第八学年は,「土地・労力・資本はどんなにしたら合理的に使えるか」に指導の重点をおき,土地利用,労力の調整,肥料の活用の面から農業の指導を進めることになる。そうして,土地利用については,「土地をよく利用するにはどうしたらよいか」の単元で,広く国土全体の適地適作に目を注いだり,一農村の何枚かの田畑や,宅地あるいは,一枚一枚の田畑の各部分の合理的な利用を考えたり,郷土の作物栽培の状態を調べたり,作物を栽培する順序を研究したりした後,これらのことや第七学年で学んだことの応用として,生徒が一定の田畑を受け持って,自ら作物を選んで栽培し,更にこれを販売し,収入や支出を記帳しておいて収支計算をしたり,研究の報告を書いたりするというようなことが考えられる。そうして,選択の時間にも農業を学ぶような生徒は,この応用の部分を大きくして,いろいろな作物を学校や自分の家で作ることになろう。また,国際的あるいは国内的な適地適作から発展して工芸作物を学んだり,宅地利用というようなところから発展して,花の栽培や庭の見方や,手入れの仕方などに及ぶことができるであろう。
労力の調整については,農業の仕事が季節によって忙しすぎたり,ときには失業したといってもよいほどひまになったりすることに目をつけ,「農業の繁閑を調節するにはどうしたらよいか」の単元を掲げて,労力のでこぼこをならすことを学ぶと同時に,労力当たりの生産を高めることの必要にも目を向けることができるであろう。
次に,資本といっても,すべての資本の合理的利用というようなことを,突然持ち出しても,生徒の重荷になるから,大部分はむしろ第九学年にゆずり,ここでは最もわかりやすい肥料だけを取り上げ,土地を受け持って,生徒の自由な計画で作物を作ることと関連して「肥料をむだなく使うにはどうしたらよいか。」の単元で,与えられた金肥を活用し,自給肥料を増産してこれをむだなく使うことを研究するわけである。
そうして,第七学年に始めた仕事で,第八学年に持ち越している仕事も第八学年の学習に結びつけて,ねぎの植え付けは土地利用の面から,さつまいもの植え付けは労力と肥料の面から,むぎのとり入れは労力の面からみて「経営と栽培技術とはどんな関係があるか。」の単元を学ぶことになる。
また,土地の利用価値を高めたり,他の仕事の割合にひまな時期の労力を活用したりする方法として養蚕を学び,農繁期の労働の能率を高め,農閑期の労力を活用するとともに,ききめの多い自給肥料を生産する手段としての「養畜」を学び,農閑期の労力を活用し,自給肥料となる下草を供給する。「森林」にはいり,林木の成長量を増すことのたいせつなわけを学び,更に,花と庭や畜産などに関連して,農閑期の労力を活用するのに役立つ「農業工作」を学ぶことができるのである。
単元の第一が終って第二,第二が終って第三にはいるというように,端から片づけてゆくことのできないのは第七学年も同様であったが,それでも第七学年はだいたいの順序があった。しかし,第八学年のこれらの単元は,その多くが,学年の初めから終りまで平行して学習することになるのであろうから,その取り扱いについては,それぞれの学校で計画を立てなければならない。
また,これらの諸単元の学習時間の配当も,地方の事情,学校の設備,及び必修の時間だけ学習する場合,選択の時間も加えて学習する場合などによって違うのは当然であるが,各学校がそれをきめる参考までに,数例を掲げれば次のようである。
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1.土地をよく利用するにはどうしたらよいか
2.農業の繁閑を調節するにはどうしたらよいか 3.肥料をむだなく使うにはどうしたらよいか 4.経営と栽培技術とはどんな関係があるか 5.養 蚕 6.養 畜 7.森 林 8.農業工作 |
5 10 10 5 10 10 20 |
5 10 10 15 15 5 20 |
5 5 5 5 10 30 20 |
5 10 15 5 15 5 25 |
単元 1 土地をよく利用するにはどうしたらよいか
この単元の学習は,その発展として学習する「工芸作物」や「花と庭」を発展的な別の小単元と考えた方が好都合であろう。
1.目 標
(2) 気候土地によって栽培する作物が違うことを理解する。
(3) 一枚一枚の田畑がそれぞれ性質が違うことがあり,一枚の田または畑でも部分によって性質の違うことが少なくないことを理解し,その利用の方法を会得する。
(4) 食糧作物は輸送・貯蔵が困難なものが多く,割合に狭い範囲内で間に合わせる必要があるが,工芸作物などは広い範囲にわたって適地適作が行われることを理解する。
(5) 郷土の作物について,どんな仕事によって,作物栽培の状況が変わるかを理解する。
(6) 作物の種類分けのあらましを理解する。
(7) 作付の順序のきめ方を会得する。
(8) 輪作と連作とについて理解する。
(9) 混作・間作・周囲作について理解する。
(10) わが国は土地を高度に利用し,土地当たりの収穫を多くしなければならないことを理解する。
(11) 土地の利用度について理解する。
(12) 自分で計画を立てて作物を栽培する能力,及び作物を愛育する態度を身につける。
(13) 記帳の必要を理解し,方法を会得するとともに,いろいろな事がらを手まめに整理する態度を身につける。
(14) 物価は何によってきまるかを理解する。
(15) 生産費とはどんなものかに目を向ける。
(16) 労働の報酬とはどんなものか,また土地当たりの生産を高めるだけでなく,労働当たりの生産を高める必要があることに気づく。
(17) 販売の方法を会得する。
(18) 郵便局・銀行・会社・事業場・個人商店では,どんな仕事をしているかを理解する。
(19) 工芸作物とは何かを理解する。
(20) 食用作物とどんな点が違うかを理解する。
(21) 工芸作物の栽培は,世界の生産事情,貿易,科学の進歩,生活様式の変化などによってどう変わるかを理解する。
(22) 工芸作物はどんな土地で栽培されるかを理解する。
(23) 郷土において有望な工芸作吻の栽培法を会得する。
(24) 花や庭がなぜ必要かを理解する。
(25) 宅地はどんなふうに利用したらよいかを理解し,花や庭について興味をもつようになる。
(26) いろいろな草花や花木の性質・用途・作り方のあらましを知る。
(27) 簡単なかきね・いけがきの作り方を会得する。
(28) 庭の設計に目を向け,図をかくことに興味をもつようになる。
(29) 仕様書・見積書について理解する。
(30) 木の配置,木の形,枝ぶりに興味を感ずるようになる。
(31) 石組みや水の取り入れ方におもしろさを感ずるようになる。
(32) 庭木の植え付けや手入れの方法を会得する。
2.指 導 法
(2) 生徒が一定の土地を受け持って栽培するには,学校における農具の設備を多く要し,また,その管理にも特別のくふうがいるであろう。しかし,やむを得ない場合には,家庭の農具を持ってきて使うようなこともあろう。また,家庭の田畑の一部分を受け持って栽培することもおもしろいであろう。
(3) 花と庭については,どこの家庭にも大なり小なりの庭があるであろうから,これをもとにして考えたり,将来の理想をえがいて設計をするなども,興味深いであろう。
(4) 教師の準備と活動
ロ.郷土並びに各地の作物栽培の状況,作付の順序を研究しておく。
ハ.郷土で土地をよく利用している実状を調べ,それを普及させるべきかどうかも研究しておく。
ニ.郷土の工芸作物栽培理論も研究し,その実際の仕事に熟達しておく。
ホ.花や庭について,理論を研究し,また,実際を見たり,庭師に聞いたりして,庭を見る目を養い,技能を身につけておく。
へ.工芸作物の見本園を作る。
ト.学校全体で学校のいけがきや,庭その他の環境を整理する計画を立てておく。
チ.生徒の活動を取り入れる順序や,まとめることについての協力の仕方について考えておく。
この単元の目標(1)から(11)までの学習には,教科書や参考書を読む,教師の話を聞く,郷土の実際を調べる,筋道を立てて考える,これらのことをもとにして話し合う。そうしてわからないことは実験してみたり,人にたずねたり,報告や論文を書いたりすることによって進められるであろう。
また,目標(12)から(18)までは,第七学年の学習や,この単元の(1)から(11)までの発展・応用の役割を務めるとともに第九学年の学習のきっかけをなすものであって,その学習における生徒の活動は後に掲げるとおりである。
目標(19)から(23)までについては,教科書や参考書を読み,教師の話を聞き,郷土の実状を調べて話し合ったり,見本園を経営したり,見学に出かけたりする。特に,(23)は郷土の実際を調べたり,教師や村人の話を聞いたりして実際に栽培することになる。
目標(24)から(32)までは,教科書や参考書を読む,教師の話を聞く,郷土のいろいろな庭を見る,庭師の仕事をしているところを見る,話を聞く,学校や自分の家の庭の実際の手入れや模様がえをする,将来の理想をえがきながら,自分の家の庭の設計をするなどの活動が考えられる。
目標(11)から(18)の学習における生徒の活動の具体的な例を示すと次のとおりである。
(ロ) 田畑を分ける。または自分の家の田畑を分けてもらう。
(ハ) その田畑に去年までどんな作物がどんな順序で作られたか,そのとり入れはどうであったかを調べる。
(ニ) その土地の乾きぐあい,肥えぐあい,作り土の深さ,水がかけられるかどうかなどを調べる。
(ロ) 世の中ではどんな作物を求めているか,その程度は何によって判断したらよいか,物の値段は標準にはならないか,統制されているものの値段は他のものの値段とどんなに違うか,統制されているものは,統制されていないものよりも必要の度合が高いと考えてよいか,なぜ統制が必要なのか話し合ったり調べたりする。
(ハ) 物の値段の基準になるとすれば,どんなにして作物を選んだらよいか話し合う。
(ニ) 食糧の生産が第一に必要であるとすれば,どんな作物を選んだらよいか,話し合う。
(ホ) 作付の時期から考えてどんな作物がよいか,地力維持や病害虫予防の立場から考えてどんな作物がよいか,それぞれの畑について考え,報告し合って批評し合う。
(ヘ) 読んだり,聞いたり,話し合ったりして栽培作物を決定し,種や肥料の準備の計画はもちろん,栽培・とり入れまでの計画を立てる。
(ト) 販売については,そのような作物は郷土ではどんなにして販売しているか調べる。最も欲しがっている人の手に渡るようにするには,どうしたらよいか話し合う。販売の計画も立てる。
(チ) どれくらいの生産費がかかったかあとで調べるにはどうしたらよいか,帳面にはどんなことを書きとめておいたらよいか,どんな帳面を用意し,どんなふうに書きとめておいたらよいか調べて話し合う。労力のことについても大人の何パーセントくらいの能率を上げ,何時間働いたかを書き入れておく。
(リ) 実際の栽培を行う。方法について必要があればそのたびごとに教師や村の人に聞く。友だちどうしで話し合う。また,友だちどうしが互に助け合って仕事を進める。
(ヌ) 販売についても共同して行い,場合によってはいっしょに即売会を開く。
(ル) 販売の価格はどんなにしてきめたらよいか話し合う。
(ヲ) 自給肥料などについては,使った場合も生産した場合も,話し合ってだいたいの価格を見積る。
(ロ) 生産物の品評会を開く。
(ハ) 生産費の計算をする。どんなものをどれくらい生産費にくり入れたらよいか話し合う。
(ニ) 栽培の収支計算を報告する。
(ホ) 研究の結果を報告したり,これをもとにして論文を書いたりする。
(ヘ) 結果を友だちどうしで話し合う。
生産物も学習結果の考査の大きな手がかりとなるには違いないが,これのみを便りにすることは危険である。ちょっとした不注意のため,または新しいくふうをしようとしたため,生産物は劣っているが,将来伸びるみこみのある者も少なくない。
(2) 知識や見方・考え方の理解については,計画の立て方,話し合い,活動の様子,報告・論文,あるいは総合的な問題に対する解答によって,総合的に考査すると同時に,分析的な考査法も重視する。分析的な考査法については,一般編を参考にすると便利であろう。
(3) 態度については,この単元においては,特に愛育の念にもとづく熱心さ,自らくふうする態度,根気よく進んで仕事をする態度,共同して仕事をしようとする態度などを特に重視し,ふだんの様子をよく観察していて,比較法・記述尺度法などによって考査する。
単元 2 農業の繁閑を調節するにはどうしたらよいか
1.目 標
(2) 繁閑の程度や時期は地方によって違うことを理解する。
(3) 繁閑の差は畑作地帯よりも水田地帯に著しいことを理解する。
(4) 適期に適当な作業をすることは,栽培にたいせつなことであるばかりでなく,仕事の能率を高める上にもたいせつなことであることを理解する。
(5) 農繁期を切り抜けるにはどうしたらよいかを理解する。
(6) 仕事に熟練することや,仕事の能率を高めるための新しいくふうの必要なことを理解する。
(7) 能率の高い農具を取り入れる必要と可能性について理解する。
(8) 協同によって仕事の能率を高めることができることを理解する。
(9) 作物の組み合わせや,養蚕・畜産・林業・加工の組み合わせによって,繁閑の差を少なくすることができることに目を向ける。
(10) 農業において移動労働を利用することは,どんな意義があるかを理解する。
(11) 農閑期を活用する必要をさとる。
(12) 農閑期を活用する方法には,どんなものがあるかを理解する。
2.指 導 法
ロ.郷土における農繁の切り抜け策としてどんなことが行われ,どんなことが考えられているかを調査しておく。
ハ.郷土や他の地方についていろいろな実例を調べておく。
ニ.新しい意見にも目をくばり,それを郷土に取り入れることができるかどうかを研究しておく。
ホ.郷土における能率の高い農具の普及状況を調べておく。できれば図表にまとめておく。
へ.郷土における協同作業・移動労働の状況を調べておく。できれば図表にまとめておく。
ト.郷土及び他の地方における農閑期利用の具体例を調べておく。
チ.生徒の活動の取り入れ方,まとめることについての協力の仕方について考えておく。
この単元の学習における生徒の活動は,どの目標についても,ほぼ同じ形態のものが考えられるので,その一例として,全体のきっかけの働きをしている目標(1)から(4)までの一連の学習事項に対する生徒の活動のあらましを次に掲げる。
(ロ) 一つ一つの作物や養蚕の忙しさのぐあいを折れ線グラフに表わしてみる。
(ハ) それらが組み合わさった場合の忙しさのぐあいを,自分の家,または郷土の一般について折れ線グラフに表わしてみる。
(ニ) 実際の調査にもとづく,労力分配の具体例を教師の示す図などによって見る。
(ロ) 他の地方に比べて,繁閑の差や時期はどんなに違うかを話し合う。
(ハ) 忙しい仕事が重なり合った場合,どんな順序で進められるか,話し合う。
(ニ) 農繁期に重なり合う仕事のうち,多少時期を遅らせてもよい仕事があるか,仕事の時期を少しものばせない仕事にはどんなものがあるか,それをのばしたらどんな結果になるかを話し合う。
(ロ) 草取りの適期はいつかを知るための研究をする。
(ハ) 草取りの効果的な方法を研究する。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
(2) この単元のめざすところは,おもに総合的な理解であるから,結果の考査もその方面から行われるべきである。しかし,総合的な理解も,一つ一つの事がらを知っていなければならないので,分析的考査法も合わせて行う必要があろう。
単元 3 肥料をむだなく使うにはどうしたらよいか
1.目 標
(2) 作物の収量は,最も不足している肥料の成分や,その他の環境要素によって制限されることを理解する。
(3) 肥料成分を必要とする程度は,作物の種類や土地の性質によって違うことを理解する。
(4) 肥料を施す計画の立て方を会得する。
(5) 自給肥料は地力を高める上に大きな効果があることを理解する。
(6) 有機質肥料の分解が徴生物によって営まれることを理解する。
(7) 有機質肥料中の窒素のききめは,炭素と窒素の割合によって遅速があることを理解する。
(8) 有機質肥料中の窒素のききめは,分解を行う微生物の種類によって遅速があることを理解する。
(9) 分解を行う微生物の種類には,材料の反応,たい積中の空気の量が関係することを理解する。
(10) 腐植とはどんなものかを理解する。
(11) たい肥の作り方を会得する。
(12) 緑肥のききめについて理解する。
(13) 肥料成分の形態とその性質について理解する。
(14) 肥料の反応について理解する。
(15) 肥料の使い方を会得する。
(16) 化学肥料はどこで,どんなにして生産され,どんな経路を経て手にはいるかを理解する。
2.指 導 法
肥料についての指導は,第七学年に作物の栽培に直接関係づけて,いろいろなことを学び,この単元で肥料としてまとめて理論的に学んだ方が都合のよいことを学び,更に,この後その応用に類したことを学ぶような仕組みにするのが便利であろう。したがって,教師はいろいろな準備をしておいて,生徒の理解を助けてやる必要がある。
ロ.郷土における土の扱い方,肥料の買い入れ・貯え方・使い方を調べておく。
ハ.土の扱い方,肥料の使い方についての新しい技術に注意する。
ニ.生徒が今までに学んだことをどれくらい身につけているか,学校や家庭で肥料についてどんなことを経験したかを調べておく。
ホ.前年からむぎなどを使って,肥料の三要素試験をしておく。
へ.各国の肥料消費状況,わが国の農産物の生産費と肥料代の関係,肥料の生産量と必要量などについての絵・図・表などを準備する。
ト.土や肥料についての適当な試験成績の絵・図・表などを準備する。
チ.肥料の標本などを準備する。
リ.生徒の活動の取り入れ方と,まとめることに対する協力の仕方について考えておく。
この単元の学習は,行動的な活動を伴なうことが少なく,主として,知的な活動によって進められる。そうして,全体の目標がほぼ同じ様式の活動を通して学習することになるであろうから,一例として,この単元の指導の端緒ともいうべき目標(1)の学習における活動を次に掲げる。
(ロ) なぜこんなに多いか,話し合う,教師から話を聞く。
(ハ) 教師の示す表にもとづいて,米の生産費中の肥料代の占める位置を調べる。他の作物ではどうだろうかを話し合う。
(ロ) わが国の肥料の必要量と生産量を教師から聞く。
(ハ) 郷土においては,ことしの肥料の配給量はどれくらいあるか,自給肥料はどれくらい生産することができるかなどを話し合う。教師や村の人,家の人の話を聞く。
(ニ) 肥料試験をしているむぎの育ちぐあいや,教科書にある肥料試験の成績をもとにして,窒素肥料やカリ肥料を,いねやさつまいもに平均に分けて与えたらどうなるかなど話し合う。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
(2) 理論的な問題や,応用的な問題を,総合的あるいは分析的方法によって提出して,口答あるいは筆答させる。
単元 4 経営と栽培技術とはどんな関係があるか
1.目 標
(2) 野菜の軟白を理解する。
(3) ねぎの白身の部分を作ることと,土地利用とはどんな関係があるかを理解する。
(4) 土地の高度利用の実際,即ち,単位面積当たりの収量増加,栽培期間の短縮,間作の実際を会得する。
(5) さつまいもの苗植えからとり入れまでの栽培法を会得する。
(6) 苗植えと労力分配の調節との関係を理解する。
(7) 肥料活用の実際を会得する。
(8) むぎのとり入れから調製までの仕事を会得する。
(9) 適期適作業の実際を会得する。
(10) むぎのとり入れ方のくふうで,裏作ができるようになることを理解する。
(11) 適期適作業をするために,能率の高い農機具を使う必要のあることを理解する。
(12) むぎ及びその他の穀物の貯蔵法を会得する。
(13) 薬剤のガスを使って害虫を殺す方法(燻蒸(くんじょう)法)を会得する。
(14) 栽培法の改良に興味をもつようにする。
2.指 導 法
(2) 教師の準備と活動
ロ.ねぎ・さつまいも・むぎの栽培法に熟達する。
ハ.いろいろな野菜の栽培期間と,一定面積当たりの収量との関係を調べておく。
ニ.生徒の活動の取り入れ方や,まとめることに対する協力の仕方を考えておく。
この単元の学習における生徒の活動は,みな,仕事の実際を通して学ぶことになる。目標(13)については,見学を取り入れるといっそうよいであろう。その一例として,目標(1)から(4)までの活動の例を掲げる。
(ロ) ねぎの栽培期間を話し合う。
(ハ) ねぎは他の作物に比べて,畑全体を覆うというようなことが少なくはないかを話し合う。
(ロ) 郷土のねぎの栽培期間を調べる。
(ハ) うね幅・株間を調べる。
(ニ) いろいろな野菜について,栽培期間と一定面積当たりの収量とを比べてみる。
(ホ) もっと密に植えて一定面積当たりの収量を多くすることはできないか,研究する。そのためには,土寄せはなんのためか,白根を貴ぶのはなぜか,葉や根の繁りぐあいはどうか,葉がうねと直角の方向に出るように植えたら都合がわるいかなどを,調べたり,聞いたり,実験したりする。
(ヘ) 一時どこかに仮り植えしておいて,畑を他の作物に使い,畑があいてから植えつけることはできないか,くふうする。そのためには,そのころ植えかえても成長はとまらないか,ねぎはいつごろが成長が盛んか,土寄せの時期は遅れては悪いかなど,話し合ったり,聞いたり,実験したりする。
(ト) ねぎの間作をくふうする。
(チ) 以上いろいろなくふうを取り入れてねぎを栽培し結果を比べてみる。
(ロ) いろいろな作物の栽培法の改良を研究する。
(ハ) いろいろな野菜の軟白を研究する。
(ニ) 報告や論文を書く。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
単元 5 養 蚕
養蚕の盛んな地方では,実習や調査を中心として学習を進めることができるであろうが,養蚕の実際に行われていない地方では,説明あるいは問題解決を中心とした学習となるであろう。
1.目 標
(2) わが国の蚕糸業は,おもに輸出用の生糸を生産していることを理解する。
(3) 単位面積当たりのくわの生産量を高める方法を会得する。
(4) くわ畑の間作についてのくふうを会得する。
(5) 養蚕を行う上に協同の必要なことを理解する。
(6) 蚕の適温・適湿を理解する。
(7) 蚕の飼育に当たって,労力やくわを節約する方法を会得する。
(8) くわの与え方を会得する。
(9) 養蚕の副産物の利用法を知る。
(10) 製糸業について理解する。
2.指 導 法
ロ.くわの栽培の理論と実際を研究しておく。
ハ.蚕の生理と飼育法との関係を研究しておく。
ニ.学校で養蚕を行う場合や,くわの栽培だけを行って,これを養蚕家に販売するような場合には,一年間にわたる作業の計画を立てる。
ホ.生徒の家庭で養蚕を行っているかどうか,養蚕のどんな仕事を手伝ったか,小学校では蚕について何を学んだかなどについて予備調査をしておく。
へ.生徒の活動を取り入れる順序や,活動をまとめるための協力の仕方について考えておく。
この単元学習のきっかけの働きをしている目標(1)(2)の学習における生徒の活動の一例を次に掲げる。
(ロ) 昔の衣服の材料について読む,聞く,話し合う。
(ロ) 生糸やまゆの値段はどんなに変わったかを調べる。
(ハ) 蚕の品種はどう変わったか,まゆの切歩や糸目はどう変わったか,蚕の当たりはずれはどんなに変わったか老人に聞き,その結果を持ち寄って話し合う。
(ニ) 蚕の飼い方は昔からどんなに変わってきたか老人に聞き,労力はどれくらい少なくすむようになったか話し合う。
(ホ) 副産物の利用はいつごろからどんなに進んだか聞く,話し合う。
(ロ) 養蚕の副産物がそれぞれどんなふうに利用されているか調べる。
(ハ) 製糸の方法が昔からどんなに変わったか調べる。
(ニ) 農家が糸を繰るところや,製糸工場を見学に行く。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
(2) この実習によって養蚕に興味をもつようになったか,養蚕をいとうようになったか考査する。
単元 6 養 畜
一口に養畜といっても,その範囲は広く,ある学校では,うさぎ・にわとり・やぎを飼育する程度であるかもしれないが,ある学校では,役畜としての牛馬はもとより,乳牛までも実際に飼育するようなことがあろう。したがって,この学習の様子も学校によって違い,学校で飼っているものについては,実習を通して学習することができるが,その他のものは,見学や説明によって学習することになろう。
1.目 標
(2) 畜産物としてはどんなものが生産されるかを理解する。
(3) 養畜と労力の調整,自給肥料の生産など,農業経営との関係や,耕種と養畜の違いを理解する。
(4) わが国の養畜と水産業との関係を理解する。
(5) おもな家畜の品種や特性について理解し,飼育の要点を会得する。
(6) どんな飼料をどれだけ,どんなにして与えたらよいかを理解する。
(7) 飼料の自給方法について理解する。
(8) 千し草や埋草の仕方を会得する。
(9) 畜力農具の種類を知り,そのおもなものの使い方に熟練する。
(10) 養魚について理解し,水産業にも目を向けるようになる。
2.指 導 法
ロ.郷土には,どんな家畜がどれくらい飼われているか調べる。また,どんな品種が飼われ,どんなふうに利用されているか調べる。
ハ.どんな点が改良されなければならないか研究する。
ニ.家畜の飼育・訓練・畜力利用などに熟達する。また,特に乳をしぼること,去勢や病気に対する手当てなども習っておく。
ホ.生徒の家庭ではどんな家畜を飼っているか,生徒が家畜の飼育についてどんな経験をもっているか,牛馬耕はできるかなど予備調査をしておく。
へ.生徒の活動を取り入れる順序,活動をまとめるために協力する方法を考えておく。
ト.実習計画を立てておく。
全部の目標に対する生徒の活動のあらましを掲げる。
(ロ) 郷土の家畜飼育の現況や,近年の動向について調べたり,話し合ったりする。
(ロ) それぞれ,一頭当たりどれくらいの畜産物を生産するか調べて話し合う。
(ハ) これらの畜産物は,どれくらい自給自足のために利用され,どれだけ売り出されているか話し合う。
(ニ) 役畜はどんな仕事をするか,一日にどれくらいの仕事をするか,一年に何日ぐらい利用されるか,畜力でした仕事は人力の仕事と比べて,できばえはどうかなど聞いたり,見たりしてきて話し合う。
(ホ) 各家畜は一年間に,うまや肥をどれくらい生産しているか聞いてきて話し合う。
(ヘ) 郷土では,将来どんな家畜がどれくらい飼われなければならないか,その場合飼料はどうしたらよいか,聞く,話し合う。
(ト) 飼料のやり方,手入れの仕方,そのほか飼育上たいせつな点を教師から聞いたり,みんなで申し合わせたりして,当番をきめて実際の飼育にとりかかる。
(チ) 去勢・薬浴・毛刈りなどのような仕事はみんなで集まって実習する。
(リ) 草を刈ってきて干し草を作る。
(ヌ) 埋草を作る。
(ル) 飼料作物を栽培する。
(ヲ) 牛馬耕の実習をする。畜力農具の手入れをする。
(ワ) 郷土には,どんな畜力農具があるか,どんな仕事に使われているか,どんなのがぐあいがよいといわれているか,調べてきて話し合う。
(カ) 郷土には養魚が行われているか,養魚をする水面はどれくらいあるか話し合う。
(ヨ) 学校に適当なところがあったら養魚の実習をする。
(ロ) 家畜や魚をじょうずに飼っている家や,特殊な飼い方をしている家へ見に行く,話を聞く。
(ハ) よい畜力農具を見に行く。製作工場を見に行く。
(ニ) 馬耕草刈りなどについては,学校だけでなく家庭でも練習し,折を見て競技会も開く。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
単元 7 森 林
学校林がある場合は,もちろん実習を中心として学習することができるであろうが,その他の場合でもなるべく公有林などを使って実習することが望ましい。そのような都合のつかない学校では,観察や説明及び問題解決を中心として進められるであろう。
1.目 標
(2) 共有林とはどんなものかを理解する。
(3) 下刈り・枝打ち・つる切り・間伐などの手入れの必要を理解し,この方法を会得する。
(4) 森林を愛護するようになる。
(5) 森林の主産物・副産物にはどんなものがあるかを知る。
(6) 林木の伐期について理解する。
(7) 森林は間接にどんな効用があるかを理解する。
(8) 森林の更新法について理解する。
(9) どんな所にどんな木を育てたらよいかを知る。
(10) 苗の仕立て方を知る。
(11) 森林の災害とその対策について理解する。
(12) 炭焼きの方法を会得する。
2.指 導 法
ロ.郷土の森林の入会その他の慣行について調べておく。
ハ.学校林の施業案を作っておく。
ニ.造林・手入れ・保護についての技術を研究しておく。
ホ.炭焼きやしいたけ栽培などを研究しておく。
へ.造林・手入れ・炭焼きなどについての生徒の経験を調べておく。
ト.生徒の活動を取り入れる順序や,活動をまとめるために協力する方法を研究しておく。
一例として,目標(3)(4)の学習における生徒の活動としては次のようなものが考えられる。
(ロ) 林木を仕立てるのに,普通いつどんな手入れをしているか,村の人に聞いて来て話し合う。
(ハ) 山へ行って,小さい木の様子を見る。
(ロ) 林木がどんなに伸びるまで,下刈りをしなければならないか話し合う。
(ハ) 下刈りは一年に何回必要か,郷土では何回行っているか,何月ごろ行うか話し合う。
(ニ) 下刈りは草の利用の方からはどんな意義があるか,よい草を得るにはどうしたらよいか,教師から聞く,話し合う。
(ホ) 特によい下草を得るためにくふうしている草刈り場はないか話し合う。
(ヘ) 下刈りをするにはどんな点に注意したらよいか話し合う。
(ト) 下刈りを行う。
(チ) 林の中をさがして,木にくずや,ふじの巻きついている様子を見る。ほうっておいたらどうなるか話し合う。
(リ) つるを根もとから切ったら,翌年更に強いつるが何本も出てはびこるようなことはないか,どんなにしておいたらよいか話し合う。
(ヌ) 根もとから切ったり,途中から切ったり,つるを林木からはずして,はわせておいたりしておいて,後の様子を比べてみる。
(ル) つる切りを行う。
(ヲ) 林木の枝を見て,力枝はどんなに変わってゆくか調べ,話し合う。
(ワ) 力枝より下にある枝をほうっておくとどうなるか,いろいろな林木について見てあるく,話し合う。
(カ) 枝打ちした跡の癒合(ゆごう)する様子を調べ,死節と生き節について話し合う。
(ヨ) 傷ロが最も小さく,傷あとのなおりやすいように切るにはどうしたらよいか話し合う。
(タ) 枝打ちには,どんなことに注意したらよいか,教師から聞いたり話し合ったりして,枝打ちを行う。
(レ) 林木が大きくなって,こみ合ってきたら,木の育ちはどんなになるだろうか話し合う。
(ソ) 間伐はなぜ必要か,話し合う。
(ツ) どんな木を切ったらよいか,教師から聞く,話し合う。
(ネ) 間伐材は何に使われるか話し合う,聞く。
(ナ) 小丸太の作り方について聞く,話し合う。
(ラ) 間伐材の皮をはいで使うものは,いつ伐られているか,あかまつなどの間伐はいつごろ行われているか話し合う。
(ム) 林の中にはいって,どの木を間伐したらよいか,具体的に話し合う。
(ウ) 間伐の適期に,間伐の仕事をする。
(ロ) 間伐材を使って,とり小屋・やぎ小屋などを作る。
(ハ) 森林の手入れの仕事は,家庭でも手伝ってじょうずになる。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
(2) この学習によって,山の木を傷めるようなことをしなくなったか,小鳥をたいせつにするようになったか,山火事を警戒するようになったかというような方面から,森林を愛護する態度が生徒全体に行き渡ってきたかどうかを考査する。
単元 8 農 業 工 作
1.目 標
(2) なわ・こも・むしろ・もっこ・網などがじょうずに作れるようになる。
(3) 規格について理解する。
(4) なわない機械を通じて,次のようなことを理解する。
ロ.回転の方向を変えること。
ハ.回転数を多くしたり少なくしたりすること。
ニ.回転軸の方向を変えること。
ホ.まさつ車と歯車の働きの違い。
(6) 荷造りの方法を会得する。
(7) 物を愛護するような態度が身につく。
(8) なわやひものいろいろな結び方を会得する。
(9) 竹細工の必要を理解し,これに興味をもつようになる。
(10) たけの性質について理解する。
(11) くま手・ざる・かごの作り方を会得する。
(12) たけの曲げ方・割り方・さき方を会得する。
(13) 六角組み・網代(あじろ)組みや市松組みを会得する。
(14) きり・のこぎりの種類や使い方を理解する。
(15) 刃物の片刃ともろ刃について理解する。
(16) うさぎ箱・とり小屋・ぶた小屋などの作り方を会得する。
(17) はちだな・アーチ・庭いすなどの作り方を会得する。
(18) 木材の性質を理解する。
(19) 箱の組み立てを理解する。
(20) くぎの種類を理解し,打ち方を会得する。
(21) 針金の太さを理解し,金網の作り方を会得する。
(22) かんなの種類・構造を理解し,じょうずに使うようになる。
(23) のみの種類を理解し,じょうずに使うようになる。
(24) 板金でちり取りや,うさぎ・にわとりなどのえさ入れや,水入れを作る方法を会得する。
(25) 板金の切り方やつなぎ方を会得する。
(26) ハンダごてを理解し,じょうずに使うようになる。
(27) 温床のフレーム,サイロの作り方を会得する。
(28) コンクリートの型わくの作り方を会得する。
(29) コンクリ一トの練り方・打ちこみ方・塗り方を会得する。
2.指 導 法
(2) この単元の学習は季節との関係が少ないから,他の単元の学習のひまひまに行うことができる。
(3) 生徒の家庭における課題としても学習することができる。
(4) 必要に応じて郷土の熟練者を招いて模範を示してもらったり,話をしてもらうのもよい。
(5) 教師の準備と活動
ロ.材料の性質を研究しておく。
ハ.工具の使い方を研究しておく。
ニ.材料や工具,生徒の理解を助けるために使う教具の準備をしておく。
ホ.生徒の経験や知識を調べておく。
へ.生徒の活動の取り入れ方や,まとめ方について研究しておく。
この単元の学習における生徒の活動としては,目標に掲げたものに止まらず,土地の状況,生徒の興味などによって発展することが望ましい。たとえば,目標(3)の発展として,機械類の部品の規格のこと,用紙や書籍の規格のことにも及び,(8)から発展して,ひもの結び方,本目・かえるまたなどの網の編み方,編み物にまで発展するようなこともあろう。また,特に興味をもった生徒は,どんどんその仕事に深入りするのもよいであろう。目標(4)の活動は,第七学年,単元3の稲こき機械の学習の活動を参考にすべきである。そのほかは,ほぼ同じ形式のものであろうから,その一例として目標(9)から(15)までの学習における生徒の活動を掲げる。
(ロ) たけで作ったものにはどんなものがあるか,たけがなかったらどんなに不自由か話し合う。
(ハ) 竹材と木材はどんなに違うか話し合う。
(ニ) くま手・ざる・かごはどんなに使われているか,どんな形のものがあるか話し合う。
(ホ) 郷土にはどんなたけがあるか,どんな竹細工が行われているか話し合う。
(ロ) 切る季節について読む,聞く,話し合う。
(ハ) たけを切るにはどんなのこぎりがよいか話し合う。
(ニ) 表面を傷めないように切る方法を話し合う,行ってみる。
(ホ) 穂竹を作る。
(ヘ) たけの割り方を見る,聞く,やってみる。
(ト) たけのさき方を見る,聞く,やってみる。
(チ) たけをさくにはもろ刃の刃物がよいといわれるのはなぜか,話し合う。
(リ) たけの曲げ方を見る,聞く,やってみる。
(ヌ) たけに穴をあけるにはどんなきりを使ったらよいか,話し合う。
(ル) 柄の長さはどれくらいがよいか,話し合う。
(ヲ) 教師または講師の模範にしたがって,くま手を組み立てる。
(ロ) のこぎりの種類や使いみちを聞く,ためしてみる。
(ハ) きりの種類と使いみちについて聞く,ためしてみる。
(ニ) たけのいろいろな曲げ方をためしてみる。
(ホ) ほうきを作る。
3.学習結果の考査(一般編第五章,この編第五章参照)
(2) どんな仕事にどんな生徒が興味をもつようになったか考査する。