単元1.木 工
木工品は日常生活に最もしたしみの深いものであり,日常生活において木工品を作ったり,修理したりする機会も多く,またその要求も多い。ことに木材は他の材料に比べて加工が容易であり,材料も手に入りやすく,また木工具はどの家庭にも幾つかはある。したがって,簡単なものならだれにでもたやすく製作ができ,日常生活に役立つ場合が多い。この意味で,中学において工業を学習するにあたって,木工を最初に学習することが最も適当と考えられる。ここで製作させるものとしては,生徒の日常生活で役立つものを選び,簡単なものからやや複雑なものへと進み,木工に関する初歩的技術を一通り修得するようにした。
これらの製作物のうち一つを取り,それについての学習の指導法の一例を示す。
例 スケッチ箱の製作
1.指導目標
(2)製作物(たとえばスケッチ箱)の使用目的に適した構造や形はどんなものがよいかを理解する。
(3)製作物の使用目的に適した構造と形に作り,使用材料の性質に適した工作をするにはどうすればよいかを理解する。
(4)使用材料に適した工作をするために,それに必要な道具を選定する能力を養う。
(5)製作を能率的に,順序よくするために,製図を描き,製図を読み,工程表を作り,材料表を作る技術を習得する。
(6)それらの図や表にしたがって木取りをする技術を習得する。
(7)ものさし・けびき・のこぎり・かんな・のみ・つち・きり等の道具の性質を理解し,その正しい使い方と修理・保管の技術を習得する。
(8)いろいろな組み手接合の方法を理解し,その製作物に適した接合の方法を選定し,組み手接合による組み立ての技術を習得する。
(9)くぎ・木ねじによる締結の技術を習得する。
(10)にかわの性質を理解し,それの取り扱いの方法と,にかわによる接合の技術を習得する。
(11)使用目的に適した仕上げ方法と塗料の性質とを理解し,塗装の技術を習得する。
(12)ちょうつがい・金具等の補助材料を選定し,その取り扱い及び取り付けの技術を習得する。
(13)製品を正しく使用し,注意深く取り扱う能力と習慣を養う。
(14)製品を買い入れる際に,そのものの用途とそれに適した構邁とを理解し,よいものを選択する能力を養う。
(15)計画的に,能率的に,順序よく,注意深く仕事をする習慣を養う。
(16)自分の個性・能力を自覚し,ほこりを持って,進んで働く習慣を養う。
(17)自分の技能・興味・適性を知り,将来の職業の選択に役立たせる。
道具 けびき・定木・ものさし・のこぎり・のみ・かんな・金づち・きり・ねじまわし・にかわづけ用具と締め付け具・塗装用具
(ハ)いろいろな木材の見本,板取りの見本,木理を表わした見本,いろいろな塗料を塗った見本等を準備する。
(ニ)いろいろな組み手接合を応用した箱の見本または掛図を準備する。
(ホ)この製作の参考となる模範作品・参考品・掛図・参考図書を用意する。
(ヘ)生徒に与える製作の指導表を準備する。これは教科書にも書かれてあるが次にその一例を示す。
せん・しおじ・ほお・さくらなど,よく乾燥した,木質・色の一様な材料で作る。側板は組み手接合により,にかわづけして組み立て,上板と底板は木くぎまたは竹くぎでとめる。次にふたと身とに,適当な箇所で切断し,ちょうつがいと金具を取り付け,最後に塗装する。
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材料 しおじ・せんなど適宜の木材,にかわ・くぎ・塗料・金具類等
工具 けびき・定木・のこぎり・かんな・金づち・のみ等
3.この製作で学ぶこと
(1)工作図の描き方
(2)材料表の作り方
(3)材料に適した工具の選び方
(4)木材の種類・性質・用途
(5)木取りのしかた
(6)のこぎりの使い方
(7)かんなの使い方
(8)のみの使い方
(9)きりの使い方
(10)規く(規矩)とけびきの使い方
(11)にかわづけのしかた
(12)くぎづけのしかた
(13)木ねじ締めのしかた
(14)組み手接合のしかた
(15)塗装のしかた
4.製品を調べるのに特にたいせつなこと
(1)製品は図面通りにできているか。
(2)組み手接合の部分のほぞとほぞあなの接する面が完全に接しているか。組み立てが固く,正確であるか。
(3)ほぞはばは均一であるか。
(4)にかわづけが完全であるか。
(5)木くぎの打ち方がよくできているか。
(6)ふたと身は完全に合っているか。
(7)塗装した面はなめらかであるか。
5.問 題
(1)木材の乾燥が不完全な場合,組み手接合にどんな影響を及ぼすか。
(2)組み手接合は胴づけに比べてどんな長所があるか。
(3)ほぞやほぞあなをけずる場合,どんな点に特に注意しなければならないか。
この指導表を作るにあたっては,生徒の自発活動を期待するために,「作り方のあらまし」やこの製作で使うおもな「材料と工具」等はあまりくわしく書かない方がよい。また使用材料や工具は全部を書き並べてしまうと,その工具や材料の多いことに恐れをなし自発活動をはばむ結果にもなる。「この製作で学ぶこと」は項目だけを列挙しておき生徒自身の学習のための暗示を与えるようにしておく。「製品を調べるのに特にたいせつなこと」は特にたいせつな二,三の点だけにとどめ,他の事がらは生徒自身に研究させるようにする。この項目は学習結果の考査にとってたいせつな事がらである。「問題」についても同様である。
(ト)教師のための指導計画表を作成しておく。
それには,使用材料,使用工具,製作の工程,製作の予定時間,製作にあたって注意すべき事項,作品を評価する基準,問題等を記入しておく。
(チ)学級全部の生徒のおのおのについて,計画のよしあし,材料や工具の準備,工作図・材料表・工程表の作り方,製作の順序や方法,製品の仕上がりの程度,製作時間,製作の態度,工具の手入れ,後始末等学習結果の考査に必要な事項全部と,生徒の個性・適性と技術の程度等の予備調査に必要な事項や,職業選択の指導をするのに必要な事項全部を記入する欄を設けた調査表を作成しておく。
(ロ)どんな方法で,どんな順序で作るかを調べる。
(ハ)工作図を描く。
(ニ)工作図にもとづいて工程表・材料表を作る。
(ホ)材料とその製作に必要な工具のうち,自分で準備できるものを準備する。
(ヘ)準備が全部できたなら,けがきその他必要な準備工作を行う。
(ト)のこびき・かんながけ,ほぞやほぞあなの製作等各部分の必要な工作を行う。
(チ)にかわづけ・組み立て・くぎづけ等の組み立て工作を行う。
(リ)ふたと身とに切り離し,切り口を仕上げ,ちょうつがいその他の金具を取り付ける。
(ヌ)塗装その他の仕上げを行い,製作を完了する。
(ル)「製品を調べるのに特にたいせつなこと」にしたがって順次に製品を調べ,失敗した点についてはその原因を確かめる。
(ヲ)「この製作で学ぶこと」の各項目について教科書・参考書によって研究する。
(ワ)以上の各項目ついて不明の点を整理し教師にたずねる。
(カ)類似の作品の製作を試み,技術の練習をする。
(ヨ)工具の手入れをする。
(タ)作品を見せ合い,優劣を比較し討論する。
(レ)自分の製作したスケッチ箱を持って写生に出かけ,製作のよろこびを味わう。
工作台・万力の使い方
彫刻のしかた
組み立て工作のしかた
木工機械の扱い方
木工品の日常生恬での利用
木工品を買うにあたって必要なこと
学校における製作と工業生産との関係 単元2.竹 工
竹工品も木工品と同様に日常生活にしたしみ深いものであり,日常製作したり,修理したりする機会が多い。竹も加工が比較的容易であり手に入りやすい。その工作は多くの点で木工と類似しているので,木工についで,だれにでも容易に試みることができ,日常生活に役立つことが多い。この学年で,木工の次に竹工を学習することを適当と考えたのはこのためである。竹工において学習しなければならない基礎的な事がらは次のようなものである。
竹の種類と特性
竹の伐採の季節と竹の年齢
竹びきのこの使い方
竹わりなたの使い方
切出小刀の使い方
きりの使い方
やすりの使い方
竹工用機械の扱い方
わん曲・きょう正のしかた
柔軟法
竹ひごの作り方
あみ方
着色・漂白・塗装のしかた
防虫・保存のしかた
わが国の竹及び竹製品の生産状況
日常生活での利用
竹製品を買うにあたって必要なこと