第四章 家庭科の学習指導法
指導の方法についての一般的な考え方は,一般論をよく読み,それをどんなふうに家庭科の指導に実現するかを工夫していただきたい。ここには,第六章以下で,その工夫の一助として,各単元についてどんなふうに学習の端緒を求めて行くか,一つの単元から次の単元に有機的にどんなふうに発展させて行くかについて苦心してみた。
更に又学年のはじめに,その学年の課程の大きな手がかりを作ることをも試みた。例えば第五学年では家庭における主婦の仕事の全体を見渡し,忙しいいろいろな仕事を少しでも手助けをしようとする意欲を刺激することに出発点を見つけさせ,第六学年では,家族の健康が家庭生活を明かるくも,暗くもすることを発見し,それをきっかけに,保健と衣食住,休養の問題を追求し,その発展として家庭の和楽に及ぶように仕組んでみた。もちろんこれは一つの試案であって,ぜひこの仕組みでやらなければならないというのではない。ただそういうふうな行き方も考えられるということを示したのである。
ここに挙げた指導方法の一つ一つについては,他の教科ときわだって異なるようなものはないが,そこで取り扱って行く行動の代表的なものについて,少しく説明しておこう。
一 問題の発見
問題を見つけ出して,それを自分の活動の目的とするためには,教師の暗示によるものばかりでなく,生徒から持ち出されるものがほしい。そして,その問題は次から次へ発展して行くような形のものが望ましい。
二 調 査
家庭生活の実態をつかむ活動として,調査は,家庭科の学習に重要な意味がある。調査は調査票の記入とその集計,整理とが活動の内容となる。調査票の形式は,生徒相互の話し合いにより,教師と生徒との話し合いできめる。記入は生徒がこれに当たるが,父兄に記入してもらう場合,父兄と生徒との相談で記入する場合も考えられる。整理も,生徒が協同してやる場合と,教師と生徒とが協同する場合とがある。なお記入は無記名を要することもあるし,調査票について生徒が相互に交換して調べたり,批評し合ったりするようなことも考えられる。
三 話し合い(討議)
討議による教育法の最もたいせつな点は,問題の認識にあり,また全部の者が意見を交換し,皆の考えがその問題の解決に向かい,たがいに関連をもつにある。
若い女子は,ことに伝統的に自分の意見を陳べることになれていなくて,はずかしがっていて,仲間の中の年長の者あるいは指導者にたよりがちである。討議には指導者が必要であるが,指導者はできる限り全員の意見を引き出すように,そして皆の考えを刺激し,問題とその解決が実際に全員の考えを代表するものであるように努力すべきである。討議は率直で淡白で,まじめで,そして善意と信頼に満ちたふんいきの中でなさなければならない。
四 観 察
見学旅行なども考えられるが,通常生徒が各個に観察し,記録し,報告するのが主である。
五 記 録
生徒が一人一人で作る場合もあるが,教師や学級の全員と共同で作る記録もあってよい。一年間の季節の食品とか,特定の病人の看護表とかの類である。とにかく長期にわたる観察なり生活経験なりの記録をすることは,学習活動としてねうちの高いものである。
六 実 習
実習は筋肉的な活動として,又ものを作る活動としてたいせつであるが,これによって身についたものを作って行く上に価値の高いものである。ただ実習については,それが自発的積極的な活動としてあらわれて来るように十分な注意をはらって刺激することがたいせつであるし,その活動には身支度・身構え・心構えが指導される必要があり,あと始末を見とどけることも重要である。
実習のうち調理や裁縫のためには,特別教室の設備が望ましい。しかし第五,第六学年程度では必ずしもその必要はなく,それがない場合でも実習をさせることを欠いてはなるまい。
七 示 範
実習の示範は生徒の活動を刺激する一方やり方を示す意味でなされるものだから,興味を刺激すると同時に正確で手順のよいことがたいせつである。くだくだしいもの,要点を失したものは,この点で意味がない。
八 説明・講義
説明や講義は,知的活動によって理解を得させる場合,問題を発見する場合に用いられる。活発な活動を起させる方法としてはむずかしいものであるが,時としてはこれによらざるを得ない場合がある。ただこれは教師だけがやるものとは限らない。警察官とか医師とか商店員とか配給所の人とかの適当な場合がいくらもある。