第二章 農業の学習と生徒の発達
第七・八・九年ごろは,身体的にも精神的にも,いわゆる子供から大人に移り変わる時期であるから,農業の学習を指導するに当たっては,特に次のような点が考えられる。
2.論理的・抽象的なものの考え方が発達してくるから,今まで,初等科の理科等で単に行動的に学んできたような事がらでも,これを“なぜそうしなければならないか。”“どうしたらよいか。”“こうしたらどうなるだろうか。”と,筋道を立てて知的に学習するように指導することによって,学習意欲をいよいよ高めることができる。ことに,今までの自然科学的な物の見方・考え方のほかに,経済的な見方・考え方が発達してくるから,第八年ごろからおいおいその方面の学習も取り入れることができる。
そうして,生徒が事実・実物に即してこのような学習を進めることによって,今まで単純に考えていた農業の中に,自分たちのくふうに待つような興味深い,しかも身ぢかな問題がたくさんあることに気づくようになることは,極めてたいせつなことである。昔から,農業を真に楽しみ,いろいろなくふうをして農業の発達につくした人々は,たいていこの年ごろに,何かの都合で本当に農業に打ちこむ機会をもった人々である。このことを思うとき,中学校における農業の指導の重要性はいよいよ高まるのである。また,身のまわりのいろいろな問題にくふうすベき点を発見し,興味をもってこれが解決に当たるということは,農業に限らず,どの方面に向かうものにとってもたいせつなことである。
3.この年ごろになると,生徒は将来の理想をえがくようになり,将来の職業を具体的に考えるようになってくる。したがって,できるだけいろいろな仕事を体験したり理解したりして,将来の進路を決定する上に役立つようにする。
4.中学校の生徒ぐらいになると,物事に対する社会的な理解が進むようになるから,産業・職業の社会性というような点をはっきりつかむように導くことができるようになる。また,このころは共同で調査したり,研究したり,作業をするというようなことも,生徒の活動として極めて自然に行われるようになる。したがって,共同の責任をもって力を合わせる活動や,別々の責任をもつものが互に力を合わせる活動によって,社会における責任の自覚をもたせ,信じるところを主張し合い,折れ合うところは折れ合って力を合わせる態度や,自分の能力に応じた仕事を分担して,力の限り働く態度を身につけさせると同時に,農業においては特にその性能に適した方面をずんずん伸ばすことができるであろう。