとえば遠足や運動会、音楽会などの絵をかかせて、その絵について話をさせる。
9 その話を教師はひらがなで、絵の下に書き入れて、児童に読ませるようにする。また黒板にも書いてみせる。
10 文字のない絵日記をかかせ、それについて話をさせるのもいい。
11 社会科学習に関連して、ままごと遊び・おみせ遊び・乗りもの遊びなどの活動の中から、品物に名をつけたり、停留所に名をつけたり、またかんたんなことばを黒板に書いてみせ、子どもにも書かせてみる。
12 右のようにかんたんな文字で書くことを導くばあい、次のようなものを用意したい。
(2) 大型の鉛筆。(小さな鉛筆で、小さな字を書くことは、筋肉の発達からみてよいことではない。大型のもので、大きな文字を書かせるのがよい)
(3) 生活の中からひろった絵。(動物・乗りもの・花など)
(4) 紙。(画用紙・線をひいた書取用紙、お話を絵や文字で書いたりするノート)
13 文字による表現は、国語教科書の学習によって五十音を一とおり学習した第二学期後半が適当である。
14 その時までに、国語教科書の学習で、かんたんなことばを視写、聴写して、文字を学んでいるから、おみせごっこで、おもちゃのレッテルをつけ、おもちゃの町の名や建物の名を書いたりして、文字を書くことになれさせていく。
15 文字に書く必要な機会をつくってやるとともに、文字に書いたものを、教師・両親・友だちなどに示す機会をつくってやる。たとえば、
(2) 家に帰って、母親に伝言するためのひかえのことばを書かせる。
(3) 図画工作の作品にかんたんな説明を書かせる。
(4) かんたんな文字学習としての遊び、たとえば、おみせごっこ・ゆうびんごっこなどをする。
16 自分のまわりのできごとについて、絵を続けて書かせ、時間的な経過を口頭で説明させ、かんたんなことばを書きいれさせる。
17 ある児童に短い話をさせて、それをほかの児童が書きとる。教師もともにその話を書いて、比べてみることによって、文字の誤りなどに気づかせる。
18 このようにして、作文は、話をしたものを書き表わしたものであることを理解させる。
19 書いた作文を教室のかべにかかげたり、読んでやったりして、すぐれた作品をほめてやるようにする。
20 教師が話して聞かせ、それを絵にかかせ、さらに文字で説明をつけさせる。
21 文を書いている時、文字を忘れたなら、その場でその文字の書きかたを指導する。必要にせまられて書く文字学習は文字を覚えるよい機会である。
(三) 二年中期までの学習指導。
2 かいこ・にわとり・うさぎの飼育、発芽などの継続的な変化を観察した絵日記をかかせ、かんたんな説明を書かせる。
3 ふだんの生活を、絵からはなれて、文字でお話として書かせる。
4 経験を順序立てて書くことを学ばせるために、共通の生活である学校行事、たとえば、運動会・遠足・見学・展覧会などについて、口頭で発表させ、また文字で書かせる。
5 思想や感情を自由に表現させ、そのまま文字で書き表わすようにすべきである。
6 すぐれた作品は、読みあい、話しあって、批判的な態度をやしなっていく。
7 すぐれた文や詩を板書して、それを視写させ、時には、教師が読んでやって、それを聴写させる。
8 読みかたの学習と関連して、短い文(童詩)の表現へ導く。児童の感じたこと、見たことを形式的な音律にとらわれず自由なリズムで表わさせる。
9 友だちの作文を読んで、その書き表わしかたのすぐれた点を発見させる。
10 自分の作文や、友だちの作文を読んで、誤字・脱字・句読点の誤りを見つけだす練習をする。
11 教師や友だちどうしの話しあいを耳で聞いて、それを文字で書いていく。「 」や句読点に注意させる。
12 文字はおちついて正しく書く習慣をやしなう。
五 後期発達段階における学習指導(二年後期から三年まで)
2 必要に応じて、実際生活に役にたつ簡単な文章を、書くことができるようにする。
3 日常の生活を興味ぶかく話せるようにし、まとまりがなくても、八〇〇字程度までの作文が書けるようにする。
4 すこし漢字のまじったひらがなの文章が書けるようにし、句読点と助詞とを正しくつかうようにする。
5 できあがった作文を読みかえし、書きたりないところを自分でおぎなったり、誤字・脱字を発見して、自分で訂正するようにする。
(二) 二年の中ごろまでに、児童は自分の考えを文字で書き表わすことの必要に気づいてくるから、さらに進んで手紙・はがき・報告などの目あてのはっきりした表現を学ばせていく。
(三) 児童の過去の経験となんにも関連のないことばを学ばせるのは、望ましいことではない。
(四) 次のような学習を通して指導する。
2 個人的作業。(絵物語・紙しばい・手紙・自分の好きなもの・おもちゃなどについての作文)
(五) 書こうとしているものを話させ、それから書くようにする。口頭の発表は、いつも文字で書くことの基礎である。
(六) 児童の表現活動には、いつも目をくばっていることが必要であり、次のようなことに注意を向けなければいけない。
2 何を書くかを、書くまえに心で考えさせる。
3 句読点。
4 ぞんざいに書かない。教師は高い標準をもっていて、粗雑な書きかたを見のがさないようにせねばならない。
(七) 次のような書く機会をとらえて指導する。
(2) 教室のもよおしものについて、他の学級への招待状や、招待状の返事の手紙。
(3) 転校していった先生や、友だちへの手紙。
(4) 病気で欠席している先生や友だちへの手紙。
(5) 見学や調査をするときに、許可を求める手紙。(社会科の学習ではしばしば必要になる)
(6) 見学や調査のあとでのお礼の手紙。
(7) 児童作品や学校の情報を交換するための他校への手紙。
(8) 夏休み・冬休みなどに、校長や受持先生へ状況を知らせる手紙。
2 必要と興味のあることがらについて。
(2) 子ども会の規約。
(3) 学枚新聞・学級新聞。
(4) 個人の生活日記や学級日記。
(5) 飼育日記・観察日記(うさぎ・にわとり・かいこ・魚、そのほか動植物の観察・飼育・栽培)
(6) 見まちがいをしないための道しるべ。
(7) 工作で作る経過の記録。
(8) 会合に出て発表する話の大要。
(9) おもしろい本についての読後の感想。
3 次のような興味ある必要なノート・発表文・広告文。
(2) 会合の通知・ひろいもの・なくしたものの通知。
4 次のような創作活動。
(2) 童話や簡単な子どもしばいの脚本。
(3) なぞなぞ・笑い話。
(4) 逸話。
(八)日常の経験をまとめて作文に書くためには、時間的に、できるだけこまかく書くようにする。そのためには、形容詞とか、動詞とかのことばの構造や使用について理解させる。しかし、形容詞とか、動詞などと品詞名を教えてはならない。
2 青いかえるがとんだ。
3 小さな青いかえるがかるくとんだ。
4 小さな青いかえるがわたくしの足の上にかるくとんだ。
(九)自分の心持を書く時に、ただうれしいとか、おもしろいとか、楽しいとか書くだけでなく、そのうれしいおもしろいたのしいことのようすなど、できるだけ形に表わして書く。
(十) 手紙の文では、相手と向かいあって話をするような自由な心持で書く。
(十一) 児童に遊んだこと、学んだこと、お手伝いをしたことを書かせる。そのときのありさまとともに「だれがこれこれのことをした。」「だれがこれこれのことをいった。」と書くようにする。
(十二) 他人の作品を読んで、どんな点がすぐれているか、自分はどう思うかなどの感想を発表する。それに教師が適切な指導を加えていく。