この学習指導要領職業科工業編は一つの試案である。教育の改革が行われ,その一環として従来の教師用書に代わりこの書が作られた。生徒は自然と社会の生徒であり,教師はこの世界へ向かって生徒の目を開かせる道案内・仲介者である。生徒たちが置かれた環境・素質・個性にしたがって,世界の真実にいたる道はそれぞれ違うであろう。だからこまかい点まで画一的に作られた指導書は,決して真実の探究のためのよい案内ではない。この点から,この書は教育の現場の深い経験を持つ教師の意見を広くとり入れて改訂されなければならない。いなむしろ,教師自身によって作られなければならない。これからの教育は民主主義の教育である。したがって,下からもり上がった力によって教科書や教授法を改革しなければならない。この点からも同じことがいわれる。教師には,本書に対するきたんのない批判と有益な忠言とを寄せられることを希望すると共に,本書を一つの参考とし,より適切な指導要領を考案し,適切な指導をせられることを希望する。
職業科の一分科としての工業の教育は,生産機構の中へ自動的な機械の一部分として完全に一生がい踏みこんでしまうための教育ではない。國民のだれでもが受けなければならない義務教育の一部として,働くことを通して,学び,労働のよろこびを体得するためのものである。だから工業の学習の指導は,各学科の総合の上に,生徒の習得した知識・経験の上に,生徒の身体的な精神的な発達の上に,生徒の環境の中に,社会生活の中に立ってなされなければならない。これらの事がらを最もよく知っているのは生徒自身であり,教師であり,最も適した教材を見出だすことができるのも生徒であり,教師である。ほんとうにすぐれた指導法は生徒と教師の人間的な関係にしたがって立てられるべきである。
学習指導要領職業科工業編
昭和22年12月8日印刷 同日翻刻印刷
昭和22年12月13日発行 同日翻刻発行
〔昭和22年12月13日 文部省検査済〕
APPROVED BY MINISTRY
OF EDUCATION (DATE December 8 1947) |
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翻刻 発行者 実業教科書株式会社
代表者 水谷三郎
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印刷者 大日本印刷株式会社
代表者 佐久間長吉郎
発行所 実業教科書株式会社