学 習 指 導 要 領 国 語 科 編
第一章 まえがき
国語教育の領域は、人間のあらゆる活動の面にまたがっており、その姿は変化に富んでいる。
国語は、子どもの発達と、環境と、経験とのすべてに密接に結びついている。それで、材料を選ぶにも、学習活動の用意をするにも、その時その時にもっともよい機会と、よい方法とを考えなければならない。
本書は、いろいろな面から、国語科学習指導の問題をとり扱ってあるが、要するに、実際の指導をできるだけ改善するために、その示唆を与えようとするものである。
第一節 国語科学習指導の範囲
国語科学習指導の範囲は、次のようにわけられる。
(二) つづること(作文)
(三) 読むこと(文学をふくむ)
(四) 書くこと(習字をふくむ)
(五) 文 法
右の五つの部門のうち、どの一つといえども、他と関係なくとり扱われるべきものではない。実際の学習指導にあたっては、教師はつねに相互の関係を明らかに理解し、ことばのはたらきという共通な基礎にたって、自分の扱っている教材の價値を考えることがたいせつである。教師は、さしあたりの必要や興味のために、教材や学習活動が、かたよることのないようにしなければならない。
二 連関をはかるもの
すべての教科、ことに、社会科の各単元のうちには、国語科に連関のふかい教材や学習活動が多い。
(二) 学校生活の諸経験。
ことばは、社会のなかで行われるものであるから、学校生活のあらゆる経験は、国語科で学習したことがらを実行するよい機会となる。
(三) 家庭その他、一般社会生活の諸経験。
第二節 国語科学習指導の目標
国語科学習指導の目標は、児童・生徒に対して、聞くこと、話すこと、読むこと、つづることによって、あらゆる環境におけることばのつかいかたに熟達させるような経験を与えることである。
ところが、これまで、国語科学習指導は、せまい教室内の技術として研究せられることが多く、きゅうくつな読解と、形式にとらわれた作文に終始したきらいがある。今後は、ことばを広い社会的手段として用いるような、要求と能力をやしなうことにつとめなければならない。それを具体化すると次のようになる。
二 自分を社会に適応させ、個性を伸ばし、また、他人を動かす手段として、効果的に、話したり、書いたりしようとする要求と能力とを発達させること。
三 知識を求めるため、娯楽のため、豊かな文学を味わうためというような、いろいろなばあいに応ずる読書のしかたを、身につけようとする要求と能力とを発達させること。
四 正しく美しいことばを用いることによって、社会生活を向上させようとする要求と能力とを発達させること。
いわば国語学習指導は、小学校・中学校を通じて、聞くこと、話すこと、読むこと、つづること、この四つの言語活動を眼目とし、次のような能力の発達をはかることになる。
(二) いうべき時と、聞くべき時の区別をわきまえる。
(三) 話の要点をとらえる。
二 相手によくわかるように、はっきりとものをいう。
(二) なるべく、方言や、なまり、舌のもつれをなおして、標準語に近づける。
(三) 口ごもること、語尾のあいまいなことをなおす。
(四) 正しく、しかもわかりよいことばをつかう。
(五) 表情や身ぶりを考える。
(六) 敬讓語を身につける。
(七) ことばづかいや、いいまわしに気をつける。
(八) その場にふさわしい話題をえらぶ。
(九) おおぜいの前でも、話ができるようにする。
三 すらすらと読んだり書いたりできるようにする。
(二) 生活に必要な文字(ひらがな・かたかな・漢字・ローマ字)や、かなづかいになれさせる。
(三) 必要や興味に応じて、いろいろな形の文章が書けるようにする。
(四) 鉛筆・ペン・毛筆などをつかって、正しく美しくはやく書けるようにする。
(五) 音読や黙読がよくでき、また、正しくはやく読めるようにする。
(六) 語法は、児童・生徒の身近な話や文章に即して、事実として、具体的に習得する。
(七) 文学は、国語教科書・作文・読み物などによって学習し、生活に真と美とを見いだす力を与える。
(八) 新聞・雜誌・読み物などをよく読み、紙芝居・映画・演劇・ラジオ放送などを、よく見わけ、聞きわける。
(九) 読書衛生をよく守る。
四 児童・生徒の言語活動を、次のような表現によって多種多様にのばしていく。
(二) 手紙・日記・記録・報告・研究・隨筆など。
(三) 童話・ぐう話・伝説・伝記・小説など。
(四) 脚本・ラジオ台本・シナリオ・よびかけ・詩劇・謠曲・狂言など。
五 国語学習によって、おのずから、次のような能力の向上も予想される。
(二) 観察したことを、書きとめたり、発表したりする。
(三) ことがらを、よく見通したり、まとめたり、分解したりする。
(四) 自然や人生に対して新鮮な感覚をもつ。
(五) 想像や情緒を豊かにする。
(六) 愛情をふかめて、他人とよく協力しあう。
(七) 宗教的情操を豊かにして、つねに正しく強く生きる。
(八) 美的意識を育て、文学の世界を味わう。
(九) 個性的・独創的精神をやしなう。
(十) 品性を高め、教養を身につける。