第五章 学習結果の考査
学習指導要領一般編第五章の「学習結果の考査」に述べている事がらは,農業科の学習結果を考査するに当たっても極めてたいせつなことである。これを更に,農業の立場から,技能・理解及び知識・態度について,具体的に立ち入ってみると,次のようなことが考えられるであろう。
1.技能について
(2) 農業の仕事は非常に廣い範囲にわたっているので,一人一人の生徒について,甲の方面の技能はすぐれているが,乙の方面の技能は劣っている。どんな技能は将来伸びそうだというような点もよく調べて,進路指導の参考にする必要がある。
(3) 農業の技能には,基礎理論の理解,自らのくふう,熟練の三つの面がみられる。そうして,第七,八,九学年において,どの点が強調されなければならないかは技能の種類によって違うから,考査に当たっては重点の置きどころが違ってくるであろう。
ロ.種まき・植え付け・つぎ木などのように,失敗を改めながら何度もやりなおしてみることのできないものについては,程度の高い熟練を求めることは困難である。したがって,このようなものの考査は,理論をよくのみこんで,急所をつかんで仕事をしているかどうか,仕事が成功するように,あるいは速くできるようにくふうしているかどうかということと,仕事の成功の度合とについて記述尺度法などで調べる。
ハ.果樹のせん定のように理論をよく理解していて,一枝一技相当に知的なくふうをめぐらさなければならない技能の考査は,理論を十分に理解しているかどうか,その理解していることがまちがいなく適用されているかどうかについて,記述尺度法などで調査する。
(4) 技能の考査にも総合的な方法と分析的な方法とが考えられる。(一般編47ページ参照)総合的な方法というのは,たとえば作物をはじめから終りまで受け持って作らせ,その育ちぐあいや収量・品質などから学習結果を判定する場合である。収量・品質は学習結果の一つの現われであるには違いないが,時として,一致しない場合がある。即ち,隅然あるいは人まねで成功する場合もあるし,反対に,望ましいくふうをしていたにもかかわらず,その程度を誤ったり,他の要素との調和を失ったりして,収量・品質はかえって劣っているような場合もないではない。くふうによる失敗は,次の大きな成功を約束するものであるから,総合的な考査には,栽培・飼育あるいは製作の報告を提出させ,これを合わせて判定したり,分析的な方法を併用したりすべきである。
分析的な方法というのは,たとえば,つぎ木についていえば,小刀のとぎ方,台木の切り方,ほ木の選び方,切り方というように細分して,その一つ一つについて判定する方法である。
2.理解や知識について
これまで,一般の教育がそうであったが,ことに農業の教育において,単なる知識が重んじられすぎていた。実習・実験も往々体験を通して知識を教えこむ方便に終ったような場合も少なくない。そこに農業の学習が興味のないものとなったり,発展性のないものとなる理由があった。術語の定義や作物の品種名をおぼえたり,うね幅・株間は何センチメートル,肥料は何ほどと暗記したりするよりも,むしろ,これらのうね幅・株間・品種などと,気候・土地や栽培の季節,栽培技術・病虫害などの関係,即ち品種やうね幅・株間などに対する見方・考え方をしっかりと理解することの方が,どれほど役に立ち,どれほど興味ある学習ができるかわからない。いいかえれば,農業の教育においては,量的な事がらの暗記よりも,質的な事がらの理解の方がはるかにたいせつであって,農業を営む場合には,量的な事がらは,その土地の農業の実際とか,一般的な標準のようなものから得て,これを質的な理解によって,その土地,その経営に最も適合したものに変えていくことができればよいであろう。したがって,学習結果の考査もこのような立場に立って行われる必要がある。しかし,理解といっても知識の外にあるものではなく,知識あっての理解であるから,さつまいもの貯蔵温度は何度ぐらいとか,いもち病菌の繁殖の適温は何度ぐらいであるとか,わがの国の耕地面積はどれくらいあるとかいうようなことは,知識として記憶していることも有意義であるから,このような知識の有無・正否を調べることもむだではない。
ロ.農業では,知識や理解を個々の事実に即して具体的に学ぶようになっているから,これを総合するような問題を出して,論文を作らせたり,即座に口答あるいは筆答させたりすることは,考査として役立つばかりでなく,生徒の頭を整理する上にも,極めて有意義なことである。たとえば,「作物の害虫の防ぎ方にはどんな方法があるか。また,それぞれの防ぎ方は,害虫のどんな性質にもとづいたものか。」というような問題で,いろいろな作物について学んだ防ぎ方をまとめることによって,生徒は害虫の防ぎ方を体系だてて考えるようになるであろう。
(2) 分析的な考査法
ロ.知識については,選択法・真偽法・組み合わせ法・記録法などによって考査する。(一般編39−43ページ参照)
3.態度について
(2) 家庭と連絡をとったり,前の考査と比べたりして,生徒の態度の変化を考査する。
(3) 学級全体がどんなふうに変わって来たかを考査する。